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今月の薬草

ヒロハセネガ
Polygala senega Linne var. latifolia Torrey et Gray ( ヒメハギ科 )

ヒロハセネガ
Polygala senega Linne var. latifolia Torrey et Gray ( ヒメハギ科 )

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果実

 北アメリカ原産。日当たりがよい河川や湖周辺の岩場の多い砂礫地や,明るい林床などに生育している多年生草本植物です。日本へは明治時代に薬用として渡来しました。冷涼な気候を好むため,現在は兵庫県の山間部や北海道などで栽培されています。根は木質化し,特徴としてサリチル酸メチル臭があります。草丈は20~30cm,茎は叢生し,葉は互生,葉柄はありません。葉身は広ひ針形から卵状ひ針形で,先端は尖っています。花は茎の上部に総状につき,白色で少しマメ科の花に似た蝶形を呈し,初夏から夏に咲きます。果実は心円形で,扁平で紫色のがくが残り,中に種子を2個生じます。
 和名は学名(属名)のsenegaをそのまま用いたものです。このsenegaとは北アメリカのネイティブアメリカンであるSeneka族に由来し,根をガラガラヘビに噛まれた際に利用するとされたことから名づけられたとされています。そのため英名もsenega snake rootと呼ばれています。しかし蛇毒の解毒作用については,科学的な立証はなされておらず期待できそうにありません。むしろセネガは,気管支炎や気管支喘息の去たん薬として高い利用価値を持っています。薬用には根を用い,セネガ末やセネガシロップとして各種製剤に配剤されています。
 現在,知られている去たん作用は,アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアのスコットランド人医師,John Tennetが1736年に気管支炎に効果があることを報告したことに端を発しています。それ以来,各国で広く去たん薬として利用されるようになりました。ところがネイティブアメリカンであるOjibwas族では,その報告の以前から,セネガ根を咳や風邪薬として利用していました。もしかしたらJohn Tennetの発見も,Ojibwas族の使用方法がヒントになったのではないかとも想像できます。因みに日本に自生している同属のヒメハギ(P. japonica Houtt.)も民間では去たん薬として利用しています。
日本では,葉の広い変種であるヒロハセネガが渡来し1902年ごろから栽培するようになったため,葉の幅がやや狭い母種のセネガ(P. senega L.)とともに,本種も日本薬局方に基原植物として収載しています。(磯田 進・鳥居塚 和生)