2023年1月アーカイブ

ワタ

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ワタ
Gossypium spp ( アオイ科 )

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カイトウメン 花 リクチメン 花

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リクチメン 果実

 世界各地の熱帯または亜熱帯地域に約40種が分布し,繊維作物として世界各地で栽培する多年生草本植物です。しかし栽培上,または温帯では気候の関係で一年生となります。現在栽培されているワタは古い時代から種々の品種を交配させて改良されているため,大きくリクチメン(陸地綿),カイトウメン(海島綿),アジアメン(亜細亜綿)に分けられ,さらにアジアメンはシロバナワタ(白花綿)とキダチワタ(木立綿)に分けられています。因みに日本で栽培されているワタは,シロバナワタの系統になります。日本での栽培は延暦18年(799)が最初といわれていますが,本格的な栽培は江戸時代に入ってからのようです。
それまでの綿製品は庶民の間では入手できないくらい高級品でした。しかし栽培化が進み生産量が飛躍的に増大するに伴い,庶民でも綿の布団に寝られるようになったということです。葉は通常,掌状に3~5裂し,長い柄をつけます。花は淡黄色が一般的ですが,白色または赤から黄色味を帯びている種類も見られ夏に咲きます。果実は球状で先端がやや尖り,秋に熟し開裂して白毛を密生した種子がはじき出されます。
 和名は漢名の草綿に由来するなど諸説あり,語源は定かではありません。薬用には種子に生じる毛を用います。通常は少量含まれる油脂や蝋物質などを取り除き,さらに漂白して脱脂綿などの衛生材料とするほか,糸状に撚ってガーゼなどに加工して利用します。また布団などの保温材や衣服の素材として私たちの生活になくてはならないものとなっています。繊維を収穫した残りの種子からは油脂が得られ,食用油(綿実油)のほか,マ-ガリンや石鹸などの原料とします。
 使用する毛は種子の表皮細胞の一部が糸状に変形したものですが,生命活動に必要な原形質を欠き空洞となっています。また種類によって毛の長さが異なり,リクチメンやカイトウメンの毛は長いことから,紡績用に向いています。一方,アジアメン系は毛が短いため強度が強く,布団などに用いる綿として利用することが多いようです。一口に綿といっても多くの品種があり,またそれぞれに特徴がありますので,用途に合った品種が利用されています。(磯田 進・鳥居塚和生)

ロウバイ

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ロウバイ
Chimonanthus praecox Link. ( ロウバイ科 )

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ソシンロウバイ

 中国原産の落葉小高木です。日本へは江戸時代の初めに渡来し,冬の寒さや夏の暑さに強く,とても栽培しやすいことから,庭木や公園樹などとして観賞用に植栽されています。樹高は4 mくらいとなり,葉は対生し無毛,葉身は薄い革質で卵形,先端はやや尖っています。花は葉に先立って冬から早春に咲き,上品で甘い芳香を生じます。そのため英名をウインター・スウィート(Winter sweet)といいます。また春の到来を告げるかのように咲くことから,花言葉は「先導」と名づけられました。花は花びらと萼片が区別できず,外側の花被片は淡黄色,内側のそれは紅紫色を呈しています。近縁種のソシンロウバイと大変よく似ているためしばしば混同されますが,外側の花被片だけでなく,内側のそれも淡黄色を呈している点で区別できます。果実は長卵形を呈し,リンゴなどと同じように花床(托)が肥大したもので熟すと木質化します。植物学的には偽果(ぎか)といいます。本来の果実は偽果の中に生じ,濃紫褐色を呈し長楕円形で種子のように見えます。
 和名は漢名の"蝋梅"を音読みしたものです。花を同じ季節に咲く梅に例え,花びらは光沢があるため,蝋細工の様に見えるところから名づけられました。薬用にはつぼみを用います。生薬名をロウバイカ(蝋梅花)といい,頭痛や発熱,口の渇き,多汗などの改善に用います。また蝋梅花には皮膚を再生する効果があり,民間ではごま油に漬けて火傷などに外用します。しかし種子には,弱いながらも中枢神経を興奮させる作用が知られているため,観賞用や薬用という目的もありますが,有毒な樹木として取り扱われています。実際には種子を直接口にすることはほとんどないと思いますが,十分に気を付けていただきたいと思います。
 お花見といえばソメイヨシノをまず思い浮かべますが,花が少ない季節とはいえ冬から早春に咲く花も結構多いものです。例えばこのロウバイの他,ウメやスイセン,マンサク,フクジュソウ,サンシュユなど意外に多くの花があります。桜の花見は見物客も多く,ゆっくりと観賞できる雰囲気のところは少ないようです。しかしロウバイなど冬から早春に咲く花の名所は比較的見物客も少なく,心行くまで観賞できるところが多いように思います。寒い季節ゆえにどうしても暖かい部屋にこもりがちにですが,北風が一休みした日差しの暖かい一日,可憐な花を観賞に出かけてみてはいかがでしょうか。(磯田 進・鳥居塚 和生)

リンドウ

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リンドウ
Gentiana scabra BUNGE var.buergeri MAXIM. ( リンドウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本各地に分布し,日当たりのよい草原などに生育している多年生草本植物です。秋に咲く青紫色の花は,日が当たると開き,曇天や夜間は閉じています。
 和名は漢名の龍胆を音読みし,その後に発音が訛ったものです。その語源の一つに,中国の本草書に葉が龍葵(ナス科のイヌホオズキ)に似て,胆のように苦いことから名づけられたとの説がありますが,リンドウの葉はイヌホオズキにさほど似ているようには思えません。語源は,その苦さが,中国に伝わる想像上の動物である龍の胆に例えたという説が妥当だと思われます。
 薬用には根や根茎を用います。生薬名をリュウタン(龍胆)といい,尿路疾患を目的とした漢方処方に配剤されているほか,苦味健胃薬として用います。
 普段は何気なく見ていたので気になりませんでしたが,ある日,我が家に生けられたトルコギキョウを見て驚きました。植物名から今まではキキョウ科の植物だと思っていましたが,よく観察すると雌しべの先端部分が二つに割れ,種子のできる子房は花の中にありました。明らかにキキョウ科の特徴とは異なっています。キキョウ科は雌しべの先端部分が3から5裂し,子房は花の下側にあります。調べてみると,トルコギキョウはリンドウ科に属し,北アメリカ原産で昭和初期に導入されたとのことです。最近の園芸植物の名称は,民俗や文化の背景を無視して,売るためだけに客受けするネーミングが先行する傾向にあるようです。(磯田 進)

リュウガン

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リュウガン
Euphoria longana Lamarck ( ムクロジ科 )

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果実

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ライチの実

 リュウガンは中国南部から東南アジア原産の常緑高木で、果樹として熱帯各地で栽培されています。樹高は10~15m,葉は互生し,葉身は羽状複葉です。小葉は楕円形から卵状ひ針形,やや革質で厚みがあります。花は小さく黄白色で芳香がある両性花と単性花を生じ,総状から円錐状に多数ついて春に開花します。果実は径2.5cmくらいの球形で黄褐色,内部はゼリー状で乳白色の果肉(仮種皮)があり,特有の風味と甘みがあります。そして中心部には暗褐色で径7~8cmの丸い種子を生じます。材は赤褐色を帯びて硬く独特の風合いがあるため,装飾用の細工材などに利用されています。
 和名は漢名の「龍眼」に由来し,白い果肉と暗褐色の丸い種子を想像上の生き物である龍(竜)の目に例えて名づけられました。薬用には外側の殻と丸い種子を取り除いた果肉を用います。生薬名をリュウガンニク(竜眼肉)といい,滋養強壮や抗不安を目的とした帰脾湯や加味帰脾湯などの漢方処方に配剤されています。生の状態では果肉は乳白色ですが,乾燥した生薬は赤褐色から褐色を呈します。また食材としても中国料理などに利用されています。
 比較的耐寒性が強いため,沖縄県の八重山列島などでも栽培されています。薩摩藩の八代藩主であった島津重豪(1745- 1833)は,当時としては大変珍しいリュウガンやライチ(Litchi chinensis Sonnerat)などの薬木や果樹を藩の薬園に植栽しました。それらの樹木は今でも鹿児島県南大隅町にある佐多旧薬園に現存しています。そのため当時を知る貴重な薬園として,昭和7年(1932)に国の史跡に指定されました。リュウガンとライチは樹形や果実の形が類似しているためよく勘違いされますが,ライチの果実はリュウガンと比較してやや大きく,表面が赤味を帯びてうろこ状の突起を生じ,甘味が優っているという点で容易に区別できます。なおライチは絶世の美人といわれている楊貴妃がとても好んだ果物といわれ,遠方の地より早馬で運ばせたという逸話が知られています。
(磯田 進・鳥居塚 和生)

ラッカセイ

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ラッカセイ
Arachis hypogaea L. ( マメ科 )

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果実

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果実内部(上:普通の品種、下:大きな品種)

 南アメリカのボリビア原産の一年生草本植物です。本来はインディオの重要な食品の一つでしたが,紀元前には中央アメリカでも栽培されるようになりました。その後,コロンブスの新大陸発見にともないヨーロッパに紹介され,現在では食用や油脂原料植物としてアメリカや中国など世界各地で栽培されています。日本へは江戸時代に中国より長崎に渡来しました。日本で初めて栽培したのは神奈川県二宮町といわれ,本格的な栽培は明治時代に入ってからです。草丈は60cmくらい,茎は地際よりよく枝分かれします。葉は互生し,葉身は4枚の羽状複葉です。花は黄色で夏から秋にかけて咲き,受精後は子房の一部が伸びて地中に入り,その先端が長楕円形に肥大します。しかし地中に入れなかった子房は肥大せず枯死してしまいます。どうもラッカセイの果実は,暗いところが大好きな習性があるようです。通常,果実には1~3個の種子を生じます。
 和名は漢名の落花生を音読みしたもので,上記のように果実が生じる特徴から名づけられました。因みに学名の種小名(hypogaea)も地中に生じるという意味があります。また別名の南京豆は中国から渡来したことに由来し,ピーナッツは英名のpeanutによるものです。薬用には種子から得られる脂肪油を用い,ラッカセイ油といいます。通常は種子を粉砕した後,蒸気で加熱し圧搾して採油します。ラッカセイ油の特徴は香りがあまりなく,微黄色透明です。他の脂肪油と比べて酸化されにくい特徴があり,主に軟膏や硬膏などの基材,リニメント剤などに使用します。また食材としてバターピーナッツやピーナッツ・バターやなどの食品として多量に消費されています。最近,従来のラッカセイと比べ,果実の大きさが数倍ある品種が千葉県で育成され話題になっています。(個人的には塩茹でしたこの大きなラッカセイが好みです。)
 食品が原因となったアレルギーが大きな社会問題となっています。ある特定の食品を食べることによって生じるものですが,そのアレルギーの起因となる食品にはエビやカニなどの魚介類,牛乳や卵などの動物性の食品をはじめ,植物由来の食品など食物全般にわたっています。植物アレルギーは著名なものに,ソバやキク科植物などが知られています.ここで取り上げたラッカセイもアレルギーを起こす方が多い食品の一つです。身近な食材故,安易に考えがちですが,時には生命にかかわるようなこともあります。十分に注意したいものです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ヨウシュチョウセンアサガオ
Datura stramonium LINNE var. tatura MUNEL. ( ナス科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 熱帯アメリカ原産の1年生草本植物です。日本へは明治時代始めに渡来しましたが,現在では温暖な地域に野生化しています。花は淡紫色でロート状になり夏から秋にかけて咲き,夕方より開き朝になると萎んでしまう一日花です。果実は広卵形で大小異なる刺を密生させ,種子は扁平で黒熟します。
 和名はヨーロッパより渡来した朝鮮朝顔の意味があります。しかし原産地は上記のようにヨーロッパではなく,熱帯アメリカ原産です。チョウセンアサガオは花をヒルガオ科のアサガオに見立てたものですが,チョウセンについての語源は不明です。おそらく花の印象が日本的ではなく,渡来植物ということから朝鮮と表現したのでしょう。薬用には種子や葉を用います。またそれらに含まれている成分のアルカロイド類を分離精製し,製剤原料とします。薬効としては鎮痛作用などがありますが,誤って食べてしまうと,嘔吐や下痢,異常な興奮,また苦しさのあまり幻覚症状を引き起こします.種子をゴマと誤り食し中毒になるなどの事故が毎年数件発生しています.またチョウセンアサガオの類はナス科ですので,ナスと接ぎ木をすることができます.この有毒成分は台木から接ぎ穂へ移行しますので,収穫したナスを食べたところ中毒症状が現れたという事例もあります.このように一般の人にとっては有毒植物そのものといえます。
 世界で最初に乳ガンの摘出手術に成功したのは,江戸時代後期の医師、華岡青洲でした。華岡青洲はヨウシュチョウセンアサガオの近縁種であるチョウセンアサガオを主とし,これにトリカブト,ヨロイグサ,トウキ,センキュウ,カラスビシャクそしてマムシグサ類などを調合して「通仙散」という麻酔薬を開発しました.「通仙散」の開発に当たっては,妻や母親が争って実験に協力し,手術を成功させました.1805年のことです.有吉佐和子原作の「華岡青洲の妻」では,この嫁,姑の葛藤が小説として取り扱われ,映画や芝居としても取り上げられていますので,ご記憶の方も多いのではと思います。因みにこの「通仙散」という麻酔薬の使用は,エーテル麻酔をアメリカの歯科医師モートンが抜歯に利用したことや,外科医師のウォレンが腫瘍の摘出手術に利用したことの,およそ40年も前のことになります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ヤマユリ

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ヤマユリ
Lilium auratum Lindley ( ユリ科 )

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鱗茎

 本州以北に分布し,日当たりのよい山野に生育する日本特産種の多年生草本植物です。観賞用にも栽培されています。鱗茎は扁球茎で黄白色,草丈は1~1.5mになり,葉は披針形で多数ついています。花は白色でやや反り返り,赤褐色の斑点と中央に黄色いバンド状の筋を生じ,茎の上部について夏に咲きます。因みに学名(種小名)のauratumは黄金色を意味していますが,これは黄色い筋に由来しています。花の直径は20cm以上にもなり,ユリの仲間では最も大きな種の一つです。「ユリの女王」と称される園芸品種のカサブランカは,ヤマユリの他,カノコユリなど数種のユリを交配させオランダで育種されたものです。果実は楕円状で,種子は翼があり薄い円盤状です。
 和名は生育地に由来し,山野に生育しているユリを意味しています。薬用には鱗茎を用います。しかし本来の茎は肉厚の鱗片葉の基部に生じる少し硬い部分になり,生薬や食用として利用する場合は肉厚の鱗片葉を用います。生薬名をビャクゴウ(百合)といい,鎮咳や鎮静,滋養・強壮薬とします。また鼻づまりや鼻炎などの改善を目的とした辛夷清肺湯などにも配剤されています。その他,苦味が弱いために昔からユリ根と呼び,茶わん蒸しなど各種料理の食材として利用されてきました。
 「立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花」といわれているように,花は大変美しいことから美人の例えとしたものです。この様にユリは昔から身近な植物の一つとして親しまれていますが,最近,ヤマユリが生育している草原などは,生態的な遷移からかなり減少してしまいました。そのため各地で生育環境を保護しようという運動が行われています。神奈川県では過去に広く分布,生育していたことから,県の花に指定しています。その他,花を図案化して多くの学校で校章に採用していますので,懐かしく思い出された方もいらっしゃるのではと思います。因みに筆者らの所属する昭和大学でも,校章はヤマユリの花を図案化しています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ヤマモモ

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ヤマモモ
Myrica rubra SIEB. et ZUCC. ( ヤマモモ科 )

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雌花 雄花
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州中部から台湾,中国,フィリピンにかけて分布し,海岸部の近い温暖な山地に生育している常緑の高木です。雌雄異株。花は3~4月にかけて咲き,果実は球形で暗赤色に熟します。果実の表面は小突起が密生して特有の香りと風味があり,自生地では初夏の果物の一つとして親しまれています。しかしながら,この果実はとても腐りやすく,ヤマモモ酒としたり,塩漬けにして利用することの方が多いようです。最近は流通過程での保冷が整備されたこともあって,まれですが,産地以外の店先にも見かけるようになりました。
 和名は果実を桃に例え,山地に生育していることから名付けられました。万葉の時代に単に「モモ」と呼んでいた植物は,現在の桃ではなく,ヤマモモとの説が有力です。薬用には樹皮を用います。生薬名はヨウバイヒ(楊梅皮)といい,収れん薬とします。また昔は,漁網の染料として用いたこともあったそうです。
 火事は一瞬にして,貴重な人命や財産を灰にしてしまいます。特に春先は,空気が乾燥しています。その上,緑の少ないこともあり,小さな火種であっても,取り返しのつかない大きな火災になることもしばしばです。その対策として屋敷の周囲には防風林を兼ね,耐火性の高いヤマモモを防火林として植えている地方もあります。また最近は乾燥や大気汚染に強いこともあり,街路樹として索漠とした都市の景観に潤いと安らぎを提供しています。(磯田 進)

ヤマノイモ

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ヤマノイモ
Dioscorea japonica THUNB. ( ヤマノイモ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヤマノイモは,林縁や疎林に生育する蔓性の多年草で日本の特産種で,ジネンジョとも呼ばれ日本全土に分布します。雌雄異株,雄花序は直立し,雌花序は下垂し,蔓は右巻きです。葉の基部には腋芽が肥大したムカゴがついています。なお,蔓の右巻き・左巻きは,巻き方を上から見るか下から見るかによって違いますが,最近では右ネジ廻り方向に成長するものを右巻きとするようです (朝日新聞社「植物の世界」Vol. 1, 1997)。
 和名の語源は,サトイモ (里芋) に対して山に生育するイモという意味です。地下部の担根体は滋養・強壮薬として用いられ,生薬名をサンヤク(山薬)といいます。この担根体は,茎と根の特徴を兼ね備える不思議な器官なのです。
 昔から「山の芋が鰻に化ける」という諺があります。植物であるヤマノイモが魚であるウナギに化けるわけではありません。ウナギは湖沼や河川に生息しているはずなのに卵が見つからないので,誰かがウナギは山の芋が変身したといったのでしょう。このような理由から,起こり得ないことが現実に起こったり,物事が予期せぬ方向に変化することを,「山の芋が鰻に化ける」と言い表したということです。ヤマノイモも鰻も滋養・強壮効果があり,ヌルヌルしているという点では共通していますね。ちなみに,精進料理には山の芋を鰻の蒲焼き風に仕立てたメニューがあるそうです。
(磯田 進)

ヤマトリカブト

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ヤマトリカブト
Aconitum japonicum THUNB. var. montanum NAKAI ( キンポウゲ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州の中部地方から東北地方にかけて林床に見られる多年草です。秋に青紫色花をつけます。花びらのように見えるのは「がく」が変化したものです。花びらは,その中に隠れ,外側からは見えません。
 和名の由来は,山地に見られ,花が雅楽奏者のかぶる冠に見えるからです。薬用には塊根を用います。生薬名をブシ(附子)といい,鎮痛薬や新陳代謝亢進に用います。しかし心臓に強く作用する成分も含まれていますので,慎重に減毒処理したものを利用しています。昔から附子を上手に使いこなせる漢方医は名医といわれるほど,取り扱いがとても難しい薬の一つなので,素人療法でこれを用いるのは非常に危険です。
 殺人事件で世間の注目を集めましたが,トリカブトは猛毒で,とくに芽生えの頃は他の山菜と見分けにくいために,これによる中毒事故は毎年のように報告されています。
 ブシに関する狂言を紹介しましょう。演題は「附子・ぶす」です。
 二人の奉公人が主人から「附子の壺」を預かりました。中身が黒砂糖であることに気づいた二人は,中身をすべて舐めつくしてしまいました。そして二人は主人が大事にしていた書画骨董をわざとに壊してしまい,帰宅した主人に「死んでお詫びをするつもりで,附子をすべて舐めました」と言いました。
 ブシは「言い訳の特効薬」でもあるようです。(磯田 進)

ヤマザクラ

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ヤマザクラ
Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz. ( バラ科 )

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樹皮
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狩宿の下馬桜(国の特別天然記念物)

 本州以南に分布し,山地に生育する夏緑広葉樹です。また観賞用に公園などに植栽されています。現在ではサクラといえばソメイヨシノを一般には思いおこします.しかしながらソメイヨシノは,江戸時代末期に江戸の染井(現在の豊島区駒込付近)で発見され,その鮮やかな花の咲き方が好まれ,それから広く各地で植栽されるようになりましたので,それまではサクラといえばヤマザクラが一般的でした。樹高は10mくらいになり,樹皮は横縞模様の皮目があり暗褐灰色を呈しています。葉は互生し,葉身は倒卵形で先端は尖り,縁には細かい鋸歯があります。また葉柄の上部には2個の蜜腺を生じます。芽生えは赤褐色を帯びることが多く,花と同時に出葉します。花は淡紅白色で散房状に数個ついて春に咲き,果実は球状で黒紫色に熟します。また花柄は無毛で基部に小さな苞葉を生じます。
 和名は山地に生育するサクラの意味があります。薬用には樹皮(薬学では木部と師部の間に位置する形成層から外側の部分を指しますが,植物学の分野ではコルク層を指しています)を用います。生薬名をオウヒ(桜皮)といい,鎮咳去痰や気管支炎の改善を目的とした製剤原料とします。また打撲や捻挫の改善を目的とする漢方処方の十味敗毒湯などに配剤しているボクソク(樸?:クヌギなどの樹皮)の代用として,江戸時代末期の医師である華岡青洲(1760-1835)は,このオウヒ(桜皮)を用いています。 
 丁寧に剥ぎ取ったコルク層は,磨くことによって独特の模様と深みのある渋味を生じ,秋田県の伝統工芸品である樺細工の材料として珍重されています。民芸運動の指導者であった柳宗悦(1889-1961)も,その素晴らしさに魅了された一人といわれています。あまり太く肥大した幹の樹皮は,ひび割れしていることが多く,利用可能な部分は少なくなり素材としてはあまり適していないようです。そのため一部の製品を除き,印籠や茶筒,銘々皿などの小物が一般的です。因みに最近は自然保護やエコロジーに関心が集まっていますが,樺細工として利用する場合はコルク層だけを剥ぎ取りますので,その後の生育にはほとんど影響しません。また野生株を利用するだけではなく,植林を行って材料を確保しているようです。まさにエコな自然の有効利用といえます。(磯田 進・鳥居塚和生)

モモ

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モモ
Prunus persica BATSCH ( バラ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の落葉小高木。弥生時代の遺跡より炭化した核果が出土たことから,農耕文化とともに渡来したといわれています。通常,花は淡紅色で花びらは5枚,4月初旬から春を謳歌するかのように咲き出します。
 和名は諸説あり定かではありませんが,日本では古来外形が丸く中が硬いものをモモといったと,牧野富太郎博士はその由来を説明しています。薬用には,硬い核果の中にある種子を用います。生薬名をトウニン(桃仁)といい,婦人薬や寫下薬などを目的とした漢方処方に配剤されます。しかし日本で栽培されている品種は種子が小さく,薬用には用いられません。
 旧暦の3月3日は,女の子のお祝い「雛祭り」です。その季節になると桃の花が咲きだすこともあり、桃の節句として親しまれています。山梨県のような栽培地では,花のシーズンになると,ピンクの絨毯を引き詰めたような景色を見ることができます。特に春霞のかかった夕刻は,日が斜めに差し込んで幻想的な感じになります。桃源郷は陶淵明作の「桃花源記」に由来し,私たちが住んでいる俗世間を離れた別天地や理想郷を指しますが,まさに桃源郷とはこのような光景ではないかと,錯覚に陥るほどのすばらしさです。お忙しい日々の一時,現代の桃源郷でその疲れを癒してみてはいかがでしょうか。(磯田 進)

モッコウ

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モッコウ
Saussurea lappa CLARKE ( キク科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インド北部のカシミール地方に分布し,1m以上になる大型の多年草です。分布域が狭く,自然の状態では絶滅が心配され,現在はワシントン条約により自生株の国際間における商取引は規制の対象となっています。そのため薬用として利用する生薬は,中国の雲南省などの高原で栽培されています。日本でも資源的な面から,冷涼な北海道で試験栽培が試みられています。根は太く,特異な香りがあります。根生葉は長楕円状ひ針形で長い柄を生じ,茎につく葉は柄がなく茎を抱いています。花はアザミに似て暗紫色を呈し,茎の上部について夏に咲きます。
 和名は漢名の木香をそのまま用い,乾燥した根は太くて木のように堅く,香りがあるところから名づけられました。生薬名もモッコウ(木香)といい,消化不良や胃アトニー,胃下垂などの改善を目的とした芳香性健胃薬として用います。また帰脾湯(きひとう)や女神散(にょしんさん)などの漢方処方にも配剤されています。薬用以外の利用では,お香の薫香料とすることもあります。
 最近,生活に潤いを求めてガーデニングに人気が集まっていますが,特にバラの栽培は人気の一つとなっています。中でも蔓性のモッコウバラは皆から嫌われる刺もなく,病気や害虫などに対しての抵抗性が強い上に成長が早く,黄色や白色の八重の花を多数つけるため初心者にはお奨めのバラといえるでしょう。フェンスなどに絡んで咲く様子は明るく清々しい初夏のイメージを醸しだし,特に秋篠宮家の眞子様のお印となってからは人気が急上昇しました。その語源は種々ありますが,一説には花の香りが生薬のモッコウ(木香)に類似していることから名づけられたということです。一般的に香りは黄色種より白花種の方が強いといわれています。しかし白花種の香りも他のバラと比べ,さほど強いというわけではありません。モッコウバラの名前は栽培されていない方でも,ご存知の方が多くなってきました。しかし語源とされるモッコウについてはほとんど関心を持って頂けず,薬用植物を専門とする一人として残念でなりません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

メハジキ

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メハジキ
Leonurus sibiricus LINNE ( シソ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本,朝鮮半島,中国に分布し路傍や原野に生育する2年生草本植物です。茎は四角く草丈は通常1mくらいですが,時には2mに達することもあります。最近は北アメリカにも帰化しているようです。株全体に白毛を密生させ,根生葉は卵状心臓形で長い柄をつけていますが,花をつける頃には枯れてしまいます。茎につく葉は深く羽状に裂けています。花は淡紅色で葉の基部に数個ずつ段状につけ夏から秋に咲きます。
和名のメハジキは茎を短く切って目に挟み,瞬きさせて遠くまで弾き飛ばす子供たちの遊びに由来し「目弾き」の意味があります。薬用には開花期の地上部を用います。生薬名をヤクモソウ(益母草)といい,漢方処方では芎帰調血飲や芎帰調血飲第一加減といった,産後の体力低下や月経不順などの改善を目標とした処方に配剤されています。
 植物の名称は,花や葉,草丈,香り,味などその特徴や用途によって名づけられることが多く見られます。また薬用効果を植物名や生薬名の由来とするものも多くあります。たとえば,効果がたちまち現れるのでゲンノショウコ(現之証拠)であったり,毒を消すことからドクダミ(毒矯み)であったりします。錨の形をしたイカリソウを基原とする生薬は,精力絶倫の羊が食していたという言い伝えによりインヨウカク(淫羊藿)といわれます。ヤマノイモやナガイモを基原とするサンヤク(山薬)も,まさに山に生えている薬との意で名付けられています。
この益母草もその一例といえる生薬です。中国の古い医学書によれば益母草は,「血を行らせ血を養い,新血を損なわず,瘀血(オケツ)を滞せず,血の聖薬であり,同時に妊婦に伴う気の不順による諸症をよく整える」というように,まさに母親に益するという,その効果から名づけられたものです。
われわれは親から名前を授かっています。世の常として親は子供の誕生に大きな祝福と期待を込めて名前を付けています。われわれ一人一人がその名に恥じない人生を歩んでいくことも大事かなと,改めて命名の妙に思いをはせてしまいました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ムラサキ

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ムラサキ
Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini ( ムラサキ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本や朝鮮半島、中国大陸にかけて分布し、日当たりのよい草原に見られる多年草です。花は白色で小さく、初夏から咲き始め、根は赤紫色をしています。和名は「叢れ咲く」ことから名づけられましたが、最近は自生地の環境が悪化し、絶滅が心配されるほど少なくなってしまいました。
 薬用には根を用い、生薬名をシコン(紫根)といいます。切り傷や火傷などの皮膚疾患に効果があり、江戸時代の医師、華岡青洲が考案した紫雲膏に配剤されています。華岡青洲は同様に自ら処方した麻酔薬の通仙散を用い、世界で初めて乳ガンの外科手術に成功した医者として良く知られています。
 古くから紫色は高貴な色として尊ばれ、飛鳥時代、ムラサキは染料として全国各地から朝廷に献上されていました。しかし江戸時代になると、江戸紫と称し、粋でお洒落な庶民の色として人気がありました。(磯田 進)

ムクゲ

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ムクゲ
Hibiscus syriacus Linne ( アオイ科 )

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ムクゲ フヨウ
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スイフヨウ

 中国原産といわれる落葉低木です。樹高は3mくらいで,よく分枝します。日本へは奈良時代(715-806)ころに,薬用植物として渡来したものと推測されています。樹皮は繊維が発達しているため,かつては製紙の補助材として利用していました。葉は卵形で,浅く3つに切れ込んでいます。花は夏に咲き,紅紫色から白色,八重種など園芸的にも多くの品種が育成されています。花は早朝より開花し,夕方には萎んでしまうことから一日花といいます。しかし花は次から次へと毎日,新たに咲き続けますので,株全体では長期間楽しむことができます。華やかな花は大韓民国の国花にも指定されています。韓国では白色の花が特に尊ばれているようですが,日本でも夏を代表する花木として栽培されています。雄しべは単体雄ずいといい,ツバキの花と同じように雌しべの周囲に多数の雄しべの柄(花糸)が合着しています。果実は卵球状で熟すと上部が五つに裂け,種子は薄いハート形をして周囲に茶褐色の毛を生じています。
 和名は漢名,木槿の音読み「もくきん」から転訛したといわれています。花は前述のように早朝より開花し,夕方には萎んで落花してしまうことから,別名を朝開暮落花ともいいます。そのためでしょうか。花の開花特性から「秋の七草」のアサガオは,本種という説もあります。薬用にはつぼみおよび樹皮を用います。つぼみは生薬名をモクキンカ(木槿花)といい,止瀉や鎮吐薬とします。また樹皮は生薬名をモクキンピ(木槿皮)といい,水虫やタムシなどに用います。
 よく似た花にフヨウ(H. mutabilis)があります。ともにハイビスカスの仲間のため,勘違いされている方も多いようです。ムクゲの花は直径が10cmくらいですが,フヨウは一回り大きく10~15cmくらいになり,少し遅れて夏から初秋にかけて咲きます。また葉は花同様に大きく,浅く掌状に裂けて葉の基部が心形となっていることなどで見分けることができます。中には夕方になるとお酒を飲んだように花が淡紅色を帯びる園芸品種もあり,スイフヨウ(酔芙蓉)という粋な名前で親しまれています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ミシマサイコ

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ミシマサイコ
Bupleurum falcatum LINN. ( セリ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州以南の各地に分布し,日当たりのよい山野に生育する多年生草本植物です。葉は互生し,葉身は広線形から長ひ針形,葉脈は平行脈状となっています。花は黄色で小さく,複散形状について夏から秋にかけて咲きます。果実は球状で,褐色に熟します。根はやや肥厚し,特有の香りがあります。
 和名は静岡県東部の三島地方で産出したものが,生薬のサイコ(柴胡)として大変品質がよいことから名づけられました。薬用には根を用います。生薬名は前述のようにサイコ(柴胡)といい,精神神経用薬や消炎排膿薬とみなされる漢方処方に配剤されています。かつては野生品を採取して薬用に利用していましたが,需要の拡大を補うため現在では栽培品を利用しています。薬としての利用のためとはいえ,採取過多となってしまったため,自然の状態では絶滅が心配されているレッドリストにリストアップされる植物となってしまいました。100年後には野生のミシマサイコは完全に消滅すると試算されています。現代のような環境の変化が早い時代には植物も住み難いのでしょうか?このような危機的な状態が現実のものとなってしまわないように,私たちも自然保護に関心を持ちたいものです。
 芭蕉の句に,「陽炎や 柴胡の糸の 薄曇り」というものがあります。白銀色を呈した糸状の毛が,明るい春の日差しによって生じた陽炎により,おぼろげに見えてしまう様子を詠ったもので,春の季語として陽炎や柴胡があてられています.しかしミシマサイコの植物体には糸状の毛なども生じませんので,この句の「柴胡」は現在のミシマサイコを指したものではありません。時代と共に名称が変化することは,植物名においても多々おこります。キンポウゲ科のオキナグサもその一つで,江戸時代には「赤熊柴胡」と呼ばれたこともありました。芭蕉の句にある柴胡とは,じつはオキナグサを指しているのです。「柴胡」という漢字表記のみが一人歩きし,今でも混同誤認してしまった説明が見られるのは残念でなりません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

マツホド

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マツホド
Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson ( サルノコシカケ科 )

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菌核 マツホドを探し出す道具
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菌核が付着している状態

 日本や中国,北アメリカ,オーストラリアなど世界各地に分布していますが,おもにマツの根に寄生している担子菌類です。しかしマツに限らず,モミ属やスギ属,モクレン属,ミカン属,コナラ属,ユーカリ属,ウルシ属などにも寄生することも報告されています。解説書などには伐採後,3~5年経過したマツの根に形成されると記述されていることがありますが,私の経験では生育中のマツの根に寄生していることを何度か確認しています。菌核は不定形の塊状で,径10~30cm,外面は暗褐色から赤褐色を呈し,新鮮な菌核の内部は白色となっています。子実体は稀に外面に形成されます。この子実体の発見は意外に新しく20世紀に入ってからといわれています。子実体は全背着生といって,いわゆる傘状のキノコは生じないため発見が遅れたようです。
 和名はマツの根に寄生し,菌核が塊状になることから名づけられました。この「ホド」とは塊状を意味しています。薬用には塊状の菌核を用い,生薬名をブクリョウ(茯苓)いい,通常は外層を取り除いて利用します。しばしば菌核は生育の段階で根を抱き込んでいることがあり,その状態で加工した生薬を特に「茯神」といって尊ばれています。因みに生薬名の茯苓は本草綱目(1578)によると,史記(前91)に「マツの神霊の気が伏結して生じたもので伏霊と名づけた」と記されているということです。その後,転写の誤りによって茯苓になったということです。ブクリョウは利尿薬や尿路疾患用薬,精神神経用薬とみなされる五苓散や加味逍遙散などの漢方処方に配剤されますが,ブクリョウ単独で用いることはありません。
 古い話になりますが,50年くらい前は当たり前であった納豆売りやバナナの叩き売り,鍋の穴埋め修理などを生業とされていた人たちも,気がついた時には見かけなくなってしまいました。一般的に見かけることは少なかったと思われますが,マツホドの採集を生業とされた「茯苓突き」もそのような方々でした。長年の経験と鋭い勘で,鉄製の尖った棒でマツの根元近くを突き刺し,その感触でブクリョウを見つけ出したということです。しかし安価な中国や朝鮮半島からの輸入が一般的になり,その神業的な「茯苓突き」の技が途絶えてしまったことに一抹の寂しさを禁じえません。(磯田 進・鳥居塚和生)

マグワ

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マグワ
Morus alba Linn ( クワ科 )

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花序(雄) 果実

 朝鮮半島から中国にかけての地域に分布し,栽培されている夏緑広葉樹です。雌雄異株。樹高は10mくらいになります。養蚕用に多くの品種が育種されていますが,栽培する場合は地上50cmくらいのところで一度幹を切断し,側芽を生長させて葉を収穫する株立ち栽培が一般的です。葉は卵形から広卵形で,しばしば浅く3裂します。雄花,雌花ともに尾状に多数つき,春から初夏に咲きます。果実は集合果といい,成熟すると黒紫色に肥大し多汁質になるためまるで一個の果実のように見えます。近縁種のヤマグワM. bombycisは各地の山野に自生し,一般的にはマグワ同様,雌雄異株ですが,稀に雌雄同株のことがあります。また葉が厚めのマグワと比較しヤマグワは薄く,養蚕用にはマグワより育成された栽培品種を栽培することが多いようです。
 和名の語源は昔から養蚕との関わり合いが深く,蚕葉(コハ)または食葉(クハ)などから転訛したといわれています。どちらの説でもカイコが好んで食べる葉という意味があります。薬用には根の皮(師部を含む形成層から外側の部分)を用います。生薬名をソウハクヒ(桑白皮)といい,利尿薬や鎮咳去たん薬とします。以前は長野県などの養蚕地帯からも生産されていましたが,現在では養蚕業の衰退から供給のほとんどは中国などからの輸入に頼っています。
 クワといえばほとんどの方が蚕を連想するように,日本や中国,韓国などでは生糸を生産する蚕とクワは切り離すことはできません。日本では鎖国から開国へ,江戸から明治へと移り変わり,富国強兵に向かって官民が一丸となった時代がありました。その牽引力になったのは絹製品の輸出でした。残念なことに近年は農家の老齢化とともに養蚕業が衰退し,荒れ果ててしまった桑園を目にするたびに一抹の寂しさを覚えていました。ところが最近,たわわに実る果実が注目され出しました。これを受けて桑園は蚕の飼料用としてではなく,果実の摘み取り園として見直されてきました。酸味はあまりありませんが,特有の甘味と風味に人気があるようです。また摘み取った果実はジャムなどに加工され,食卓に潤いを与えています。スーパーなどの食品売り場に棚にも並ぶようになりましたので,一度その味を賞味されてはいかがでしょうか。(磯田 進・鳥居塚和生)

マクサ(テングサ)
Gelidium elegans Kuetzing ( テングサ科 )

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テングサ テングサの乾燥風景

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カンテンの凍結乾燥風景

 日本各地の海岸付近に分布し,干潮(低潮)の海面から5~10mの岩上や潮溜まりなどに生育する紅藻類です。藻体は叢生して硬く,4~5回羽状に枝分かれしていますが,海水中で生育している状態では海水に揺られて柔軟な形状に見えます。また外形は生育環境によってかなり変化し,時には別種に見えることもあります。採取したマクサは,真水でよく洗ってから天日干しします。更に水を散布しながら乾燥させると,初め赤紫色を呈していたテングサは脱色し淡黄褐色になっていきます。
 和名のマクサは真の(天)草という意味があり,最も品質の良い寒天の製造原料ということで名づけられました。因みにテングサとは天草と表記しますが,その語源は古名のトコロテングサからの転訛といわれています。薬用にはマクサなどを煮出し,含有している多糖類が溶け出した粘液を凍結させた後,脱水乾燥させたものを用います。生薬名をカンテン(寒天)といい,懸濁化剤や増粘剤,研究用の培地などに用います。因みに寒天の原料としては本種の他,オオブサやキヌクサ,オニクサなどの同属紅藻類,オバクサなどの異属近縁種も利用しています。それぞれの種は多糖類の種類や含有率が異なっているため,微妙に調整し製品の粘度を決めているということです。
 カンテンの製法が発明されたのは,偶然の出来事からであったようです。薩摩藩第二代藩主の島津光久(1616-95)が参勤途上の折り,京都伏見に宿泊した時のことです。食事に出したトコロテン料理の食べ残しを料理人が冬の戸外に捨てましたが,数日後に宿主の美濃屋太郎左衛門が白い乾物になっていることに気がつきました。その白い乾物をテングサと同様に水で煮て冷ましたところ,元のトコロテンと同じものが出来上がったところから,現代に伝わる製造方法が考案されたといわれています。
 このためにマクサなど原料の生産地は、静岡県の伊豆半島などの海岸の地域ですが,カンテンの生産地は、長野県の諏訪地方や岐阜県の東美濃高原などであり、冬期の気温が低く雪の少ない土地が生産地となっています。しかし最近は,天候に左右されず,年間を通して製造することができることから、冷凍機で凍結させ工業的に製造することが多くなりました。カンテンを太い糸状に押し出し,酢醤油と和辛子,または蜜(みつ)をかけた食品をトコロテンといいます。このトコロテンとは,「和名類聚抄」(934)に記載されている心太(ココロブト)の転訛といわれ,日本独特の食品でもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ホップ

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ホップ
Humulus lupulus LINNE ( クワ科 )

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雌花 毬果

 ヨーロッパ南部原産といわれていますが,古い時代からビール醸造の原料として利用されているため,北半球の冷涼な地域に広く生育している雌雄異株のつる性の多年生草本植物です。日本へは明治9年(1876),ビール醸造を目的に雌株を北海道へ導入したのが最初といわれています。そのため雄株を目にする機会はほとんどありません。現在は北海道や東北地方などの冷涼な地域で栽培しています。茎は長さ10mくらいに生長し,多数の小さな刺を生じています。葉は先端が尖り,卵状または3~5裂し,変化に富んでいます。雌花序は花柄の先端に多数つき,毬果は松かさ状になります。
 和名は英語表記のHopをそのまま用いたものです。このHopとは,ホップの栽培が盛んな中世の面影を残しているベルギーのポペリンゲ(Poperinge)という町名に由来しています。別名をセイヨウカラハナソウともいいますが,同じ属で日本に自生しているカラハナソウから名づけられました。薬用としては淡緑色で鱗状の苞葉に包まれた毬果を用い,中国では?酒花といって健胃薬,利尿薬としますが,一般的にはビールを醸造する際の風味づけに添加するというイメージが強いようです。ビールを飲むと,何故かトイレに行く回数が多くなりますが,これは単に水分の摂取だけではなく,ホップの利尿作用に起因しています。
 ビールは大麦とホップを用いて醗酵させたアルコール飲料です。その歴史は大変古く,諸説ありますが,一説によれば紀元前8,000~4,000年までさかのぼるといわれています。紀元前8,000~4,000年といえば,世界四大文明の一つであるメソポタミア文明などが栄えた時代です。当に人類の歴史とともに親しまれてきた飲み物といえます。初期のビールは粉末にした大麦を水で練り,パンのように焼いてから水を加えてアルコール発酵させたものでした。初めて,ホップを利用するようになったのは11世紀頃のドイツといわれ,風味づけのために添加したようです。ホップには独特の風味だけではなく,雑菌の発生を抑制するという作用があります。現在のように衛生的な環境で醸造することが困難であった時代には,とても都合のよい添加物であったに違いありません。バッカスの祝福に感謝したのではないでしょうか.その後,その風味が広く愛され,ドイツだけではなく世界各地のビールにもホップを添加するようになりました。(磯田 進・鳥居塚和生)

ボタン

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ボタン
Paeonia suffruticosa ANDR. ( ボタン科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国西北部原産の落葉低木。中国を代表する花として国花にされているようです。桜の葉が日一日と緑濃くなる初夏,百花王の名に相応しく,紅紫色や淡紅色など多彩で大きな花を咲かせます。特に八重種では花の重みで茎が支えきれず,添え木しなければならないほどの花も珍しくありません。
 和名は漢名の牡丹を音読みしたものです。薬用には芯の部分を取り除いた根の皮を用います。生薬名をボタンピ(牡丹皮)といい,主として婦人薬を目標とした漢方処方に配剤されます。
 最近では生活の多様性から色彩にも関心が高く,カラーコーディネーターという職業が生まれています。全国商工会議所が主催する検定試験には多くの応募者が集まるようです。カタカナのネーミングが溢れる中,友禅染に用いられる古風な牡丹色がどのような色かご存じですか。紅紫色,鮮赤色などいろいろ表現されていますが,本来の牡丹の色は写真のような色調なのです。
 花より団子という方には,牡丹といえばやはり「牡丹餅」です。この牡丹餅はお餅に小豆餡をまぶしたもので,春のお彼岸に無くてはならない和菓子の一つですが,その風合いを牡丹の花に見立てたものです。しかし同じお餅でも秋のお彼岸の頃になると,季節柄,マメ科のハギの花に見立て「お萩」と名称が変わります。(磯田 進)

ホウノキ

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ホウノキ
Magnolia obovata THUNB. ( モクレン科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本特産種.高木の夏緑広葉樹.葉は大形で倒卵形です.花も大形で枝の先端に単生し,甘い芳香があります.花びらは淡黄白色で大きく,雄しべと雌しべが多数あります.果実は長楕円形で秋に熟しますが,紅熟した種子は白い糸状の種柄で下垂します.
 和名は大きな葉に食べ物を盛りつけたり,包んだことから名づけられたものです.またホオノキともいいますが,これはホウが転訛したものです.薬用には樹皮を用います.生薬名をコウボク(厚朴)といい,健胃消化薬や瀉下薬,鎮咳去たん薬とみなされる漢方処方に配剤されています.
 初夏に咲く木本植物の花は,白色系が目立つような気がします.白色系の花は清々しい季節感をさそい,そして初夏の青空によく映えるように思います.淡黄白色の花をさかせるホウノキも,まさにそのような花の一つです.ただし花は高い樹冠に咲いていることもあり,身近に観察できる機会はそう多くはありません.運よく身近に接する機会がありましたら,よく観察して見てください.まるで大きなハスの花のようです.また特有の甘い芳香は,さぞかし多くの蝶や蜂などを誘うものと思われます.しかし蜜の分泌はほとんどないため,訪れる昆虫と言えばコガネムシなど甲虫類が主たるものだそうです.これら甲虫類は豊富な花粉を食べるために飛来してくるそうです.そして甲虫は雄しべの中を這い回っているうちに,花粉が体面に付着し雌しべに運ばれることになります.このように甲虫が授粉に一役かっているのですね.但し雌しべは雄しべよりも早く成熟するため,同じ花では授粉しない仕組みになっています.ついでながら雌しべが先に熟す植物にはホウノキの他にオオバコやミズバショウなどがあります.反対に雄しべが先に熟す植物にはキキョウやアザミなどがあります.(磯田 進・鳥居塚和生)

ベラドンナ

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ベラドンナ
Atropa belladonna LINN. ( ナス科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヨーロッパ南西部から西アジアにかけての乾燥地域に分布し,薬用として各地で栽培されている多年生草本植物です。花は初夏から夏に咲き,紫褐色で釣鐘状に下垂します。果実はやや球形で黒紫色に熟します。
 和名は英語名のBelladonnaの通りです。その学名は分類学上の種小名ともなっています。生薬としては,根のエキスやこれから単離精製された有毒成分が鎮痛・鎮痙薬の製剤原料として用いられます。しかし,一般の素人にとっては毒草そのもので,薬どころではありません。
 ベラドンナbelladonnaには美しい女性 (Bella donna) という意味があります。その汁液を点眼すると,瞳孔が開いて潤んだ魅惑的な瞳に見えるからでしょう。かのクレオパトラも使っていたそうですし,イタリアルネサンス時代には化粧法として流行したようです。医学的な知識が乏しい時代とはいえ,恐ろしい化粧法があったものです。
 まれにベラドンナリリーと勘違いされますが,これは南アフリカのケープ地方原産のヒガンバナ科植物で,別名をホンアマリリスまたはハナズイセンといいます。9~10月にかけてユリに似たとても美しい大きな花をつけます。最近は交配種が多く,より美しい花をつけるものが売られています。ベラドンナはとても危険な植物ですが,ベラドンナリリーは,私たちの目を楽しませてくれる素敵な園芸植物です。(磯田 進)

ベニバナ

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ベニバナ
Carthamus tinctorius L. ( キク科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 エジブト原産の1~2年生草本植物で,昔から世界中で栽培されています。花は夏に咲き,鮮黄色から紅黄色をしています。日本へは,中国から朝鮮半島を経て,6世紀末~7世紀初めの推古天皇の時代に渡来したといわれています。
 和名は漢名の紅花の音読みで,花から紅を採ったことから名づけられました。薬用部位は管状花で,生薬名をコウカ(紅花)といい,主に婦人薬とみなされる漢方処方に配剤されます。
 種子から得られる油はリノール酸含量が高く,古くから高級食用油(サフラワーオイル)として利用されてきました。
 紅色の色素は退色しにくいので,昔から染料や口紅や頬紅として利用されてきました。エジプトの遺跡から発掘されたミイラを包んでいた布帯も紅花で染め上げられていたそうです。このように紅色の鮮やかさは昔から尊ばれてきましたが,化学技術の進歩とともに合成染料に押され,近年は色素としての需要はほとんどありません。
 現在では,山形県の県花として,また最上地方の特産品として知られるだけの感がありますが,乾燥しても花の色や葉の形状がそのまま保たれますので,ドライフラワーとして人気があります。総苞片や葉の縁は鋭い刺状をしているので,家庭内で飾る花としては嫌われることもありましたが,最近は刺のない品種も出回るようになり,小さいお子さんがいる家庭でも気軽に楽しめるようになりました。


[註] 成人病予防の脂質(脂肪)栄養指針として,日本ではベニバナ油などに多く含まれる「リノール酸系植物油」の摂取が長年勧められてきたが,日本脂質栄養学会(会長:奥山治美・名古屋市立大学薬学部教授)は「リノール酸のとり過ぎは,がんや高コレステロール血症・動脈硬化,アレルギー発症などにむしろ良くない」とリノール酸信仰に讐鐘を鳴らしている。
[http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/rinorusanMATIGAI.html]
[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/index.html]

(磯田 進)

ビンロウ

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ビンロウ
Areca catechu LINNE ( ヤシ科 )

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果実

 熱帯アジアで広く栽培されているため原産地は定かではありませんが,マレー半島原産と推測されている高木性のヤシです。日本へは奈良時代に薬用や染料として輸入され,天平勝宝8年(756)にはその記録が残されているということです。現在では植物園や薬用植物園の温室で展示用に栽培されています。樹高は20mくらいに達し,幹は青竹のような緑色を呈しています。葉は羽状複葉で長さは1m以上になります。花は花穂の先端部分に雄花,基部に雌花がつきます。果実は長さ5~6cmの卵形で一房に150~250個をつけ,橙色に熟します。種子は球状でとても堅く,大理石のような網目状の模様があり,繊維質に富んだ果肉で覆われています。
 和名は中国名の檳榔を音読みしたもので,薬用には種子を用います。生薬名をビンロウジ(檳榔子)といい,駆虫や胃腸機能改善を目的として用いられます。漢方処方では,女神散(にょしんさん)や九味檳榔湯(くみびんろうとう)などに配剤されています。駆虫薬や染料としての利用のほかに,熱帯アジアでは口腔清涼剤の原料とします。余談ですが東洋の真珠といわれているマレーシアのペナン島の名称も,檳榔に由来しているということです。しかし現在のペナン島は主にハイテク産業や観光で知られ,大規模な栽培は行われていません。
 最近,喫煙は健康に問題があるとして,大幅なタバコの値上げがありました。頭の中では理解してもなかなか止められないのが嗜好品ですが,ビンロウジは東南アジアを中心にパキスタンやインド,台湾などでは嗜好品として多くの方に好まれています。その使用方法は未熟な果実から種子を取り出し,2~4分割してから石灰を絡めてコショウ科のキンマの葉に包んでゆっくりとガムのように噛みます。しばらくするとビンロウジと石灰,キンマの葉の成分が反応し,唾液や口の中が真っ赤に染まります。一種の精神高揚作用があるといわれ,幸福感に溢れてとても爽快な気分になるということです。しかし真っ赤に染まった唾液を道路などに吐き捨てるため,衛生的な面と景観がよくないということで問題となっているようです。実際に東南アジアを旅行していると,今でも道路で真っ赤に染まった縞模様を目にしますが,公共の場では禁止されつつあるようで,その風景を見ることも少なくなってきました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ビワ

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ビワ
Eriobotrya japonica LINDL. ( バラ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の常緑高木です。渡来は奈良時代から平安時代といわれています。花は白色で強い芳香があり,初冬より咲き出します。果実は初夏に黄熟し,多汁質でほどよい酸味と甘味に富んでいます。
 和名は漢名の枇杷を音読みしたものです。薬用には,裏面の毛を取り除いた葉を用 います。生薬名をビワヨウ(枇杷葉)といい,鎮咳・去たん薬として,また浴湯料などに利用します。最近は疲労回復や血行を良くし,筋肉のこりをほぐすとして,「枇杷の葉療法」がブームになっているようです。
 多くの花は,受粉様式が昆虫による虫媒花や風による風媒花なので,春から秋にかけて咲きます。ところが何を好んでか,ビワは厳しい冬に向かって花を咲かせ,結実の初期を寒風にさらされながら過ごします。この時期は寒さのために昆虫の活動も鈍りがちですが,風も止んだ日中は意外に暖かく,ミツバチやハナアブなどの昆虫の活動も活発なのです。受粉を助けるのは昆虫だけではありません。ビワは,ツバキと同様に,メジロやヒヨドリなどによる鳥媒花としてもよく知られています。鳥類は嗅覚があまり発達していませんので,ビワのような強い芳香の花が必要なのかもしれません。ところで,大切な雌しべは,彼らの鋭く硬いくちばしの先端に傷つけられないような構造になっているそうです。
 先日,ビワの蜂蜜をパンにつけて食べました。他の花の蜂蜜と比べて心なしか香り が強いように感じました。気のせいでしょうか。 (磯田 進)

ヒロハセネガ

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ヒロハセネガ
Polygala senega Linne var. latifolia Torrey et Gray ( ヒメハギ科 )

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果実

 北アメリカ原産。日当たりがよい河川や湖周辺の岩場の多い砂礫地や,明るい林床などに生育している多年生草本植物です。日本へは明治時代に薬用として渡来しました。冷涼な気候を好むため,現在は兵庫県の山間部や北海道などで栽培されています。根は木質化し,特徴としてサリチル酸メチル臭があります。草丈は20~30cm,茎は叢生し,葉は互生,葉柄はありません。葉身は広ひ針形から卵状ひ針形で,先端は尖っています。花は茎の上部に総状につき,白色で少しマメ科の花に似た蝶形を呈し,初夏から夏に咲きます。果実は心円形で,扁平で紫色のがくが残り,中に種子を2個生じます。
 和名は学名(属名)のsenegaをそのまま用いたものです。このsenegaとは北アメリカのネイティブアメリカンであるSeneka族に由来し,根をガラガラヘビに噛まれた際に利用するとされたことから名づけられたとされています。そのため英名もsenega snake rootと呼ばれています。しかし蛇毒の解毒作用については,科学的な立証はなされておらず期待できそうにありません。むしろセネガは,気管支炎や気管支喘息の去たん薬として高い利用価値を持っています。薬用には根を用い,セネガ末やセネガシロップとして各種製剤に配剤されています。
 現在,知られている去たん作用は,アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアのスコットランド人医師,John Tennetが1736年に気管支炎に効果があることを報告したことに端を発しています。それ以来,各国で広く去たん薬として利用されるようになりました。ところがネイティブアメリカンであるOjibwas族では,その報告の以前から,セネガ根を咳や風邪薬として利用していました。もしかしたらJohn Tennetの発見も,Ojibwas族の使用方法がヒントになったのではないかとも想像できます。因みに日本に自生している同属のヒメハギ(P. japonica Houtt.)も民間では去たん薬として利用しています。
日本では,葉の広い変種であるヒロハセネガが渡来し1902年ごろから栽培するようになったため,葉の幅がやや狭い母種のセネガ(P. senega L.)とともに,本種も日本薬局方に基原植物として収載しています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ヒヨス

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ヒヨス
Hyoscyamus niger LINN. ( ナス科 )

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 ヨーロッパ原産。薬用として栽培する1~2年生草本植物です。アメリカやカナダでは路傍や荒地などに帰化していますが,日本では薬用植物園などで見本展示用に栽培しています。草丈は0.5~1.0 m,株全体に粘り気のある腺毛を生じ,特有の臭いがあります。葉は互生し,葉身は長さ20~30 cmの卵状ひ針形から広卵形で周囲は浅裂し,葉柄がないため葉は茎を抱くようについています。花は夏に咲き,ロート状で灰黄色を呈し先端は5裂しています。また花冠の中央部は暗紫色となり,網目状の脈を生じています。果実は萼に包まれ,灰褐色の小さな種子を多数生じます。
 和名は学名(属名)の前半分を用いたものです。因みに学名(属名)のHyoscyamusとはブタの豆という意味があります。本植物には幻覚症状などの強い毒性が知られていますが,中毒により人間の理性を損なうような行動をすることもあることから,人格を蔑視してブタに例え名づけられたということです。また子供たちに,恐ろしい魔女が用いる悪魔の毒草であるといい,決して口にしてはいけないことを示すために名づけられたとか,あるいは人間だけではなくブタにも毒性があることから名づけられたからなど,幾つかのいわれがあります。薬用には,かつて葉またはそのエキスを用いていました。しかし生育環境などにより有効成分の含有量が一定していない欠点があり,現在は有効成分のみを精製・単離し,鎮痛薬や鎮静薬などを目的とした硫酸アトロピンや臭化水素酸スコポラミンなどの製造原料とします。
 本植物に含まれている有効成分は作用が激しいため,薬剤による中毒事故を未然に防ぐ意味からも,手の届き難いところに区別して置かれます.また使用に際しては,希釈した濃度の製剤を用い,用量には細心の慎重さが求められています。これらと同様の成分を含む植物には,観賞用に栽培するエンゼルス・トランペットなどのダツラ類があります.しかしながら一般には,観賞用という思い込みからか,その毒性に対しては意外と無頓着のような気がします。植物に直接触れた手で不用意に目を擦ると瞳孔を散大してしまう恐れがありますし,飲み込んでしまった場合には重篤な状態に陥る場合があります.何でも口にする小さなお子さんがいらっしゃるご家庭などでは,十分な管理と注意が必要です。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ヒナタイノコズチ

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ヒナタイノコズチ
Achyranthes fauriei et LEVEILLE VANIOT ( アサ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 北海道を除く,日当たりのよい原野に生育している多年生草本植物です。根は白色を帯び,やや肥大しています。茎は四角形で節はやや膨らみ,赤紫色を帯びています。花は緑色で小さいためあまり目立ちませんが,夏から秋にかけて茎の先端に穂状に咲きます。果実は長楕円形,成熟すると簡単に脱落し,衣服などにつきやすくなります。和名は日当たりのよい路傍や原野に生育するイノコズチという意味があります。イノコズチとは茎の太くなった節が,イノシシの子供の膝に似ていることから名づけられました。生薬としては,このヒナタイノコズチの根を用います。近縁のイノコズチは日陰に生育することが多く,根があまり肥大しないため薬用には用いません。生薬名をゴシツ(牛膝)と言いますが,これも節を牛の膝に例えたもので,婦人科疾患を目的とした牛膝散(ゴシツサン)や牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)などの漢方処方に配剤される重要な生薬の一つです。
 「暑さ寒さも彼岸まで」といわれるように,清々しい秋風が吹く頃になると日頃の運動不足を解消しようと,郊外の野山へハイキングに出かける方が多くなってきます。楽しいハイキングもしばしば衣服に野草の実が所かまわずひっつき,取り除くのに苦労する経験をした方もいることでしょう。特に毛糸の靴下にひっついた実は,腰をかがめて取り除かなければならず結構大変な作業です。衣服にひっつきやすい実を俗に「ひっつき虫」といいますが,イノコズチなどは刺状の苞がヘアピンの様に衣服の繊維を強固に挟み込んでひっつきます。私たちの衣服にひっついて,これらの実は散布されその分布域を広げています。正に自然の妙技といえましょう。同様の技はヤブジラミやダイコンソウの鉤状の実,センダングサ類やヤブニンジンの実の逆向きの小さな刺によるものなどに見られます。
 ヒナタイノコズチは花も目立たず比較的地味な植物ですが,このように「ひっつき虫」として意外になじみ深い植物でもあるようです。ところでヒナタイノコズチには,このほかにも興味深いことが知られています。一つは,名称の由来にもなった茎の節ですが,著しくコブ状になっている場合は,時々その内部にイノコズチウロコタマバエなどの昆虫の幼虫が寄生していることがあることです。また一つは,この植物の持つ成分が,昆虫の脱皮などをコントロールする昆虫変態ホルモンと同一であることです。昆虫がこの植物を食べて変態する訳ではありませんが,植物から初めて単離され専門家の注目を集めました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ヒキオコシ

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ヒキオコシ
Rabdosia japonica HARA ( シソ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 全国各地に分布し,やや乾燥した山野に生育する多年生草本植物。草丈は1mくらいになり,全株,下向きの細毛を密生し,強い苦味があります。葉は対生し,葉身は広卵形で先端は尖り,基部は狭くなり,葉柄に翼状に流れています。また縁に鋸歯があります。花は淡紫色を呈し筒状唇形小さく,枝先や葉腋に花穂を出して多数つき秋に咲きます。花冠の上部は反り返り,紫色の斑点を生じます。果実は球状で小さく,筒状の萼の底に生じています。
 和名は「引起こし」の意味があります。その由来は弘法大師が諸国を行脚していた折り,道ばたに倒れている病人を発見したため本植物の汁液を飲ませたところ,倒れていた病人を引き起こすかのように病が治ったという故事から名づけられました。また生薬名をエンメイソウ(延命草)といいますが,和名と同様の意味があり,野垂れ死にする危険があった病人が,本植物を用いたお陰で寿命が延びたという故事によるものです。 
 薬用には葉や柔らかい先端部分の茎葉を用います。古くから民間では腹痛などの気付け薬としていましたが,西洋医学の影響を受け始めた江戸時代後期以降では苦味健胃薬として用いるようになりました。苦味成分は全草,特に葉や枝先の茎葉に多く含まれています。葉は乾燥する過程で脱落し易くなるため,乾燥作業では細心の注意が必要となります。
 苦味はかなり薄めても残るほど強く,一度口にされた方の多くはその苦味を決して忘れることはないでしょう。しかし苦味健胃薬としての利用としては,キハダやオウレン,リンドウのように広く用いられているわけではなく,今一つの感があります。この苦味成分はアルカリ性の条件では分解されやすく制酸剤との併用が困難なことから,かつては第五改正日本薬局方に収載されていたこともあったのですが,第六改正日本薬局方以降では削除されてしまいました。苦味健胃薬として一般化しなかった背景は,このような化学的な理由によるものです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ハマボウフウ

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ハマボウフウ
Glehnia littoralis FR. SCHMIDT EX MIQUEL ( セリ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 海岸の砂地に生育し,草丈が10~30cmの多年生草本植物です.茎は白黄色で強い芳香があり,砂地に深く埋まっています.葉は厚く光沢があってやや硬く,長さ10~20cmで1~2回3出羽状複葉となっています.花は6月から7月に咲き,小さく白色から淡紫色で複散形状につきます.また花序全体に白色の柔毛が密生しています.果実は倒卵形で長く柔らかい毛を密生し,種子はコルク状になって浜辺に飛散したり,海上に浮いて分布域を広げます.ハマボウフウは砂中に深く根を張り,結果的に砂の移動を防いでくれています.近年,砂浜の環境悪化により絶滅が心配されているほどその個体数が激減し,自生地の保護を検討する自治体も増えています.
 和名は浜辺に生育し,中国原産の防風(Saposhnikovia divaricata)の代用として用いられたことから浜防風の意味で名づけられました.またハマボウフウの柔らかく香りの高い若葉は,高級な食材としても好まれることから,別名をヤオヤボウフウ(八百屋防風)ともいいます.生薬名もハマボウフウといい,根および根茎を解熱や鎮痛薬として利用することがあります.入浴剤としても利用でき,含まれている精油は血行を良くし,湯冷めし難いといわれています.なお防風とは植物的にも,品質的にも異なっているところから,現在では別の生薬として取り扱われています.
 一般的に生薬としてのハマボウフウはあまり馴染み深いものではないと思います.しかしながら食材としては,しばしば目にしているのではないでしょうか.和食の主菜などにツマとして添えられることが多いためか,目にしても気付かず記憶に残ることは少ないようです.次に会食などの席がありましたら,お造りやお吸い物などに添えられている葉の柄が赤味を帯びた柔らかいハマボウフウの葉を,一度口にしてみてください.口の中にほろ苦い野趣豊かな風味が広がり,箸休めならぬ口休めとなるに違いありません.江戸時代頃は野生品を採取して用いていたようですが,需要の拡大に伴い明治時代以降は栽培されるようになったということです.(磯田 進・鳥居塚和生)

ハマビシ

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ハマビシ
Tribulus terrestris Linne ( ハマビシ科 )

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草型
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果実

 アジアから東ヨーロッパに分布し,乾燥した砂地や海岸付近などに生育する一年生または二年生草本植物です。日本では本州中部以西の温暖な海岸付近に生育しています。しかし近年,自生地の環境が悪化ししつつあり,そのため各地で生育個体が減少し,各地で絶滅が心配される絶滅危惧種に指定されています。茎は根元で分岐し,這うように長さ1mくらいに伸長します。また茎や葉には白色の粗い毛を生じています。葉は対生し,葉身は3~7対の羽状複葉です。花は黄色で径1cmくらい,葉の基部より1個生じ夏から秋にかけて咲きます。果実は太く鋭い刺を生じ,分果といって熟すとバラバラになります。そのため素足やサンダルなどで歩くとしばしば刺さることがあり,自生地に住まわれている方々にとっては嫌われものの植物でもあります。
 和名は海岸などの砂地に生育し,果実がヒシTrapa japonica (ヒシ科)のような刺を生じていることからから名づけられました。しかし果実に2本の刺が出ている大きなヒシよりも,果実に4本の刺を生じ,少し小ぶりのヒメビシT. incisa の果実により似ているという感じがします。薬用にはハマビシの果実が用いられます。生薬名をシツリシ(疾黎子)といい,利尿および消炎,解毒薬とします。
 日本では絶滅危惧種に指定されているほど数が少なくなってきたため,海岸から遠い地方に住んでいる人間にとっては,自生している状態の株を目にする機会はあまりありません。筆者の磯田も山梨県に居住しており,せいぜい薬用植物園の標本園で見るぐらいです。ところが海岸のない内陸で,このハマビシを目にする機会がありました。中国の甘粛省北西部にある「鳴沙山と月牙泉」を見学した時のことです。ご存知のように平山郁夫画伯はシルクロードをテーマにされた作品を描くため,何度もこの地を訪れたということです。タクラマカン砂漠という砂の海に忽然と現れるオアシスは画伯ばかりではなく,芸術とは縁の遠い筆者のような人種であっても魅了されます。オアシスですから灌水が行われている場所は緑が保たれていますが,一歩そこから離れると植物の生育はまったく不可能な環境です。微細で砂時計に使用されている砂のようなタクラマカン砂漠で,砂に埋まりながら這いつくばって生育しているハマビシを見つけました。おそらく砂地の下には植物が生育できる最低限の水分が存在するのだろうと思われますが,思いがけずこのハマビシを見つけ驚きました。また同時に,このような過酷な自然環境下でも,逞しく生きている様子を垣間見た思いがしました。(磯田 進・鳥居塚 和生) 

ハマスゲ

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ハマスゲ
Cyperus rotundus Linne ( カヤツリグサ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 各地の砂質地や原野に生育する,多年生草本植物です。葉は線形で光沢があり,花は小さく,夏から秋にかけて濃茶褐色で線形の小穂につけます。株の基部および細長い地下茎の先端部分は肥大しますが,この肥大した根茎(塊茎)は特有の芳香があります。
 和名は浜辺などに生育しているところから名づけられましたが,かなり内陸部でも普通に生育しています。薬用には肥大した根茎(塊茎)を用います。生薬名をコウブシ(香附子)といいます.「芳香のある(地下茎に附属した)子根」といった意味合いといえましょう。トリカブトの「附子」を連想する向きもありますが,まったく別の生薬です。婦人薬や健胃消化薬と見なすことが出来る漢方処方に配剤されています。
 このようにハマスゲは薬用として重要な植物の一つです。しかし畑や庭などに蔓延ると農家の人だけではなく,ガーデニングを楽しまれている人たちにとっても,抜いても抜いても絶えることのない憎き雑草の一種です。昭和大学の薬用植物園でも標本植物として植栽していますが,持ち前の旺盛な生育力により周囲に広がってしまい,その除草にはとても悩まされ続けています。最近では,隣接する駐車場のアスファルトの割れ目からも芽を出し始める始末です。
 アスファルトの割れ目から芽生えたと言えば,昨年の秋に話題になった兵庫県相生市の「ど根性ダイコン」を思い出します。植物の持つ生命力の強さには感動すら覚えます。ところで余談ですが,心ない者の悪戯で地際より折られてしまい,バイテクにより再生するとのニュースがありました。その後,順調に育ち里帰りする日も近いということですが,里帰りとは生育していた元の割れ目に移植することなのでしょうか? 少し気になった次第です。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ハマゴウ

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ハマゴウ
Vitex rotundifolia LINNE fil. ( クマツヅラ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から東南アジア,オーストラリアに分布し,砂浜などに生育する低木性の夏緑広葉樹です。茎は砂の中を横走し,分岐して立ち上がるために群落を形成します。葉は楕円形で,裏面は白色の短毛が密生し,花は紫色でシソの花に似た唇形花,夏に枝の先端に円錐状につけます。果実は球形で,特有の芳香があります。
 和名は,海辺の砂浜を這うように生育していることから,ハマハウまたはハマホウと呼ばれていたものが,ハマゴウに転訛したといわれています。また全体に芳香があるところからハマコウ(浜香)の転訛ともいわれています。薬用には果実を用います。生薬名をマンケイシ(蔓荊子)といい,鎮静薬や消炎薬として用います。
 旅行などに行くと枕が変わるため,なかなか寝つかれない,またはよく眠れないという話しを耳にします。枕は人類の誕生と同じくらいの歴史があるといわれており,私たちの生活に無くてはならない寝具の一つです。古事記や万葉集には「麻久良」の字を当てていましたが,その素材は陶器製のものから丸太,竹や籐を編んだもの,穀物のアワやヒエ,アズキ,蕎麦殻や籾殻,また植物繊維などを直接または布製の袋に入れたものなど多くの素材が利用されています。昔からハマゴウの果実で作った枕はよく眠れると言い伝えられ,平安時代の貴族も利用していたようです。果実はコルク質になっているので,海水に漂いながら分布域を広げることができます。一方,コルク質なので吸湿性があり,その上,香りがよいことから,枕の素材として利用されたのでしょう。最近,睡眠導入を目的として,芳香を利用したアロマセラピーが注目されていますが,日本でも平安の昔からアロマセラピーが行われていたことになります。(磯田 進)

ハナスゲ

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ハナスゲ
Anemarrhena asphodeloides Bunge ( ユリ科 )

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つぼみ
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 中国の東北部に分布し,日当たりがよいやや乾燥した山野に生育している多年生草本植物です。日本へは享保年間(1716-36)ころに薬用として渡来したといわれ,各地の薬用植物園などで展示用に栽培されています。根茎はやや塊状に肥大して白色の細根を多数生じ,また茶褐色の繊維を密生させています。草丈は1mくらい,葉は広線形で地際より多数出しています。葉の間から花茎を出し,その上部に白黄色から淡青紫色の花を穂状に多数つけ5~6月に咲きます。果実は長卵形で,その中に翼のある黒色の種子を生じます。
 和名はカヤツリグサ科のスゲのような葉を生じ,地味なスゲの花と比べて大きく(といっても径5~6mmです),よく目立つことから名づけられました。薬用にはヒゲ根や茶褐色の繊維を取り除いた根茎を用います。生薬名をチモ(知母)といい,解熱を目標とした酸棗仁湯などの漢方処方に配剤されています。しかし民間薬として,単独で用いることはほとんどありません。
 一般的に花は日中開花していることが多いものですが,中にはアカバナ科のマツヨイグサなどの様に,夜に咲く花も珍しくはありません。同様にハナスゲも夜に開花し,翌朝には萎んでしまう一日花です。そのため日中しか目にしなかったこともあり,しばらくの間は開花しない閉鎖花とばかり思っていました。ある日のことです。薬草園に忘れ物を思い出しましたので夜に出向いたところ,たまたま標本園のハナスゲの花に目がとまりました。近づいて観察したところ,普段見慣れている小さな花とは異なり,花はラッパ状に開いて特有の甘い香りがあることに気がつきました。この時ばかりは日中だけではなく,時には夜間も観察しなければと強く感じました。最近は植物園で夜間の観察会が開催されていることが多くなりましたが,とても人気があるということです。お近くの植物園でそのような行事が開催されていましたら,是非参加してみてください。昼間では見たり感じたりできない植物の生態に,思わぬ感動を体験できるかもしれません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ハトムギ

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ハトムギ
Coix lacryma-jobi L.var. lma-yuen STAPF ( イネ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 熱帯アジア原産の1年生草本植物で,日本や中国をはじめアジア各地で栽培されています。日本へは享保年間 (1716-36) に中国より渡来したといわれています。花は夏から秋にかけて咲き,成熟した果実は楕円状球形で,殻は爪で割れるくらいの硬さです。川辺など湿地に生育しているジュズダマもこの仲間で,形状はとてもよく似ています。ジュズダマの方は殻がとても硬く,爪で割ることはできないので,これらは容易に区別できます。
 薬用には殻を取り除いた種子を用い,生薬名をヨクイニンといいます。漢方では解熱鎮痛消炎薬を目的として用いられますが,民間では「いぼ取り」として有名です。和名は諸説ありますが,牧野富太郎先生は鳩が好んで食べることからハトムギと名づけられたと紹介しています。実際の栽培現場では,果実が熟す頃には鳩以外にも多くの野鳥が飛来してついばむので,バードウオッチングを楽しんでいる場合ではありません。和名のハトムギが一般化したのは意外に新しく,明治以降といわれています。江戸時代まではシコクムギやチョウセンムギ,トウムギなどと呼ばれていました。
 中国の古い時代に編集された医学書「神農本草経」では,不老長寿に効果があるとされる120種の生薬「上薬」の一つとしてハトムギ(ヨクイニン)が記載されています。最近,ハトムギは薬用だけではなく,健康食品などに利用されることが多くなってきました。やはり日々の健康は,時代を越えて私たちの最大の関心事であるようです。(磯田 進)

バッカクキン

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バッカクキン
Claviceps purpurea Tulasne ( バッカクキン科 )

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ライムギに見られる麦角 栽培中のライムギ
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野生のカモジグサに見られる麦角

 主にイネ科やカヤツリグサ科などの植物に寄生する子嚢菌類です。世界各地に分布していますが,バッカクキンは特にライムギに感染,寄生しやすいといわれています。作用が激しい成分を含むため,有毒キノコ類に分類されています。胞子により花に感染します。寄生した菌は,雌しべの子房内で増殖した後,長楕円形の菌核を形成します。そして植物の種類によって異なりますが,夏から秋にかけて菌核は子房の外に露出します。一般的に菌核の大きさは,宿主の種子の大きさと関連するとされ,ススキやクサヨシなど種子が比較的小さい植物に寄生したバッカクキンは,その露出する菌核も小さい傾向にあります。菌核は成熟して脱落し地上に落下しますが,発芽に必要な気温や土壌湿度などの条件が満たされるまで休眠します。そして発芽に適した環境になると,休眠から覚めて発芽し,キノコ状の小さな子実体を形成します。因みにバッカクキン科には,強壮薬としてよく知られるトウチュウカソウ(冬虫夏草)なども含まれています。
 和名はライ麦などの麦類に寄生し,菌核があたかも角に似ていることから名づけられました。薬用には菌核を用います。生薬名をバッカク(麦角)といい,医薬品原料とします。単離精製された含有成分は,子宮収縮薬や子宮止血薬,偏頭痛の改善などに利用されていますが,これら成分は作用が激しいことから劇薬に指定されています。また麻薬および向精神薬取締法に指定されているLSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)は,1938年,スイスの化学者のAlbert Hofmann(1906-2008)により麦角成分の研究中に発見されたものですが,麦角成分であるリゼルグ酸の誘導体として合成されたものです。
 麦角の誤食による中毒症状は,重篤な場合は死亡や妊婦の流産,身体の一部が腐敗する壊疽など悲惨なものです。そのため紀元前の時代から麦角は,有毒なものとして恐れられ,決して口にしなかったということです。ところがヨーロッパでは,ライ麦を主食とするようになると中毒事故が多発し,深刻な事態となった時期がありました。幸いにも現在においては,農薬などの普及により中毒事故はほとんど見られなくなりました。しかしライ麦畑やイネ科の雑草が生い茂る農地や原野を観察すると,思いのほか,多くの麦角の発生を目にします。近年,無農薬農業に関心が集まっていますが,麦角中毒の怖さを改めて認識し,バッカクキンの流行に対する危機管理(リスクマネージメント)をおろそかにしてはならないと思います。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ハッカ

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ハッカ
Mentha arvensis L.var.piperascens MALINV. ( シソ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から中国,ロシアにかけて分布し,日当たりのよい,やや湿り気のあるところに生育します。日本には古い時代に中国より渡来したといわれていますが,年代は定かではありません。株全体に芳香があり,夏から秋にかけて白色から淡紅色の小さな花をつけます。
 和名は漢名の薄荷を音読みしたものです。薬用には地上部を用い,生薬名もハッカ(薄荷)といいます。芳香性健胃薬で,漢方では精神神経用薬や消炎排膿薬を目的とした処方に配剤されます。
 最近のハーブブームに伴ってハッカを栽培する方が多くなりましたが,多くは在来種ではなく,主にヨーロッパから持ち込まれた「ミント類」です。これらのミント類は,古代エジプトやローマ時代から利用されてきたためにペパーミントやスペアミントなど数多くの交配種が含まれます。中にはリンゴやレモン,ラベンダーに似た香りをもつものまで,その種類はさらに増えつつあります。ハッカやミント類は同じ場所で栽培し続けると生育が悪くなる「いや地」現象が現れ,しばしば絶えてしまいます。数年に一度,栽培場所を替えたり,プランターの土を新しいものと交換すると,再び旺盛に生育するようになります。
在来種はメントール含量が多く,かつてはメントールやハッカ油は我が国の重要な輸出品でした。しかし,近年,天然のメントールは合成品にその座を追われましたし,在来種はその芳香がミント類に比べて直接的でやや強いことから,ハーブブームから取り残されてしまいました。(磯田 進)

ハス

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ハス
Nelumbo nucifera Gaertner ( スイレン科 )

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根茎内部
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果実

 ヨーロッパ東南部からオーストラリア北部,アジアにかけて分布する水生の多年生草本植物です。古い時代から各地で栽培されているため,自生種か,または栽培や逸脱したものか,その判別は難しいようです。千葉県の落合遺跡で発掘された大賀ハスは今から2000年以上も前の古代のハスと推定されていますが,文献上での記載は日本最古の歴史書である「古事記」が最初といわれています。根茎は肥厚して内部は白色で穴があり,各節はくびれて芽や細根を生じます。葉は円形で大きく,上面には乳頭状の毛が密生しています。葉柄は長く,葉に盾状についています。花は淡紅色から白色のことが多く,夏に咲きます。よくポンと音を立てて開花するといわれていますが,残念ながら俗説で音は生じません。花托は蜂の巣状となり,卵形で硬い果実が生じます。最近は植物学的にはスイレン科から独立させ,ハス科に分類する学説が有力となっています。
 和名は古名のハチス(蜂巣)より転訛したもので,果実が生じる花托を蜂の巣に見立てたことによるものです。蜂の巣といってもどう猛なスズメバチなどの球状の巣ではなく,身近に見られるアシナガバチの巣にとてもよく似ています。薬用には通例,胚を取り除いた完熟種子を用い,生薬名をレンニク(蓮肉)といいます。主に滋養・強壮薬としますが,その他,薬膳料理や月餅の餡などの食材とします。
 ハスは古くから食材としても利用していますが,日本ではどちらかといえば種子より根茎を多く利用しています。食材として利用する場合はレンコン(蓮根)と名を変え,酢物やお煮染めなどに用います。収穫時のレンコンは芽を生じていることが多く,容易に上下を区別できます。ところが薄く輪切りにして調理してしまうと,その区別はなかなか難しいものです。しかしよく観察すると穴は大きなものが7個くらい,やや小さめのものが2個並んでいることが分かります。根茎が変形している場合は潰れているため判然としませんが,やや小さめの穴が2個並んでいる面が上になります。また三角おむすびを逆さにした,本来は底辺であった方が上になります。因みにこの孔は,葉の中心にある白い模様より空気を取り入れています。楽しい話題は一品の料理に等しいといわれています。楽しい食卓にレンコンの穴の話題を一品に添えてみてはいかがでしょうか。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ハシリドコロ

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ハシリドコロ
Scopolia japonica MAXIM. ( ナス科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州から九州北部に自生する多年生草本植物で,やや湿り気のある林床にしばしば群生します。周囲の草木がまだ深い眠りから覚めない早春に芽生え,4~5月に帯紫黄色で広鐘形状の花をつけます。
 代表的な有毒植物の一つで,食べると幻覚と苦しさから狂乱状態となって走り回るそうで,これが名前の由来です。江戸時代の発明家であり本草学者でもある平賀源内の「物類品騭」では「和名ホメキグサ,東都方言ナナツキキョウ,肥後方言ハシリドコロという」と紹介されています。ちなみに,「トコロ」はオニドコロ(ヤマノイモ科)のような太い根茎を意味します。
 根茎および根は生薬名をロートコンといい,鎮痛・鎮痙薬とされるほか,ロートエキスの原料,アトロピンやスコポラミンの製造原料などに用いられますが,作用が激しいので一般には用いられないようです。
 新芽はみずみずしく柔らかく,美味しそうなので,しばしば山菜と間違えられ,誤食による中毒事故,さらには死亡事故が絶えません。例年,数件が新聞記事として登場していますが,これらは氷山の一角だろうと思われます。
 早春に咲く花は春の到来を告げる自然界の広報担当でもあるのでしょうが,人は山菜として楽しむことに気を取られ,毒草としての危険性まで配慮できないようです。皆さんも春の山菜採りには十分に注意して下さい。
(磯田 進)

ノイバラ

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ノイバラ
Rosa multiflora THUNB. ( バラ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 全国各地に見られる落葉低木で,日当たりのよい山野に生育しています。花は初夏に咲き,花びらは白色,まれに淡紅色の花も見られ,芳香があります。果実は秋に紅熟し,形は卵状楕円形から球形です。
 和名は,読んで字のごとく「野に咲くバラ」に由来します。なお,「イバラ(茨)」は刺のある小低木の総称で,ノイバラだけを指すものではありません。薬用には果実を寫下薬とし,その生薬名はエイジツ(営実)です。
 日本の文化は中国の影響を受けて発展しましたが,薬草についても例外ではありません。しかし,ノイバラの果実を寫下剤として用いるのは我が国独特のもので,中国ではこのような用い方はありません。
 文豪ゲーテの作品「Heidenroeslein(野薔薇)」は,彼が22才の頃,恋人を荒野に咲く野バラに例え,フランスのゼーゼンハイム村で詩に詠んだものといわれています。この芸術性豊かな詩はシューベルトやウェルナーなどの名だたる巨匠たちを虜にしてしまい,彼らによって素晴らしい曲がつけられました。その数は世界で70曲を越すといわれています。我が国でも翻訳され,唱歌として親しまれていますので,口ずさんだ方も多いと思います。ゲーテが想像した野バラは,紅(くれない)色の花でした。ゲーテはその後も多くの恋をしましたが,その恋はいつも紅色の野薔薇の花のように情熱的であったといわれています。 (磯田 進)

ヌルデ

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ヌルデ
Rhus javanica Linne ( ウルシ科 )

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果実 リンゴ酸カルシウム結晶
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虫こぶ

 各地の山野に生育する夏緑広葉樹です。雌雄異株。樹高は5mくらい,葉は互生し,葉身は奇数羽状複葉で小葉は楕円状で先端は尖り,葉軸は翼を生じます。花は白色で小さく,枝先に円錐状に多数つけ,夏に咲きます。果実は径3mmくらいの扁平な球状となり,秋に黄赤褐色に熟します。しばしば果実の表面には,白色のリンゴ酸カルシウムの結晶が析出することがあり,舐めると塩辛い味がします。また葉に不定形の大きな虫こぶを生じることがあります。これはヌルデシロアブラムシ(Schlechtendalia chinensis)などが葉に産卵し,孵化した幼虫が植物の樹液を吸うことにより生じたものです。
 和名は,植物体を傷つけると生じる乳液を塗料として塗り物に用いたことから名づけられました。また秋に美しく紅葉することから別名をヌルデモミジともいい,最も早く紅葉する植物の一つとして知られています。薬用には葉に生じた虫こぶを用います。生薬名をゴバイシ(五倍子)といい,収斂や止瀉,止血薬とします。その他,インクの製造や黒色染料,皮のなめしなどに用いるタンニン酸の原料とします。採取時期は,虫こぶ内の幼虫が羽化する前がよいとされ,採集後は直ちに熱湯処理し乾燥させます。羽化した成虫が殻から飛び出してしまった後の虫こぶは,品質が低下し生薬や染料の原料としては適していないといわれています。なお本植物はウルシ(R. verniciflua)と同じ仲間になり,稀にかぶれることがあります。かぶれ易い方は特に要注意です。
 近年,草木染が静かなブームとなっています。均質に染まる化学染料と比較すると,草木染は素材となる植物や媒染材,布の種類によって異なる風合いに染まります。同じ色合いに染まることは二つと無いといえるのですが、このような点が逆に趣きのある風合が出るという長所にもなり見直されてきなのだろうと思われます。ゴバイシ(五倍子)も昔から染色の素材として利用されてきました。ゴバイシを直接または明礬などを媒染材として染色すると淡褐色に染まりますが,鉄を媒染材としたときには黒色系に染まります。このような面白い現象は主要成分のタンニンと反応した結果ですが、草木染の色合いは当に化学反応の産物でもあります。(磯田 進・鳥居塚和生)

ニチニチソウ

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ニチニチソウ
Catharanthus roseus L. ( キョウチクトウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 アフリカのマダガスカル原産.世界各地で観賞用に栽培されている一年草ですが,原産地や熱帯地方では多年草となります.葉は対生し,葉身は長楕円形,花は夏から秋にかけて枝先に次々に咲き続けます.園芸的に多くの品種が育成されているため,白色やピンク,赤色,紅紫色など多彩です.また乾燥や排気ガスなどには比較的強いことから,庭や公園だけでなく道路沿いの植え込みなどにもよく植栽されています.どこかで必ず目にしている身近な植物といえましょう.日本への渡来は江戸時代中頃の安永から天明時代(1772-89)といわれています.ニチニチソウという和名は日々,次々と新しい花に咲き代わることから名づけられました.ニチニチカ(日々花)とも言われます.
 近年,この植物に含まれている成分(特に根に多く含まれる)には抗悪性腫瘍作用があることが基礎研究で明らかとなりました.この抗ガン剤は臨床的にも有用性が高いため,よく利用されている医薬品の一つとなっています.しかしながら副作用や毒性なども認められますので,医療用医薬品として医師の診断に基づいて使用するものであり,一般の方が気軽に用いる薬草というわけではありません.なお観賞用の植物では,園芸用として改良が加えられるに従い有効成分の含量が少なくなっています.医薬品の製造にあたっては,有効成分を得るために野生種を栽培することで対応しています.
 ニチニチソウは園芸植物として最も栽培しやすい種類の一つですが,あまり手をかけすぎると失敗することもあります.元来,この植物は強い日差しと厳しい乾燥がある環境を自生地としていますので,発芽温度や生育適温は25℃くらいと他の植物と比べ比較的高いのです.そのため湿り気が強く日当たりの悪いところでの栽培や,水を多く与えたりすることは避けた方がよいでしょう.また高地など涼しい環境ではあまり大きな株に育たないばかりではなく,花つきもよくないようです.花が咲いている期間がより長くなるよう育種されているため,肥料は月に一度くらいリン酸分の多い化成肥料を少量施肥するように心がけるとよいでしょう.窒素分が過多になると花のつきも悪く葉だけが多くなり,花も小さくなってしまいます.何事にも通ずることですが,過保護にも放任にも気をつけたいものです.
 花言葉は「楽しい思い出と揺るぎない献身」です.ニチニチソウは,多彩な美しい花を毎日咲かせて我々の目を楽しませてくれています.また抗ガン剤としての効果は当に私たちに対して献身的な作用といえます.(磯田 進・鳥居塚 和生)

ニガキ

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ニガキ
Picrasma quassioides Bennet. ( ニガキ科 )

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雄花 果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から朝鮮半島,中国,ヒマラヤにかけての地域に分布する小高木で,雌雄異株の夏緑広葉樹です。冬芽は裸芽といい多くの冬芽とは異なって鱗片葉はなく,褐色の短毛で被われ小さな葉を握り拳のような状態で冬を過ごしています。葉は互生し,葉身は羽状複葉です。花は雄花,雌花とも黄緑色で小さく総状に多数つけ,初夏に咲きます。果実は広楕円形で緑黒色に熟します。ニガキの仲間はおもにアジアの温帯から亜熱帯,熱帯に分布していますが,本種はその中でも最も北に分布している種類です。
 和名は,葉や幹,枝などすべてがとても苦いところから,和名もそのままニガキ(苦木)と名づけられました。その苦味の故に,アイヌの人たちも苦い木を意味しているシウニ,秋田ではクスリギ(薬木),鹿児島ではニガッなどと呼んでいるということです。薬用には材(木部)を用い,生薬名もニガキといい苦味健胃薬として用います。苦味が強く樹皮のついていないものが良品とされます。そのため樹皮が剥がれやすい7月頃が適期となります。全株に強い苦味がありますが,老木になると苦味は弱くなるようです。
 最近,食の安全性から残留農薬が大きな社会問題となっています。近代的で衛生的な工場で食品が加工されても,食材の農産物に残留農薬が心配されるならば片手落ちとなります。しかしながら農産物の安定供給を考えると,無農薬栽培にも限界があります。そのためにもより安全性の高い農薬の開発が求められています。かつて日本ではニガキなどを煎じ,家畜や農作物などの殺虫剤として利用していました。化学合成農薬と比較すればその効果は弱いようですが,食の安全を問われている昨今,毒性がほとんどなく環境にもやさしい天然素材の農薬として,無農薬野菜の栽培を手がけている農家の人たちの関心を集めているようです。温故知新として昔の知恵を見直すよい機会でもありますね。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ナンテン

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ナンテン
Nandina domestica THUNB. ( メギ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ナンテンは木本性のように見えますが,これは茎が木質化しているからであって,実は常緑の草本植物なのです。我が国では古くから栽培されていて,自生種か否かは定かではありませんが,東海地方以西から中国大陸にかけて広く分布しています。初夏から夏にかけて白色の花を付け,球形の果実が晩秋から初冬にかけて紅熟します。
 和名は漢名の南天竹あるいは南天燭が「南天」に転訛したものです。果実は消炎薬や鎮咳薬として用いられ,生薬名をナンテンジツ(南天実)といいます。 まれに果実が白いシロミナンテンがあり,珍重されますが,薬としての効果は赤いものと違いはないようです。
 ナンテンは「難転(難を転じて福となす)」の語呂合わせから,縁起ものとして好まれています。お祝い事の席に出される赤飯はアズキやササゲを入れて炊きあげたものですが,昔はこの赤飯の上にナンテンの葉が添えられていたものです。葉は黄色ブドウ球菌など食中毒を引き起こす菌に対して抗菌力があるとされてはいますが,葉を数枚添えただけでその効果を期待するのは無理でしょう。ともあれ,赤飯にナンテンの葉を添えるというのはなかなか風流なものですね。これからも残しておきたい日本の食文化のひとつです。何事も簡略化される昨今,残念なことに,この風習は,せいぜい赤飯の折詰をナンテンが描かれている包装紙で包む形で残っているようです。(磯田 進)

ナツメ

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ナツメ
Zizyphus jujuba MILLER var. inermis REHDER ( クロウメモドキ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国から西アジア原産の落葉高木。万葉集の歌にも詠まれているので,その渡来は奈良時代前とされています。初夏に淡黄色の小さい花を付けます。果実は長楕円形で暗紅色に熟します。葉の基部にある細く鋭い刺は「托葉」が変化したものです。
 和名は,芽立ちが遅く,夏に入って芽が出ることに由来します(夏芽)。薬用には熟した果実が用いられます。生薬名をタイソウ(大棗)といい,風邪薬や健胃消化薬などの漢方処方に配剤されます。
 茶器に「ナツメ(棗)」とよばれるものがあります。ケヤキなどの材木をろくろ鉋で刳り抜き,漆を塗って仕上げた抹茶入れです。形は,甲が少し盛り上がり,底部になるにしたがって細くなって,ナツメの果実の形をしています。「利休棗」ともいわれるそうです。
 おもしろいことに,葉を噛むと甘味を感じなくなります。これは葉に含まれる成分が舌にある甘味センサーをブロックするために生じるもので,ギムネマ・シルベスタにも同様の作用があります。これは植物観察会などでしばしば紹介され,思いのほかに好評です。皆さんも,一度お試し下さい。
(磯田 進)

トチュウ

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トチュウ
Eucommia ulmoides OLIVER ( トチュウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産。雌雄異株。日本へは大正7年(1918年)に渡来した高木性の夏緑広葉樹です。花は小さく淡緑色で花びらはなく,4~5月に咲きます。果実は扁平で翼があり,暗褐色に熟します。樹皮や枝,葉を引き裂くと,銀白色の糸を引きます。植物学的には1科1属1種で,ニレ(エルム)に近い植物といわれ,特異なグループに属しています。また日本や北アメリカ,ヨーロッパから同じ仲間と思われる化石が発見されているところから,生きた化石ともいわれています。
 和名は漢名の杜仲をそのまま用いたものです。その語源は昔,杜仲という人が樹皮の煎じ液を飲んだところ,仙人の悟りを開いたという故事に由来しています。生薬名もトチュウ(杜仲)といい,滋養強壮を目的とした漢方処方に配剤されています。薬用には太い幹の樹皮を用います。また葉の方は健康茶として利用されており,清涼飲料水しての名前の方がなじみ深いと思います。
 トチュウにはゴム質のグッタペルカを含んでいます。このグッタペルカは絶縁材や歯科領域における治療素材として利用されるものです。しかしトチュウは低含有率のため原料植物に適していません。原料植物としては熱帯に生育するアカテツ科のグッタペルカノキを利用しています。
以前,近くの小学生が薬用植物園を見学に来たことがありました。小学生にどのような話をしてよいのか少々とまどったのですが,香りとしてシソ科のハッカ,甘味としてキク科のステビア,苦味ではニガキ科のニガキなどを紹介しました。最後にトチュウを紹介しましたが,糸状に伸びるグッタペルカの性質を利用し,即席のマジシャンになりきって呪文を唱えながら葉を注意深く手で折るように切り,遠くから見ると葉の切れ端が宙に浮いているかのように演技しました。残念ながら本物のマジシャンというわけにはいきませんでしたが,多少なりとも植物の面白さが子供たちに伝わってくれたようです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

トチバニンジン

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トチバニンジン
Panax japonicusC.A.MEYER ( ウコギ科 )

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果実 果実(アップ)
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 全国各地に分布し,やや湿り気のある林床に生育する多年生草本植物です。草丈は50~80cm,根茎は白色で太くて節があり,各節には地上茎の痕跡が認められます。葉は3~5枚輪生し,葉身は掌状複葉で小葉(3~5枚)は倒卵形を呈し先端は尖っています。花は淡緑色で小さく,茎の先端に長い柄を出して散形状につき夏に咲きます。果実は径6mmくらいの球状で秋に紅熟します。稀に上半分が黒色を帯びた果実もあり,ソウシシヨウニンジン(想思子様人参)と呼ばれています。
 和名はヤクヨウニンジンの仲間で,葉がトチノキの葉にとてもよく似ていることから名づけられました。実際にトチノキが生育している環境はやや湿り気があり,根元付近は日陰になりなります。そのためトチノキの芽生えも多く,さらに薄暗いことから見間違ってしまった経験は一度や二度ではありません。生薬名をチクセツニンジン(竹節人参)といい,鎮咳去たん薬や健胃薬とします。その名称は,根茎の形状が竹類の根茎に類似していること由来しています。かつてヤクヨウニンジンの代用品として利用されていた時代もあり,薬理学的にはヤクヨウニンジンと重複するところがあります.しかしチクセツニンジンは異なる成分を含有していたり,鎮咳・去痰作用を有するなどの相違があることから,代用品というよりはむしろ別のものとして扱われます。
 日本に分布するトチバニンジンの仲間は本植物一種(研究者によって若干異なる)だけですが,世界中には人参の基原植物であるヤクヨウニンジンも含め10種近くが確認されています。トチバおよびヤクヨウニンジンの地下部の形状はかなり異なり,区別は容易です。しかし地上部はとてもよく似ているため,日頃見慣れた人でもその区別は難しいようです。因みにトチバニンジンの果実は球状ですが,ヤクヨウニンジンのそれは扁平になっている点で異なります。以前,大学のクラブ活動(薬用植物研究会)で,福島県の合宿に同行した時のことです。学生が果実のないトチバニンジンを見つけました。そこで植物の説明を行った後,標本用にと一株掘り取ったところ,地下部の形状からヤクヨウニンジンであることに気がつきました。どの様な経緯でヤクヨウニンジンが生育したのだろうと大変興味を持ちました。よくよく考えると少し離れてはいるものの,会津人参の産地に近いことに気がつきました。おそらく鳥が運んできたのだろうと推測しましたが,お陰で学生だけではなく,私も貴重でとてもよい経験となりました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ドクダミ

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ドクダミ
Houttuynia cordata THUNB. ( ドクダミ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から中国,ヒマラヤ,東南アジアにかけての広い地域に分布し,やや湿り気のある林床や日陰地に生育している多年生草本植物です。花は6~7月頃に咲きますが,穂状につく花はとても小さく,花びらやガクはありません。これらはまるで一つの花のように見えますが,花びらに見えるものは花序の基部につく葉が変化した総苞です。
 和名のドクダミは毒矯め (どくため) の意味があり,その薬効に由来します。薬用には開花期の地上部を用います。生薬名をジュウヤク (十薬) といい,利尿薬や消炎薬として利用します。十薬という生薬名の由来は,馬がかかる十種の病に効果があるという江戸時代の言い伝えによるようです。
 日本では独特の臭いがあるためにあまり好まれませんが,ベトナムではハーブだけでなく,野菜としても利用され,春巻きなどの具に加えられているそうです。日本人の感覚からすると,まさに驚きですね。アジア各国で広く利用されているコリアンダー(コエンドロ)も特有の香りを持ち,日本の食文化では初めは戸惑いがあったようですが,次第に馴染んできたようです。近い将来,日本でもドクダミがハーブや野菜に仲間入りする日がくるかも知れません。
 また,ドクダミは日本では雑草に近い存在ですが,外国では花壇や庭園を彩る園芸植物として活躍しています。海外旅行の際,訪れた国の植物園をご覧になって下さい。花壇の縁取りとしてきれいに植え込まれているドクダミを目にすることでしょう。(磯田 進)

トウモロコシ

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トウモロコシ
Zea mays LINN. ( イネ科 )

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雌花序
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中央アメリカから南アメリカ北部原産。世界各地で食糧や家畜用飼料,アルコール原料などを目的に栽培されている一年生草本植物です。日本へはポルトガル人によって安土桃山時代の天正7年(1579)に渡来しました。しかし農作物としての本格的な栽培は,明治時代に入ってから北海道で始まりました。原産地は暑い中米や南米北部ですが,栽培には北海道のような冷涼な気候が適しているようです。草丈は1~3m,花は夏から秋に咲き,雄花序は茎の先端に,雌花序は葉の基部につけます。果穂は円柱状で,その先端からヒゲ状の雌しべの先端を出しています。
 和名のトウモロコシは唐モロコシの意味があります。当時は唐(中国大陸)から新しい文化を取り入れ,また多くの産物を輸入していたため,例えポルトガルを経て渡来したとしても,外国より渡来したものに唐と名づけることも珍しくはありませんでした。薬用には,種子のデンプンや胚芽の脂肪油,果穂に生じるヒゲ状の雌しべを用い,それぞれトウモロコシデンプン,トウモロコシ油,ナンバンモウ(南蛮毛)といいます。トウモロコシデンプンはデンプン原料や製剤の賦形剤,トウモロコシ油は製剤の基材や食用油,ナンバンモウは民間で利尿薬として利用します。
 トウモロコシは古くから食用として利用し,イネやコムギとともに世界三大作物の一つに数えられていています。最も一般的な食べ方は完熟した粒を粉にして練った後,薄く延ばしてパンやお煎餅のように焼き,野菜などと一緒に食べる料理です。日本においても渡来当時は,製粉後,餅などに加工し食べていたようですが,現在の日本ではやや未熟なものを茹でたり,焼いたりして食べる嗜好品的な食べ方が主流で,その独特な風味は夏の風物詩ともなっています。
 私(磯田)が住んでいる富士山北麓は高原のため,美味しいトウモロコシの産地として知られています.しかし,大きさやツブの不揃いだけで規格外品とされるトウモロコシが出ることがあります。生産者の中には,このような規格外品を粒だけおろし金で擦り,好みによって裏漉しして皮などを取り除きますが,これに牛乳を加えて塩とコショウで味を調えたコーンスープを食している方がいます。何度かご馳走になったことがありますが,その味は三ツ星印の有名レストランに負けない美味しいコーンスープに仕上がります。当に生産者が考案したエコの逸品といえる味です。 (磯田 進・鳥居塚 和生)

トウゴマ

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トウゴマ
Ricinus communis LINN. ( トウダイグサ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 アフリカから西アジアの乾燥地帯の原産といわれています。熱帯では低木状になり多年生ですが,温帯では1年生草本植物です。葉は掌状に切れ込み,花は秋に咲き雄花と雌花が総状につきます。果実は球形で柔らかい刺があり,種子は扁楕円形で表面は大理石のような模様があります。
 和名は中国(唐)より渡来し,ゴマのように油を採ったことから名づけられたもので「唐胡麻」の意味があります。薬用には種子から得られた脂肪油を用います。この油は僅かな特有の臭いがあり粘性が高く無色から淡黄色を呈しています。薬用名はヒマシ油といい瀉下薬や皮膚緩和剤として外用製剤に利用されます。下剤としての作用は強く,多量の服用で嘔吐や腹痛などの副作用が出現することも知られています。このような薬用のほか工業用の潤滑油や石鹸の原料として利用されています。また香料の合成原料を得る植物としても重要です。
 一方,種子自体にはポリペプチド毒素として知られるタンパク質の一種のリシンが含まれています。そのためトウゴマは有毒植物の一つとしても数えられています。リシンは生物化学兵器として悪用されることがあり,ホワイトハウスや議会宛に届いた郵便物に同封されていたり,ロンドン北部のアパートから押収されたため,テロリストたちが逮捕された事件は記憶に新しいものがあります。ただしリシンは油のしぼりかすに残り,ヒマシ油には溶け出すことはありません。
 このようなトウゴマは一方で,生け花の花材として私たちの生活に潤いをもたらしています。若芽や葉などが赤味を帯びたアカヒマ(ベニヒマ)が花材としてはよく用いられているようです。赤みを帯びていても,植物学的には緑色系と同一種として分類される植物です。大きな葉は水揚げが悪く萎れやすいので,湯揚げしたり,萎れた葉は水で濡らした後に新聞紙で包み込み,張りを持たせてから生けると失敗が少ないようです。(磯田 進・鳥居塚和生)

トウキ

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トウキ
Angelica acutiloba KITAGAWA ( セリ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州の中北部に分布し,各地で薬用を目的に栽培されている多年生草本植物です.多くの薬草園などでも栽培されています.草丈は40~90cm,株全体に特有の香りがあり,傷つけるとその香りは更に強くなります.根茎は太くて短く,根は肥大し多数の側根を生じます.葉は羽状に深く切れ込んで表面は光沢があり,長い柄の基部は茎を抱くように包み込んでいます.各裂片は細長く,葉縁にはきょ歯があり,先端は尖っています.花は白色で小さく,複散形状に多数ついて初夏から夏に咲きます.果実は長楕円形で,熟すと2つに分離します.
 和名のトウキは漢名の当帰をそのまま当てたものですが,中国産の唐当帰Angekica sinensisとは別種になります.薬用には根を用い,生薬名もトウキ(当帰)といいます.冷え性や血液循環の改善や婦人科疾患の治療に用いられることが多い当帰芍薬散をはじめ,多くの漢方処方に配剤されています.またその香りを楽しんだり,保湿効果を目的として入浴剤にも用いられています.
 近年,健康に気を配っている方が多くなってきました.ルームランナーや自転車エルゴメーターなどが設置されているスポーツジムに,通われるなどする方も多いと思います.また医食同源という言葉も一般的に耳にするようになり,健康の基本である日々の食事にこだわりを持たれる方も同様に多いことと思います.
 さて医食同源と密接な関係にあるのが薬膳料理ですが,その中でもサンゲタン(参鶏湯)は人気の薬膳料理の一つといえます.韓国旅行をされた時などに,賞味されたことがあると思います.濃厚なスープと風味,一度口にされた方ならその美味しさの虜になってしまったに違いありません.このサンゲタンは鶏鳥や薬用人参,餅米,大棗(ナツメ),ニンニクなどが入っているのですが,実はここに当帰が入っています.当帰を加えてじっくりと煮込んだ料理なのです.美味しさだけではありません.食後の満足感とともに,何か血液の流れも良くなり元気になってきたような気持ちになるから不思議です.当帰はサンゲタン(参鶏湯)の薬膳としての効能や風味の引き立て役として,なくてはならない素材といえるでしょう.(磯田 進・鳥居塚 和生)

トウガン

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トウガン
Benincasa cerifera SAVI ( ウリ科 )

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雌花 雄花
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果実

 インドから中国南部原産の一年生草本植物です。日本へは古い時代に中国より渡来しました。野菜として10世紀ころから栽培が行われたといわれ,生育が旺盛なことから栽培に比較的労力を必要としないため,全国各地に普及したようです。茎はつる性で太く枝が変化した巻きひげをつけ,株全体に白色の短い毛を多数生じています。葉は心臓形で掌状に5~7つに浅く裂け,基部は心形となっています。花は黄色で葉腋より生じ,雄花と雌花を別々につけて夏に咲きます。果実は長さ30~50cm,球状から楕円状で完熟すると表面に蝋質の白粉を析出してきます。そのため学名の種小名にワックスを意味する ceriferaがつけられました。
 和名は漢名の冬瓜を音読みしたもので,それが転訛してトウガンになりました。反対にそのまま発音したトウガは別名とすることが多いようです。果実は保存性に優れているため,冬季まで利用できることから漢名に「冬」の漢字が用いられました。また果実の表面に見られる蝋質の白粉を霜に例えて名づけられたともいわれています。一方,別名にカモウリということもありますが,これは未熟な果実に生じる白毛をカモの羽毛に見立てたものです。薬用には完熟した種子を用います。生薬名をトウガシ(冬瓜子)といい,大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)などの漢方処方に配剤されています。その他,民間薬として解熱や消炎,鎮咳,緩下などに用いています。
 果実は昔から食材として利用しています.水分が多いですが,淡白な風味に滋味があり,煮物やスープなどの具材として利用することが多いようです。またとても消化がよく,胃の調子が悪い時などは胃に負担があまりないところから,病後の回復に適した食材としても利用されています.似たものとしてウリ科の植物にユウガオがあります.ユウガオは北アフリカが原産で,ヒョウタンと同じ仲間になり,花は白色で夕方より咲きだします。地方によっては,このユウガオをトウガンと呼んでいるところもあり,トウガンと同様な料理に用います。因みにユウガオの果肉を薄くひも状に削ぎ,乾燥させたものがカンピョウとなり栃木県の名産になっています。 (磯田 進・鳥居塚和生)

トウガラシ

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トウガラシ
Capsicum annuum L. ( ナス科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 南アメリカ原産。熱帯地域では多年生低木ですが,気温の低い温帯地域では一年生草本植物です。夏から秋にかけて白い花を付け,果実は紅熟します。トウ ガラシは1493年コロンブスがスペインに持ち帰ったといわれています。日本への渡来については諸説ありますが,1592年秀吉が朝鮮出兵の際に持ち 帰ったとするのが有力です。
 和名は唐の国から渡来した辛い果実の意味ですが,唐は必ずしも中国だけを意味するのではなく,漠然と外国を指すこともあります。ナンバンという別名は,南蛮から伝わった胡椒「南蛮胡椒」の略称です。果実は辛味性健胃薬として用いられ,生薬名をトウガラシまたはバンショウ(蕃椒)といいます。また,皮膚を刺激し,血行を促す作用があり,昔から腰痛や筋肉痛,肩こりなどにも応用されています。
 トウガラシには辛味系と甘味系があります。栄養豊かな野菜として私たちの食卓にのぼるシシトウやピーマンなどは甘味系に属しますが,稀に辛味を感じるものがあります。これは本来トウガラシと同じ植物だからです。ちなみに,辛味系は辛みの強い系統から弱いものまでいろんな種類があります。
 「七味唐辛子」は別名薬研堀ともいわれるように,江戸時代(寛永二年:1625年)に中島徳右衛門が両国の薬研堀(現在の東日本橋)で売り始めたのだそうです。その内容の多くは唐辛子,山椒,胡麻,麻の種子,罌粟の種子,青のり,陳皮などですが,地方によって中身が異なっていてそれぞれに特有の風味を楽しませてくれます。(磯田 進)

テンダイウヤク

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テンダイウヤク
Lindera strychnifoliaVILLAR ( クスノキ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産。雌雄異株。薬用植物園などで栽培する常緑の小高木で,西日本の温暖な地域にも帰化しています。日本へは江戸時代の享保年間(1716-36)に薬用として渡来しました。根の一部は肥大しています。葉は互生し,葉身は3本の葉脈が目立ち,楕円形で先端はやや尖っています。葉裏は白色を帯びています。花は小さく淡黄色で散形状について春に咲き,果実は球状で秋に黒紫色に熟します。全株,特に根は折ると特有の芳香があります。
 薬用には肥大部分の根を用います。生薬名をウヤク(烏薬)といい,消化不良などの改善を目的に芳香性健胃薬とします。ちなみに和名のテンダイは中国浙江省の天台山を意味し,この地方で良質な生薬が産出されたことに由来します。ウヤク(烏薬)とは,生薬に用いる肥大した根をカラスに見立てたことから,あるいは果実がカラスのように黒紫色に熟すことから名づけられたといわれます。
 健康に勝るものは何もありません。古今東西,権力者はその地位を利用し,不老長寿の薬物を捜し求めていました。中国の歴史書の史記によれば,秦の始皇帝(紀元前259-210)は思うがままに中国を統治していました。そのため家臣の一人,徐福に不老長寿の薬草の捜し,持ち帰ることを命じたということです。そこで徐福は三千人の男女を従えて探索の旅に出発しました。たどり着いたところは定かではありませんが,一説によれば日本といわれています。そのため日本各地に徐福の伝説が残されていますが,紀伊半島の熊野地方もその一つです。そこで徐福は不老長寿の薬草(木)を見出しましたが,秦の始皇帝は暴君として皆から恐れられていましたので,中国に帰らず日本に留まり帰国しなかったということです。この発見した薬草がテンダイウヤクであるといわれています。しかし前述しましたように,テンダイウヤクの日本への渡来は享保年間ですので計算が合いませんね.徐福伝説に不老長寿の薬草としてテンダイウヤクが登場したのが江戸時代頃ではないかと考えるのが妥当のようです。それ以上に健胃薬がどの様な経緯で不老長寿の薬物として徐福伝説と結びついたのか,とても興味があるところです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

チンネベリーセンナ
Cassia angustifolia Vahl ( マメ科・クロンキスト分類体系ではジャケツイバラ科 )

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果実
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 アフリカのエジプトやスーダン地方原産。インドなどで薬用として栽培される常緑低木です。日本では,薬用植物園などで展示用として栽培されています,露地栽培の場合は気候の関係で一年生となります。樹高は1mくらい,葉は互生し羽状複葉,小葉は披針形で左右非対称となっています。花は黄色で一般的なマメ科の花とは少し異なり横に開き,総状に頂生または葉の基部から数個から十数個生じます。豆果は楕円状で扁平,先端はやや丸みを帯びています。種子も扁平で心臓形となっています。
 和名はインド南部,チンネベリー地方(ケララ・Kerala州)で栽培され,日本へ輸出していたことから名づけられました。薬用には小葉を用います。生薬名をセンナといい,緩下薬とします。ヨーロッパやアメリカでは葉だけではなく,果実も利用しています。一般的には小葉を直接煎じた煎液,または有効成分を含んだ製剤として服用します。有効成分であるセンノシド (sennoside)は服用後,腸内細菌で分解され,その分解物が大腸を刺激して排便を促します。エジプト医学書である「エーベルス・パピルス」(紀元前1550年頃)には,下剤としてトウゴマやアロエなどとともに記載されています。そして11世紀に入ってからヨーロッパへ伝わったといわれています。
 最近,便秘で悩まれている方が意外に多いようです。その原因として不規則な食生活やストレスなどが指摘されています。本来であれば規則正しい食生活を志向しなければならないのですが,便秘の改善薬に安易に頼ってしまいがちです。センナにおいても同様で,まるでお茶的な感覚で,安易に長期間服用される方も稀に見受けられます。しかし長期間にわたって服用すると効果が減少し,また量を増やすことによって腹痛などの副作用が現れやすくなることが知られています。「小葉」は医薬品として日本薬局方により規定されますが,それには該当しない「葉の軸」などを配合し,ダイエットに効果があるといった医薬品まがいのダイエット茶なども目にするようになってきました。いずれにしても副作用が発症する可能性があります。もう少し自分自身へのリスクマネージメント(危機管理)に関心を持ち,適切な使用を心がけることが肝心です。(磯田 進・鳥居塚 和生)

チョレイマイタケ

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チョレイマイタケ
Polyporus umbellatusFRIES ( サルノコシカケ科 )

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子実体
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ブナやナミズナラ,カエデなどの夏緑広葉樹の根に寄生するキノコの一種で,子実体は初夏から秋にかけて菌核から生じ,淡黄褐色の小さな傘が集まっているように見えます。そのため学名の種小名も傘を意味するumbellatusが用いられています。裏面は白色で,小さな管穴状になっています。菌核は浅い地中に形成し,形状は不規則で表面は黒褐色で著しい凹凸がありますが,生育環境がよければその凹凸は少なくなるということです。また菌核の内部はきれいな白色を呈しています。分類学的には食用にするマイタケと同じマイタケ属に属する説と,チョレイマイタケ属として独立させる説があり,その分類学的な帰属は研究者によって異なっています。
 和名は菌核を生薬のチョレイ(猪苓)として利用し,子実体の形状が食用とするマイタケに類似するところから名づけられました。因みにチョレイ(猪苓)とはイノシシの糞を意味し,菌核の形状に由来しています。またマイタケはその美味しさから,山中で発見すると舞い踊るほど嬉しくなるということから漢字で舞茸と表記します。生薬のチョレイ(猪苓)は単独で用いることはなく,利尿薬とみなされる五苓散や猪苓湯などの漢方処方に配剤されています。
マイタケは天然ではとても珍しく,幻のキノコともいわれています。しかし現在は,ミズナラやコナラの幹を利用した原木栽培やオガクズによる菌床栽培したものが店先に並び,幻のキノコも手軽に味合うことができるようになりました。一方,菌核を生薬として利用するチョレイマイタケも容易に目にすることが難しく,生薬学を専門とする先生方でも直接,生の子実体を目にされた方は少ないということです。中国などから輸入する生薬のチョレイは,菌核だけで子実体は含まれておりません。
 ところが,幸いにも近くの林で子実体を発見する機会に恵まれました。早速,写真を撮り標本を作成しました。また,どの様な味がするのだろうと思いその一部を賞味したところ,歯ごたえが少し硬い点を除けばマイタケに勝るとも劣らない風味があり,貴重な自然の恵みを味わった数少ない経験者の一人と自負しているところです。なお,標本は昭和大学旗の台キャンパスの生薬展示室に展示しておりますので,興味のある方は是非ご覧頂けたらと思います。(磯田 進・鳥居塚和生)

チョウセンゴミシ

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チョウセンゴミシ
Schisandra chinensis BAILLON ( マツブサ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州中北部から北海道,朝鮮半島,中国,ロシアに分布し,林床や林縁などに生育する落葉性の木質つる性植物です.雌雄異株.葉は倒卵形から倒卵円形で無毛,花は芳香があり白色から淡黄白色で下垂し,初夏から夏に咲きます.果実は球形で松ヤニに似た特有の芳香があり,晩秋に紅熟します.
 和名は,江戸時代に生薬の五味子として朝鮮半島から輸入していたことに由来しています.薬用には果実を用います.生薬名はゴミシ(五味子)といい,滋養強壮薬とします.また五味子とは,酸味,苦味,甘味,辛味,鹹味(塩からい)の五つの味がするということで名づけられました.
 植物の名だけで判断すると帰化植物と勘違いされそうですが,前述のように日本を含む東アジアに広く分布していますので,和名は果実を朝鮮半島から生薬として輸入していたことによるものです.実は当初,生薬として果実のみを利用していたため,実際にどのような植物であったかは分かりませんでした.しかし本草学者であり博物学者,発明家であった平賀源内が,幕府のお薬園で生薬から得た種子を播種,栽培しました.おそらくかなりの試行錯誤があったと想像できますが,開花,結実するまで栽培できるようになると,駿河の国に分布,生育している植物と大変よく似ていることに気がついたようです.そこで採取したものと比較栽培を行った結果,両種は同じ植物であることが判明し,その植物をチョウセンゴミシと呼ぶようになりました.その後は,駿河産だけではなく富士山北麓で採取した五味子が幕府へ献上されるようになりました.
 当時の本草学(植物学)には,種の進化という概念はまだありませんでしたが,形態的に比較検討できるレベルにまで達していたことが理解できます.この自然科学的なレベルは,同時代のヨーロッパ本草学に決して引けをとるものではありませんでした.日本国内に分布,生育していたにもかかわらず,外国原産の帰化植物のような和名がつけられたのはこのような理由からです.(磯田 進・鳥居塚 和生)

チョウジノキ

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チョウジノキ
Syzygium aromaticum MERRILL et PERRY ( フトモモ科 )

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つぼみ
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インドネシアのモルッカ諸島原産の常緑の高木です。別名をクローブといいます。香辛料や薬用としてザンジバル,マダカスカル島などのアフリカ東海岸で栽培されています。日本でも薬用植物園や一般の植物園の温室で展示用として植栽されています。葉は卵状長楕円形で対生し,光沢があります。花は枝の先端につき,咲き始めは白色ですが,後に淡紅色を帯び,強い芳香があります。果実は楕円状で黒紫色に熟します。
 和名は生薬の「丁子」をそのまま音読みしたもので,つぼみの形が「釘」によく似ているため,同じ発音をする「丁」という字に当て「丁字」にしたということです。薬用には,紅褐色を帯び始めた開花少し前のつぼみを用います。生薬名もチョウジ(丁子)といい,産前産後の神経症や月経不順の改善に用いる女神散などの漢方処方に配剤されています。また芳香性健胃薬,丁字油原料,肉料理などの香辛料,歯科領域では鎮痛剤として幅広く繁用されています。日本への渡来は定かではありませんが,奈良の東大寺で開催された大仏開眼会(752年)に使用されたとの記録がありますので,この時代には既に渡来していたようです。しかし薬物として用いられたものではなく,香料として儀式に用いられたと推測されています。また正倉院には,当時用いられていた丁字がそのまま保存されて今に至っているということです。
 植物の和名にチョウジという名を冠した植物名がいくつかあります。例えばサクラの仲間のチョウジザクラです。本州中部以西の山地に生育している落葉低木ですが,花はがく筒が長く,垂れ下がって咲く様子が丁字に似ていることから名づけられました。またアカバナ科のチョウジタデは各地の水田や湿地に生育している一年草ですが,こちらも花の丁字に見立て,全体的な雰囲気がタデに見えることから名づけられました。このように身近に見られる植物にその名を冠したことは,丁子は芳香剤や香辛料,医薬品,金属の防腐剤などとして,日々の生活に深く関わっていた証でもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

チャノキ

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チャノキ
Thea sinennsis LINNE (Camellia sinennsis O. Kuntze) ( ツバキ科 )

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芽生え
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 中国の雲南省には樹齢800年以上のチャノキの老木が知られています。原産地は諸説ありますが,この老木があることから原産地は中国雲南省説が最有力です。日本へは臨済宗の開祖である栄西(1141-1215)が,建久2年(1191)に中国から種子を持ち帰ったのが最初といわれています。その後,日本各地で栽培されるようになりました。本来,樹高は3~4mになる常緑の低木ですが,栽培では収穫作業の効率化を考慮し1mくらいに刈り込んでいます。葉は互生し,葉身は広楕円形でやや厚みがあります。花は白色で雄しべの葯は黄色く多数生じ,秋から初冬にかけて咲きます。果実は扁球形で翌年の晩夏から秋に熟し,暗褐色の種子を3個生じます。
 和名は漢名の「茶」を音読みしたもので,嗜好飲料として親しまれています。薬用には同様に葉を用います。生薬名をサイチャ(細茶)といい利尿薬とするほか,カフェインの抽出原料とします。カフェインは風邪薬などに配剤されますが,近年では天然のものと入れ替わり,化学的に合成したものが多くなってきました。一方,チャ葉に含まれるカテキンにガンの予防や,抗ウイルス,消臭などの効果があることが注目され,むしろ健康食品あるいはサニタリー商品といったものへのチャの利用が多くなっています。
 日本ではお茶といえば緑茶を意味していることが多いようです。立春から数えて88日目(5月上旬)は八十八夜といい,その季節になると遅霜の心配もなくなって大変品質のよい若葉が収穫できるということです。そのため茶摘みの最盛期であり,初夏の季語となったり,風物詩ともなっています。一昔前には,茶どころ静岡や鹿児島などでは,かすりの着物に色鮮やかな茜色のたすきで締めた娘さんたちがお茶になる若葉を摘んでいました。唱歌「茶つみ」に「心のどかに摘みつつ歌ふ 摘めよ 摘め摘め摘まねばならぬ 摘まにゃ日本の茶にならぬ」と謡われています。近年は機械化が進み,手摘みが行われているのは,玉露などの高級なチャ葉や斜面で機械を入れることが出来ない特殊な茶畑など,またイベントだけとなってしまいました。実は茶摘みは,のどかな光景とは裏腹に,日が昇る朝から日が沈む夕方まで行われるため過酷で大変手間隙のかかる農作業なのです。多くの方々のお手間に感謝しながら,今日もおいしいお茶を頂戴しましょう。(磯田 進・鳥居塚和生)

チガヤ

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チガヤ
Imperata cylindrical Beauvois ( イネ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 各地の原野や草地に普通に見られ,しばしば群生する多年生草本植物です。根茎は細長く地中を横に這い,白色で所々に節があります。その節からはヒゲ根と芽を出すため,一度畑などに蔓延するとその旺盛な繁殖力から駆除は大変な作業になり,農家の人たちからは嫌われ者となっています。草丈は60cmくらい,葉は線形で先端は尖っています。葉に先立ち晩春に,白い光沢のある毛を密生させた花を穂状につけます。初夏になって果穂の毛が開き,風にたなびく様はよく目立ちとても風情があります。
 和名は群生して生育していることが多いところから,千(チ)の茅を意味しています。茅は屋根に葺くイネ科植物の総称ですが,チガヤは草丈が低いことからあまり利用されず,一般的には草丈の高いススキなどを用います。薬用にはヒゲ根や鱗片葉を取り除いた根茎を用います。生薬名をボウコン(茅根)といい,利尿薬や消炎薬,止血薬とします。
葉から出ていないまだ若い花穂をツバナ(茅花)といいますが,少し甘味があるため万葉集にも野辺の若い花穂を食用にしていた様子が詠まれています。また江戸時代にも子供のおやつに売られていたということです。子供の頃,遊びに興じてお腹が空いてくると,野草の芯芽を抜いてかすかに甘く柔らかい芯をかじった記憶があります。今となってはその植物がどのような種類であったかは定かではありませんが,おそらくチガヤであろうと想像しています。砂糖が貴重品であったころの僅かな甘味を懐かしく思い出されるかたもいるのではないでしょうか。チガヤは分類学的にはサトウキビと比較的近い類縁関係にあるため,多少なりとも葉で合成された糖分を貯蔵する性質があるのかもしれません。
また古来よりチガヤには,厄よけの効果があると信じられてきました。そのため6月の晦日に,チガヤやススキなどで作った輪をくぐり,無病息災を願う「茅輪(ちのわ)くぐり」という風習が各地で受け継がれています。中には高さ4~5mにもなる大きい輪を作る地方もあり,盛夏を迎える6月の風物詩ともなっています。
(磯田 進・鳥居塚和生)

ダイダイ

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ダイダイ
Citrus aurantium L. var. daidai MAKINO ( ミカン科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インドヒマラヤ原産の常緑小高木。中国を経て渡来し,各地で栽培されています。花は初夏に咲き,さわやかな芳香があります。果実は球形で大きく,果皮はやや厚く,果肉には酸味があります。
 和名は,同一株に今年の果実だけでなく前年のも付いているのを「代々」と語呂を合わせたのでしょう。子孫が代々繁栄するようにとの願いを込めた縁起物として,ダイダイはお正月に飾る鏡餅や注連縄(しめなわ)に添えられます。
 薬用には未熟な果実,または成熟した果実の皮(果皮)を用い,それぞれの生薬名はキジツ(枳実)およびトウヒ(橙皮)といい,共に芳香性健胃薬として用いられます。
 ダイダイはヨーロッパでサワーオレンジと呼ばれ,香りのいい花から採取されたネロリ油(橙花油)は香水やオーディコロンの原料として利用されています。サワーオレンジはスペインなどで栽培されていますが,果実の採取より,ネロリ油の採取が目的だそうです。皆さんが愛用している香水やオーディコロン,この中にネロリ油が含まれているかもしれませんね。果実はマーマレードやジュースにして爽やかな酸味とほのかな甘味を堪能できます。
 一方,中国や日本に伝わったものは酸味が強く,また苦味も強いことから生食用には不向きですが,ポン酢として利用しています。ちなみに,ポン酢の語源は,オランダ語の柑橘類の果汁を意味するponsが語源とされています。(磯田 進)

ダイウイキョウ

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ダイウイキョウ
Illicium verum HOOKERfil. ( シキミ科 )

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 ベトナムや中国南部原産。熱帯アジアを中心に香辛料として栽培されている常緑高木です。日本では薬用植物園などの温室で展示用に植栽されています。墓地などに植栽されているシキミと同じ仲間になります。原産地や栽培地などでは樹高は15mくらいになり、葉はシキミに似て革質で光沢があります。花は2~3月と9~10月に咲き、白色から紅色を呈しています。果実は芳香があり、袋果が星状に並んでいます。また熟すと開裂し、中から扁球形で光沢のある茶色の種子を生じます。
 和名のダイウイキョウは大茴香の意味があり、果実の芳香がセリ科のウイキョウ(茴香)に似ている上、ウイキョウと比べて大きいことから名づけられました。またその形状から八角茴香ともいい、中華料理には欠かせない香辛料の一つでもあります。英名をスターアニスといいますが、こちらは果実の形が星形を呈し、その芳香が香辛料として利用されているセリ科のアニスに類似していることによるものです。薬用にはやや未熟な果実を用い、芳香性健胃薬、興奮薬とします。また蒸留して得られる精油は、ダイウイキョウ油といい香料として利用します。
 メキシコから始まった豚インフルエンザは、私たちの予想よりかなり速く人から人への感染が確認されてしまいました。その結果、新型インフルエンザと名を変え、私たちの生活に大きな影響を与えていますが、季節性インフルエンザの治療薬であるタミフルにも新型インフルエンザに対し同様の効果が確認されました。このタミフルはダイウイキョウの果実に含まれているシキミ酸(芳香性の成分ではありません)から合成されていますが、最近はその生産地である中国の出荷価格が暴騰し、タミフルの生産に支障をきたし始めているという報道がありました。そのため専門家だけではなく、その動向には、一般の人たちの関心も集まりました。幸い新型インフルエンザの流行も下火になり、ホット一息といったところです。意味は少し異なりますが、ダイウイキョウは直接的または間接的な意味でも薬食同源の代表的な生薬といえるのではないでしょうか。(磯田 進・鳥居塚 和生)

センブリ

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センブリ
Swertia japonica MAKINO ( リンドウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本各地,朝鮮半島から中国にかけて分布する2年生の草本植物で,日当たりのよいやや乾燥した山野に生育します。花は秋に咲き,花冠は淡紫色の脈がある白色で,深く5つに裂けています。
 和名は千回振り出し(煎じ)ても苦味を感じるところから名づけられたといわれますが,千回まではもたないでしょう。薬用には開花期の全草を用い,生薬名をセンブリまたはトウヤク(当薬)といい,苦味健胃薬および整腸薬として用います。苦味健胃薬としての利用は,西洋医学の影響を受け始めた江戸時代末期以降といわれています。それまでは衣類についたノミやシラミなどの殺虫剤として煎じ液で洗ったり,屏風などの虫食い防止のため糊に混ぜて利用していました。
 「良薬は口に苦し」といいますと,多くの方はセンブリを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし,このことわざは孔子の教えで,「忠言耳に逆う」と続き,特に薬草の効果について説明しているものではありません。これは「病気に効果のある良い薬は,苦くてとても飲みにくいものです。忠言や忠告は聞いて快いものではないが,本人のためになる」という意味で,現代でも通じる人生の良薬といえるでしょう。
(磯田 進)

センキュウ

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センキュウ
Cnidium officinale MAKINO ( セリ科 )

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 中国原産と推定されている多年生草本植物です。暖かい気候での生育はよくありません。ですから夏季にあまり気温が上がらない北海道や東北地方,長野などの冷涼地で栽培されています。全株に特有の香りがあります。根茎は節が重なり合うように塊状に肥大しています。草丈は30~60cm,葉は長い柄をつけ,2~3回羽状に深く切れ込んでいます。花は白色で小さく,花茎の先端に複散形状に多数つき晩夏から秋に咲きますが,果実は結実しません。そのため栽培は根茎を分割して種芋として行っています。
 和名は生薬名をそのまま用いたものです。薬用には根茎を用い,生薬名をセンキュウ(川芎)といいます。生薬名の川芎はその昔,芎藭(きゅうきゅう)と呼ばれていました。中でも四川省産の生薬がもっとも品質がよかったことから,四川芎藭と呼んでいたものが簡略化されて川芎となりました。主に冷え性などの婦人科疾患の改善を目的として用いられ,当帰芍薬散,四物湯などの漢方処方に配剤されています。またその香りから最近は,入浴剤としても利用されています。根茎は乾燥しにくいため,通常は60~80℃のお湯で15~20分間湯通ししてから乾燥させます。因みに熱を加えずに乾燥させた生薬は,保存時に害虫の発生が多くなりますが,加熱することにより根茎内のデンプンが糊化するため虫害の発生を防ぐ効果があります。
 センキュウは昔から重要な漢薬原料の一つですが,日本には自生していません。そのため日本に自生している他の植物をセンキュウの代用としていたようです。例えば同じセリ科のオオバセンキュウやシラネセンキュウなどがそのよい例です。ただし,これらの植物は本来のセンキュウとは地上部や地下部の形態がかなり異なっていますので,形の相似から代用としたものではないことは明らかです。おそらくセンキュウの持つ特有の香りを頼りに,代用品として選ばれたのではと想像しています。その当時は,大陸や朝鮮半島から輸入していた高価な生薬に代わる薬草を探し求めて日本各地を調査した多くの本草学者たちがいたことでしょう。植物観察会などでオオバセンキュウやシラネセンキュウなどを説明する際,私はそのような本草学者たちの話しも一緒に紹介するよう心がけています。(磯田 進・鳥居塚和生)

セリバオウレン

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セリバオウレン
Coptis japonica MAKINO var. dissecta NAKAI ( キンポウゲ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 北海道から本州,四国に分布し,やや湿り気のある針葉樹林の林床に生育する多年生草本植物です。周囲がまだ深い冬の眠りから覚めない早春,小さな花を咲かせます。白く花びら状に見えるのは萼(ガク)で,へら状の花びらは小さく目立ちません。葉は三角状で,いくつもの深い切れ込みがあります。
 和名は,葉をセリの葉に例え,中国の薬草である黄連と同じように薬用として用いたことから名づけられました。またオウレンは,根茎の内部が鮮黄色で,よく発達していることに由来しています。薬用にはひげ根をほとんど取り除いた根茎を用い,生薬名をオウレン(黄連)といい,止瀉薬や苦味健胃薬として用います。
 本来は一つの花ですが,果実が成熟するに従い,種子を包み込んでいる心皮という組織が離れるため,輪生状につき,まるで風車のような形をしています。また個々の心皮は開花中の頃から,一部開きます。これは,熟したために開いたものではなく,初めから塞がっていないのです。種子を完全に包み込んでいないので,裸子植物から被子植物への進化途上に当たると考えられています。このような理由から,オウレンの仲間は生きた化石とも呼ばれ,被子植物の仲間では最も原始的なグループに属します。(磯田 進)

セイヨウカラシナ

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セイヨウカラシナ
Brassica juncea Czern. et Coss. ( アブラナ科 )

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セイヨウアブラナの葉
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 セイヨウカラシナは,中央アジアでクロガラシ(Brassica nigra)とアブラナ(B. rapa)が自然交雑した種と推測されています。二年生草本植物。日本へは中国より弥生時代に渡来したといわれています。各地の荒れ地や河川敷土手などに野生化し,時には河原一面に群生していることがあります。全株特有の辛味があり,草丈は1~1.5 m,葉はダイコンの葉に似て,しばしば不規則な羽状に深く切れ込み,葉の基部は茎を抱いていません。花は黄色で茎の上部に総状につき,春に咲きます。果実は線形,種子は球状で黄褐色を呈しています。類似のセイヨウアブラナやアブラナとは,葉の基部は茎を抱いている点で区別できます。
 和名は辛味のある菜という意味です。刺激性のある辛味成分は酵素によって分解され生成されたものです。和がらしとして利用することがあります。また食材として親しまれている野菜のタカナ(高菜)やヤマガタセイサイ(山形青菜),ザーサイ(搾菜)などもセイヨウカラシナの栽培変種といわれています。因みに本草和名(918)や和名抄(932)などの本草書には,漢名の「芥」に対して「加良之(からし)」と記載されています。薬用には成熟した種子を用い,生薬名を芥子(がいし)といいます。辛味性健胃薬や引赤去痰薬,発泡薬とする他,リウマチや捻挫などの患部に湿布薬とします。しかし皮膚に対して強い刺激性があるため,皮膚が弱い方は赤くはれ上がることがあります。従って素人療法は,あまりお勧めしません。
 「芥子」という漢字は,どちらかといえばアヘンを採取するケシ(Papaver somniferum)をイメージされる方が多いのではと思いますが,本来はセイヨウカラシナの種子を指しています。これは平安時代に渡来してきたケシの種子の形状がよく似ていたことから,室町時代の中ごろに誤って名づけられたようです。因みにセイヨウカラシナとケシの種子は小さいという点では類似していますが,セイヨウカラシナの種子は球状,ケシの種子は腎臓形を呈していますので,よく観察するとかなり異なっていることが分かります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ステビア

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ステビア
Stevia rebaudiana Hemsl ( キク科 )

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果実

 パラグアイ原産の多年草で,マテ茶などの甘味料として利用されていました。その後,甘味料として各国で導入されるようになってきました。全株,特に葉には強い甘味があります。日本へは1970年に甘味資源植物として導入されたのが最初といわれています。草丈は1mくらいなり,全株白色の軟毛が密生しています。葉は対生していますが,上部では互生することもあります。葉身は鋸歯があり楕円状で先端はやや尖り,基部は細くなって茎につきます。花は筒状で白色,枝先に多数つけ秋に咲きます。果実は大変小さく,萼が変化した白色の冠毛を生じています。本植物は自家不和合といって同じ花の雄しべと雌しべの間では結実しにくいという特性があります。そのため親植物の形質と異なる雑種が生じやすく,栽培上,優良品種の系統保存が大変難しい植物でもあります。
 和名は学名(属名)のSteviaをそのまま用いたものです。ステビアの仲間はおよそ100種が知られていますが,甘味が強いことから別名をアマハステビアともいいます。因みにSteviaとは,スペインのバレンシア大学教授で植物学者であり医師であったPedro Jaime Esteve (1500-56)に因んで名づけられました。甘味成分は砂糖の200~300倍の甘味が感じられるといわれていますが,あまり高濃度では甘味より反対に苦味を感じてしまう欠点があります。また甘味成分は開花前が最も含有率が高く,開花すると低下してしまいます。
 この植物を初めて目にしたのは40年以上も前のことです。当時の国立衛生試験所春日部薬用植物栽培試験場(現医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部)では,導入後間もないステビアの試作栽培が行われていました。栽培はまだ試行錯誤を繰り返している段階にあり,栽培技術の確立や品質評価などはこれからといった状態でした。勧められるままに,試作栽培されている株から一枚の葉を頂き恐る恐る口にしました。口に入れ噛んだ途端,とても強い甘味を感じたことを今でも鮮明に思い出します。担当の故・西孝三郎博士は,今後は食品添加物の一つとして多方面で利用されるだろうと説明されていました。説明頂いた通り,その後は甘味料として添加された食品を目にすることが多くなりましたが,当時は現在のように多方面で利用されるようになるとは想像すらできませんでした。(磯田 進・鳥居塚 和生)

スイカズラ

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スイカズラ
Lonicera japonica THUNB. ( スイカズラ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本各地から朝鮮半島,中国にかけての地域に分布する半常緑の木質のつる性植物です。近年はヨーロッパや北アメリカにも帰化し,特に北アメリカでは有害な雑草として問題になっています。全株短毛を生じ,葉は長楕円形で時には羽状に切れ込むこともあります。花は甘い芳香を生じ,葉腋に2個並んでついて初夏から夏に咲きます。始め白色ですがしばしば淡紅色を帯びることもあり,その後は淡黄褐色になります。また開花とともに甘い芳香を生じますが,その芳香は昼間より夜間の方が強いようです。これは夜行性の蛾の仲間によって,受粉が行われるためです。果実は球状で光沢があり,秋から初冬にかけて黒紫色に熟します。
 和名のスイカズラとは「吸蔓」の意味があり,「花の基部から甘い蜜を吸う際の唇と花がとても似ている」説と「ただ単に甘い蜜を吸ったことから」という説など諸説ありますが,どちらにしても甘い蜜に由来しています。生薬名は葉をニンドウ(忍冬),花をキンギンカ(金銀花)といい,ともに民間薬として利尿や解熱,また煎液をうがい液として利用します。
 諸外国との交易や交流が頻繁になるに従い,多くの植物が浸入してきました。その中で日本の風土に合い,定着した種類を帰化植物と呼んでいます。最近はオオキンケイギクやオオハンゴンソウ,アレチウリなどのように,その旺盛な繁殖力から本来の生態系を乱し,農作物に被害を与えるとしています。平成17年10月に「特定外来生物法」という法律が施行され,外来の動植物の防除や駆除の取り組みが始まりました。一般には帰化植物といえば,外国から渡来した植物との見方で捉えられがちです。しかし逆に日本から世界に伝播し,多くの国々に帰化してしまった植物もあるのです。スイカズラもそのような植物の一つです。19世紀初めに園芸植物としてヨーロッパや北米に渡りました。ところが欧米の風土に合ったのでしょうか,住宅街から郊外の牧場や森林地帯へとその生育地域を広げ,ナイアガラの滝の周辺では生態系を乱す帰化植物として,地元の人たちからは,厄介者あつかいをされてしまっているそうです。(磯田 進・鳥居塚和生)

ショウヨウダイオウ
Rheum palmatum LINN. ( タデ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の多年生草本植物です.四川省や青海省などに分布し,標高3,000~4,000mの高原地帯に生育しています.最近は中国だけではなく,日本でも薬用として北海道などで栽培するようになりました.草丈は花茎を含めると1.5~2.0 mに達します.葉は長い柄を持ち,葉身は心臓形をして大変大きく,径は50 cm以上にもなります.花は淡黄緑白色から淡紅色で初夏から夏にかけて咲き,果実には翼があります.根茎は球状で大きく,内部は鮮黄色を呈しています.
 和名のショウヨウダイオウは漢名の掌葉大黄をそのまま用いたもので,手のような形状をした葉を持つダイオウの意味があます.また大黄という名称は,株全体が大きく根茎も時に子供の頭部ほど大きくなり,その内部が鮮黄色を呈していることから名づけられました.薬用には根茎を用います.生薬名をダイオウ(大黄)といい,瀉下薬や高血圧症用薬などとみなされる漢方処方に配剤されている他,便秘改善薬としても用いられています.中国の古い本草書である神農本草経には当時の医薬品365種を収載していますが,ダイオウは作用が激しいことから長期間服用してはならないと記載されています.そのような強く激しい薬効から,「将軍」という異名もあります.
 食の多様性からイチゴや柑橘類などだけではなく,多彩な素材のジャムが店頭に並んでいます.そのひとつにシベリア南部原産といわれているショクヨウダイオウ(食用大黄)のジャム(こちらは葉柄を用います)があり,ルバーブジャムと呼ばれています.ヨーロッパでは古くから酸味が好まれ利用されています.薬用ダイオウと比べ比較的標高の低い地域でも栽培できることから,日本でも食品の素材として栽培されています.最近は山梨県や長野県などの観光地だけではなく,都会のスーパーなどでも生の葉柄を目にすることが多くなりました.レシピは葉柄を適当な大きさに切り,砂糖を加えて暫くおいてから弱火で煮込むだけで完成です.食用ダイオウは薬用としては用いられませんが,しかし時として,あたかも薬用ダイオウの効能があるかのように謳っていることがあり,消費者に誤解を与えることが懸念されます.食用ダイオウは,あくまでもその爽やかな酸味と風味が身上です.
 生薬のダイオウは医薬品として極めて重要なものですが,一方では,その仲間の植物は食品として私たちの食生活にかけがえのない潤いを与えてくれています.
(磯田 進・鳥居塚 和生)

ショウガ

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ショウガ
Zingiber officinale Roscoe ( ショウガ科 )

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栽培

 インド原産と推測されている多年草ですが,古い時代から栽培されているため,現在のところ野生種は発見,確認されていません。日本への渡来時期は定かではありませんが,平安時代中期に編纂された延喜式(905-27)には食品として栽培されていたことが記載されています。草丈は50~60cm,葉は30cmくらいの披針形です。根茎は不定形に肥大し,特有の芳香と辛味があります。花は黄緑色に小豆色の模様を生じ,花茎の上部に穂状について夏から秋に咲きますが,日本では,温暖な高知県や植物園の温室などで稀に見ることができます。しかし果実を生じることはありません。そのため栽培は,根茎(種芋)を分割させて用います。因みにショウガとミョウガは同じ仲間になり,花の色は異なりますが,形状は大変よく似ています。
 和名は漢名の生薑または生姜を音読みしたものです。また別名としてハジカミとも呼ぶことがありますが,これはクレノハジカミが訛ったものです。本来はミカン科のサンショウ(山椒)を指します。ショウガは薬用として根茎を用います.根茎の表面のコルク層を取り除き,そのまま乾燥させた生薬をショウキョウ(生姜),湯通しまたは蒸してから乾燥させた生薬をカンキョウ(乾姜)といって加工方法により区別しています。ともに風邪や芳香性健胃,芳香性健胃,鎮吐の改善を目的として,葛根湯や半夏瀉心湯などの漢方処方に配剤されていますが,ショウキョウは吐き気を止める作用が強く,カンキョウは身体を温める作用が強いといわれています.
 ショウガを加えた料理や食品を食べた後,汗を生じたり,体が温かくなったという経験をされたことがあるかと思います。これはショウガに含まれる成分に,発汗を促したり,血液の流れを促進させる作用があるためです。ショウガのこのような効能を期待して,風邪の初期に用いられる葛根湯に配剤されていると考えられています.日本には昔から,「風邪かなと感じたら,刻んだショウガやすりおろしたショウガ汁に砂糖や蜂蜜などと一緒に熱湯を加え,温かいうちに飲む」という民間療法があります。この民間療法はショウガの持っている作用を上手に応用したものです。民間療法というとその効果に半信半疑の方もおられるようですが,漢方薬でのショウガの用いられ方を踏まえた民間療法の一つといえましょう。因みに葛根湯には7つの生薬が配剤されていますが,そのうちの5つ(ショウガ,クズ,シナモン,ナツメ,カンゾウ)は食品です。言い換えれば葛根湯は薬食同源のお薬とも言えます。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ジャノヒゲ

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ジャノヒゲ
Ophiopogon japonicus KER-GAWLER ( ユリ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本,朝鮮半島,中国に分布し,林床などに生育する常緑の多年生草本植物で,しばしば一般の家庭園でも見受けられます。夏に白色から淡紫色の花をやや下向きに付け,種子は球形で晩秋から初冬にかけて濃青色に熟します。
 和名は細長い葉を蛇の髭に例えたものとされています。蛇には髭がありませんが,蛇と想像上の動物である龍(ドラゴン)はしばしば混同されていたようなので,本当は由来は「龍の髭」と考えるのが正しいのではないでしょうか。濃青色に輝く丸い種子をじっと見ていると,まるで龍の目のよう思えてきませんか。
 薬用には根が紡錘状に肥大した部分を用います。生薬名はバクモンドウ(麦門冬)といって,鎮咳去たん薬として用います。これを用いる代表的な漢方薬は,何といっても麦門冬湯でしょう。
 近頃の子供たちは,外で遊んだり,遊び道具を自分たちで作ることはせず,もっぱらテレビゲームをはじめとする市販の玩具を使った室内遊びが主流になっているようです。しかし,子供たちが遊びの天才といわれていた昔は,親から玩具を買ってもらえる子供は僅かでしたので,身近にある素材を何でも遊びの道具にしたものです。そのような時代,ジャノヒゲの種子は玩具の素材の一つでした。濃青色の種皮を取り除くと,半透明の白く丸い胚乳が顔を出します。この胚乳はよく弾むことから,力任せに硬いコンクリート面に叩きつけ,どのくらいの高さまでバウンドするかを競い合っていました。豊かになったせいか,何でも遊びの道具にしてしまう発想が妙に懐かしく感じられてしまう昨今です。(磯田 進)

シャクヤク

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シャクヤク
Paeonia lactiflora PALLAS ( ボタン科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国東北部や朝鮮半島などに分布する多年生草本植物で,平安時代頃に渡来しました。花は初夏に,同じ仲間のボタンよりやや遅れて咲き始めます。和名は漢名の芍薬を音読みしたものです。薬用には根を用い,生薬名もシャクヤク(芍薬)といいます。漢方では,鎮痙,鎮痛,緩和,収斂を目標に用います。
 「立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花」といわれるように,シャクヤクもボタンも大型の美しい花を咲かせることから観賞用に多くの園芸種が作られています。シャクヤクとボタンは雰囲気が似ているので混同されがちですが,シャクヤクは草本で,ボタンは木本です。ボタンは植え替えせずとも花付きが悪くなることはありませんが,シャクヤクは数年に一度は植え替えしないと株が衰退し,花付きが悪くなります。植え替え時期は9~10月です。
 我が国には,野生種としてヤマシャクヤクとベニバナヤマシャクヤクの2種があります。明るい夏緑広葉樹林の林床に可憐な白い花を付けるヤマシャクヤクは,シャクヤクのような派手さこそありませんが,その清楚さは絶品です。ヤマシャクヤクの白い花が終わって1ヶ月ほど経つと,ベニバナヤマシャクヤクの赤い花が咲き出します。彦星と織り姫は天の川を挟んで一年に一度逢うことができますが,日本の自然の中では紅白の花同士が出会うことは永久にないようです。(磯田 進)

シナレンギョウ

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シナレンギョウ
Forsythia viridissima LINDLEY ( モクセイ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の落葉低木。春,その息吹と明るさを象徴するかのように,茎は上方に勢いよく伸び,枝一杯に花をつけます。刈り込みに強いところから,庭木や公園の植え込みとして植栽されています。果実は三角状で,種子には翼があります。枝を下向きに垂れる同じ仲間のレンギョウは,近頃ではあまり栽培されなくなりました。ともに中国原産ですが,レンギョウの渡来が江戸の初期だったのに対し,シナレンギョウは大正の末期です。在来種は中国地方に分布するヤマトレンギョウと小豆島のみに生育しているショウドシマレンギョウの2種ですが,共に絶滅危惧種に指定されています。
 和名は漢名の連翹を音読みしたものです。しかし,中国の古い本草書には「湿り気のあるところに生育している草本植物」との記載があることから,連翹はオトギリソウ科のオトギリソウやトモエソウの仲間を指すという説もあります。薬用には果実を用います。生薬名もレンギョウ(連翹)といい,消炎排膿薬として利用します。
 十和田湖畔に立つブロンズ像「乙女の像」や詩集「智恵子抄」などの代表作を残し,彫刻家としても詩人としても有名な高村光太郎(1883-1956)は,大のレンギョウ好きだったそうです。春は,アトリエ前の庭の黄色いレンギョウの花を観賞して創作活動の気分転換をしていたそうです。病のため永久の旅立ちをした昭和31年4月2日,棺には黄色い花をつけたレンギョウの小枝が添えられていました。彼の命日が連翹忌といわれるのはそのためだそうです。(磯田 進)

シナマオウ

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シナマオウ
Ephedra sinica STAPF ( マオウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の草本状の小低木。雌雄異株。イチョウやマツなどと同じ裸子植物に分類されます.茎の形状は庭で栽培されているトクサ(木賊)によく似ています。乾燥地帯に生育しているため,葉は小さく膜質鞘状に変化しています。花は5月頃に咲き,雄花は小さな穂状につけ,雌花は単生しています。偽果は肉質で夏に紅熟します。
 和名は中国に分布,生育するマオウということでシナマオウと名づけられました。薬用には緑色を帯びた地上茎を用います。生薬名をマオウ(麻黄)といい漢方処方では,鎮咳薬,去痰薬として知られる葛根湯や麻黄湯などに配剤されています。含有成分はエフェドリンというアルカロイドですが,これは現代医学でも喘息治療薬,鎮咳薬,気管支拡張薬として繁用される重要な医薬品です。エフェドリンはお茶やコーヒーなどに含まれているカフェインと一緒に摂取すると,頭痛やめまい,不整脈,心臓発作などの症状を発現するという報告があります。一般的に馴染みのある葛根湯などでも,不適切な使い方をすると思わぬ副作用が発現する可能性もあるので注意が必要です。
 マオウはおもに乾燥した地域に分布しています.そのため葉を小さな鱗片に変化させ,葉からの水分の蒸散を抑制しています。そして茎は葉に代わって光合成を行うようになりました。マオウと同じように葉の代わりに他の器官が光合成を行っている植物は意外に多くあります。砂漠に生育しているサボテンなどは,葉を退化または刺状に変化させ茎が光合成を行っている例として良く知られています。ラン科のクモランは根が蜘蛛の足のように四方に伸びていることから名づけられていますが,この植物は水分や養分の供給が不安定な樹木の幹に着生しているため,しばしば葉をつけず根が光合成の機能をも担うことがあります。このようにマオウは乾燥した地域で生育するのに適応した植物だということがご理解できると思います.
 マオウは重要な生薬ですが,一方では,乾燥地帯に生育することから無計画な採集による緑地の減少と砂漠化も深刻な問題になりつつあります.そのため中国政府は内陸部の砂漠化を防ぐために,マオウなどの輸出にも規制措置をとるようになって来ました.環境保全をはかりながら天然資源の有効利用を図るための工夫が緊急の課題になっています.(磯田 進・鳥居塚 和生)

シナニッケイ

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シナニッケイ
Cinnamomum cassia J.Presl ( クスノキ科 )

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シナニッケイ(実) セイロンニッケイ(花)
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ニッケイ(花)

 別名をカシアといいます。中国原産の常緑高木。中国南部やベトナム北部などで栽培されています。日本では薬用植物園などの温室で展示用に植栽されています。全株に特有の香りがあり,特に樹皮は強い芳香があります。樹皮は灰褐色,緑色を呈する若い枝は四陵があります。葉は互生し,葉身は光沢があり広披針形で有柄,基部より生じる3本の葉脈が目立ちます。花は小さく黄緑色で径1cmくらい,枝先に円錐状に多数つけ5~7月に咲きます。果実は楕円形で肉厚,翌年の2~3月に黒紫色に熟します。
 和名は中国に産する肉桂という意味があります。肉桂は享保年間(1716-35)に中国より渡来したC. sieboldii (ニッケイ)のことを指します。しかし本来であれば,"肉桂"の名称はカシア(C. cassia)に付けられるべきものでありました。C. sieboldii が渡来した当時に,誤って肉桂と名づけられ,それが定着してしまったのです。カシアという名称は,英語名のCassiaをそのまま読んだものです。
 薬用には幹の太い部分から採取した樹皮を用います。生薬名をケイヒ(桂皮)といい,発汗・解熱,鎮静・鎮痙を目的とした葛根湯などに配剤されています。若く細い枝はケイシ(桂枝)といい,ケイヒより穏やかな薬効があるといわれています。また葉を水蒸気蒸留した精油は,カシア油(桂枝油)として芳香性健胃薬やお菓子などの香料に用います。
 クスノキ科植物は精油を含んでいることが多く,中でもシナニッケイの仲間はその香りから薬用や香料として珍重されてきました。近縁のセイロンニッケイ(C.zeylanicum)や中国南部や台湾原産で辛味の強いニッケイ,別名ニッキ(C. sieboldii)は薬用としては品質が劣るため日本薬局方には収載されていません。しかしセイロンニッケイは,シナニッケイと比較しやや甘味があるため,シナモンという名称で,お菓子など食品の香りづけに用いることが多いようです。一方ニッケイは,樹皮の香りは弱くあまり利用価値はありませんが,根の皮はやや香りがあり,また辛味が強く,京都名物の「八つ橋」などの風味づけとして利用されてきました。これは比較的耐寒性があるため,入手しやすかったことによるのでしょう。最近では市場に出回る量が極端に少なくなり,入手が困難になりつつあるようです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

シソ

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シソ
Perilla frutescens BRITTON var. acuta KUDO ( シソ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の1年草。種子が縄文時代の遺跡から出土していますので,かなり古い時代に渡来し,栽培されていたようです。株全体に芳香があり,夏季に白色から淡紫色の花を付けます。
 和名は漢名「紫蘇」の音読みです。薬用には紫色系統の赤ジソの葉や種子を用います。それぞれの生薬名をシソヨウ (紫蘇葉) とシソシ (紫蘇子) といい,いずれも発汗,解熱,鎮咳に用いられます。日本では用いられるのはもっぱら紫蘇葉です。緑色系統の青ジソ (いわゆる大葉) は薬用とされません。
 梅干しは日本の代表的な保存食品の一つです。その梅干しに特有の風味と色合いを与えてくれるのは,赤ジソです。面白いことに,ウメもシソも原産地は日本ではなく中国ですが,梅干しは日本固有の伝統的な加工食品として親しまれています。
 赤ジソの赤紫色はアントシアン系色素の色です。赤ジソは,ジュースにするときれいな色合いに仕上がり,しかもほんのり美味しいことから,最近人気があるようです。作り方は簡単です。赤ジソ200グラムを,小さじ2~3杯のクエン酸を溶かした1リットルの水と弱火で10~20分くらい煮ます。葉を取り除いた煮汁に砂糖300~500グラムを加えると出来上がりです。ジュースは通常5~6倍に薄めて飲みます。また,そのままをゼリーとして,あるいはヨーグルトと混ぜて楽しむことができます。(磯田 進)

シクンシ

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シクンシ
Quisqualis indica L. ( シクンシ科 )

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果実
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果実

 中国南部や東南アジアなどに分布し,薬用や観賞用に栽培されている常緑のつる性木本植物です。生育初期には低木状ですが,その後,他物に絡みつきながら10mくらい伸長します。日本ではあまり馴染みのない植物ですが,植物園などの温室に植栽して熱帯の雰囲気を演出しています。また南西諸島の石垣島や西表島では露地で観賞用に栽培されていますが,その一部は逸脱して野生化しているということです。葉は有毛で短い柄を生じ,一般的には対生していますが時には互生することもあります。葉身は薄く,長楕円形で先端は尖っています。葉柄には節があり,落葉する際にその基部が分離して,刺状の突起となって残ります。花は穂状に多数生じて甘い芳香があり,特に日中より夕方に香りが強くなります。そしてほぼ年間を通して咲き続けますが,日本では初夏から夏に咲きます。花色は初め白色ですが,後に淡紅色から濃紅色に変化します。果実は紡錘形で縦に五つの稜があり,暗褐色の木質状に熟します。そして内部に1個の種子を生じます。しかし日本の温室ではきれいな花が沢山咲く割に,ほとんど果実をつけることはありません。
 薬用には果実を用い,生薬名はシクンシ(使君子)といいます。この生薬名に由来して植物の和名もシクンシといいます。生薬は回虫や蟯虫などの駆虫薬,整腸薬,健胃薬とします。衛生環境が悪い時代には寄生虫の駆除は特に重要でした。そのため,駆虫作用をもつ薬は,「天子から授かったほどの貴重な薬」と捉えて名づけられたといわれています。しかし衛生環境の整った現在の日本では,幸いにも薬効の一つである駆虫薬としての役割は過去のものとなってしまいました。
 過日,千葉大学薬学部の薬用植物園が整備のために一部閉鎖を余儀なくされるとのことで,必要な植物を分譲するという話があり,早速いくつかの大学の薬学部や国立研究所の先生方とご一緒に植物をいただきに伺いました。久しぶりの訪問でしたが,その歴史を物語っているように,周囲の薬木や貴重な薬草が茂り,整備された園内は昔と何一つも変わっていませんでした。温室を覗くと一株のシクンシに目が留まりました。日本では例え温室であっても,果実が実ることは非常に稀なことです。今まで一度も目にしたことはありませんでした。ところが,この温室で育てられたシクンシには,なんと多くの果実がついていたことでしょう。その初めて見る光景に驚きを禁じえませんでした。シクンシが歴史ある薬用植物園の一部閉鎖という現実を悲しみ,そしてその存在感をアピールするために最後の力を振り絞って果実をつけたのではないかと,感傷的な思いがふと私にこみ上げてきました。(磯田 進・鳥居塚 和生) 

ジギタリス

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ジギタリス
Digitalis purpurea LINN. ( ゴマノハグサ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヨーロッパ原産。花がとてもきれいなことから,観賞用として各地の植物園や公園などに広く栽培されている多年生草本です。江戸時代末期にオランダから渡来しました。初夏から夏に咲く花は,広い釣鐘状で外面が紫紅色を帯び,内面には白く縁取られた色の濃い斑点がみられます。園芸品はキバナジギタリスなどと交配され,花の色は白色から濃紅色まで様々です。
 学名の Digitalis にはラテン語で「指のような」という意味があり,この読みがそのまま和名となっています。イギリスでは花をキツネの手袋に例えて「フォックスグローブ」と呼ばれています。
 ジギタリスは毒草ですが,イギリス西部のシュロップシャー地方では,古くからこれを水腫の治療に用いていました。医師ウイリアム・ウィザリング(1741-99)はこのことに注目して研究を重ね,ジギタリスが当時不治とされていた水腫を改善することを突き止めました。その後,さらに研究が進められ,ジギタリスの毒の本体(ジギトキシンなどの強心配糖体) は極微量で心臓疾患に有効であることが明らかにされたのです。葉やこれから抽出単離された強心配糖体は強心剤として現在でも重要な医薬品です。
 ただし,ジギタリスは毒性が強く,その芽生えをコンフリーと誤食して重篤な中毒を引き起こすなど,素人には極めて危険な薬草です。(磯田 進)

サンショウ

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サンショウ
Zanthoxylum piperitum DC. ( ミカン科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から朝鮮半島,中国に分布している低木性で,雌雄異株の夏緑広葉樹です。葉は羽状複葉で,葉の基部には対生する刺を生じます。花は雌花,雄花ともに緑黄色で小さく,春に咲きます。果実は球形で秋に紅熟し,後に開裂して中から黒色の丸い種子を出します。枝に生じる刺は収穫時に苦労することから,現在は刺のないアサクラザンショウを栽培しています。このアサクラザンショウは江戸時代に兵庫県北部の朝倉山で発見されたものですが,残念ながら実った種子を播いても再び刺を生じます。そのため一般的には,有刺種を台木にした接ぎ木苗を栽培しています。
 薬用には成熟した果皮を用い,できるだけ果皮から丸い種子を取り除いたものを利用します。生薬名もサンショウ(山椒)といい,辛味性芳香性健胃薬とします。また料理などの香辛料としても用います。
 山椒の古名は「はじかみ」といい,古事記にも登場するほど古くから薬用や香辛料として利用されていました。香ばしい鰻の蒲焼きは,食べる前からよだれが出てきますが,山椒の香りと辛味は鰻の生臭さを消すことから,粉末にして振りかけます。しかし室町時代の「大草家料理書」には,「(鰻の蒲焼きに)山椒味噌を付けて出してもよい」という記載があり,現在のように粉山椒を振りかける習慣は江戸時代に入ってからのようです。 また山椒の果実は小粒ですが,とても辛味が強いことから,「山椒は小粒でもピリリと辛い」ということわざが生まれました。これは身体が小柄であったり,身分が低くとも優れた才能を持っていることもあり,侮ってはいけないとの戒めの意味があります。(磯田 進)

サンシュユ

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サンシュユ
Cornus officinalis SIEB. et ZUCC. ( ミズキ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国,朝鮮半島原産の落葉高木。早春,花の少ない庭や公園を彩る花木として栽培されています。花は黄色で小さく,葉が出る前に咲きます。果実は長楕円形でやや酸味があります。我が国で初めて植栽されたのは,享保年間(1716~35年),小石川の御薬園とされています。以来,花や実の風情から観賞用として日本庭園などでもよく見受けられます。
 和名は漢名の山茱萸を音読みしたものです。早春に咲く花を黄金に見立ててハルコガネバナ(春黄金花),また秋に紅熟する果実を珊瑚に見立ててアキサンゴ(秋珊瑚)などの別名もあります。薬用には果肉を用い,生薬名もサンシュユ(山茱萸)で強壮を目的とした漢方処方に配剤されます。
 早春に咲く野花や花木は,厳しい冬を耐え,春を待ち望んでいたかのように咲き出します。花の色からみると,白色系のウメやコブシ,紅色系の紅梅やツバキ,ホトケノザ,ヒメオドリコソウ,青色系のタチツボスミレやオオイヌノフグリ,黄色系のマンサクやレンギョウ,タンポポなどと多彩です。が,黄色系はインパクトが強いのでしょう,黄色い花のサンシュユは中国原産であるにも関わらず,日本の春を代表する花木の一つになっています。また日本の伝統文化である茶道においても茶花としても人気があります。ちなみに,その花言葉は「耐久・持続」。希望に溢れる春,冬を耐え忍んだ黄色い花は花言葉に相応しく見えてきます。(磯田 進)

サラシナショウマ

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サラシナショウマ
Cimicifuga simplex WORMSKJORD ( キンポウゲ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 林床や林縁などに生育し,草丈は150cmくらいになる大型の多年生草本植物です。葉は大きく,2~3回羽状に切れ込んでいます。花は白色で小さく,甘い香りがあり秋に咲きます。花は総状に密につけるため,30cmくらいの花穂になりとても目立ちます。花弁のように見えるのは萼片で,本来の花弁は細く目立ちません。果実は袋状になり,種子は小さく鱗片を生じています。
 和名は芽生えの柔らかい葉を煮て水に晒して食べたところから名づけられたもので,晒菜升麻の意味があります。同様の意味で別名をヤサイ升麻ともいいます。升麻の語源は,葉が麻に似て薬性(薬としての性質)が上昇(上升)するものであるためといわれますが,よく判らないようです。生薬名はショウマといい,根茎を用います。消炎鎮痛,発汗解表,痔疾の治療などを目的とした漢方処方に配剤されています。
 さて,ショウマと名がつく植物は意外に多いものです。例えば同じキンポウゲ科のルイヨウショウマは,葉がとてもよく似ているところから漢字で類葉升麻と表記します。花は初夏に咲き,花穂も10cmくらいと小ぶりなため清楚さがあります。果実は球形で黒紫色に熟します。また,レンゲショウマ(蓮華升麻)は葉が羽状に深く切れ込み,花がハスによく似ていることから名づけられました。日本の固有属としてもよく知られています。花は大きく淡紫色で夏に下向きに咲き,袋状の果実が倍以上の大きさになります。ハスの花に勝るとも劣らないほどの幽玄さが感じられ,ブナ林など薄暗い林床,特に霧の漂う中で咲く姿は,目にするとつい足を止めてしまうほどの美しさです。
 このほかユキノシタ科やバラ科などの植物にもショウマの名がつけられているものがあります。そのいずれもが葉身が羽状に深く切れ込んでいるという共通点があり,花よりも葉の特徴に由来する命名のようです。(磯田 進・鳥居塚和生)

サフラン

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サフラン
Crocus sativus L. ( アヤメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 南ヨーロッパから小アジアにかけて分布し,観賞用や薬用として各地で栽培されている多年生草本植物です。日本へは江戸時代に渡来しました。10月から11月頃に淡紫色をしたロート状の花が咲きます。
 和名は英語またはオランダ語に由来します。またサフランはアラビア語で黄色を意味し,王室では代々,サフランで染め上げた衣服をまとっていたということです。薬用にはこの花の柱頭(紅色部分)を用います。生薬名はサフランまたはバンコウカ(蕃紅花)といい,婦人薬として用いるほか,パエリアやブイヤベースなどの食用色素として利用します。しかし,サフランは古くなると含有成分の分解が進んで苦味が強くなるので,なるべく新鮮なうちに利用した方がよいでしょう。
 サフランは100~120個の花から僅か1 gしか収穫できないので,昔,ヨーロッパでは金と同じように高額で取り引きされていたようです。現在でもかなり高級な食材の一つですが,心配するには当たりません。料理にはごく少量で十分です。今夜は少し洒落て,ブイヤベースなどはいかがでしょうか。体だけではなく,家族全員の心までも温かくなること受けあいです。
同じ仲間に,春に咲くクロッカスがあります。こちらの雌しべは,先端が赤くならず薬用には用いませんが,早春の花壇を彩る園芸植物として栽培されています。近年,花色も多彩になり,春の柔らかい日差しに映え,見る人の心を和ましてくれます。(磯田 進)

サネブトナツメ

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サネブトナツメ
Zizyphus jujuba Miller var. spinosa Hu ex H.F.Chou ( クロウメモドキ科 )

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果実
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ナツメの果実

 中国原産の樹高が10mくらいになる落葉高木で、やや乾燥した丘陵地などに生育しています。枝には,葉の基部に生じる托葉が変化した細く鋭い刺があります。葉は互生し,葉身は卵形から卵状楕円形で基部は非対称となり,3本の目立つ葉脈があります。また基部は多くの植物と異なり,左右非対称です。花は淡黄色で集散状につき,初夏に咲きます。果実はナツメ(Zizyphus jujuba Miller var. inermis Rehder)と比較し,小さくてやや球状となり,秋に赤褐色に熟します。種子は果実の大きさの割に大きく,扁平で楕円状を呈しています。
 和名は果実の果肉が薄く,そのため相対的に種子(核:サネ)の割合が大きく太いことから名づけられました。因みにナツメとは芽生えが大変遅く,初夏になって芽生えることから夏芽の意味があります。薬用には種子を用います。生薬名をサンソウニン(酸棗仁)といい,虚弱体質の改善を目的とした酸棗仁湯や温胆湯,帰脾湯などの漢方処方に配剤されています。生薬名のサンソウニン(酸棗仁)は、果実は酸味があるところから酸味のあるナツメ(棗)という意味で名づけられましたが、じつは薬用に用いる種子には酸味がありません。
 近縁のナツメ(2002年11月を参照)と比べ,果実は小さく,果肉は薄い上に酸味があるため果物としてはあまり利用されません。ところでナツメの学名を見ると、変種名に"inermis "とあります。この"inermis "は「刺のない」という意味ですので、ナツメには刺がないと思われている方も多いようです。しかし実際には鋭い刺を生じていますので,学名を命名した際の標本は無刺種であったようです。一方,サネブトナツメは、「刺の多い」という意味の"spinosa"と名付けられています。ナツメと比較して刺が多いからです。日本では棘(いばら)といえば一般的にノイバラを思い浮かべますが,中国においては、棘(いばら)はナツメやサネブトナツメの刺を指しているということです。確かに両種とも,根から生じる芽が新しい株になると,小さな株でも鋭い刺を多数生じているため,付近を歩く際には難儀したのではないでしょうか。(磯田 進・鳥居塚 和生)

サジオモダカ

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サジオモダカ
Alisma orientaleJUZEPCZUK ( オモダカ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 東アジア北部に分布し,湖沼などの湿地に生育する多年生草本植物です。薬用を目的に長野県や北海道などで栽培していることもありますが,生産量は少なく,ほとんどは中国や韓国などから輸入しています。地下茎は塊茎状に肥大し,細根を多数生じています。草丈は50~100cm,葉は根元から叢生し,葉身は一般的には卵状長楕円形で先端は尖り,基部はやや心形で長い柄を生じますが,葉身の形状は変化に富んでいます。花は小さく白色の花びらが3枚あり,葉の基部から生じる花茎に輪生状の総状に多数つき,夏から初秋に咲きます。
 和名は葉の形状が匙(スプーン)に似ているオモダカの意味があります。オモダカとは,葉の形が人間の顔に見えることから「面高」に由来しています。但しオモダカは別属の植物で,オモダカを改良した栽培品種には,お煮しめなどの具材とするクワイがあります。さてサジオモダカですが,葉身は突き出るように葉柄につき,薬用には塊茎の細根や表面のコルク層を取り除いて利用します。生薬名をタクシャ(沢瀉)といい,利尿や口渇,尿路疾患の改善を目的として胃苓散や五苓散などの漢方処方に配剤されています。沢瀉のいわれについて中国の李時珍(1518-1593)によれば「水が去るを瀉(ソソ)ぐといい,沢の水を瀉ぐが如し」と述べているように,利尿などの薬能に由来しています。
 オモダカを広辞苑や大辞林などの国語辞典で調べますと,漢字表記を「沢瀉」としています。オモダカの花や葉を図案化した家紋や紋所でも,沢瀉や長門沢瀉,抱き沢瀉,沢瀉巴など,「沢瀉」の字が用いられています。しかしながら本来「沢瀉」はサジオモダカに当てられるべきもので,オモダカの漢名は「野茨菰」と書くものです。そのため混乱に拍車が加わり「沢瀉」説が一般的となってしまいました。牧野富太郎先生は,図鑑などでその誤りを指摘していますが,国語辞典では未だに修正されないまま今日に至っています。これは誤った内容であっても,長期間言い続けたり,活字として残る事により,時には真実に擬態してしまう恐ろしさを秘めています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ザクロ

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ザクロ
Punica granatum LINNE. ( ザクロ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 原産地は中近東の乾燥地帯で,各地で栽培されている夏緑広葉樹です。渡来時期は定かでありませんが,平安時代には栽培されていたようです。幹には瘤が多く,花は初夏に咲きます。花びらは縮れ,萼は筒状で厚く,多くは朱赤色です。中には淡紅色から白黄色の品種もあります。球形の果実は,萼片が王冠の形で残存し,秋に熟して開裂します。種子の外種皮はゼリー状で多汁質,汁液には酸味と甘味があります。内種皮は木質化しています。
 和名は漢名の石榴の音読みです。薬用に用いられるのは果皮や根皮で,生薬名をそれぞれセキリュウヒ (石榴皮),セキリュウコンピ (石榴根皮) といい,条虫駆除薬とされます。しかし,作用が激しいために医師や薬剤師などの専門家の指示によって用いられていました。幸い,衛生状態が非常にいい現在では,駆虫薬は死語になった感があります。
 原産地の中近東ではブドウとともに古くから栽培され,高貴な果物として古くから尊ばれてきました。日本では,酸味が強いためか,人気は今一つのようです。時折,庭に植えられた木を見かけますが,果樹というより観賞用の花木なのでしょう。秋になっても,果実は木にぶら下がったままです。
 近年,甘味が強く,大きなアメリカ産や南ヨーロッパ産のものが青果店に並ぶようになりました。中には,内種皮が木質化せず,種子まで食べられるものも売られております。(磯田 進)

ゴマ

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ゴマ
Sesamum indicum LINN. ( ゴマ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 アフリカ原産。温帯や熱帯各地で栽培されている一年生草本植物です。花は筒状で淡紫色を帯び,夏から秋にかけて咲きます。果実はやや四角張った円柱状で,種子は小さく,黒色から淡黄褐色を呈していますが,種子の色によって黒ゴマ,白ゴマ,金ゴマなどと呼ばれています。縄文時代の遺跡から種子が出土していることから,日本への渡来はかなり古い時代と考えられています。
 胡麻という名称は,中国から見ると西側に位置するインドから渡来したため,西を意味する「胡」と種子を「麻の実」に例えて付けられたものです。この漢名の胡麻を音読みして,ゴマとう名前になっています。
 薬用には種子の脂肪油を用い,軟膏の基剤とします。薬用として用いる場合は,炒らずに搾り精製しますので色も無色透明に近く,香りはほとんどありません。しかし食用油とする場合は,炒ってから搾るため色も濃く特有の香りがあります。
またゴマは滋養に富み,気力を増し,潤わす作用があるとされています。湿疹などの皮膚疾患に用いられる消風散(ショウフウサン)という漢方処方にゴマが配剤されています。
 ゴマを英語ではSesameといいます。Sesameといえばテレビの幼児番組で人気となった「セサミストリート」が思い浮かびます。ビッグバードなど愛嬌のあるキャラクターが登場していました。この名称が教育番組のタイトルとなった経緯は,ゴマの栽培に由来しています。アメリカにおけるゴマ栽培の歴史は意外に新しく,大規模栽培は1950年代にテキサス州で始まったといわれています。農場で働く労働者は栽培規模の拡大とともに増加し,その結果,町のメインストリートはいつの頃からか「セサミストリート」と呼ばれるようになりました。農場主は通りの一角に学校を開設し,労働者の子弟に人種差別のない教育を行いました。番組の担当者は,この教育熱心な農場主をヒントに「セサミストリート」を制作したということです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ゴボウ

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ゴボウ
Arctium lappa Linn. ( キク科 )

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収穫風景
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収穫後

 ヨーロッパから中国,シベリアにかけての地域原産の二年生草本植物ですが,北アメリカやオーストラリアなどでは雑草として帰化しています。日本へは古い時代に薬用として渡来しました。草丈は1.5~2mくらいに達し,上方で分岐します。葉は地際から生じ,長い柄をつけます。葉身は大形の心臓形で裏面には灰白色の綿毛を密生し,根は直根性です。花は赤紫色を呈して夏に咲き,頭花はアザミにとてもよく似ており,直径は4.5cmくらいになります。また果実は長卵形ですが,一見すると種子のように見えます。根は細長く根菜類として,また若く柔らかい葉は食用として利用します。しかし食用としている国は日本や朝鮮半島の一部だけのようです。
 和名は漢名の牛蒡を音読みしたものです。薬用には成熟した果実を用い,感冒や咽頭炎を改善する駆風解毒湯や柴胡清肝湯などの漢方処方に配剤されています。また民間薬として果実を利尿,解毒薬として利用します。
 日本では渡来後,その根がもつ独特な香りや風味が好まれ,きんぴらゴボウやお煮しめなどの具として和食の素材としてなくてはならないものとなっています。一般的には「滝野川」などの細長い品種が多く栽培されていますが,中には直径が20cm近くに肥大する「大浦」といった品種も育成されています。収穫は根を傷めないよう深く掘り取るため,過酷な農作業となっています。近年では農家の負担を軽減するため,トレンチャーなどの専用の農機具が用いられるようになってきました。野菜としてのゴボウの独特の香りはおもに根の表面近くの組織に含まれています。従ってゴボウの風味を堪能されたい方はきれいに洗った白っぽいものを購入するより,新鮮で泥がついている状態のものを調理間際に洗うことをお勧めします。
 このように日本では根を根菜類として日常的に利用していますが,原産地のヨーロッパや帰化している北アメリカなどでは野草あるいは畑などの雑草でしかありません。このような文化的背景の違いが,事件になった例があります。第二次大戦の際に日本の捕虜になったアメリカ兵に,日本人と同じ食材を使い食事を提供していましたところ,戦後の戦争裁判では,「捕虜虐待罪」に問われました。ゴボウを食事に提供したという行為が,捕虜に木の根を食べさせたと解釈され,無期懲役の判決を受けてしまったのです。食文化の違いといってしまえば簡単ですが,ゴボウを食べたことがないために当時の陪審員にいくら説明しても理解してもらうことができなかったようです。たかが野菜と笑うことのできない事件といえましょう。(磯田 進・鳥居塚和生)

コブシ

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コブシ
Magnolia praecocissima KOIDZ. ( モクレン科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本各地および韓国の済州島に分布し,日当たりのよい雑木林に見られる落葉高木です。花芽は葉芽と比べ大きく,ビロード状の毛で覆われています。花は春の気配が感じられる頃,葉に先駆けて咲き出します。花びらは6枚で白色,中央に多数の雄しべと雌しべがあり,強い芳香があります。果実は長楕円形,熟すと赤色の丸い種子が露出します。
 和名は果実を握り拳に見立てて名づけられました。薬用にはつぼみを利用します。生薬名をシンイ(辛夷)といい,鎮痛薬や消炎薬として頭痛や蓄膿症などに応用します。また地方によっては,より芳香の強いタムシバを用いることもあります。元々の辛夷は中国原産のモクレンのつぼみです。濃紅紫色の大きな花を付けるモクレンも花木として栽培されています。
 昔から農家の人たちはコブシの花が咲き出す季節を心待ちにしています。その理由はコブシが咲き出す頃は遅霜の心配も少なくなり,農作業を始める合図ともなっているからです。そして満開の花を見ながら秋の収穫に思いを馳せ,豊作を願って,手にした鍬に一段と力が入る頃でもあります。私が住んでいる富士山北麓に遅い春が訪れる頃,純白の花は残雪の富士山と青い空によく調和し,地元の人たちだけではなく,観光客の目も楽しませてくれます。(磯田 進)

コショウ

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コショウ
Piper nigrum LINNE ( コショウ科 )

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果実

 インド原産の常緑の半つる性植物。日本へは古い時代に中国より渡来したといわれ,東大寺の正倉院に伝わる「種々薬帳」(天平勝宝8年・756年)にもその名が記されています。葉は卵形で先端は尖り,互生しています。茎の各節から根を生じ,他物に絡みつきながら伸長します。そのため栽培は支柱や樹木などに巻きつけながら行います。雌雄異花または同花。花は小さく房状に多数つけ芳香があり,果実は丸く紅熟します。インドを始めとして東南アジアやブラジルなどの熱帯地域で,雌雄同花の株を用いた栽培が行われています。ブラジルにおけるコショウの栽培は,昭和の初期に移民した日本人が最初に試み,多くの苦難を克服して一大産地に発展させました。
 和名のコショウは漢名の胡椒を音読みしたものです。「胡」とは西方の地域や民族,「椒」とは辛味を意味しているということです。この「胡椒」という言葉から,中国の西方の地域からシルクロードを経て伝来したことに思いをめぐらすことが出来ます。薬用には果実を用い,芳香性辛味性健胃薬とします。またインドネシアなどに伝わる伝統医療のジャムウでは,風邪や発熱,整腸薬,利尿薬として利用しています。果実に含まれる成分には抗菌作用があり,中世のヨーロッパでは薬用ではなく肉などの防腐剤や臭い消しなどの香辛料として利用していました。当時は熱帯アジアから輸入していたため大変貴重な香辛料で,黄金と同じような価格で取り引きされていたといわれています。
 胡椒は昔から多くの国や地域で香辛料として利用されていますが,収穫時期や加工方法の違いにより黒胡椒や白胡椒,グリーンペッパーなどが知られています。因みに黒胡椒は紅熟直前の未熟な果実を収穫し,そのまま天日で乾燥させたものです。強い香りや辛味が特徴で,肉料理に適しています。白胡椒は赤く完熟した果実を収穫した後,水に浸して醗酵させ果肉を除去して乾燥させたものです。まろやかな香りと辛味があり,魚料理などに適しています。またグリーンペッパーは緑色の未熟な果実を収穫しサッと茹でて塩漬けしたものと,フリーズドライにしたものがあり,爽やかな香りが特徴です。
 一方,赤い色の胡椒を目にすることもありますが,これはウルシ科のコショウボク(Schinus molle)の果実であり植物が異なっています。胡椒は香りと辛みが身上です。いずれの胡椒を用いるにしても,古くなったものでは風味が落ちますので,できれば料理の直前にミルで粉砕し,新鮮な香りと辛味を賞味されることをお勧めします。(磯田 進・鳥居塚和生)

ゴシュユ

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ゴシュユ
Evodia rutaecarpa BENTHAM ( ミカン科 )

ゴシュユ Evodia rutaecarpa BENTHAM (ミカン科)
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産,雌雄異株の落葉低木。享保年間(1720年頃)に,小石川療養所内の薬園に導入されました。その後,株分けされた苗が全国各地に広まりました。日本へは雌株のみが渡来したため,種子は不稔性で発芽能力はありません。果実には特有の匂いがあり,味はとても辛く,その後苦味を感じます。
 和名は漢名の呉茱萸を音読みしたものです。また古名をカラハジカミといいます。これは果実がサンショウ(古名をハジカミ)のように辛く,唐(中国)から輸入していたため名づけられました。薬用には果実を用い,生薬名をゴシュユ(呉茱萸)といい,鎮痛薬や鎮けい薬,婦人薬などを目的とした漢方処方に,また健胃薬として庭薬薬にも配剤されています。
 多くの生薬は,新しい方が有効成分の分解が少ないため,薬用効果は高いとされています。しかしこの呉茱萸は,採取直後のものを用いますと,希ですが嘔吐などの副作用を発現することもあります。したがって,1年以上経過した,古い生薬が良品といわれています。
多くの樹木の冬芽は,鱗片で覆われ寒さをしのいでいます。ところがこのゴシュユは,裸芽といって鱗片ありません。小さく縮こまった葉に茶褐色の短い毛をまとって,冬の寒さに耐えている様子を観察できます。
(磯田 進)

コカノキ

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コカノキ
Erythroxylon coca LAM. ( コカノキ科 )

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果実

 コカノキはペルーやボリビア,コロンビア原産の低木です。形態が生育地ごとに少しずつ異なり数種類に分類されています。葉は楕円形で噛むと僅かに苦味を生じ,裏面には主脈に平行な2本の模様が入っているのが特徴です。花は小さく,花びらは黄緑白色を呈し,果実は卵状長楕円形で紅熟します。
 葉に含まれているコカイン(cocaine)は局所麻酔作用があります。中枢神経に対しては,強い興奮作用があり,陶酔感や筋肉の疲労感を覚えなくなる作用があります。しかしながら連用や乱用によって幻覚,妄想を生じ,効果が切れると抑うつ状態から無気力状態に陥りやすくなり精神的依存性などの薬物中毒となることも明らかとなっています。
 もともとコカノキは南アメリカのアンデス地域に栄えたインカ帝国で宗教的な儀式に用いていたものです。またこの葉を噛むことで疲労回復や気分爽快感を味わえるため,過酷な環境の高地で生活するインカの人々にとっては,肉体的,精神的な疲れを癒し重労働に耐えるためには無くてはならないものでした。その後,スペイン人によりその存在が知られるようになると,ヨーロッパに知れ渡っていきました。そして疲労回復や気分を爽快にする作用を利用してコカを配合して作られた嗜好品などが売り出されました。その当時はコカノキに対する知識がなかったため,多くの人たちが薬物中毒に悩まされたということです。
 連用によって薬物依存がおこりやすいことから,今ではコカノキは「麻薬及び向精神薬取締法」の対象植物に指定され,法律によって栽培や所持は厳しく規制されています。日本では特別に許可された研究機関の温室などで栽培されているに過ぎず,一般の方が直接目にする機会はほとんどありません。とはいえ薬用植物として重要であり,コカインは眼科領域における表面麻酔薬として主として目薬や軟膏などに配剤され用いられています。またコカインを参考にして,より毒性の低い様々な局所麻酔薬が開発されました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

コガネバナ

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コガネバナ
Scutellaria baicalensis GEORGI ( シソ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国北部からシベリア東部,朝鮮半島にかけて分布する多年草で,薬用として栽培されています.山草として人気のあるタツナミソウと同じ仲間になります.草丈は60cmくらい,茎は叢生し,根の外皮は褐色を帯びていますが,内部は淡黄色を呈しています.葉はひ針形で対生し,花は青紫色で茎の上部に穂状につけて夏に咲きます.果実は球状で小さく,秋に黒色に熟します.
 和名は花の色ではなく,根の内部の色が淡黄色であるところから名づけられました.日本へは享保年間に渡来しました.小石川植物園に残されている「薬草木書留」(1791・寛政3年)によれば,享保11年(1726)に朝鮮半島より種子を取り寄せたとの記録が残されていますが,これは八代将軍の徳川吉宗(1684―1751)が実施した生薬の国産化の一環によるものです.薬用には根を用い,多くは外面のコルク層を剃り落としてあります.生薬名をオウゴン(黄芩)といい,止瀉整腸薬,解熱鎮痛消炎薬と見做される漢方処方の黄連解毒湯,小柴胡湯,三黄瀉心湯,防風通聖散などに配剤されています.
 植物の和名は,その特徴を語源とすることが多く,例えば花の色が「黄色」であればキバナオウギやキツリフネ,キバナアキギリ,キンバイソウなど,紅色系統であればベニバナを始めとしてアカツメクサ,アカバナ,ベニバナヤマシャクヤクなどがあります.一方,花以外の部位に起因する和名にはコルク層の内側が黄色いキハダ,根が赤いアカネなどがあり,その語源は比較的理解しやすい名称となっています.ところがコガネバナは名称に反し,花の色は青紫色です.本来の意味は生薬名または根の色から名づけられたものですが,「ハナ(花)」が付いてしまうことから混乱する方が多いようです.そのため牧野富太郎先生は葉がヤナギのように細いことから,別名のコガネヤナギ(黄金柳)という名称を採用しています.最近は花の美しさと栽培し易いため,観賞用として栽培されることが多くなり,学名の種小名(baicalensis)からバイカルタツナミソウと呼ぶこともあります.植物を理解するために,和名の語源を調べるのも一つの方法ですね.(磯田 進・鳥居塚 和生)

コウホネ

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コウホネ
Nuphar japonicum DC. ( スイレン科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 コウホネ (川骨) は日本や朝鮮半島に分布する多年生草本植物で,沼や池などに生育します。花は黄色で初夏から晩夏にかけて咲きます。花びら状に見えるものは萼が変化したもので,花びらは小さく目立ちません。葉は楕円形,根茎は白く太いのが特徴です。和名は,川辺に生育し,白く太い根茎が白骨に見えたのでしょう。薬用部位は根茎で,生薬名はセンコツ
(川骨) です。漢方では打撲・消炎を目標に用いられ,婦人薬にも配剤されます。
 葉はみずみずしく可憐な花を付けるので,古い日本庭園の池に植えられていたり,生け花の花材として利用されていますが,不吉な名称からか,お祝いの場や茶道の世界では使われないようです。
 日本の湿原を代表する尾瀬ヶ原といえば,唱歌に歌われているミズバショウが思い浮かぶのではないでしょうか。白い仏炎苞はさわやかな初夏の湿原を演出しますが,これが終わると尾瀬ヶ原は本格的な夏を迎えます。その頃,湿原を散策すると,ミズバショウほど人目を引きませんが,黄色い花の中心に深紅色のアクセントが印象的なオゼコウホネが咲きはじめます。
 最近の研究によれば,植物生態的な遷移によってその個体数が減少傾向にあるようです。(磯田 進)

ゲンノショウコ

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ゲンノショウコ
Geranium thunbergii SIEB. et ZUCC. ( フウロソウ科 )

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花(白) 花(赤)
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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本各地の原野に生育する多年生草本植物です。夏から秋にかけて白色から紅紫色の花をつけます。東日本では白色から淡紅色,西日本では淡紅色から紅紫色の株が多いようです。果実は長いくちばし状となり,熟すと下部から5つに開裂し,丸い種子をはじき飛ばします。
 和名は,薬用効果が確実に現れることから「現の証拠」なのだそうです。また弾けた後の果実の形が,御輿の屋根に飾られる装飾品に似ていることから,ミコシグサの別名もあります。薬用には,地上部を乾燥したものが止瀉薬として用いられます。生薬名もゲンノショウコといい,開花期直前で葉の多いものが良品とされています。
 同じ科に属するゼラニウムは,江戸時代末期にオランダより渡来した園芸植物で,比較的寒さに強く,花の咲く期間が長いために世界中で親しまれています。当初はテンジクアオイ (天竺葵) と呼ばれ,ゲンノショウコと同じゼラニウム属に分類されていましたが,その後,花の形態が違うことからゼラニウム属と分けてテンジクアオイ属 (Pelargonium属) として分類されるようになりました。しかし,すでに園芸植物ゼラニウムとして親しまれていたために学問的な位置付けとは関係なく,旧名のゼラニウム(英名)がそのまままかり通っているのです。ちなみに,ゼラニウムには鶴の意味があります。細長い果実を鶴のくちばしに見立てたのでしょう。(磯田 進)

ゲンチアナ

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ゲンチアナ
Gentiana lutea LINN. ( リンドウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヨーロッパ原産,ピレネー山脈やヨーロッパアルプスなどの亜高山帯に生育する多年草で,全株強い苦味があります.草丈は1m以上になり,根生葉は有柄で葉身は長さ30 cmの広卵形,茎につく葉は対生し,根生葉より小さく卵形状です.花は葉の基部に輪生状について夏に咲き,花冠は深く切れ込んでいます.リンドウの仲間としては珍しい黄色い花をつけます.
 和名は学名(属名)のGentianaに由来し,秋の草原に咲くリンドウと同じ仲間になります.生薬名もゲンチアナといい,苦味が強いことから消化不良や食べ過ぎ,胃のむかつき,食欲不振などを目的にした苦味健胃薬として利用します.市場に流通している生薬には特有の香りがあり,根の色は赤褐色をしています.ところが,ゲンチアナの収穫直後の生の根や,天日で急速に乾燥させた根にはほとんど香りがなく,根の色も淡褐色を呈しています.特有の香りと色をもつようになるのは,収穫後一定期間,醗酵させることによるのです.これにより含有成分の一部が分解して芳香のある成分が生成され,同時に根の色が赤褐色に変化します.
 梅雨が本番を迎える頃になると,皆さんのご家庭でも梅酒造りをされるのではないでしょうか.梅酒は日本を代表するリキュールの一つです.ご存じのようにリキュールとは,蒸留酒に果実やハーブ,薬草などを加え,さらに砂糖などを添加して調整した酒類です.その歴史は紀元前の古代ギリシャに遡り,医師であったヒポクラテスがワインに薬草を加えて造った薬用酒が起源とされています.現在は蒸留酒を用いたものが一般的となっていますが,当時は蒸留酒ではなく醸造酒であったようです.ゲンチアナはヨーロッパで薬用として古くから利用されていたことから,19世紀末にフランスの酒造メーカーがゲンチアナや数種のハーブ,砂糖を加えたリキュールを製造しました.意外なことに苦味健胃薬としての苦味は爽やかな苦味に変化し,その味覚と澄んだ黄色のリキュールは,ピカソを初めとして多くの画家たちに愛されたということです.
(磯田 進・鳥居塚 和生)

ケシ

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ケシ
PPapaver somniferum L ( ケシ科 )

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トルコ種 果実
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一貫種
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インドを中心とする西アジア原産の二年草。花びらは普通4枚です。中には八重種もあり,ボタンの花に例えてボタンゲシと呼ばれます。花色は多彩で,紅色,紅紫色,白色などが知られています。つぼみは下垂していますが,開くと上を向きます。咲いた当日に花びらが散ってしまう一日花です。
 未熟な果実の表面を傷つけ,滲み出てきた乳液を乾燥したものをアヘン(阿片)といい,有効成分を分離,精製して鎮痛薬や鎮咳薬として利用します。また種子はオウゾクシ(罌粟子)といい,漢方では止寫薬として用います。栽培や所持に関してはあへん法や麻薬および向精神薬取締法で厳しく制限されていますが,種子には麻薬成分が含まれていないので身近な食材としてよく利用されています。
 小さいことを「芥子粒 (ケシツブ) のような」と表現しますが,アンパンの上面に塗してある細かいツブはケシの種子です。また,七味唐辛子は和食の薬味として,無くてはならないものです。この中にも栄養豊かな脂肪油源として,また風味付けのために芥子粒が配合されています。その他,砂糖菓子の金平糖は,オランダから渡来したもので,最初はケシの種子を核にして作られていましたが,最近では餅米を細かく砕いたイラ粉を核として造られているそうです。
 このようにケシは,恐ろしい麻薬の面が強調されてはいますが,重要な医薬品であり,私たちの食生活に潤いを与える食材としても活躍しています。(磯田 進)

クララ

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クララ
Sophora flavescens AITON ( マメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州以南の各地に分布し,日当たりのよい原野や草原などに生育する多年生草本植物です.草丈は1.5mくらい,根はやや肥大し強い苦味があります.葉は奇数羽状複葉,小葉は狭楕円形からひ針形です.花は淡黄白色で茎の先端に多数つき,初夏から夏に咲きます.また稀に紫色を帯びることもあります.果実は細長く,ところどころ括れていることがあり,成熟しても開裂しません.種子はやや球状で褐色を呈し,4~5個入っています.
 和名は,根をかじると目がクラクラするほど苦いことから名づけられました.また別名をクサエンジュともいいますが,これは中国原産でつぼみを薬用とし,街路樹として植栽されている同じ仲間のエンジュの葉によく似ていることから名付けられたものです.
クララは根を薬用に用い,通常は外側のコルク層を取り除いてあります.生薬名をクジン(苦参)といい,苦参湯(くじんとう)などの漢方処方に配剤されるほか苦味健胃薬,皮膚疾患用薬として用いますが,作用が激しいため素人が安易に利用する薬草ではありません.なお以前には煎液を家畜などの農業用殺虫剤として利用することもありました.
 植物の用途は,食品や薬用は勿論のこと染料など多方面に渡り,中には思いもかけない利用方法もあります.クララは前述のように漢方処方に配剤され,苦味健胃薬や農業用殺虫剤として利用される薬用植物ですが,平安時代には茎の繊維を和紙の原料として利用してしたということが知られています.「延喜式」(927年)によると,アサやガンピなどと一緒にクララも製紙原料として利用していたとの記録が残されています.当時は苦参紙と呼ばれていたようですが,残念なことに現存しているものはなく,幻の和紙といわれています.クララには殺虫成分を含んでいるため,虫による食害によって消滅してしまったとは考え難く,特殊な用途のみに使用されたことが想像されます.(磯田 進・鳥居塚 和生)

クマコケモモ

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クマコケモモ
Arctostaphylos uva-ursi Ericaceae ( ツツジ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 北半球の高緯度地方や高冷地に生育している常緑の小低木で,茎は低く伏して伸長します。日本でも長野県側の八ヶ岳で記録されていますが,その後その株は枯死してしまったと言われ,自然(隔離)分布か人為的なものか不明です。葉は互生し,葉身は厚みがあり革質,鈍頭または凹形で倒卵状からへら状です。花は淡紅白色,小さなつぼ状で春から初夏に咲きます。果実は球状で秋に紅熟します。日本には同属(研究者によっては別属とする)で高山植物のウラシマツツジが生育していますが,落葉性で花は黄白色,果実は黒紫色に熟し,秋に葉は美しく紅葉して登山者の目を楽しませてくれます。
 生薬名はウワウルシといい,学名のuva-ursiからきています.このuva-ursiという語句は,クマのブドウという意味で,属名のArctostaphylosも同様にクマのブドウという意味があります。この植物の仲間は秋になると果実が大変美味しくなるため,冬眠を間近にしたクマが好んで食べることに由来しています。英名もbear-berry(クマの果物)といいます。生薬としてウワウルシは尿路殺菌を目的としたウワウルシ流エキス(日局)の原料とします。過去に近縁植物のコケモモも同じ有効成分を含有していることから同様に利用していましたが,この植物も高山に分布生育するため,自然保護の観点より第七改正日本薬局方から削除されました。
 女の子の成長を願う行事に雛祭りがあります。いつまでも美しい素肌であることを願い,お雛様のお顔は昔から貝を粉末にして糊料で固め,皺やシミなどが生じないよう丁寧に色白の顔に仕上げています。まさに職人の技といったところです。色白でシミのない美しい素肌は,古今東西,女性の憧れの的でもあり,そのため多くの化粧品が市販されています。クマコケモモに含まれている尿路殺菌作用のあるアルブチンにはメラニン色素の生成を抑制させる効果が報告され,最近ではこの抑制効果を応用した化粧品を目にすることも多くなってきたように思います。
 クマコケモモは淡紅色を帯びた白い花が特徴です。また,その他のアルブチンを含んでいる植物には,ツツジ科のコケモモやバラ科のナシなどがあります。偶然でしょうか?これらの植物はいずれも白い花をつけるという共通点があります。美白効果を人間より先に実証してしまったようです。(磯田 進・鳥居塚和生)

クチナシ

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クチナシ
Gardenia jasminoides ELLIS ( アカネ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 西南日本から台湾,中国にかけて分布し,各地の庭や公園などに植栽されている常緑低木です。花は初夏に咲き,芳香があります。芳香は日中より夜間の方がより強く感じられます。果実は晩秋から初冬にかけて黄熟します。八重咲きのものをヤエクチナシといいます。熊本市にはこのヤエクチナシが自生し,「立田山ヤエクチナシ自生」として国の天然記念物に指定されています。
 和名は,果実が熟しても裂開しないことから「口無し」とされたようです。薬用には果実を用います。生薬名をサンシシ(山梔子)といい,消炎,排膿,鎮静を目的とした漢方処方に配剤されています。また黄色色素として,「栗きんとん」や「たくわん」,国民食「ラーメン」の麺の着色にも使用されています。 「山梔子」の「梔」はお酒を入れておく器を意味します。果実の形をその器に例えたのでしょう。
 6~8世紀に中国より伝来した碁や将棋は,我が国でも老若男女を問わず多くのに楽しまれている室内遊技です。そして対局中の二人を囲むギャラリーたちまでがしばしばつい口を出してしまいます。ところで,碁盤や将棋盤の脚は「くちなし」と呼ばれます。クチナシの果実の形をしているからだそうですが,相手に手の内を読まれないため「打ち手は口を開かず無言」や,口煩いギャラリーの口封じのため「周囲は口出し無用」を表すなどとの説もあります。と聞けば,耳が痛い方もいらっしゃる? その時は,それこそ「口なし」を装いましょう。(磯田 進)

クズ

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クズ
Pueraria lobata OHWI ( マメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から中国,東南アジアに分布し,日当たりのよい山野に生育している半低木性のつる性植物です。花は紅紫色で夏から秋にかけて咲き,「秋の七草」の一つに数えられています。
 和名は吉野の国(奈良県)のクズ(国栖)地方で産出した葛粉が,良質であったことから名づけられました。薬用には根を用います。生薬名をカッコン(葛根)といい,風邪薬として知られる葛根湯などの漢方薬に配剤されています。
 黄門様の異名をもつ水戸光圀は,テレビドラマの中では国内各地を漫遊し,悪を懲らしめ,庶民の味方として人気者です。その一方では,無類の美食家でもあったと伝えられています。美食家には,やはりお酒はつきもので,しばしば二日酔いに悩まされたようです。その苦しみを癒してくれたのは,葛の花「カッカ(葛花)」でした。その効用は,光圀が水戸藩の藩医であった穂積甫庵に命じて編集した「救民妙薬」(1693)にも紹介されています。そのせいか,光圀への献上品には,クズから作られた品々が多かったとか。
 帰化植物は外国から我が国に渡来した植物をいい,これらの中には異常にはびこって迷惑がられているものも少なくありません。反対に,日本の植物が海外に飛び出し,その国に帰化してしまった例もあります。クズもその一つです。地上部が栄養面で優れているクズは飼料植物として北アメリカに渡りました。また,ルーズベルト大統領のニューディール政策では,乾燥地の緑化と水資源の確保に大いに貢献しました。ところが,クズの旺盛な繁殖力は北アメリカの植生を乱したために,大きな社会問題となったようです。(磯田 進)

クサスギカズラ

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クサスギカズラ
Asparagus cochinchinensis Merr. ( ユリ科・APG植物分類体系ではキジカクシ科 )

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果実
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塊根

 本州から九州,沖縄,台湾,中国南部に分布し,海岸付近などに生育する雌雄異株の多年草です。以前はユリ科に属していましたが,最近はキジカクシ科に分類されています。短い根茎に生ずる根は紡錘状に肥大し,栄養分や水分の貯蔵器官となっています。茎は立ち上がって芽生え,その後,湾曲しながら他の植物などに絡みつき,ややつる状に1~2m伸長しますが,時には数mに達することもあります。温かい地方に分布しているにもかかわらず比較的耐寒性があり,高冷地などに設置されている薬用植物園の標本園でも容易に栽培することができます。葉は退化して鱗片状になって各節より生じ,砂地などの乾燥した生育環境にも適応しています。その基部から葉状枝といって長さ1~2cmの線形で3稜のある小枝を出しますが,その形状から葉と見間違われています。花には柄があり,緑黄白色で鱗片状の葉の基部より1~3個生じて初夏から夏に咲きます。果実は球状で,はじめ緑色ですが後に汚白色に熟します。
 和名の語源は葉(実際は葉状枝)を杉に見立て,茎がつる状に伸長する草本植物ということから名づけられました。そのため漢字では,「草杉蔓」と表記します。薬用には紡錘状に肥大した根を用い,通常,流通している生薬は外側のコルク層を取り除き蒸してあります。生薬名をテンモンドウ(天門冬)といい,鎮咳,去痰,滋養強壮,口の渇きを改善する滋陰降火湯や清肺湯などの漢方処方に配剤されています。
 本植物の仲間には野菜のアスパラガスがありますが,根は紡錘状に肥大することはなく,また果実は秋に紅熟します。原産地は南ヨーロッパから西アジアで,ローマ時代ころより柔らかい芽生えを食用としてきました。日本へは江戸時代にオランダ人によって伝えられましたが,当時は食用ではなく,細い葉状茎の物珍しさからか鑑賞用に栽培されていました。食用としての栽培は,大正時代に北海道で最初に行われたということです。一方クサスギカズラの芽生えは,残念ながら筋っぽく食用にはあまり適していません。仮に柔らかく食用に適していたら山菜として大いに利用され,薬用だけではなく日本の食文化にも少なからず影響を与えたに違いありません。(磯田 進)

クコ

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クコ
Lycium chinense Linne ( ナス科 )

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果実
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 中国原産で,日本など東アジアなどに分布し,日当たりのよい河川の土手や原野などに生育している低木性の夏緑広葉樹です。暖かい地方では冬でも葉をつけたままでいます。昭和40年代にクコが大きなブームになったことがありました。そのため家の庭などで栽培したり,先を争うように野生のクコを採取して利用しました。ご記憶の方も多いのではないでしょうか。樹高は1~2m,茎は細くてよく枝分かれし,枝が変化した長さ1~2cmの刺を生じます。また枝が土壌に接すると各節より根を生じ新たな株となります。葉は数枚束生し,葉身は披針形から倒披針形で柔らかく,短い柄をつけています。花は短枝に生じ,淡紫色を呈しています。花冠は先端部分が5裂して平らに開き,夏から初秋にかけて咲きます。果実は楕円形で長い柄をつけ,果汁に富んで甘みがあり,晩秋から初冬にかけて美しく紅熟します。
 和名は漢名の枸杞を音読みにしたものです。因みに枸杞の「枸」とはカラタチを意味し,枝に生じる刺に由来しています。また細い枝をヤナギ(杞)に例えて名づけられました。薬用には葉および果実,根皮を用います。生薬名は葉をクコヨウ(枸杞葉),果実をクコシ(枸杞子),根皮をジコッピ(地骨皮)といい,ともに滋養,強壮薬とします。また柔らかい若葉は,おひたしやご飯に混ぜて枸杞飯に,葉は健康茶として利用します。
 近年,健康は最大の関心事の一つとなっています。中でも薬食同源といわれていますように,食と健康は切っても切れない関係にあり,充実した生活を過ごす源は食事にあるという薬膳に注目が集まっています。この「薬膳」という言葉は比較的新しく,1980年代に北京のレストランで用いられたのが最初といわれていますが,その発想は今から3,000年の昔,皇帝の食事にまで遡るといわれています。そのような皇帝の食事の歴史や理論は難解なものもあり,私たち庶民にとっては,容易に受けいれることができるものばかりではありません。しかしながら家庭でも簡単に作れるクコの実をお粥やスープに入れた薬膳は手軽でもあり,様々な工夫ができ,味も良いことから人気があるようです。このような薬膳を食べただけで,病気が治ったり健康が維持できるわけではありませんが,身近な食材を上手に使うことにより,食卓から自分自身の健康を見直そうという考えを常に持つことこそが大切であり,健康への第一歩といえるのではないかと思います。(磯田 進・鳥居塚和生)

キバナオウギ

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キバナオウギ
Astragalus membranaceus BUNGE ( マメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国や朝鮮半島からロシアにかけて分布し,砂質地や草原などに生育している多年草です。日本では,各地の薬用植物園などで標本や見本用に栽培しています。茎は直立して草丈は1mくらい,葉は奇数羽状複葉で小葉は楕円状を呈しています。日本には近縁のタイツリオウギ( A.membranaceus var. obtusus )が高山帯の草原や荒原などに生育し,根は太くて繊維質に富んでいます。花は淡黄白色で茎の先端に総状につき,夏に咲きます。果実はやや膨らみ半卵円形状となり,種子は黒色で腎臓形をしています。
 和名は淡黄白色の花をつけ,生薬の黄耆の基原植物として用いることから名づけられました。薬用には根を用い,太く,柔軟性があるものが良品とされています。生薬名をオウギ(黄耆)といい,保健強壮を目的とした黄耆建中湯などの漢方処方に配剤されています。
 本植物は根に根粒バクテリアが共生しているため,空気中の窒素を有機物として取り込むことができ,栄養分の少ない砂質地や草原などでも生育することができます。しかし花が地味なためか観賞用として栽培することもなく,また根を漢方処方に配剤する以外,民間薬として利用することもないため,一般的にはあまり馴染みのない薬草の一つかもしれません。しかし同じ仲間には,よく知られるレンゲ(ゲンゲ)( A. sinicus )があります。こちらも中国原産で江戸時代に渡来し,前年の秋に発芽して翌春にピンクの花が咲く2年草です。レンゲも根に根粒バクテリアが共生している植物の一つですが,かつては農作物の貴重な緑肥植物でした。江戸時代の本草書である松平君山(1697-1783)が著した「本草正偽」(1776)にも,畑の肥料や家畜の飼料として用いたことが記載されています。以前は野に咲くレンゲは,日本の春を演出する代表的な風景でしたが,化学肥料の普及に伴い,緑肥としての栽培は激減してしまいました。しかし近年,緑肥として再認識されつつあり,また村興し,町興しとして各地で栽培が復活し始めました。花が見頃になる春になりましたら,お近くのレンゲ畑を散策され,時には昔を思い出してレンゲの首飾りなどを編んでみてはいかがでしょうか。そして同じ仲間の植物には,重要な漢薬として利用するものがあることを思い出してください。(磯田 進・鳥居塚 和生)

キハダ

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キハダ
Phellodendron amurense RUPR. ( ミカン科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 東アジアに分布し,やや湿り気のある山地に生育する落葉高木で,雌雄異株。花は黄緑色で5月から6月にかけて咲き,果実は球形で黒く熟します。
 和名は樹皮が黄色(黄肌)であることに由来します。生薬名はキハダ(黄柏)で,幹のコルク層を取り除いた黄色の樹皮を用います。古くから胃腸薬(苦味 健胃薬・止瀉薬)とされ,漢方では消炎・殺菌を目的に配剤されます。よく知られる奈良県吉野地方の「陀羅尼助」,信州の「百草」,山陰・北陸の「煉り熊」などは,いわゆるオウバク製剤です。
 昔,お坊さんは「陀羅尼」なるお経を読むとき,よく睡魔に襲われたそうです。たまたまこの薬を口に含んだところ,あまりの苦さに眠気が吹き飛んでしまいました。以来,「陀羅尼」を読むときには必ずこの薬を用いるようになったとか。これが「陀羅尼助」の語源なのだそうです。
 昆虫類は植物に含まれている微量の成分を嗅ぎ分け,自分の食草を見分ける能力を持っています。キハダの近くではアゲハチョウが舞っているのをよく目にします。キハダの葉に産卵するためです。ふ化した幼虫はキハダなどミカン科植物の葉を食べて成長し,やがて脱皮を繰り返して成虫になります。一方,同じ仲間でやや黄色味の濃いキアゲハの食草はニンジンなどのセリ科植物で,ミカン科植物には決して産卵しません。(磯田 進)

キササゲ

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キササゲ
Catalpa ovata G.DON ( ノウゼンカズラ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産。各地で観賞用または薬用として栽培する落葉高木です。時には河岸などに野生化していることもあります。樹高は10mくらいになり,若い枝は腺毛を生じますが,後に無毛となります。葉は対生し有柄,葉身は広卵形で大きく,浅く3~5裂しています。花は漏斗状で黄白色,内面に紫褐色の斑点を生じ,枝の先端に円錐状について夏に咲きます。果実は30cmくらいで細長く,房状について垂れ下がっています。種子は扁平で長楕円形,両端に糸状の長い毛が密生しています。また果実は,落葉した晩秋から初冬にかけても枝についています。
 和名は果実がマメ科のササゲに似て細長く,木に生じることから名づけられました。中国では「梓」と表記していますが,日本ではカバノキ科のアズサ(ミネバリ)に当てています。そのため本来神事などに使用される梓弓はアズサ(ミネバリ)を用いるのですが,しばしば誤ってキササゲと紹介されていることもあります。日中間における同名異物の代表的な例といえます。
薬用には緑色からやや褐色を呈した頃の果実を用います。乾燥させると先端がやや割れ,種子がはじけ出す程度の果実が良品といわれ,全体が割れて種子が飛散したものは生薬としては適していません。生薬名をキササゲといい,頭痛や眩暈,眼の充血の改善を目的とした漢方処方に配剤されています。また民間薬として,尿量が減少したときの利尿薬とします
 徳川家康は大の薬草好きといわれています。そのためでしょうか,各地の家康所縁の神社や仏閣,植物園などには,キササゲが植栽されています。その一つ。上野東照宮拝殿横には,樹齢300年といわれる老木が保存されています。また東京大学大学院理学系研究科附属植物園(通称小石川植物園)は,江戸時代,徳川幕府の薬園として知られていますが,明治4年の植栽植物に関する調査資料にも栽培していたとの記録が見られます。昔からカミナリ除けの樹木として知られていますが,樹形から避雷針的な効果があるとは思えません。おそらく重要な薬木として利用されていたため,伐採を戒めるためにカミナリ様の名を拝借したのではと想像します。(磯田 進・鳥居塚 和生)

キキョウ

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キキョウ
Platycodon grandiflorum A. DC ( キキョウ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 キキョウはやや乾燥した草原に生育する多年草で,日本を含む東アジアに広く分布し,7月から8月にかけて青紫色の花を咲かせます。和名は漢名の桔梗を音読みしたものです。
 薬用には根を用い,生薬名もキキョウ(桔梗)といいます。主に消炎排膿や鎮咳去痰を目的として漢方薬に配剤されます。また今では元旦を祝う飲み物となってしまったお屠蘇にも配合されています。
 万葉集に詠まれる「朝がほ」は,アサガオではなく,キキョウという説が有力です。根拠は,アサガオは奈良時代に薬草(下剤)として渡来したもので、当時アサガオを目にする人はほとんどいなかったはずと考えられるからです。また,古くはアリノヒフキと呼ばれていました。アリが花をかじると,蟻酸によって青紫色の花が赤く変色します。この現象を「蟻の火吹き」と名付けたのでしょう。当時の都人たちの観察力は鋭かったのですね。
 秋の七草の一つにも加えられ,紋所の桔梗や図柄の花桔梗に用いられるなど,昔から庶民に親しまれてきたキキョウですが,最近,自生地の減少や環境の悪化に伴って野生種が急速に減少しているようです。この可憐な花が庭や植物園でしか見ることができないといったことにならないよう,皆で保護したいものです。(磯田 進)

キカラスウリ

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キカラスウリ
Trichosanthes kirillowii MAIM. var. japonicum KITAMURA ( ウリ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本特産の多年生草本植物です。雌雄異株。林縁などに生育しているつる性植物で,巻きヒゲによって絡みつきながら伸長します。花は白色,花冠は五裂し,裂片の縁は糸状になっています。夏の夕方から咲き出し,朝には萎んでしまう一日花です。果実は広楕円形で黄色く熟します。
 和名は果実が黄色いカラスウリという意味。カラスウリとはいえ,小鳥が中味をついばんでいる光景は目にするものの,カラスが食べる姿は見受けないようです。同じ科にスズメの卵ほどに丸い果実をつけるスズメウリというのがあります。では,果実が大きいからカラスウリなのでしょうか。
 薬用には根を用います。生薬名をカロコン(か楼根)といい,解熱や鎮咳などを目的に用いられます。
 根に含まれるデンプンは吸湿性が高く,かつて「天花(瓜)粉」の名でベビーパウダーとして利用されていました。江戸時代の代表的な育児書である香月牛山の「小児必用養育草」(1703)によると,当時,あせも予防にはキカラスウリの他,クズなどのデンプン,牡蠣の殻の粉末などが利用されたようです。しかし,これらは,天然素材故に高温多湿の夏には虫などが発生しやすく,衛生面で問題がありました。明治時代に入ると,局所保護作用をもつタルク(含水ケイ酸アルミニウム)などの鉱物質を主成分とした素材に改良され,現在に至っています。(磯田 進)

カワラヨモギ

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カワラヨモギ
Artemisia capillaris Thunberg ( キク科 )

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若葉

 本州から朝鮮半島,中国,ネパールなどに分布し,河原や海岸などの砂地,やや乾燥した原野などに生育する多年生草本植物です。全株,揉むと特有の香りを生じます。草丈は1mくらいになり,茎の下部はやや木質化して半灌木状となっています。葉は互生し,1~2回羽状複葉で深く切れ込み,コスモスの葉に似て裂片は細長くなっています。また花を生じない茎の葉はロゼット状で長い柄を持ち,花が生じる茎につく葉の基部は茎を抱くようについています。一般的には灰白色で絹状の毛を密生していますが,毛をほとんど生じないこともあります。花は黄緑色,頭状花は球状から卵状で円錐状に多数つき,中心部に両性花,周辺に雌性花を生じ,夏から秋にかけて咲きます。果実は小さく,長さ1mm未満です。稀にですが,根に寄生植物のハマウツボ(ハマウツボ科)が寄生することもあります。
 和名は生育環境に由来し,河原などに生育するヨモギということから名づけられました。薬用には頭花を用います。生薬名をインチンコウ(茵?蒿)いい,利尿や利胆を目的とした茵?蒿湯や茵陳五苓散などの漢方処方に配剤されています。また民間薬として黄疸の改善に用いていました。本草書である「神農本草経」は,薬用効果によって養命の働きを持つ「上薬」,養性の働きのある「中薬」,作用が激しく疾病のときに限って用いるべき「下薬」の三類に分けていますが,このカワラヨモギは長い期間にわたって服用して差支えなく,また養命の効果があるとされ,「上薬」の部に収載されています。日本では主に秋に採取する頭花を利用しますが,中国では春に若い葉を採取して用います。こちらはインチンメン(茵?綿)またはメンインチン(綿茵?)といい同様に用いられますが,利用する植物は同じであっても日本と中国では用いる部位が異なっています。
 最近,多くの分野でグローバルスタンダードに関心が集まっていますが,生薬も例外ではありません。仮に他の国や地域で用いられている生薬が標準になってしまうと,日本で用いられている生薬は,まがい物というレッテルを貼られる可能性が危惧されています。医薬品は医療の根幹をなすものです。たかが生薬と考えず,皆で関心を持ちたいものです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

カラスビシャク

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カラスビシャク
Pinellia ternate BREIT. ( サトイモ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から朝鮮半島,中国に分布し,日当たりのよい畑や原野に生育する多年生草本植物です。球茎は円球形。葉は長い柄をつけ,葉身は3つに裂けています。花は初夏から夏にかけて咲き,仏炎苞を持つ肉穂花序につけます。この仏炎苞の間から細長い糸状の附属体が出ています。和名は,この仏炎苞をカラスの柄杓に例えて名づけられました。
 薬用に用いる部位はコルク層を除いた球茎です。因みに球茎とは,地上茎の基部に形成され節間が短縮して,ほぼ球状に肥大した地下茎を指した言葉です。一方,塊茎とは地下茎の一部が不定形な塊状に肥大したものを指したものです。
 生薬名はハンゲ(半夏)といいます。健胃消化,鎮吐,鎮咳去痰を目的とした漢方処方に多く配剤されています。
最近は都市化の影響で,生活の身近なところにあった植物でも,忘れ去られてしまいそうなものがあります。カラスビシャクもそのような植物の一つです。かつては農作業など身近に接していた植物の一つで,それだけに土地ごとに独特な名前がつけられています。例えば標準和名のカラスビシャクだけではなく,仏炎苞を雀や蛇,狐などが利用する柄杓に例えて「スズメノヒシャク」や「ヘビノヒシャク」,「キツネノヒシャク」などと呼ばれていました。また畑の雑草として根絶が大変であったことから「百姓泣かせ」とも呼ばれています。除草剤などなかった頃,夏の炎天下で長時間に渡る農作業のご苦労が偲ばれます。とはいえ苦労があれば多少の楽しみもあったようです。多くの雑草は除草された後,畑の隅に野積みされてしまいますが,生薬の「半夏」として利用されるカラスビシャクの球茎は,その都度集められ,量がまとまると生薬の仲買業者に買い取られていきました。そのためお年寄りなどの小遣い稼ぎになり,思わぬへそくりになったことから「へそくり」という名称も残っています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

カミツレ

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カミツレ
Matricaria chamomilla LINNE. ( キクン科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヨーロッパから西アジア原産。ハーブとしてだけではなく,観賞用としても各地で栽培されています。日本へは江戸時代末期にオランダより渡来しました。花は春から夏にかけて咲き,外側の花は白色ですが,中心部分の花は黄色く,咲き始めは平ですがその後盛り上がってきます。花床には,精油を含んでいますので甘い芳香があります。その芳香はリンゴの香りに例えられ,少し離れていても感じ取ることができるほどの強さがあります。
 和名のカミツレは,オランダ名 Kamille の読み (カミッレ) に当てた「加密列」の「密」がやがて本来の読み (ミツ) に戻ったことによるようです。薬用には頭花を用います。生薬名もカミツレ (英名はカモミール) といい,発汗,鎮痛,消炎薬として風邪の初期症状に用います。またハーブティーや入浴剤としても人気があります。
 子供の頃,風邪を引いたかなと思った時に母親から最初に飲まされた薬を覚えていますか。葛粉をお湯で糊状に練ったものですか,暖かい生姜湯ですか,それとも漢方薬の葛根湯でしょうか。母親の子供に対する愛情は,東も西も変わるものではありません。ヨーロッパで最も親しまれている童話ピーターラビットに,体調の悪い子ウサギに母親がカミツレを煎じたハーブティーを飲ませる場面があります。母親の心配とは裏腹に子供たちはなかなか飲んではくれないようですが,ヨーロッパの家庭でよく見られる光景なのでしょうね。(磯田 進)

カノコソウ

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カノコソウ
Valeriana fauriei BRIQUET ( オミナエシ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本や朝鮮半島,中国などに分布し,やや湿り気のある草原などに生育している多年生草本植物で,薬用や観賞用として栽培されています。全草,とりわけ根には特有の臭いがあり,乾燥するとさらに強くなります。花はとても小さくて淡紅色を帯び,5~7月に咲きます。
 和名は,密に咲く花やつぼみの模様を白地に淡紅色の鹿の子絞りに見立てて名づけられました。鹿の子は子鹿の斑点模様に由来します。中国では纈草 (ケッソウ) といいますが,これは花を絞り染めの模様に例えたものです。薬用には根を鎮静薬として用い,生薬名をカノコソウまたはキッソウコン (吉草根) といいます。
 和名の由来になった鹿の子絞りは絞り染めの一技法で,基本的には布の一部を糸などで固く結んで染色液に浸すと,結んだ部分が染色されずに生じる模様を利用したものです。その歴史は古く,織物が発達した地域ごとに独自に発生したといわれ,奈良の正倉院にも纐纈裂地 (こうけちきれじ) として保存されています。初めは大変素朴な模様だったのですが,日本では技法が高度に発達し,精緻な模様が作り出されるようになりました。中でも,その絞りがとても細かく,手間と時間がかかる鹿の子絞りは,とても高価な染め物の一つです。江戸時代には生地一面に施された華麗な総鹿の子は,幕府の大名,高級官僚,宮廷の公卿,裕福な町人,そして遊里の太夫たちに好まれ,贅沢の象徴となりました。そのため幕府は天和三年 (1683),華やかな総鹿の子に対して華美や贅沢を戒める目的で総鹿の子禁止令を出したほどでした。(磯田 進)

ガジュツ

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ガジュツ
Curcuma zedoaria ROSCOE ( ショウガ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インドやヒマラヤ南部原産の多年草で,高温,多湿の地域に生育しています。日本でも種子島や屋久島,沖縄などで,薬用として栽培しています。草丈は1m,葉は大きく70cmくらいになり,主脈に沿って紅紫色を帯びる部分があります。根茎はよく肥大,分岐し,内部は淡青色を呈し特有の芳香があります。花序は晩春から初夏にかけて根茎から直接出てきます。下部の苞は緑色ですが,上部の苞は紅紫色を帯びています。花は漏斗状で淡黄色,各苞の基部から一つ出します。果実は,熱帯植物であることから日本では結実しないため,栽培はすべて根茎を種芋としています。そのため形態的な変異はほとんど見られません。
 和名のガジュツは,生薬名の莪朮を音読みしたものです。しかし中国の古い時代の本草書に基原の解説は見られるものの,莪朮の語源については解説がなく定かではありません。日本への渡来は江戸時代の享保年間(1716~36)といわれています。別名を紫ウコンといいますが,これは根茎の内部が淡青紫色を呈し,根茎の内部が黄色いウコンと同じ仲間であるところから名づけられました。薬用には根茎を用い,芳香性健胃薬とします。またインドシナ半島では,柔らかい若芽を野菜として利用しています。
 ショウガ科植物は熱帯地域を中心におよそ1100種が知られており,観賞用に栽培されるカンナや果物のバナナなどと近縁関係にあります。一般の植物園や薬用植物園を訪れる機会がありましたら,それぞれの花を観察してみてください。花の大きさは異なりますが,意外に似ていることに驚かれることでしょう。ガジュツ(Curcuma 属)の仲間には,カレー粉などの黄色食品色素として,また健康食品として人気のあるウコンをはじめとして,根茎や芽生えを香辛料や野菜として利用する種類も多く各地で栽培されています。また穂状の花穂はとてもきれいで長持ちするところから,最近は観賞用として楽しまれる方も多くなりました。このように本種の仲間は医薬品や健康食品として,私たちの健康維持に役立つばかりでなく,食品色素,染料,食材や切り花などにも利用され生活に潤いを提供しています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

カギカズラ

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カギカズラ
Uncaria rhynchophylla Miquel ( アカネ科 )

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鉤のつき方

 房総半島以南の本州,四国,九州から中国大陸に分布し,やや湿り気のある林縁などに生育する常緑のつる性木本植物で水平に10m以上伸長します。若い茎の横断面は四角身を帯びています。葉は対生し,成長すると無毛になります。葉身は楕円状で表面は光沢があり,裏面は粉白色を帯びています。通常は各節には茎が変化した鉤(刺)を生じますが,2個ついている節と1個ついている節が交互になっています。つる状の茎は,この鉤(刺)を他物にひっかけながら伸長します。また托葉は深く裂けて先端がとがり,成長とともに落下してしまいます。花は葉の基部より生じる長い柄の先端に径2~3cmの球状につき,6~7月に咲きます。花冠は緑白色で浅く5裂し,基部は淡赤褐色を呈しています。また雌しべは,先端が棍棒状となり花冠の外へ長く出ています。果実は長さ5mmの楕円状で,晩夏から秋に熟します。
 和名は鉤で這い上がりながら伸長するつる性の植物より名づけられ,鉤蔓を意味しています。薬用には通常は鉤(刺)を用いるとされますが,含有成分の面から見ると茎の部分にも多く含まれているので,鉤(刺)がついた茎の部分が実際には薬用に用いられています。昔は鉤(刺)が2個ついている部分に効果があり,1個は効果がないと信じられてきましたが,効果については差がありません。生薬名をチョウトウコウ(釣藤鉤)といい,和名同様に釣り針のような鉤を生じるつる性の植物を意味しています。頭痛やめまい,肩こりなどを伴う高血圧症の改善を目的とした七物降下湯や釣藤散などの漢方処方に配剤されています。また最近,脳血管障害による痴呆症の改善に釣藤散が有効という研究結果が報告され注目を集めています。但し有効成分は熱に対して少し不安定であるため,長時間煎じるとその効果が減少することが報告されています。
 重要な薬用植物ですが,明るい環境を好むために森林を伐採した跡地などに最初に侵入するいわゆる先駆植物の一種でもあります。そのため自生地ではその旺盛な生育と鋭い鉤(刺)などにより,あまり歓迎されていません。そのためか市場品のほとんどは輸入に頼っているのが現状です。生活習慣病が大きな社会問題となり,また高齢化社会にあっては,チョウトウコウ(釣藤鉤)を配剤する漢方処方が益々有用になると思います.将来的な生薬の供給の不透明さが取りざたされていることと相俟って,今後は迷惑がらず資源的な面からも大いに活用したい薬用植物の一つでもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

カキ

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カキ
Diospyros kaki THUNB. ( カキノキ科 )

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雌花 果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本の西南部から中国大陸に分布し,各地で果樹として栽培する高木の夏緑広葉樹です。葉は互生し,葉身は広楕円形で先端は尖り,秋に美しく紅葉します。花は淡黄色で広鐘形を呈し,雌雄雑居性といい,雌花や雄花だけではなくしばしば両性花をつけ,初夏に咲きます。花の外側につく萼はヘタともいい,花後も宿存します。果実は栽培品種によって大きさだけではなく,その形状も卵形や球形,扁球形と変化に富んでいます。また秋に黄から紅熟しますが,熟しても甘味のあるものや渋味のあるものなど様々です。しかし甘柿であっても,高冷地などで栽培すると十分に熟すことができず甘くならないこともあります。甘味のある品種はそのまま食することができますが,渋味のある品種は,アルコールや温水で渋を抜き,また干し柿に加工して食します。
 和名は定かではありませんが,朝鮮語由来説,または果実が紅熟することから赤木(あかき)から転訛したとする説など諸説あります。分布や栽培が東アジアであるため,学名の種小名に和名のカキをそのまま用いたkakiが採用されています。薬用には緑色をしている萼を用います。生薬名をシテイ(柿蔕)といい,しゃっくり止めや胃腸虚弱を目的とした丁香柿蔕湯などに配剤されています。
 柿は果物として利用するだけではありません。柿渋は,かつて和傘などに使用する和紙に塗布し防水性を高めるため利用されたり,材木の防腐剤として利用されたりしていました。また葉は柿の葉寿司などに用いたりしていました。この様に,柿は昔から私たちの生活と深い関わり合いを持っています。そのため柿を例えにした多くのことわざが言い伝えられ,中には「柿が赤くなると医者が青くなる」などの医療に関わるものもあります。現在のように栄養状態がよくなかった時代に,ビタミン類の豊富な柿が紅熟して甘味を増す季節になると,柿をよく食べた庶民は健康を増進させ,その結果,医者のお世話にならなくなったという例えです。このことわざから,当時の栄養状態を垣間見ることができますし,柿の栄養価の優れていることを端的に表現しています。とはいえ「過ぎたるは及ばざるがごとし」,江戸時代に貝原益軒によって著された「養生訓」(1713)には「柿は便秘しやすいので食べ過ぎないこと」と注意を促す文が書かれています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

カカオ

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カカオ
Theobroma cacao LINN. ( アオギリ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中南米原産の常緑中高木。赤道を挟んだ南北緯20度以内のアフリカや中南米,東南アジアなどで栽培されています。幹に直接淡黄白色の花を多数つけますが,実になる花の割合は200から300に1つと,とても効率が悪いのです。果実は,長さ10?20
cmのラグビーボールのような形をし,その中に卵形をした種子が多数入っています。
 カカオは,マヤ語「カカウアトル」より転訛したといわれています。薬用には種子の脂肪 (カカオ脂) を用いますが,薬用に用いられはじめたのは意外に新しく,18世紀に入ってからのことです。カカオ脂は25度
(摂氏) 以上で柔らかくなり,30~34度で融解する性質があるところから,座薬の基剤に利用されます。
カカオの種子には多量のポリフェノールが含まれています。最近,これから作られるココアやチョコレートは抗酸化作用をもつ食品として改めて注目されました。
 ココアやチョコレートの歴史は非常に古く,紀元前2000年の古代メキシコにまでさかのぼります。当時は,煎った種子をドロドロにすりつぶし,これを水に溶かして飲んでいました。とても苦い飲みもののはずですが,何故か「神さまの食べ物」と呼ばれていました。砂糖を入れて飲むようになったのはヨーロッパに伝えられてからのことです。当時は,まだ極めて貴重で,裕福な王侯貴族だけの嗜好品でした。やがて,脂肪分をほどよく取り除くなどの改良がほどこされてできた飲み物がココアのはじまりです。また,脱脂前のペースト状のものに脂肪や砂糖,香料を加えて固めたものが,今日のチョコレートの原形です。ちなみに,日本でチョコレートが最初に製造されたのは1877年
(明治10年) でした。そのほろ苦さは文明開化の味でもあったのではないでしょうか。(磯田 進)

オリーブノキ

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オリーブノキ
Olea europaea Linne ( モクセイ科 )

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果実
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老木

 地中海沿岸原産と推測されている常緑小高木です。オリーブ油や食材として現在のシリア地方では紀元前3000年頃には栽培されていたといわれ,現在では世界各地で栽培されています。日本へは江戸時代末期の文久年間(1861-63)に渡来し,明治時代に入って比較的乾燥した香川県の小豆島で栽培が成功し,その後,瀬戸内海周辺でも栽培されるようになりました。また常緑でやや耐寒性があり乾燥にも強いことから,最近では関東以西では庭木として植栽されることが多くなりました。樹高は10~15m,葉は対生し,葉身は長さ5~10cmの長楕円形,革質で上面は濃緑色,裏面は白銀色の毛が密生しています。花は淡黄白色で小さく,初夏に咲きます。果実は楕円状で晩秋から冬にかけて黒紫色に熟します。因みに塩漬けやピクルスとして利用する場合には,果実の表面が緑黄色の完熟前が適期とされています。一方,オリーブオイルの採油を目的とする場合は,表面が黒紫色になった完熟した果実がよいとされています。
 和名は英語名のoliveに由来しています。薬用には果実から採油した脂肪油を用います。生薬名をオリーブ油といい,軟膏や硬膏の基剤として薬用には利用されます。また食用油、化粧品や石鹸の素材など広範囲に利用されています。オリーブ油は気温が10℃以下に低下すると固形分が析出するため,加温して完全に液状化した状態で使用します。最近,オリーブオイルが健康によいということで,食品として摂取することが多くなってきました。しかしカロリーの観点からは他の油脂と大差はありません。健康によいからといって盲目的に多量に用いることは,過剰なカロリー摂取となり健康を損なう可能性があることは念頭におく必要があります。
 オリーブは古代遺跡の壁画にも描かれ,神話にも度々登場するほどヨーロッパでは日々の生活に溶け込み,平和のシンボルとしてヨーロッパの人たちだけではなく多くの人に親しまれています。オリーブの花言葉は"平和と知恵"といわれています。そのため国際連合のシンボル旗にもオリーブの葉が世界(地図)を囲むように描かれています。これは国際連合が戦争のない平和な世界を願って設立された思いを象徴しています。しかし残念ながら現実は、まだその願いとはほど遠いところかもしれません。「平和」な世界に向かって「知恵」を出し合うことで、オリーブの花言葉の思いが叶う日が来ることを願わずにはいられません。(磯田 進・鳥居塚和生) 

オニノヤガラ

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オニノヤガラ
Gastrodia elata Blume ( ラン科 )

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果実
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芽生え

 日本各地から朝鮮半島,中国大陸,ネパール,インドなど広い地域に分布し,おもに林床などに生育している多年生草本植物です。一般的には塊茎は開花した年に消滅しますが,表面に小さな芽を生じ,その芽が数年間地中で生育し肥大した後に,再び花茎を伸ばして花をつけます。そのため生育する個体数は,年によって増減があります。葉緑素がなく,葉は鱗片状でまばらにつき,栄養物はナラタケ菌と共生して得ています。地上茎は黄褐色で直立し,草丈は60~100cmです。花は黄褐色で筒状に膨らみ,茎の上部に総状に多数つけて初夏から夏に咲きます。種子は微細で多数生じます。
 和名は直立する茎を,鬼が用いた弓の矢に例えて名づけられました。確かに花がまだつぼみの状態の茎は,大地に刺さった弓の矢を連想します。因みに学名(属名)のGastrodiaはギリシャ語の gastr(=胃)に由来し,花の形が膨らんだ胃や腹によく似ていることから命名されたものです。薬用には塊茎を用い,通常は蒸して乾燥させてあります。生薬名をテンマ(天麻)といい,強壮薬の他,めまいや手足の麻痺などの改善を目的とした半夏白朮天麻湯などに配剤されています。
 以前,職場の近くでオニノヤガラを観察した時のことです。つい数日前までは何株かの生育を確認していたのでしたが,その間に無残にも掘り起こされ,薬用部位である塊茎が食い散らかされていました。唯一塊茎が確認できたのは一株だけという惨状でした。その光景を目にした私は,イノシシも薬用効果を期待?して掘り起こしたのかなとの思いが脳裏をかすめましたが,と同時にどのような食味があるのかと興味を抱きました。車で少し行った別の場所にはまだ数多く生育しているところがありましたので,そこで一株掘り取り食べてみることにしました。よく水洗いし,ラップに包んでから電子レンジで加熱したところ,ジャガイモを蒸したような匂いが漂ってきました。わくわくする気持ちを抑えて、落ち着いてしっかり味わうよう心掛けて賞味しましたが,未熟なジャガイモのようなザクザクした食感がありました。味は意外にも甘味があり,これではイノシシが食べるのも仕方がないかなと妙に納得した自分が滑稽に思えました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

オタネニンジン

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オタネニンジン
Panax ginseng C.A.MEYER ( ウコギ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国東北部から朝鮮半島原産の多年生草本植物です。日本では主に長野県や福島県,島根県などで栽培が行われています。根は肥大し茎は直立しています。葉は掌状複葉で,数枚輪生しています。花は散形状につき淡黄緑色で小さく,初夏に咲きます。果実は夏に紅熟します。
 和名は江戸時代に幕府の御薬園で栽培が成功したため,栽培に当たり種子を幕府より拝受されたことから名づけられました。そのため「御種人参」の意味があります。ニンジンは漢名をそのまま用いたもので,古来より人間の形に似ている根は,薬用効果が強いと信じられていたことに由来しています。また朝鮮半島から輸入していたため,一般的には朝鮮人参と呼ばれています。薬用には根が使われ,生薬名はニンジン(人参)といいます。保健強壮薬を目的とした漢方処方に多く配剤されています。
 今から1300年くらい前の飛鳥時代から奈良時代に,薬用として渡来したといわれ,奈良東大寺の正倉院には,当時の人参が今でも保存されています。保存されている人参を調査,研究したところ,有効成分はほとんど変質していないことが分かりました。これは有効成分が化学的に安定していることと,特殊な構造で知られる正倉院の校倉造りが幸いしていたということです。
 一般に「ニンジン」といえば野菜のニンジンを思い浮かべる方も多いと思われます。野菜のニンジンはセリ科の植物でヨーロッパ原産といわれます。日本へは東洋系品種は江戸時代に渡来し,西洋系品種は明治初期に導入されています。最近は,生でも美味しい西洋系品種が好まれているようですが,京料理などには東洋系品種が欠かせないということです。さて,こちらは根の形状がオタネニンジンとよく似ていたため,初めはセリニンジンと呼ばれていたということです。その後,いつしかセリが省略され単にニンジンと呼ぶようになり一般化しました。野菜のニンジンは薬用ニンジンと比べ新参者ということになります。「ニンジン」と言われたときに,オタネニンジンが思い浮かぶようであれば,生薬や漢方薬に関心がある方ということが出来るかもしれません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

オケラ

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オケラ
Atractylodes japonica KOIDZ. ( キク科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州から九州,朝鮮半島,中国東北部に分布し,やや乾燥した日当たりのよい草原に生育する多年生草本植物です。秋に白から淡紅色の花をつけ,総苞は魚の骨のような形をしています。和名は古名のウケラが転訛したもの。薬用には根茎を用い,生薬名をビャクジュツ(白朮)といいます。民間では芳香性健胃薬として用いられ,漢方薬では止瀉整腸薬や利尿薬を目標に配剤されます。
 柔らかい綿毛に被われるオケラの新芽は,アクがなく,特有の香りをもつ美味しい山菜の一つです。信州では昔から「山で美味いはおけらにととき(ツリガネニンジンの新芽),里で美味いはうり,なすび,・・・」と謡われ,春を告げる食材として親しまれています。
 オケラは古くから邪気を払うと信じられているようです。京都祇園の八坂神社では,大晦日の祭事でオケラの根茎が焚かれます。参拝者は,この火を藁縄に移し,火が消えないようにくるくる回しながら家路を急ぎます。そして,これを種火として新年を祝うお雑煮を作り,厄除けと無病息災を願って食べるのです。京都では,この風習が市民の間で現在も受け継がれ,新年の風物詩になっていまいす。また,オケラの根茎である白朮は,元旦に一家の無病息災を願って飲まれるお屠蘇にも配合されています。オケラは新年の祝いごとの黒子といえるようです。(磯田 進)

オオバコ

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オオバコ
Plantago asiatica L. ( オオバコ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 東アジア各地に分布し,原野や路傍に生育する多年生草本植物です。葉は卵形から広卵形で多数根生します。花は小さく,葉間から生じた花茎に穂状につけます。さく果は卵状長楕円形,種子は楕円形で小さく,黒褐色に熟します。
 和名は大葉子の意味があり,広い大きな葉の形に由来します。また学名の Plantago も大きな葉に由来し,足跡や足の裏という意味があるのです。ちなみに,イギリスでは,オオバコの仲間をキリストの足跡と呼んでいるそうです。薬用には開花期の全草や種子を用います。生薬名はそれぞれシャゼンソウ(車前草)およびシャゼンシ(車前子)といい,ともに利尿薬や去たん薬とします。生薬名の車前の由来は,種子は水気を帯びると膨潤し,粘着性を帯び人間などに付着して広がり,馬車や牛車などが行き交う以前から路傍に生育していたことにあるようです。
 花は雄しべと雌しべが同時に成熟しますが,中には雌雄どちらかが先に熟し,同じ花では受粉しない仕組みになっている種類もあります。これらの仕組みは,近親交雑を極力避け,遺伝的に多様な形質を受け継いだ子孫を残すための自然界の妙技といえるでしょう。
 オオバコの花穂をルーペで観察しますと,雌しべが先に熟し,雄しべはその後を追うように熟しているのがわかります。このように雌しべが先に熟す花としては,モクレンやキンポウゲなどがあります。一方,草原を彩るキキョウやヤナギランなどは,反対に雄しべが先に熟します。また,オオバコの花は昆虫の助けを借りて受粉する虫媒花ではなく,キク科のヨモギや裸子植物のイチョウやスギなどと同じように風媒花としても知られています。このため花には,昆虫を誘惑するための花弁がありません。(磯田 進)

オオツヅラフジ

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オオツヅラフジ
Sinomenium acutum REDER et WILSON ( ツヅラフジ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本の関東以西から中国にかけて分布し,林縁などに生育している落葉性の蔓性植物です。蔓は樹木などに絡みつき,樹木を覆ってしまうくらい生育していることもあります。雌雄異株。葉は互生して長い葉柄をつけ,葉身は円形から卵状円形でしばしば5~7つに浅または中くらいに裂けていますが,その形は変化に富んでいます。面白いことに秋の落葉時,初め葉身が落葉し,後に葉柄が脱落します。花は淡黄緑色で小さく,円すい状について夏に咲きます。果実はやや扁平で歪んだ球状になり,秋に黒青色に熟します。
 和名は近縁種のアオツヅラフジと比べ葉や茎などが大形で,茎は丈夫でしなやかな蔓であるところから,古来,葛籠の材料として利用したことに由来しています。しかし本種の方がよく用いられたため,単にツヅラフジとも呼ばれることもあります。薬用には太めの茎および根茎を用います。生薬名をボウイ(防已)といい,鎮痛や利尿を目的とした防已黄耆湯などの漢方処方に配剤されています。
 一昔前と比べ,登山の人気は今一つの感があり,いつの頃か若者より中高年の登山客が多くなってしまいました。植物観察を兼ねた登山を趣味としている私などは,この現状に対し一抹の寂しさがあり残念でなりません。幾重にも曲がりながら続く九十九折りの急斜面の登山道を,息を切らしながら登らなくてはならないときには,確かに体力的にも精神的にも辛いと思うことがあります。もう登山は卒業しようと脳裏をかすめたことは,一度や二度ではありません。しかし頂上にたどり着き,周囲の景色を眺めながらの達成感は何にも代え難い満足感があります。もはや先ほどの邪念?は忘れ去り,次はどこの山へ行こうかと考えてしまうほどです。このような登山道をはじめ,急斜面をジグザクに登る道を「九十九折り」または「葛折り」の坂道と表現します。その道筋から蔓性の植物が樹木に絡みついている様子や,蔓を編んで制作した葛籠の様を表現したものです。普段,何気なく使っている言葉の中には,その語源が植物に由来していることも少なくありません。(磯田 進)

エンジュ

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エンジュ
Sophora japonica LINN. ( マメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国北部原産。時代は定かではありませんが,日本へはかなり古い時代に薬木として渡来しました。公害にも比較的強いため,街路樹や庭木として各地で植栽されている落葉高木です。葉は羽状複葉で,互生しています。花は盛夏から初秋にかけて咲き,淡黄白色で総状に多数つけます。そのため花が散ると根元付近は淡黄白色の絨毯を敷いたような光景になることも珍しくはありません。果実は円柱状でインゲン豆の莢に似ていますが,種子の間がくびれて数珠状となって枝分かれしながら下垂し,熟しても開裂することはありません。名前が似ている植物に,分類学的には別属のイヌエンジュがあります.本州以北の山地や河岸に生育していますが,こちらの果実は扁平で垂れ下がりません。
 和名は,古名の恵爾須(えにす)が転訛したといわれています。この恵爾須とは,同じマメ科の別属に分類されているイヌエンジュを指していますが,林業や造園関係者は今でもイヌエンジュをエンジュと呼んでいたり混乱があるようです。また中国原産の樹木にも関わらず学名の種小名に"japonica"と記載されています。これは古い時代から植栽されていたため,日本原産と誤認してしまったようです。日本では薬用に蕾を用いますが,中国では果実も用います。生薬名は前者をカイカ(槐花),後者をカイジツ(槐実)またはカイカク(槐角)といい,ともに止血作用があるとされ,痔や血便があるときに用います。またカイカには,毛細血管強化作用があり,脳出血や高血圧にも効果があるルチンが多く含まれていることも知られています.
 語呂合わせから,縁起がよいとしてお正月など飾られる植物があります.例えば,災難を転じるとしてナンテン(難転)や,お金に困らないようにセンリョウ(千両)・マンリョウ(万両)などが飾られます。これらの植物は名前もさることながら,赤い実は殺風景な冬の季節に彩りを添えますので,皆さんの中にも玄関や床の間に飾られた方は多いと思います。さて,このエンジュですが,中国の最高の官職であった太師,太傳,太保の三公の執務する朝廷内の庭に植えられていた,という故事があります.そのため,古来より高貴な樹木の一つとして尊ばれてきました。また日本でもエンジュは「延寿」に通じるため,とても縁起のよい樹木と言い伝えられ各地で植栽されています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

エンゴサク

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エンゴサク
Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu ( ケシ科 )

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エンゴサク 花 ジロボウエンゴサク 花
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エゾエンゴサク 花

 中国の東部から朝鮮半島に分布し,やや乾燥し,肥沃で明るい林床などに生育している多年生草本植物です。渡来は江戸時代の享保年間(1717-35)といわれ,薬用植物園の標本園などに植栽されています。地下茎は肥大して塊茎となり,茎は細くて折れやすく,草丈は10~20cm,葉は二回三出複葉です。花は紅紫色でスミレなどにも見られる距(きょ)を生じ,総状について早春から春に咲きます。果実は線形の蒴果となっています。
 植物の和名は,生薬名から名づけられました。薬用には塊茎を用い,生薬名をエンゴサク(延胡索)といいます。各種症状の鎮痛の改善を目標とした安中散や折衝飲などの漢方処方に配剤されています。民間薬として単独で用いることはありませんが,漢方処方を基本としたOTC薬の健胃薬などに配剤されています。かつて日本に自生する近縁のジロボウエンゴサクやエゾエンゴサクなども利用していましたが,現在では市場性がないということから局方より除外されました。これら薬草は作用が激しいため,一般の人たちにとっては毒草として取り扱われます。
 本植物は,早春から春に花が咲いて初夏には地上部が枯れ長い休眠に入る,いわゆるスプリング・エフェメラル・春植物(Spring ephemeral)といわれる植物の一種です。このような性質の植物は,冬に葉を落とし,春の到来とともに芽生える温帯に見られる夏緑広葉樹林の生態系に適応した植物といわれています。一般的に夏緑広葉樹は草本植物より芽生えが遅く,夏に葉が生い茂ると直接日差しが差し込むことが少ない樹林ですが,早春は葉を落としているために林床は明るい環境となっています。この直接日差しが差し込む短い期間に芽生えて光合成を行って開花・結実し,更に地下部に栄養を蓄えます。夏以降は樹木の葉が生い茂り,樹林内は薄暗く生育に適さない環境となってしまうため休眠に入ります。この様な生育を示す植物は,延胡索やジロボウエンゴサク,エゾエンゴサクの他には,キンポウゲ科のフクジュソウやイチリンソウ,ユリ科のカタクリやショウジョウバカマカなどが知られています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

エビスグサ

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エビスグサ
Cassia obtusifolia L. ( マメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 
 熱帯から温帯にかけて広く栽培されている南アメリカ原産の一年生草本植物で,夏に黄色い花をつけます。果実は細長くやや湾曲し,種子はひし形状で艶があります。日本には享保年間(1716~36),中国南部より渡来しました。

 和名の「エビス」は七福神の「恵比寿様」と勘違いされそうですが,実際は遠い異国から渡来したという意味の「夷草」に由来します。種子は緩下・利尿に用いられ,生薬名をケツメイシ(決明子)といいます。また,「ハブ茶」の名で古くから健康茶として利用されています。
 ところで,皆さんはエビスグサが農薬の代わりに使われているのを御存じでしょうか。近年,健康に対する関心が高まり,無農薬野菜が好まれるようになりましたが,農薬を使わなければ病害虫によって深刻な被害を受けます。野菜(特に根菜類)は,ネグサレセンチュウが根を食べることによって組織の一部が斑点状に腐り,商品価値が著しく損なわれます。が,畑にエビスグサを植えておくと線虫の数が激減するそうです。同じような作用をもつ植物として,マリーゴールドもよく知られています。ダイコンの生産者の中には,線虫の防除を目的としてこうした植物を栽培する農家が増えてきました。
 エビスグサは種子が生薬として利用されるだけでなく,有害センチュウに対して駆除作用ももつ不思議な植物です。(磯田 進)

エゾウコギ

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エゾウコギ
Eleutherococcus senticosus Maximowicz ( ウコギ科 )

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果実
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芽生え

 北海道からロシア,中国北部に分布し,やや湿り気のある林床や林縁に生育する夏緑広葉樹です。雌雄異株。樹高は3~5m,枝にはやや下向きの細く鋭い針状の刺を密生しています。葉は互生し有柄,葉身は小葉が3~5枚の掌状複葉です。また各小葉は長楕円形から倒卵状楕円形で先端は細長く尖り,両面,特に裏面の葉脈には毛が密生しています。花は淡黄緑色で枝の先端に散形状につき,夏に咲きます。果実は楕円状で秋に黒紫色に熟します。しかし多くの植物のように果実は熟していても,種子はそのままでは発芽できない特性があります。種子中の胚は未熟な状態にあるため,秋に地上に落下した果実(種子)は翌年の春から秋にかけて胚が成熟します。そしてその冬の低温に感応し,果実が熟してから翌々年の春になってやっと発芽することになります。この様な種子を後熟性種子といいます。
 和名は北海道(蝦夷)に生育するウコギの意味からエゾウコギといいます。薬用には根皮を用います。生薬名を"シゴカ(刺五加)"といい,滋養・強壮薬とします。薬用効果がニンジン(人参::オタネニンジン Panax ginseng C.A.Meyer)と類似していることから,別名を"シベリア人参"ともいいます。生薬名はウコギの漢名である五加と茎に生じる鋭い針状の刺とに由来しています。因みに学名のsenticosusも鋭い刺を意味しています。
 エゾウコギは北海道に自生が確認されていたものの,アイヌの人たちは薬用として利用していませんでした。また北海道を開拓した農民や屯田兵たちも,鋭い刺が密生しているエゾウコギを開墾の障害になるといって嫌っていたほどでした。中国でも利用の歴史は浅く,世界の注目を浴びるようになったのは,モスクワオリンピックに参加したソ連(現ロシア)選手や宇宙飛行士たちが用いていたという報道以後です。その後,日本でも健康食品として利用されてきましたが,日本薬局方に収載されたのは第十五改正からですので最近のことになります。個人的な好みですが,芽生えは特有の風味があり大変美味しい山菜でもあります。生薬や健康食品としての利用だけではなく,山菜としての利用価値も大いにあるのではと考えています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ウンシュウミカン

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ウンシュウミカン
Citrus unshiu MARKOVICH ( ミカン科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本の関東以南の暖地で栽培されている常緑の小高木。花は白色で初夏に咲き,爽やかな芳香があります。果実は扁球状で果皮は精油を含み,果肉は多汁質で初冬に黄熟します。
 和名のミカンは,柚柑または蜜柑からの転訛といわれています。ウンシュウは柑橘の名産地であった中国浙江省温州に因む命名ですが,現在は日本原産種と推定され,一般に鹿児島県原産とされることが多い。とても甘く美味しいにも関わらず,種子ができにくいことから,江戸時代は子宝に恵まれないことに通ずるとして忌み嫌われ,全国的に普及したのは明治に入ってからです。薬用には成熟した果皮を芳香性健胃薬として用い,生薬名をチンピ (陳皮) といいます。またとても香りが良いことから,乾燥し布の袋に入れて入浴剤として利用できます。
 初冬になると,植木屋さんなどで黄色く色づいたウンシュウミカンの鉢植えを目にします。ミカンの仲間は種子を播いても,親株と同じ性質を持たないことが多く,市販の鉢植えや農家が栽培している苗木はすべて接ぎ木によるものです。接ぎ木の台木には一般に寒さや病気に強いカラタチやユズ,それに最近健康食品で話題となっている沖縄産シークワサーなどの実生苗などが利用されますが,その後の生育や果実の品質には台木の種類が微妙に影響するといわれています。またウンシュウミカンやアマナツミカン,グレープフルーツ,レモン,キンカン,カボスなどを接ぎ木し,一株にいろいろな種類の果実を実らせ,地域の話題となっていることもあるようです。(磯田 進)

ウラルカンゾウ

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ウラルカンゾウ
Glycyrrhiza uralensis FISHER ( マメ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国,モンゴル,ロシアに分布し,乾燥した草原に生育している多年生草本植物です。根は地中深く伸び,ストロン(根茎)を横に伸長させます。葉は奇数羽状複葉で,小葉は短毛や腺毛で被われています。花は初夏から夏にかけて咲き,淡紅紫色から紅紫色をしています。果実は湾曲して短い刺があり,黒色で光沢がある種子をつけます。
 和名のウラルカンゾウは,ロシアのウラル地方に分布しているところから名づけられました。また根やストロンが独特の甘みをもつことから植物名および生薬名ともにカンゾウ(甘草)の名が付けられました。生薬としての甘草は,鎮痛作用,去たん作用などを期待して漢方処方に配剤されています。そればかりでなく,甘草は漢方処方の70%以上に配剤されており矯味薬としての役割も担っています。また意外と知られていないことですが,お醤油やお菓子の甘味料,タバコのフレーバーとしても甘草は用いられ,その消費量は薬用での消費量の数倍といわれています。
 八代将軍の徳川吉宗は,テレビドラマでは暴れん坊将軍の名で親しまれていますが,民政の安定や目安箱の設置など数多くの改革,いわゆる享保の改革を断行した人でもあります。その業績のひとつに,中国や朝鮮半島からの輸入に頼っていた甘草や薬用人参などの生薬の国産化を奨励したことが挙げられます。甘草については甲斐の国の高野家で発見され,近在の農家とともに栽培が行われるようになりました。ここで生産された甘草は中国から輸入した高価な甘草に勝るとも劣らない品質であったことから,その後,甲州甘草として幕府への重要な献上品になったということです。現在,高野家住宅は国指定重要文化財として保存されています。「甘草屋敷」の名称で親しまれ,甲州市では住宅も含め「薬草の花咲く歴史の公園」として一般公開しています。当時栽培されていた甘草は,研究の結果ウラルカンゾウであることが明らかとなっています。JR中央本線,塩山駅前にありますので,一度足を運ばれ,往時を偲んでみてはいかがでしょうか。(磯田 進・鳥居塚和生)

ウメ

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ウメ
Prunus mume SIEB. et ZUCC. ( バラ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産の落葉小高木。和名は「梅」の中国読みから転訛したものです。奈良時代前に渡来し,観賞用や果樹として広く栽培されていたようです。花には特有の芳香があり,白色から紅色まで多くの園芸種があります。日本では6月頃の雨期「つゆ」に「梅雨」とあてますが,この頃に果実が黄緑色に熟すからでしょう。
 薬用には,未熟な果実を燻製にして利用します。こうして作られた生薬を「ウバイ(烏梅)」といい,解熱や鎮咳薬などに用います。
 ウメは日本の代表的な花木の一つで,古くから数多くの絵画に描かれ,短歌,俳句などでも詠み親しまれてきました。国宝に指定されている尾形光琳の屏風絵「紅白梅図」(国宝) は,清流を挟み,右側に紅梅,左側に白梅を描いたものです。毎年,梅の季節に一般公開されます。私が訪れた日曜日は,観客で溢れ,人垣の間から覗き見るのが精一杯でした。
 鹿児島県や宮崎県には「臥龍梅」と呼ばれる梅の老木があり,ともに国の天然記念物に指定されています。伸びた枝が地面に着き,そこから再び根を張って,枝を四方に広げた姿が素晴らしことから,想像上の生き物である龍に例えられたわけです。梅には,老いるほどに風情を醸しだし,銘木とされるものが全国各地にあるようです。(磯田 進)

ウド

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ウド
Aralia cordata Thunberg ( ウコギ科 )

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果実

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芽生え

 東アジアの温帯に分布し,適湿でやや肥沃な各地の山野に生育しています。株全体に特有の芳香があり,食用として栽培されている多年生草本植物です。生育は旺盛,大形で草丈は1.5mくらいになり,茎は太く,やや硬めの毛を生じています。葉は互生し,葉身は二回羽状複葉,各小葉は鋸歯があり卵形で先端が尖り,長い葉柄を生じます。花は同じウコギ科のヤツデに似て淡黄緑色,茎の上部に散形状花序が総状について夏に咲きます。果実は球状,秋に黒紫色に熟します。
 和名の語源は種々あり定かではありませんが,茎は太くなると空洞になり,用材などに利用できないため虚(ウツロ)の転訛,また土中に埋もれていた芽が春に萌芽し,柔らかい芽生えを食用とすることから埋(ウズ)が転訛して名づけられたという説などがあります。薬用には根茎を用い,生薬名をドクカツ(独活)といい,解熱,鎮痛薬とします。また根をワキョウカツ(和羌活)といい,中国原産でセリ科の羌活(Notopterygium incisum Ting ex H. T. Chang)の代用として,感冒や頭痛,関節炎の改善を目的に利用することもあります。
 ウドといえば多くの方々は薬用植物ではなく,山菜や野菜というイメージをお持ちではないでしょうか。芽生えは爽やかな香りと風味があり,昔から山菜として多くの人たちに親しまれてきました。最近は山菜としての需要が高くなりました。そのため市場に出回っているものは,ほとんどが促成栽培されたものです。自然の状態より少し早めに出回り,自然とは縁遠くなった都会の青果店やスーパーの野菜コーナーなどで自然の恵みを演出しています。松尾芭蕉(1644-94)は「雪間より薄紫の芽独活(めうど)かな」と詠み,柔らかく白い毛を生じた薄紫色の芽生えを,春の到来を告げる光景として感動しているように思えます。このようなウドですが、柔らかであった芽生えも,夏を過ぎる頃には茎も太く強固になり,地上部が枯れた冬には一見木本植物のように見えてきます。しかし所詮,草本植物です。「材木」としては活用することはできません。この点を取立てて、図体ばかりでかくて役に立たない例えとして,「ウドの大木,柱にならず」といったことわざが生まれました。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ウツボグサ

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ウツボグサ
Prunella vulgaris LINNE var. lilacina NAKAI ( シソ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 北半球の温帯に分布し,日当たりのよい山野に生育するシソ科の多年生草本植物です。株全体に粗い白毛を生じています。葉は対生し,葉身は卵状楕円形をしています。花は紫色から淡紅紫色で花茎の上部に密につけ,初夏から夏に咲きます。シソ科植物の多くは,一般的に精油を含み芳香がありますが,本種には特有の芳香がありません。
 和名は,花穂の形が弓矢を入れる靱(うつぼ)に見立てて名づけられました。薬用には開花期の花穂を用います。生薬名をカゴソウ(夏枯草)といい,利尿薬として残尿感や,排尿に際し不快感が生じるような時に用います。また民間薬として,口内炎や扁桃腺炎などの炎症を和らげる時にも用います。因みに学名のPrunellaは扁桃腺炎という意味があり,ヨーロッパでも近縁のセイヨウウツボグサを,喉の炎症を和らげるためのうがい薬として利用していたことに由来します。このように民間薬的な用いられ方をしていたため,セルフヒールという英名が付けられています。夏枯草の語源は,葉に先立って夏に花穂が枯れることに由来しています。
 シソ科植物の中には観賞用として栽培される種類が多く,ウツボグサと同じように花が円錐形に密につける種類には,香料や芳香性健胃薬としてもちいるモナルダ(別名タイマツバナ,ベルガモット)などがあります。花の色も赤や白,ピンクと色鮮やかで人気があるようです。ウツボグサの花は地味な淡青紫色のため,山野草として栽培される以外は観賞用としては,あまり人気がないようです。最近,ヨーロッパからコーカサス地方にかけて分布する,花穂の大きなタイリンウツボグサが植物園などで栽培されることが多くなりました。花色は同様に人目を引くほど鮮やかではなく,観賞用としては今一つ人気が出ないと言うことです。最近の急速に進んだバイオテクノロジーにより,紅色や黄色など色鮮やかな花が育種されたならば,薬用だけではなく観賞用として,もう少し人気が出るのではないかとも想像を膨らませますが,この風合いにこそ静かな美しさを感じるものでもあります。(磯田 進・鳥居塚 和生)

ウスバサイシン

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ウスバサイシン
Asiasarum sieboldii F. MAEKAWA ( ウマノスズクサ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 日本から中国にかけての地域に分布し,林床に生育している多年生草本植物です。葉はハート形で多くは2枚生じ,春に葉の間から淡汚紅紫色をした花を一つ咲かせます。花には花びらはなく,萼の裂片が花びら状になっています。近縁の植物にフタバアオイがありますが,こちらは薬用とせず,王朝風俗を現代に伝える優雅な京都の下加茂神社の葵祭りのシンボルであり,徳川家の家紋でもあります。
 和名は中国に分布する細辛の仲間で,葉が薄いことから名づけられました。細辛は根が細く,咬むととても辛いことに由来しています。薬用には根および根茎を用います。生薬名をサイシン(細辛)といい,鎮咳や去たん薬,鎮痛薬を目的とした漢方処方に配剤されています。
 ヒメギフチョウは別名,春の女神ともいわれ,明るい陽春の下で優雅に舞う姿は正に春の女神に相応しい愛らしさです。しかし,最近はその生息数が激減し,絶滅が心配されています。近縁のギフチョウはランヨウオイやフタバアオイを食草としますが,ヒメギフチョウの食草はウスバサイシンです。彼らの生息地は,ヒメギフチョウは中部以北,ギフチョウは中部以西が中心で,両者の境界は私が住んでいる山梨県やお隣の長野県といわれています。厳しい冬をさなぎで耐えたヒメギフチョウは,春の到来とともに羽化します。そして交尾後,成虫はウスバサイシンの若葉に産卵します。ふ化した幼虫は4回ほど脱皮を繰り返し,夏,さなぎに変態して再び永い眠りに入ります。そのため,春の女神を観察できる期間は意外に短く,わずか2ヶ月間ほどです。優雅にヒラヒラと舞うヒメギフチョウやギフチョウを目にした日は,ラッキーな一日の前兆かも知れません。(磯田 進)

ウコン

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ウコン
Curcuma longa L. ( ショウガ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インド原産の多年草です。日本へは享保年間 (1716-36) に渡来して以来,各地で栽培されています。草丈は1 m以上になり,秋に葉の中心部より緑白色の花穂を出して淡黄色の花をつけます。根茎は太く,内部は鮮黄色をしています。和名は漢名の鬱金,学名のCurcumaは「黄色い」というアラビア語が語源で,ともに根茎の色に由来しています。
 薬用には茎根を用い,生薬名をウコン(鬱金),ハーブ名をターメリックといいます。健胃薬のほか,カレー粉などの食品色素として利用されていますが,最近は健康食品としても人気があります。
 ウコンの利用は,薬用やハーブだけではありません。古くから黄色の染料としてよく知られています。ウコンで染色した布は虫がつき難いといわれ,虫の被害から貴重な骨董品や書画などを守るため,この布で包む習慣がありました。また,インドでは魔除けになると言い伝えられており,ヒンズー教の儀式には必ず用いられるということです。山田洋次監督,高倉健主演の「幸福の黄色いハンカチ」(昭和52年制作)のシンボルカラーも黄色でした。黄色には私たちの生活に幸せを運ぶ,不思議な力があるのかも知れません。(磯田 進)

ウイキョウ

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ウイキョウ
Foeniculum vulgar MILLER ( セリ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヨーロッパ原産の多年生草本植物。全草,特に果実は特有の芳香があります。葉は2回羽状に深く裂け,細い糸状の裂片になっています。花は黄色で小さく複散形状につけ,夏に咲きます。果実は果皮が薄いため,まるで種子のように見え卵状楕円形で熟すと2つに分かれます。
 和名は漢名(茴香)の音読みです。茴香とは魚などの生臭さを消し去り,香りが回復するという意味があります。また別名をフェンネルともいいますが,これは英語のfaennelをそのまま発音したもので,ハーブ関係ではこちらが標準的な名称となっています。薬用には果実を用います。生薬名もウイキョウ(茴香)といい,芳香性健胃薬などの製剤原料とします。また健胃消化薬,鎮痛,鎮けい薬を目的とした漢方処方に配剤されています。その他,ハーブとしてカレー料理などにも利用されています。
 セリ科植物はそれぞれ特有の香りがあり世界各地で親しまれていますが,原産地のヨーロッパからシルクロードを経て中国に伝わり,日本には9世紀よりも前に渡来していたといわれています。セリ科の植物は日本でもミツバ,セリ,ハマボウフウなどが和食の食材としても利用され,独特の香りも味わいになっています.芳香は常温でも揮発しやすい精油によるものですが,セリ科であってもチドメグサの仲間は,精油を貯蔵する組織がないため特有の香りをもっていません。
 ところで精油は植物のどの様な組織に貯蔵されているかご存じでしょうか。精油は油道または油管と呼ぶ組織の中に貯蔵されています。この油道は,細胞同士が離れてできた間隙により生じたものと,組織が生長することにより細胞が破壊されて生じたものに分けることができます.前者を離生細胞間隙,後者を破生細胞間隙といいます。ウイキョウをはじめとしたセリ科の精油や,松ヤニ,タンポポの乳液などは離生細胞間隙に貯蔵され管状になっているものが多いようです。一方,破生細胞間隙は柑橘類の皮などにみられる油室がそれに当たります.ちなみに組織が生長することにより細胞が破壊されて生じる間隙には大きなものもあり,タケなどイネ科植物の茎に生じる中心部の空洞も実は発生的には同じものなのです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

インドジャボク

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インドジャボク
Rauwolfia serpentine BENTH. ex KURZ ( キョウチクトウ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 インドから東南アジアにかけての熱帯アジアに分布し,ジャングルなどの林床に生育している常緑の低木です。インドジャボクは耐寒性がないため,日本においては薬用植物園の温室などで植栽されることが一般的です.(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターでは研究用に露地栽培を行っていますが,栽培地は種子島研究部という温暖な場所です。樹高は0.3~1.5m,葉は上部で3枚が輪生または対生し,葉身は楕円状で先端は尖っています。花は筒状で内面は白色,外面は淡紅色を呈し,枝の上方に集散状につきます。気温がコントロールできる温室の中では,一年中開花します。果実は球状で,光沢のある黒紫色に熟します。
 和名の「印度蛇木」は,根の形状がヘビに似ていることに由来する説と,古来インドで毒ヘビによる咬傷の治療薬として根を用いたことに由来する説などがあります。学名の種小名もヘビを意味するserpentineが用いられています。因みに属名のRauwolfiaは,医師で植物学者のドイツ人であるRauwolfを記念して名づけられています。漢名は同様に「蛇根木」,英語名もSerpentine Tree(ヘビの木)と表記します。生薬名はラウオルフィアといいますが,日本では生薬としてそのまま用いることはほとんどありません。根に含まれている成分を精製単離し,血圧降下薬や精神安定薬,鎮静薬,抗不整脈薬の製剤として利用しています.
 本植物はあまり馴染みのない熱帯植物ですが,現在100種類ほどが知られています.インドの伝統医学であるアーユルヴェーダ医学では,毒ヘビに咬まれた際の解毒薬や精神病の治療薬として利用しています。熱帯アメリカのグアテマラにおいても近縁種が分布していますが,アーユルヴェーダ医学と同様に毒ヘビの解毒薬として利用しています。含有する成分は,共に現在においても人類に多大な恩恵を与え続けていますが,両地域は距離的にも遠く離れており,その経験や知識など,お互いに共有していたとは考え難く,独自に見いだされたと考えるのが妥当だと思います。偶然といってしまえば簡単ですが,科学的な知識や情報伝達が現在ほどではなかった昔を思うと,人類が持っている洞察力や英知のすばらしさに敬服してしまいます。(磯田 進・鳥居塚和生)

イネ

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イネ
Oryza sativa LINNE ( イネ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 熱帯アジア原産で,日本へは古い時代に農耕文化とともに中国を経て渡来しまた。主にアジア各地で栽培され,近年はアメリカやオーストラリアなどでも栽培されるようになってきました。温帯では一年草ですが,冬期のない熱帯では多年草となることもあるようです。日本での栽培は,4月下旬に苗床に播種し育苗し,5月下旬から6月にかけて水を張った水田に定植(田植え)します。その後は水の管理や除草を行い,8月から9月にかけて出穂,開花し,10月に収穫します。その間の農作業は機械化が進んだとはいえ,現在でも多くの労力を必要としています。また栽培法により水田で栽培する水稲と畑で栽培する陸稲に分けることができ,それぞれの栽培法に適応した品種が育種されています。
 イネはモミの形状によって,大きくインド型と日本型に分けることができます。インド型イネは熱帯アジアや中国南部,南米やヨーロッパなどで栽培され,モミは細長く食味もパサパサしています。それに対し日本型イネは東アジアや北アメリカなどで栽培され,モミは丸味を帯び,粘り気の強い特徴があります。またデンプンの違いによって粳米と糯米に分けられます。 和名は漢名の音読みです。薬用としては,種子のデンプンをコメデンプンとして製剤のときの賦形剤として利用します。また漢方医学では,種子そのもの(玄米)をコウベイ(粳米)といい,麦門冬湯,白虎加人参湯などの処方に配剤されています。粳米と小麦の種子に麦芽を加えて糖化させた飴は,コウイ(膠飴)と呼ばれ体力や気力を益す作用があるとされ,小建中湯,大建中湯などに配剤されています.
 イネは主食や薬用以外でも,日本酒や味噌,醤油,煎餅などの原料として利用されています。精米時にでる糠は糠漬けとして,収穫後の稲藁は畳の床や堆肥として有機質肥料に利用されています。またお正月注連飾りには,緑色を帯びたあまり痛んでいない藁を利用しています.このようにイネは,主食のお米や薬用への利用から肥料や日常の生活に潤いを提供する品々にまで利用され,ほとんど無駄のない環境に優しい植物といえます。(磯田 進・鳥居塚 和生)

イヌサフラン

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イヌサフラン
Pinus densiflora IEB.Et ZUCC. ( マツ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 ヨーロッパから北アフリカにかけて分布し,少し湿り気のある原野や牧場などに生育している多年生草本植物です。日本へは明治時代初期に渡来し,各地の植物園や庭などで観賞用に栽培されています。葉は広線形で春に出葉しますが,夏には枯れてしまいます。花は9月から10月頃に咲き,ロート状で淡紅紫色を呈しています。果実は楕円状のさく果で花柄の先端につき,種子は球状で黒色に熟します。
 薬用には鱗茎または種子に含まれているコルヒチンを用います.過去にリウマチ治療薬としてエキスのチンキ剤を用いられたこともありましたが,現在では単離精製したコルヒチンが製剤原料として利用されています。長期間投与により,再生不良性の貧血など重篤な副作用の報告があり医師の指示のもとに使用されます。また医療への利用のほかに,コルヒチンは植物細胞中の染色体を倍化する作用があることから,農作物の品種改良にも利用されています。アヤメ科のサフランに似た花をつけることから,和名はイヌサフランと名づけられました。雌しべの先端が3つに分かれている点は同じですが,イヌサフランの花は,紅色ではなく白色を呈しています。
 最近,毒草による中毒事故が多発しています。この中で,死に至ってしまう事故例は特定の植物種が多いように思います。そのようなことから毒草による中毒事故を未然に防ぐため,機会ある毎に市民講座などでお話しして注意を促すよう努めています。例えばコンフリーと誤認されやすい,強心作用の強いジギタリスの芽生え,山菜のウルイ(オオバギボウシの芽生え)と誤認されやすいバイケイソウ,同じく山菜のシドケ(モミジガサの芽生え)やニリンソウなどと誤認されやすいトリカブトなどが挙げられます。更に最近では観賞用として栽培しているイヌサフランやグロリオサの芽生えや鱗茎,根茎を,ジャガイモやヤマノイモ,ギョウジャニンニクなどの野菜と誤認する事故が目立つようになってきました。それらの植物にコルヒチンが含まれていることは以前から知られていましたが,このような誤認事故は私たちにとって想定外の中毒事故といえます。鑑賞や園芸用として出回り,目に触れる機会が増えていたことによるのでしょう.
 近年,多くの領域で危機管理が問われるようになりました。これからは園芸植物や鑑賞植物などの領域でも,有毒植物に対する危機管理が必要な時代になったようです.正しい知識を伝える必要性が高いと痛感しているところです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

イチョウ

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イチョウ
Ginkgo biloba Linne ( イチョウ科 )

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花(雌) 花(雄)

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種子

 中国原産。雌雄異株の夏緑広葉樹。各地の寺社や街路樹などに植栽されています。樹高は30mくらい,大木になりやすいために各地で天然記念物として指定されている例も多いです。渡来は不明ですが,室町時代には植栽されていたようです。葉は扇状で波状,中央部分が切れ込んでいます。一般的に切れ込みの程度は,幼木では深く,老木では浅くなる傾向になります。花は春に咲きますが,雄花は尾状につき,雌花は花柄の先端に二個生じます。花粉は受粉後胚珠内に入り,秋に発芽して精子を生じ受精します。この精子の発見は,平瀬作五郎が東京大学小石川植物園の株より見出し,1896年に報告しましたが,この発見は当時,世界中の研究者を驚かせた出来事でした。種子は球状で秋に黄熟し,多肉質の部分は悪臭を放ちます。稀に葉の上に種子を生じることがあり,オハツキイチョウと呼ばれています。
 和名は中国の宋時代に鴨脚と呼ばれていましたが,当時の日本人には「ヤーチャオ」と聞こえていたようです。その後発音は「イーチャオ」に変化し,更にその転訛といわれています。薬用には葉や多肉質を除去した種子を用います。葉は大脳の血流改善作用があるためドイツやフランスなどでは,脳血管障害の改善などの医薬品として利用されています。また多肉質の部分を除去した種子(いわゆるギンナン)は食用とする他,民間薬として鎮咳などに利用しています。
 近年,健康への関心の高まりに伴い,健康食品の売上高は2兆円という巨大産業となっています。日本では法律的な面から健康食品としての位置づけとなっているものでも,ヨーロッパでは医薬品として利用されていることがあります。イチョウの葉は上述のようにドイツやフランスなどで脳血管障害の改善などの医薬品として利用しています。40年くらい前,茨城県内の薬用植物の栽培地を見学した時のことです。畑を見ると,きれいに刈り込まれたイチョウが多くあることに目が留まりました。農家の方に何故このような方法で栽培するのですかと質問したところ,葉をヨーロッパへ輸出するとのことでした。何に使用するのだろうと不思議に思っていましたが,後に医薬品原料とすることを知り驚いたことがあります。
 イチョウの種子の多肉質の部分には皮膚炎などを発症する成分を多く含み,うかつに触れて手がかぶれてしまった経験がある方もいるかと思います。この成分は葉には少ないと言われますが,少量は含まれていることが知られています。イチョウの葉由来の健康食品が日本の薬局やドラッグストアーで販売されていますが,健康食品として利用される際に特にかぶれ易い方は,これら成分が除去されている製品を利用するように心がけてください。(磯田 進・鳥居塚 和生)

イカリソウ

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イカリソウ
Epimedium grandiflorum Morren var. thunbergianum Nakai ( メギ科 )

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イカリソウ ホザキイカリソウ

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錨(小型船用)

 主に日本の太平洋側に分布し,夏緑広葉樹林の林床や林縁などに生育している多年生草本植物です。根茎は太く,地上茎は細くしばしば叢生します。草丈は20~40cmです。葉は1-3回3出複葉で,各小葉は薄く紙質,基部が心形で先端が尖り少し変形したハート形をしています。花は赤紫色または白色で花弁は4枚,各花弁には細長く突き出た距があり,花茎に総状について春に咲きます。この仲間の中では,比較的大きな花をつける植物です。果実は細長く袋状となります。種子にはエライオソームと呼ばれる付属体がついていますが,このエライオソームはアリが好む脂肪酸やアミノ酸などを含んでいます。そのためアリは餌としてこれを巣など遠方に運びます。食べ残した種子は捨てられ、その結果としてイカリソウの分布域が広がっていくことになります。
 和名は花の形が船の錨に似ていることから名づけられました。また葉は前述のように1-3回3出複葉であるととこから,別名をサンシクヨウソウ(三枝九葉草)ともいわれています。薬用には葉が十分に成熟した地上部を用います。生薬名をインヨウカク(淫羊霍)といい,強壮や抗うつ薬などに用います。薬用には本種の他,キバナイカリソウやトキワイカリソウ,中国原産のホザキイカリソウなども利用します。
 和名の語源となった錨,おそらく多くの方々は大型船が使用している鉤が2本の錨を思い浮かべるに違いありません。ましては若い人はなおさらでしょう。この錨は鉤で海底の岩などに引っかけて固定するだけではなく,その重量に問うところ大と思われます。イカリソウという和名が使わるようになった時代は定かではありませんが,かなり昔のことだと思われます。その当時は,現在のように大型船などの建造や製鉄技術が発達していた訳でもありません。小型の木造船に必要な錨といえば,釣り針に似た鉤状のものを数本束ね,海底の岩などに引っかけて停泊する錨で十分です。従って少し変わった花の形を,その当時使用されていた錨に見立てたとはいうまでもありません。なお、インヨウカク(淫羊霍)の語源については「本草綱目」に"淫した羊あり。この霍(つぼみ)を食べたために、一日百遍合す"と記載されています。(磯田 進・鳥居塚 和生)

アンズ

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アンズ
Prunus armeniaca L.var.ansu MAXIM. ( バラ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 国原産の落葉小高木。日本へは奈良時代(8世紀ころ)にウメなどと一緒に渡来したといわれ,平城京遺跡からも出土しています。各地で果樹として盛んに栽培され,多くの品種が育種されています。春に葉より先に白色から淡紅色の花を付け,花が終わると果実を作り,やがて黄紅色に熟します。
 和名は,牧野富太郎博士によれば,杏子の唐読みがそのまま用いられたということです。また英語のアプリコット(apricot)はアラビア語に由来します。薬用には種子が鎮咳薬として用いられ,その生薬名をキョウニン(杏仁)といいます。
 長野県更埴市周辺はアンズの里としてよく知られています。4月中旬ころ松本方面から高速道路長野道を走ると,モモほどの華やかさはありませんが,淡紅色や白色の絨毯を引き詰めたような景色が目に飛び込んできます。日本では果樹として栽培され,生食用の他,薫り高いアンズ酒やジャムとして利用されています。同じ仲間(Prunus属)のウメやモモなどと比べると,その影はやや薄いようです。
 中国では,昔から食用や薬用として利用されてきました。その結果,多くの故事成語が言い伝えられています。その中にあって,日本でも馴染みの深い故事成語は何といっても名医の代名詞「杏林」でしょう。
 三国時代の医師,董奉(とうほう)は貧しい患者から治療代を取ることをしませんでした。その代わり完治した重病患者には5株,軽い患者には1株の苗木を植えさせたところ,瞬く間に立派なアンズの林になりました。以後,人間的にも優れた名医を「杏林」と呼ぶようになったということです。(磯田 進)

アミガサユリ

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アミガサユリ
Fritillaria verticillata WILLDENOW var. thunbergii Baker ( ユリ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産。日本には享保年間に渡来したといわれています。各地で観賞用に栽培され,茶花にも用いられる多年生草本植物です。上部の葉は軽く渦巻き状に曲がっています。早春,釣り鐘状の花がうつむいて咲きます。表は淡黄緑色ですが,内面に黒紫色をした網状の模様があります。果実は楕円形で,6枚の翼があります。
 和名は,花の形や内側に見られる黒紫色の模様を「編み笠」に見立てたのです。別名の「バイモ」は漢名「貝母」の音読みで,その由来は一片が大きく他片が小さい二枚貝に似た球根 (鱗茎) がまるで母親が子供を抱いているかのように見えたのでしょう。薬用には球根を用います。生薬名をバイモといい,鎮咳,去たん,消炎を目的とした漢方処方に配剤されます。
 お茶を飲む習慣は中国より伝来したものですが,茶道はこれに楽しみ方や作法など日本独自の精神文化が加わって生まれたものです。現代に受け継がれている茶道の原型は,千利休が大成させたといわれています。茶席を演出するものに茶花がありますが,花入れに挿す花は質素で季節感溢れるものを尊ぶようです。そのため,香りの強いジンチョウゲや名称が不吉なコウホネ (川骨),花が派手な園芸植物などはあまり好まれません。春から秋にかけては茶花に用いる素材は豊富にありますが,冬から早春にかけてはその素材が限られ,茶道家の頭を悩ますところです。その中にあって中国原産であるにもかかわらず,花の少ない早春に咲くアミガサユリは独特の風合いから伝統を重んじる茶席にあってもよく馴染み,珍重されています。(磯田 進)

アマチャ

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アマチャ
Hydrangea macrophylla SERINGEvar. thunbergii MAKINO ( ユキノシタ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 本州の中部から関東地方に分布し,林床に稀にみられる落葉低木です。アジサイと同じ仲間で,花は白色から白青色で梅雨の頃に咲きはじめます。花の形は複雑です。中央部に小さな花がたくさん集まり,その周辺を4枚の花びらをもった6個の装飾花が取り囲んでいます。中心部分の花は雄しべと雌しべの両方をもった両性花ですが,周辺の装飾花は雄しべも雌しべも退化した中性花で,花びらに見えるのはがく片です。がく片は初め白色ですが,後に淡紅色を帯びてくるようになります。
 「アマチャ」は葉を煎じたものを甘茶として利用することから名づけられた和名で,漢名ではありません。薬用には葉や柔らかい枝先を用います。生薬名もアマチャ(甘茶)といい,矯味薬として用います。生の葉には甘みはなく,これをいったん乾燥したのち再び湿り気を与えて発酵させると甘味成分(フィロズルシン)が生成して甘くなるのです。
 4月8日は灌仏会です。今ではこのお祭りを知らない人が多くなりましたが,この日はお釈迦様の誕生日とされ,その生誕像に甘茶(煎じ液)を注ぎかけてお誕生をお祝いする儀式(仏事)です。生誕像は花御堂に安置されているため,花祭りとか花供養とも呼ばれて広く親しまれていました。生誕像に注いだ甘茶には功徳があると信じられ,参拝者は必ず家に持ち帰って家族全員で飲み,無病息災を願いました。ちなみに,お釈迦様の生誕像に甘茶を注ぐ儀式はそれほど古い風習ではなく,江戸時代からだそうです。(磯田 進)

アズキ

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アズキ
Vigna angularis Ohwi ( マメ科 )

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果実(莢)

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ササゲ-花・果実

 東アジア原産の一年生草本植物です。現在栽培されているアズキは,日本にも自生している野草のヤブツルアズキから品種改良されたと考えられています。中国の本草書である「神農本草経」にも記載されていることから,栽培種として中国で改良されたものと推測されています。縄文遺跡から出土され,また「古事記」にも記載されていますので,日本へは3~8世紀の頃に渡来したようです。各地で食品の素材として栽培され,また中国などからも輸入されています。草丈は30~70cm,株全体に茶色い短毛を生じています。葉は互生し,葉身は小葉が3枚の3出複葉です。花は黄色で夏に咲きます。果実(莢)は,長さ5~10cmの細長い円筒形で下垂します。多くの品種の種子は,いわゆるアズキ色の暗赤色に熟しますが,中には黒や白,黄緑色などに熟す品種もあります。
 和名の語源は定かではありませんが,平安時代に編纂された本草和名(901-923)には阿加阿都岐(アカアツキ)と記載されています。また江戸時代には赤小豆をアカツキと読ませているものもあり,また赤粒木(アカツブキ),赤粒草(アツキ)などとも書いていたことから,それが訛ってアズキになったといわれています。薬用には種子を用います。生薬名をセキショウズ(赤小豆)といい,利尿,消炎,緩下薬などに用います。しかし薬効が期待される成分は食用とする餡などには含まれておりません。そのほとんどは調理や製造の過程で生じるいわゆるアクである煮汁に溶出されてしまいます。従ってお汁粉やぜんざい,お萩(牡丹餅)をいくら食べてもその効果は期待できそうにありません。
 豆類の多くは,煮込料理やスープなどの食材として利用します。しかしアズキはやや苦みがあるため,豆類を煮込み料理やスープとして利用する食文化圏では,あまり利用されていないようです。一方,日本では,水に一晩浸してから煮出して,苦みなどのアクをある程度除去させた後,砂糖を加えて甘くしてから利用するという工夫が生まれました。また,もち米や少量の白米に,一晩水に浸したアズキを混ぜた赤飯をお祝い事などの「ハレ」の食事として利用しています。とはいえ最近では「ハレ」の席に限らず,その風味や色合いからコンビニなどではおにぎりの人気の定番としての利用の方が増え一般的になってきたようです。様々に利用されるアズキですが,欠点としては調理の過程で胴割れを起こしやすく,見た目が悪くなるということです。そのためよく似たササゲ(まったくの別種:Vigna unguiculataです)を利用しているご家庭も多いということです。(磯田 進・鳥居塚和生)

アサガオ

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アサガオ
Pharbitis nil CHOISY ( ヒルガオ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 熱帯アジア原産の1年生草本植物です。奈良時代後期から平安時代初期に中国から薬草として渡来したようです。茎は蔓性で,長さは2メートル以上にもなります。花は漏斗状で,早朝より咲き出し,日が昇る午前中には萎んでしまいます。このことが和名「アサガオ」の由来なのでしょう。果実はほぼ球形で先端がやや尖り,種子は灰赤褐色から黒色です。
 種子は,生薬名をケンゴシ(牽牛子)といい,下剤として用いられていました。しかし,作用がとても激しいので,現在では薬用としてほとんど用いられていないようです。しかし,生薬名は,アサガオ種子をくれた医者への謝礼として飼っていた牛を牽いて行った故事にちなむといわれています。当時は牛をお礼に差し出すほど貴重な薬であったのでしょうか。
 「アサガオ」は山上憶良が詠んだ「秋の七草」にありますが,これはキキョウであったとの説が有力です。歌は野に咲く花を詠んだものですが,万葉集の頃,アサガオはまだ渡来してはいなかったようです。
 渡来当時の花はとても小さく,薬園で栽培されていただけでした。観賞用として栽培されるようになったのは江戸時代以降のことです。はじめは淡青紫色のみだった花色もやがて多彩となり,さらには模様や斑入り,漏斗状の花冠や葉の形など,変化に富む品種が数多く出現し,栽培は大流行しました。最盛期の種類は数え上げることさえ困難だといわれていましたが,その後次第に衰え,いまでは数多かった品種もかなり少なくなってしまいました。しかし,東京の入谷をはじめ各地で開かれる朝顔市はまだまだ盛んなようですね。(磯田 進)

アサ

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アサ
Cannabis sativa LINNE ( アサ科 )

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雄花 雌花
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中央アジア原産の1年生草本植物です。雌雄異株といわれていますが,稀に雌雄同株も見られます。古い時代から繊維用植物として,世界各地で栽培されています。葉は掌状に深く切れ込んでいます。雄花は淡黄緑色で,円錐状につき,雌株は緑色で短い穂状について夏から秋にかけて咲きます。果実はほぼ球形でやや扁平となっています。日本へは有史以前に渡来したといわれています。
 和名は青麻の意味があり,緑色を帯びた皮から採る繊維に由来したアオソが転訛してアサになったといわれています。薬用には果実を用います。生薬名をマシニン(麻子仁)といい,瀉下薬とみなされる漢方処方に配剤されています。また七味唐辛子などにも調合されています。このように有用なアサですが,花序(特に雌花序)には幻覚を生じる麻薬成分が多く含まれているため,大麻取締法の対象植物に指定されています。従ってその栽培や所持は制限され,違反すると厳しく罰せられます。
 もともとは繊維用植物として利用されていたアサですが,最初に薬物として利用したのはおよそ5,000年の以上前の南ロシアの遊牧民族であったスキタイ人といわれています。彼らは羊を放牧していたためテントによる生活が普通でした。たまたまテントの中で薪としてアサを焚いていたところ,その煙を吸った遊牧民は心地よい快楽感を得られたことが始まりのようです。当時は日々の疲れを癒すものとして利用していたと推測されています。中国の華佗(?-208)はアサの鎮痛作用を利用し,開腹手術時の麻酔薬として用いたということです。その後,快楽だけを目的とした誤った使われ方をするようになり,深刻な社会問題を起こすことになってしまいました.その様な背景から麻薬成分を含まない品種の開発が急務でしたが,先年,九州大学の西岡(元)教授と正山(前)教授らのグループが,バイオテクノロジーを利用して麻薬成分を含まない品種の育成に成功しています。しかしながらそのような品種であっても,麻薬成分を含む品種と交雑すると,その種子から生じた株は麻薬成分を生産してしまいます。栃木県鹿沼地方の農家では繊維用として栽培していますが,交雑しないよう細心の注意を払って栽培しているとのことです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

アケビ

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アケビ
Akebia quinata DECNE. ( アケビ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 夏緑性から半常緑性のつる性木本植物で, 日本から朝鮮半島,中国に分布します。葉は小葉が5枚の掌状複葉です。花は春に咲き,基部に雌花,先端部分に雄花が総状花序につきます。花びらはなく,淡紫色の萼が花びら状に変化しています。秋に5~6 cmの楕円形から長楕円形の果実をつけ,熟すと縦に割れ,周りを甘く白い半透明の仮種皮に包まれた黒色の小さな種子が現れます。同じ仲間に葉が3枚のミツバアケビがあります。花は濃暗紫色です。
 和名は,果実が熟して縦に割れるところから「開け実」の意味があります。薬用にはつる性の茎を用います。生薬名はモクツウ(木通)といい,尿路疾患用薬として漢方処方に配剤されている他,利尿薬として利用します。
 最近,青果店に「アケビ」の果実を目にするようになりました。野生品より大きく紫色の果実は,アケビではなくミツバアケビと思われます。食べ方は,種子の周りの白い部分はそのまま食べ,皮は油炒めや天ぷらなどがお勧めだそうです。栽培品なので,皮の苦味は野生品より弱いとのことです。沖縄の食材であるゴーヤ(ニガウリ)が一般的な食材となった今,多少の苦味は風味の範疇なのでしょう。
 また,園芸店でアケビ(またはミツバアケビ)の鉢植えを購入したが,翌年,花は咲くが果実が稔らないという苦情を頂きます。植物には同一の花または同一株の花でも結実するタイプと,異なる株の花でなければ結実しないタイプがあります。アケビの仲間は後者で,近親交配を避ける自然界の巧みな知恵によるものです。(磯田 進)

アキカラマツ

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アキカラマツ
Thalictrum minus L.var. hypoleucum Miq ( キンポウゲ科 )

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 全国各地に分布し,日当たりのよい山野や丘陵地などに普通に生育する多年生草本植物です。全株に苦味があり,特に地下部の内部は黄色を帯びて強い苦味を生じます。草丈は1m以上にもなり,上部ではよく枝分かれをします。葉は互生し,葉身は2~4回3出複葉で各小葉は円形から広卵形,先端は3~5浅裂して基部は丸味を帯びています。葉柄の基部に生じる托葉は,縁が波状に尖る鋸歯を生じています。花は径8mmくらいで小さく,淡黄白色で長い雄しべが目立ち,茎の先端に円錐状に多数つけて夏から秋に咲きます。また花は花弁が退化し,萼片が楕円状で3~4枚あり花弁状となっています。しかしこの萼片は,開花後暫くすると落下します。果実は長さ4mmくらいの狭倒卵形で,果柄はありません。
 和名は秋唐松の意味があり,白色の花をつけるカラマツソウに対し,秋に淡黄白色の花をつけることから名づけられました。このカラマツソウは,長い雄しべをカラマツの葉に見立てて名づけられました。別名をタカトウグサ(高遠草)ともいいますが,かつて長野県の中部に位置する高遠町(現伊那市)周辺で民間薬として用いられたことに由来しています。薬用には開花期の地上部を用い,細断後,日当たりのよいところで乾燥させ健胃薬や止瀉薬とします。またアイヌの人たちは果実のことをアリッコといい,直ぐに機嫌が悪くなり,ぐずり易い子どもなどのいわゆる「かんの虫」といわれる症状に用いたということです。
 キンポウゲ科の花はアキカラマツだけではなく,花弁や萼片が一般的な花とは異なった種類が多く大変おもしろいグループの一つです。例えばクリスマスローズやクレマチスなどの仲間は,観賞用に育成された園芸品種だけではなく,原種や同じ仲間の野生種であっても萼片がまるで花弁のように見栄えのする大きい萼片をつける花もあります。因みに本来の花弁は萼片の内側に生じ,とても小さくあまり目立ちません。特色ある雄しべや,花弁のように変化した萼片をつけた花の構造は,受粉を助ける昆虫と密接な関係にありますが,飛来を誘引させるような仕組みと植物の進化の過程にとても興味が湧いてきます。(磯田 進・鳥居塚和生)

アカヤジオウ

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アカヤジオウ
Rehmannia glutinosa LIBOSCHITZ var. purpurea MAKINO ( ゴマノハグサ科 )

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-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 中国原産.薬用植物として温暖な地域で栽培される多年生草本植物です.草丈は30cmくらいで直立し,全体に柔らかい白色の毛で被われています.根は黄白色を呈し,長く地中を這って肥厚します.花は唇形をした筒状になり紅紫色から淡紅紫色で,春に葉の間から花茎を伸ばし総状につけます.果実は先端がやや尖って丸味を帯び,多数の小さな種子を持っています.
 薬用には根を用います.生薬名をジオウ(地黄)といい,中国の本草書である「神農本草経」ではニンジン(薬用人参)などと同様に不老長寿や滋養強壮に有用とされています.漢方医学では,保健強壮薬,尿路疾患用薬,皮膚疾患用薬,婦人薬とみなされる処方に配剤されています.薬理学的にも血糖降下作用などが報告されています.そのまま乾燥させた生薬をカンジオウ(乾地黄),蒸したあと加工調整した生薬をジュクジオウ(熟地黄)といいます.和名のアカヤジオウは,紅紫色の花をつけるジオウという意味があります.このジオウは漢名の地黄を音読みしたもので,根の色または中国大陸の黄土に植えられていたことに由来しているようです.
 ジオウを配剤する代表的な処方に「八味地黄丸(はちみじおうがん)」「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」という処方があります.薬局や薬店の店先などで,これらの処方名の看板やポスターなどを目にした方も多いと思います.八味地黄丸,牛車腎気丸などは神経痛や前立腺肥大,糖尿病,五十肩,かすみ目,尿失禁など,加齢に伴って現れやすい疾患に対する改善効果が知られています.このような疾患に対して,現代医学よりも漢方処方の方が時として有用性が高い場合もあるようです.高齢化社会を向かえるにあたって,上手にこのような生薬や漢方処方を利用していくことも,生活の質を高める上で有効ではないでしょうか.(磯田 進・鳥居塚 和生)

アカメガシワ

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アカメガシワ
Mallotus japonica Muell. Arg. ( トウダイグサ科 )

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雌花 雄花

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芽生え

 本州以南から中国にかけての地域に分布し,温暖な丘陵地に生育している夏緑広葉樹です。芽生えや若い葉は鮮紅色の星状毛を密生していますが,成長するに従い毛は脱落するため葉色も本来の緑色になります。葉は長い柄を持ち,葉身は倒卵形で,しばしば浅く2~3裂しています。雄株と雌株があり,花はそれぞれ花びらがなく,夏に咲きます。雄花は淡黄色ですが,雌花は初め赤味を帯び後に淡黄色になります。果実は三角状の球形で柔らかい刺を生じ,種子は扁球形で黒紫色に熟します。同じ仲間の植物には,日本薬局方第8改正まで収載され果実の腺毛を条虫駆除薬として利用するカマラ(基原植物はクスノハガシワ M. philippinensis)があります.これは現在ではヒトに用いるよりも,ペットブームということもありペット用の需要が多くなりました。
 アカメガシワという和名は芽生えが赤味を帯び,大きな葉を器として利用し食べ物を盛ったことからカシワと名づけられました。そのためゴサイバ(御菜葉),ミソモリなど,各地で器を意味するその地方独特の名で呼ばれています。薬用には樹皮を用います。生薬名もアカメガシワといい,胃潰瘍や十二指腸潰瘍など治療薬に用います。また葉や種子は紅色の染料として利用できます。
 日本に分布し生育する夏緑広葉樹は,冬季の寒さや乾燥から芽を保護するため,多くは芽鱗と呼ばれる鱗片状に変化した葉を持ち,芽を守っています。芽鱗は樹木の種類によって数や形態が異なり,コナラやクヌギなどでは20枚以上あります。またヤナギの仲間では鉛筆のキャップのような芽鱗が1枚しかありません。一方,辛夷の基原植物の一つであるコブシは,ビロード状の毛が表面に密生した2枚の芽鱗をもっています。しかしこのアカメガシワには芽鱗はありません。
 一般的に温暖な地域で進化したと考えられる植物の多くは,生育環境の厳しい冬に葉を落とすことによって温帯に適応し分布域を広げてきました。芽鱗の数が多ければ冬の寒さに強いという訳ではありません。しかしアカメガシワのように冬芽を保護する芽鱗がない種類も意外に多く見られます。今年の冬はルーペを片手に,樹木の冬芽を観察してみてはいかがでしょうか。実に変化に富んでいる冬芽を観察することができるに違いありません。(磯田 進・鳥居塚 和生)

アカマツ

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アカマツ
Pinus densiflora S IEB.Et ZUCC. ( マツ科 )

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果実
-写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより転載-

 北海道南部から九州の屋久島,朝鮮半島,中国東北部にかけての広い地域に分布し,やや乾燥した酸性土壌に生育している常緑の高木です。雌雄異花。樹高は40m,幹の直径が2m以上になり,日本では最も一般的なマツです。葉は線形で2本が対になり,先端は尖っています。樹皮は赤褐色で,コルク層は鱗状に剥げ落ちます。雌花は枝の先端につき,その下部に雄花が群生して春に咲きます。毬果(松ぼっくり)は翌年の秋に熟します。各地で用材として植林され,また庭木や盆栽としても親しまれ,樹形の美しい老木は天然記念物に指定されている株もあります。近年,マツノザイセンチュウが寄生することにより枯死する株が多くなり,各地の銘木や植林地などでは深刻な状況となっています。
 和名は赤褐色を呈している樹皮に由来しています。因みにマツの語源は,多くの説がありハッキリしていません。その中にあって江戸前期の語学書である「和句解(わくげ)」(松永貞徳著・1662)には,葉がまつげによく似ているところから名づけられ,その転訛と記されています。何の根拠もあるわけではありませんが,最も庶民的な発想ではと思い紹介します。
 薬用には樹脂(松ヤニ)を用い,テレビン油やロジンの原料とします。テレビン油は塗料や油絵の具の溶剤として,またロジンは絆創膏の粘着付与剤や紙のにじみを防ぐサイズ剤などの工業用原料とします。その他,アカマツそのものではありませんが,根にはサルノコシカケ科のマツホド(生薬名はブクリョウといい,安中散などの漢方処方に配剤されます)が寄生することでも知られています。
琥珀は針葉樹などの樹脂が地中に溜まって固化し,一億年以上の歳月を経て化石状態になったものです。その硬さは鉱物と同じくらいになり,加工してネックレスやペンダントなどの宝飾品として珍重されています。時には当時,生息していた昆虫が混入していることもあります。1990年に出版されたマイケル・クライトンのSF小説「ジュラシックパーク」では,琥珀中に混入していたジュラ紀の蚊が吸っていた血液から遺伝子を採取し,バイオテクノロジーで恐竜を蘇らせたというストーリーは大きな話題になりました。その後,スティーヴン・スピルバーグ監督により映画化され,多くの方が楽しまれたのは記憶に新しいところです。(磯田 進・鳥居塚 和生)

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