薬学と私

第74回薬学系出身研究者の新たな職種:リサーチ・ アドミニストレーター(URA)

京都大学 特任教授・学術研究支援室長
京都大学名誉教授
佐治 英郎 先生

URAとは

 私は今、京都大学の学術研究支援室の室長をしています。この学術研究支援室は「リサーチ・ アドミニストレーター(URA)」という、新しい職種の人達で構成されています。
 リサーチ・ アドミニストレーター(URA)という職種は、日本ではまだあまり聞きなれない職種かと思いますが、University Research Administratorの略です。URAの定義にはかなり幅がありますが、一般的には「大学等組織全体を俯瞰しながら,学術的専門性を理解しつつ,自身の業務に関する専門性とセクターに偏らない能力を駆使して,多様な研究活動とそれを中心に派生する様々な業務に積極的かつ創造性をもって関わり,研究者あるいは研究グループの研究活動を活性化させ,組織全体の機能強化を支える業務を行う人材」、すなわち、大学等の研究機関の研究力強化のために、研究者および研究機関での研究の推進支援を行う専門家です。
 URAという職種は、もともと欧米において企業研究を支える専門職として発展したRA(Research Administrator)の制度を大学機関に取り入れたもので、欧米の大学機関では研究面での管理を行う専門職としてかなり以前から設置されています。例えば、米国ではNCURA(National Council of University Research Administrators)というURAの団体が1959年に設立されています。このように、欧米でのURAは50年を超える歴史があり、現在、URAは大学研究者の研究管理や大型プロジェクトの獲得支援などは勿論、研究面から大学経営・運営に参画しています。
 一方、日本では2004年の大学法人化により、大学に対して国際競争力のある大学として、「より個性豊かな魅力ある大学」の実現を目指して大学のマネジメント力強化(戦略的経営)、研究環境改革、財務基盤強化(外部資金の導入等)等が求められました。さらに、これらの改革を推進するために、2011年から文部科学省の「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備事業」、さらに2013年度から「研究大学強化促進事業」が始められました。これら、特に後者の文科省の2つの事業が契機となり、大学や研究機関へのURAの導入が本格化しました。「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備事業」は、研究者への研究活動以外の業務での過度の負担を改善し、研究者の研究活動を効果的・効率的に進めて研究活動を活性化していくために、研究環境整備及び大学等の研究開発マネジメント強化等を支える人材の育成・確保を目指した事業です。また「研究大学強化促進事業」では、我が国の論文数等の国際的シェアが相対的に低下傾向にある状況を踏まえ、世界水準の優れた研究活動を行う大学群を増強して我が国全体の研究力の強化を図るため、大学等における研究体制・研究環境の全学的・継続的な改善、研究マネジメント人材群の確保、集中的な研究環境改革等の研究力強化の取組を推進・支援することを目的としています。このような背景の下、日本でのURAの導入が急速に進み、2018年度には169の国公私立大学や研究機関にURAが配置されており、国全体で1450人を超えるURAがいます。

URAの業務:京都大学を例として

 現在所属している京都大学の学術研究支援室(KURA)は、そのURAの人達によって「研究者が研究活動に専念し、研究を推進できるようにするために、研究プロジェクトの企画・運営、研究成果の社会還元を支援する」ことをミッションとしています。発足当初は主に競争的外部資金の獲得に関連した業務を行っていましたが、その後業務の範囲が広がり、現在では以下に示すような多岐に渡る業務を行っています。すなわち、現在は、執行部・本部事務や各種研究支援組織と密なコミュニケーションを図りながら全学的な研究支援策の企画・運営、国際化推進、産官学連携推進等を行うURA(本部系URA)と、各地区・各部局の個々の研究者と「顔が見える」関係を作って直接的に研究支援を担当するURA(地区系URA)とが一体的・横断的に活動し、競争的研究資金の獲得に加え、大学全体、各研究科・研究所、各研究者をそれぞれ対象に、研究力強化に向けた支援策の推進、研究プロジェクトの企画・申請・運営の支援、研究の国際化推進の支援、産官学連携事業の推進、研究成果の広報等の業務を行っています。現在、KURAには約50名のURAが所属しており、これらの幅広い活動に積極的に取組んでいます。

薬学関係者とURA

 このようなURA業務を遂行するためには、研究者としての経験を活かすことができる、あるいは研究者としての経験が必要であることが多いため、KURAでは90%以上のURAが博士の学位を有しており、大学や研究機関での教員や研究者、企業や研究所での研究者としてのキャリアを持っています。各URAの専門分野は、理工、生命科学、医薬、人文社会系と幅広い分野にわたっておりますが、KURAの全URA46名のうち、7名とかなり高い割合で薬学領域の出身者(製薬企業出身者を含めて)がいます。これらの薬学領域出身のURAの人達は、医薬系研究の研究・産官学連携・実用化等の経験があり、医薬系研究やそのプロセスの持つ特殊性への理解力を活かして、科学研究費、他の政府出資の研究費は勿論の事、医薬系の研究者が競争的外部研究資金として重要な国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)や医薬・生命系財団、関連の理工・生命系研究の公募事業等の情報収集・プロジェクト企画・申請・運営、実装化、企業への技術移転および関連業務を中心に活動しています。例えば、AMEDの公募事業では研究の質は勿論の事、医薬品や次世代医療機器・技術の開発およびそれらの企業への技術移転などの実装化の視点も重要となります。その際に必要な事項や企業にとっての魅力あるデータについては、大学の研究者は理解・経験が不十分である場合が多く、それに対する製薬および医療機器関連の企業出身のURAのアドバイス、さらに企業とのネットワークが有効となっており、申請の企画段階から参画することによって有効な事業を計画することができ、毎年数件の大型事業の採択という結果に繋げることができています。また、医学研究科が中心となって計画した文科省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)での研究拠点の創成において、構想の段階から加わり、研究者の先生方と協働して研究内容および運営体制の構築、申請書および種々の資料の作成、ヒアリングへの対応など、全般に亘って支援しました。その結果、申請が採択され、新拠点「構成的ヒト生物学高等研究拠点」の発足に繋げることができました。
 京都大学には医薬系の研究科や病院がありますが、医薬系の研究およびその成果の実装化には上記のように高い特殊性を有するものがあることから、医薬系の研究科や病院などがある大学・研究機関のURA組織は薬学領域の人達には活躍しやすいものがあるのかもしれません。

URAのやりがい

 薬学系出身者に限らず、一般にURAとしての最大のやりがいは、これまでの大学・研究機関や企業で積み重ねてきた経験や知識、あるいは人脈を活用することでアカデミアの研究を発展させることに貢献できることだと思います。また、研究者であるとなかなか難しいことですが、日々最先端の研究、国内外の科学政策に広く触れることができ、大学や我が国、さらには国際的な視点から、研究政策を含めて、大きく研究全体の動向を俯瞰し、各研究の位置を客観的に把握できることも大きな魅力です。さらに、全ての大学ではありませんが、日本の大学においても海外のURAと同様に大学経営の中枢にURAを置く事例も次第に増加しており、大学の研究力強化に貢献できる機会を得ることもできます。
 最近、学術論文数の減少など、日本の科学研究力の地盤沈下が指摘されていますが、その状況の改善のために今後共URAは大学、研究機関にとって益々重要な一員となっていくと思います。皆様のキャリアパスの一つとして、大学、そして日本の研究力の向上に貢献できるURAを考えてはいかがでしょうか?