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生薬の花

ササクサ
Lophatherum gracile Brongn.(イネ科)

ササクサの花

ササクサの花

淡竹葉

淡竹葉

 「笹の葉サラサラ軒端に揺れる...」七夕に願いを書いた短冊を掛けた思い出は、皆さんにもあると思います。さて、このときに使ったのはササだったでしょうか?歌では「笹」と言っていますが、実はほとんどはタケです。ササは背が低く、あまり短冊を掛けるには適してなさそうですね。このようにササ・タケは古くから混同されているのですが、植物学的にははっきりと区別されていて、葉の茎を抱いている部分(葉鞘ようしょうといいます)が枯れるまで残っているのはササ、葉鞘が早くに落ちてしまうのをタケとしています。ただ、「タケ」と付いていてもメダケなどはササの仲間です。
 では、ササクサはどちらの仲間でしょうか?同じイネ科の植物ですが、実は、どちらでもありません。ただ、葉の形などがササにそっくりなのでこのような名前が付けられました。また、開花もササやタケは数年や数十年に一度なのに対して、ササクサは毎年夏に円錐状の花序を付けます。緑色の花は決して華やかではないのですが、一斉に背の高い花軸を出すので、よく目立ちます。秋早くに実る細かい果実は、やたらと服にくっつく「くっつき虫」としてもよく知られています。ササクサの葉を淡竹葉たんちくようと呼び、漢方では清熱、止渇作用を期待して、風邪薬の銀翹散などに配合されます。また、民間でも利尿、止渇、解熱などを目標に利用されています。成分としてはβ-シトステロール、スティグマステロールなどのステロイド、アルンドインなどのトリテルペン類、フェノール類などが含まれています。
 神農本草経に「竹葉」とあるのですが、古くは数種のタケを「竹葉」の基原としていたようです。その中には「淡竹」があり、この葉を医療用として主に利用していたことから淡竹葉と呼ばれます。ただ、この「淡竹」が何をさすかは、よくわかっていないのですが、明代に作られた『本草綱目』ではササクサを「淡竹」としていることから、現在でも淡竹葉の基原をササクサとしています。しかし、古くはハチクをさしていたという説もあり、実際、江戸時代にわが国で編纂された『和漢三才図会』ではハチクを「淡竹」としています。このため、ハチクの葉は「和淡竹葉」とも呼ばれています。ただし、現在、日本ではハチクなどの葉を「竹葉」として別に定めていて(日本薬局方外生薬規格2022)、竹葉石膏湯などに配合されています。ササ・タケ問題にササクサが参戦して一層の混迷をきたしていますが、人々はこれらをほとんど区別しなかったというのが実際のところなのでしょう。

注)体質によってはアレルギーなどを起こす場合があります。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。

(川添和義、小池佑果、磯田 進)

[参考図書]

・難波恒雄 著、『原色和漢薬圖鑑(下)』、保育社
・三橋 博 監修、『原色牧野和漢薬草大圖鑑』、北隆館