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生薬の花

マンリョウ
Ardisia crenata Sims(サクラソウ科)

花

果実

果実

生薬 シュシャコン(朱砂根)

生薬 シュシャコン(朱砂根)

 マンリョウ(万両)は関東以西の本州、四国、九州、さらに台湾、中国、インドにまで広く分布する常緑小低木です。大きくなると高さ1.5 m程になり、茎は直立し、上部で数本に分枝します。葉は互生し、楕円形または楕円状披針形で、縁は波状で歯間に腺体があります。夏に花を散形につけ、晩秋に6-8 mmの果実が鮮紅色に熟します。同属のヤブコウジと同様に、正月の縁起物として床飾りに用いられます。古くは文政10(1827)年の『草木奇品家雅見(そうもくきひんかがみ)』に記載がみられるように、江戸時代から斑(ふ)入りをはじめ多くの園芸品種が栽培されています。時に果実が黄色くなるものもあり、これをキミノマンリョウ(黄実万両、A.crenata form. xanthocarpa)、また白くなるものをシロミノマンリョウ(白実万両、A.crenata form. leucocarpa)と呼びます。

 属名Ardisiaはギリシャ語のardis(槍先)を語源としており、雄蕊の葯の形状に因んでいます。また、種小名crenataはラテン語で「鋸歯状(葉の)」を意味します。これはマンリョウの葉の形状を指します。英名はcoralberryやcoral ardisiaです。

 マンリョウは従来の新エングラー体系、クロンキスト体系では、ヤブコウジ科の種としていましたが、新分類(APG)ではヤブコウジ科はサクラソウ科へ含められました。

 マンリョウの根を乾燥させたものが生薬シュシャコン(朱砂根)ですが、本来はマンリョウの中国名が朱砂根で、根または全株を指すようです。また、その葉をシュシャコンヨウ(朱砂根葉)と言います。シュシャコンの煎液は感冒や扁桃腺炎に、シュシャコンヨウは外用で打撲傷の治療に用いられます。

 「万両」の名は、同属で同じように冬に紅い果実を付けるカラタチバナ(A.crispa (Thunb.) A.DC.)の中国名「百両金」に対して名付けられたようです。そして、いつのまにか万両を筆頭に、千両(センリョウ科センリョウの別名)、百両(同属カラタチバナの別名)、十両(同属ヤブコウジの別名)、壱両(アカネ科アリドオシの別名)の序列ができあがりました。これは冬に赤い実を付ける共通点はありますが、一箇所あたりの実の数は順に少なくなっています。いずれも冬が主役の植物にとっては甚だ迷惑なことでしょう。

(高松 智、小池 佑果、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『改訂版原色牧野植物大図鑑(合弁花・離弁花編)』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第11巻』、朝日新聞社出版局
蕭培根 編集、真柳誠(翻訳編集)、『中国本草図録2巻』、中央公論社
海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第1巻)』、小学館
北村四郎、村田源 共著、『原色日本植物図鑑 草本編 I』、保育社
トニー ロード、大槻真一郎 著、井口智子 訳、『フローラ-Gardening FLORA』、産調出版