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生薬の花

ヤブコウジ
Ardisia japonica (Thunb.) Blume (ヤブコウジ科)

花

果実

果実

根茎 紫金牛(シキンギュウ)

根茎 紫金牛(シキンギュウ)

 日本の正月には、「松竹梅」や「福寿草」とともに赤い果実をつけたヤブコウジが縁起物として門口(かどぐち)を飾ります。
 ヤブコウジは山地の木陰に見られる常緑の小低木で、群生することが多く、葉は茎の上部に数枚集まって付き、長楕円形で、小さい鋸歯があります。花は7~8月頃に、白か薄紅色の五弁花の小さい花を下向きに付けます。
 和名「藪柑子」は「藪に生える柑子(ミカン類)」の意味で、生育場所と果実の形にちなむようです。古名は山橘(ヤマタチバナ)といい、万葉集の数首に詠まれています。
 日本では、11月ころ、根茎を掘り取り、水洗いして細かく刻んで天日で乾燥させたものを生薬「紫金牛(しきんぎゅう)」といいます。ところが、中国では、乾燥した全草を紫金牛といい、乾燥した根を紫金牛根(しきんぎゅうこん)として区別しています。
 その用途も国によって異なり、日本では、紫金牛の煎液を咳止めとして服用し、また化膿性の腫れ物に対して患部を洗うと効果があるようです。中国では鎮咳や利尿作用をもとに、慢性気管支炎、肺結核や腎盂炎などの治療に用いられています。また、ヤブコウジはイヌ回虫、ウマ回虫、ウマ蟯虫に対して殺虫成分であるラパノンを含んでいます。
 晩秋に鮮紅色に熟すヤブコウジの果実は、冬の間も落ちずに残って美しいことから、古くから愛されていました。同色の果実を有し縁起の良い名を持つ同じヤブコウジ科のマンリョウ(万両)やカラタチバナ(別名は百両)、センリョウ科のセンリョウ(千両)にならい、ヤブコウジは別名で「十両」とも呼ばれています。これらの命名は、どうやら植物体の大きさや果実の数などの見栄えの良さに関係しているようです。ちなみに赤い果実をもつメギ科のナンテン(漢名の南天、音が「難を転ずる」に通ずる)も縁起物として飾られる薬用植物の1つです。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

[参考図書]
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典(第2巻)』、小学館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第6巻』、朝日新聞社出版局
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
蕭培根 編、真柳誠 訳、『中国本草図録(1巻)』、中央公論社