活薬のひと
創薬力推進に向けた政府の取組みと
薬学等アカデミア人材の育成

はじめに
近年の医薬品業界を巡る状況として、ジェネリックメーカーを中心とした医薬品の安定供給問題に加え、新薬メーカーにおいても、欧米で承認されているものの我が国では国内開発に着手されない品目が拡がる、いわゆるドラッグロス問題や、バイオ医薬品を始め新規モダリティへの移行の立ち遅れなど、創薬力低下の問題が社会問題として顕在化したことから、様々な会議体でこれら問題に関する議論・検討が行われ、政府全体として必要な対応に取り組んできております。
私自身、この7月に厚生労働省大臣官房審議官(医薬担当)を退官するまで、これらの取組みにも関わっておりましたので、特に創薬力推進に向けた政府の取組みを中心に私見も交え紹介します。
創薬力推進に向けた政府の取組み
(創薬力構想会議)
薬学の使命の一つである創薬を巡る我が国の状況としては、近年、いわゆるドラッグロス問題の他、日本起源品目の世界市場シエアが低下するなど、我が国の創薬力の低下が指摘されております。
これらを受け、昨年12月からは官邸で、医薬品へのアクセスの確保、創薬力の強化に向け、「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」(以下、創薬力構想会議)での議論検討がなされ、本年5月の中間取りまとめにおいて、3つの戦略目標の下、様々な提言がなされております。
(創薬エコシステムサミットと政府目標)
さらに、7月30日には、総理参加のもと「創薬エコシステムサミット」が開催され、創薬力構想会議中間とりまとめの3つの戦略目標に対する具体的な政策目標、今後5年程度の工程表を発表・公開するとともに、政府として必要な予算を確保し、政府を挙げて創薬力構想会議の提言を具体的に進めていくことを国内外に向けて約束しました。
総理挨拶の中では、医薬品産業を成長産業・基幹産業と位置付け、日本を「創薬の地」としていくことを政府としてコミットすると宣言するとともに、具体的に、次の3つの施策を必ず実現すると述べております。すなわち、
- ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験実施体制整備など、国際水準の治験や臨床試験の実施体制の整備
- 外国の製薬企業やベンチャーキャピタルを呼びこみ、アカデミアやスタートアップのシーズを育て、実用化まで連続的な支援を行う環境・体制の整備
- 創薬ベンチャーエコシステム事業のより早期段階からの支援等を通じ、創薬スタートアップへの民間投資額を5年後には2倍にし、企業価値100億円以上の創薬スタートアップを10社以上輩出するなど、投資とイノベーションが継続して起こるシステムの実現、です。
(予算確保などその後の動き)
これを受け、8月末に公表された厚生労働省の令和7年度予算概算要求では、創薬力強化に向け、例えば、以下のような重点要求事項が盛り込まれており、現在、年末に向けた予算編成作業に取組んでいるところです。
- 新規モダリティ対応ヒト初回投与試験体制整備等事業(7.9億円)
- 次世代バイオ医薬品等創出に向けた人材育成支援事業(1.4億円)
- MEDISOの機能強化など創薬基盤強化支援事業(9.3億円)
創薬と薬剤師・薬学教育
これら創薬力推進の動きと薬剤師・薬学教育に関する議論について紹介したいと思います。
(創薬力構想会議での指摘)
創薬力構想会議での議論の中では、構成員等から
- 薬学教育・医学教育の在り方といったことを考えるべきではないか。
- 基礎研究やトランスレーショナルリサーチの振興のみでは我が国の創薬力向上は困難であり、これまでないがしろにされていた後期臨床開発や臨床試験に着目すべきではないか。
- 医薬品等の製造や品質管理の強化を進めるべきではないか。
- 現状の背景に長年にわたる国策としての視点の欠如がある。産業政策だけでなく、文教政策も含め、創薬力を上げるための総合的戦略を出口にするべきで、あらゆる分野からの協力が必要だ
(アカデミア人材の育成(医学・薬学教育の在り方を含む)の施策)
このような指摘等を受け、7月に発表・公開された前述の政策目標・工程表のなかには、「アカデミア人材の育成(医学・薬学教育の在り方を含む)」関連の施策として、
- 創薬に貢献するための医療人材の養成(医学・薬学等)に向けて、大学の教育プログラムの充実について検討
- 次期薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和8年度から検討開始予定)改訂に向けて、創薬につながる薬学人材養成のための教育内容について検討
創薬力推進の視点からの薬剤師・薬学生の教育の重要性・必要性は、これまでも関係者間で十分認識されていたところですが、薬学部での教育の段階から、新しい臨床試験や創薬の在り方といった医学・薬学の変化に迅速に対応した人材をさらに育成できるよう、教育課程の在り方を含めた教育内容の見直し検討も重要施策の1つではないかと考えております。
最後に
政府としては、我が国を世界の人々に貢献できる「創薬の地」とするべく取り組んでいるところですが、今、産学官がまさに一体となって取り組んでいくことが強く求められていると考えております。