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活薬のひと

こどもの薬:薬学・薬剤師との連携で出来ると私が信じていること

国立成育医療研究センター 
開発企画主幹 中村 秀文 氏

はじめに

 こどもの医薬品には、その収益性の問題、治験の困難さなどから、適応外や未承認のものが多くあります。適応外使用とは、厳密には添付文書の効能・効果以外、あるいは添付文書上で禁忌とされている医薬品・医療機器の使用のことを指しますが、現場の医師は、用法・用量の記載がない、特定の年齢に対して「安全性が確立していない」とされている、あるいは剤形変更(錠剤やカプセルを粉砕する等)されている場合も、適応外使用と呼ぶことが多いです。このような広義の適応外使用は小児頻用医薬品の7割程度あると言われています。さらに、国内で医薬品そのものが承認されていない場合、海外から輸入する、あるいは試薬を転用するなどもいまだに行われています。
 子どもにとって薬の剤形もとても重要です。「良薬口に苦し」だから、我慢させろというような乱暴なことを言う方がいまだにいますが、とんでもない話です。錠剤やカプセルを粉砕してしまうと、原薬の味を感じるために苦くなることも多くあります。まずい薬を一日何回も飲まねばならず、毎日何時間も親子ともども苦労しているという話も良く聞かれます。また粉砕してしまうと安定性に問題が生じる場合もあります。必要な年齢や病態における薬物動態がきちんと評価されていなければ、年齢ごとの用法・用量を決めることも困難です。小児に特有の安全性の問題には、薬物動態や薬力学の発育・発達による変化が影響する可能性があることも知られています。

薬剤師のレベル向上と医師・看護師との連携

 最近、臨床薬剤師としての活動をする薬剤師が増えていますが、薬剤師には多くの可能性があると強く感じています。国立成育医療研究センター病院薬剤部では、病棟で研修しているレジデントが「症例検討会」で発表し、それに対して薬剤部員や私が質疑・指導を行う機会を年に数回設けています。一人が一回の発表と質疑で概ね30分、レジデントは指導者に相談しながら資料を作成し、症例を報告するとともに臨床的に興味を持ったトピックについて調べて発表します。この発表会で私は以下を念頭に指導をさせていただいています。
・教科書やハンドブックの記載をうのみにしないこと
・ガイドライン、システマティックレビュー、主要論文は必ず確認すること
・薬だけを見ず、必ず患者さん全体を見て、臨床上の問題を広く把握すること
薬剤師は薬の専門家である一方で、医療ケア全体にも目端を利かせてこそ、初めてそれぞれの患者さんにベストな薬物治療について決定することが出来ると考えています。直接、保護者の方に薬剤師の視点からいろんな話を聞くことも重要でしょう。このような指導を経験して、この数年で若手薬剤師の臨床力が向上し始めていることを実感しています。
 また幸い、我々の薬剤部には、薬物血中濃度測定やファーマコメトリクスに詳しい薬剤師がいることから、病院医師などと連携して、薬物動態評価とそれに基づく用法・用量の検討や、剤形変更の標準化などの作業も行えるようになってきました。全国的にみると、小児病院においても、このような体制整備が進んでいる病院は少ないと思われますし、まして一般病院ではそのような体制はほとんどないでしょう。このような連携体制が整備されれば、小児薬物治療の質は向上すると思います。

薬学関係者と医療現場の連携

 医療現場で困っている、剤形、薬物動態、薬力学などの課題の発掘と解決の作業は、まさに薬学の先生方の得意とするところであると思います。薬学の先生方は、現場の医療者から見ると「雲の上」の議論をされている風に感じることがままあります。研究的要素が強い、あるいは想像・理想の世界で議論いただいても、臨床現場の多様性を理解して頂けない、あるいは臨床現場に役に立つ可能性を感じられないと、医療現場はなかなか研究に協力することは困難です。一方、前述のように医療現場の大半では、小児剤形変更の妥当性や至適用法・用量が分からず、ハンドブックや文献などを頼りに、手探りで子どもに薬を投与することも多く、うまく薬学の先生方と連携して、適切な剤形、剤形変更をする際の手法の標準化、低年齢や特殊な病態における薬物動態や安全性の評価など、医療現場の問題を解決することが出来れば素晴らしいと思います。
 医療現場の言葉・薬学の専門家の言葉、お互いに理解できないこともあるかと思いますが、その言葉の壁を越えて、共通の意識・言語で、一緒に小児薬物治療のために研究し、それを現場にフィードバックすることが出来れば、双方にとってウインウインの関係になると思います。

製薬企業との連携

 製薬企業の製剤技術研究者や臨床開発担当者の中にも、医療現場の状況が把握できないままに開発に従事している方も多くいると認識しています。医療者や患者さんと企業の方が直接対話をする環境つくりも進めたいと、AMED研究を活用してパイロット的な患者グループの設立にも取り組んでいます。このグループの会議には、製剤技術関係者や大学の先生も参加していますが、今後はさらに製薬企業の臨床開発担当者などとも対話ができるようになれば、より良い小児治療開発が出来るのではないかと期待しています。

おわりに

 小児医薬品の適正使用や開発について、薬学・薬剤師、製薬企業関係者と医師・看護師・患者が連携できることはここに示した以外にもいろいろあると思います。子どもの薬をより良くしたい、より使いやすくしたいとお考えの皆さんと医療現場の連携が、これからもっと進むことを願っています。