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生薬の花

オトギリソウ
Hypericum erectum Thunb. (オトギリソウ科)

花

葉

生薬 小連翹(ショウレンギョウ)

生薬 小連翹(ショウレンギョウ)

 オトギリソウは日当たりの良い山地や丘陵地に生える多年草で、高さは40~60 cmになり、葉は対生し、広披針(こうひしん)形で、裏面から透かして見ると、黒い油点(黒点)が多数観察できます。7~8月頃、茎頂の円錐状花序に淡黄色の花を多数つけます。
 学名Hypericumはギリシャ語のhypericon「雑草の間に生ずる」の意味で、erectumはerectus「直立した」の意味があります。オトギリソウの名は、江戸中期の寺島良安の「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」(1713)に「弟切草」と記述されています。春頼(はるより)という名の鷹匠が秘密にしていた薬草を弟が密かに洩らしてしまったことに激怒し、弟を切り捨ててしまったという伝説にその名は由来しているようです。実際にオトギリソウのアルコール抽出液は血液にも似た暗黒色を呈します。オトギリソウは別名で青薬(アオクスリ)、鷹の傷薬、盆花(ボンバナ)とも呼ばれています。欧米ではオトギリソウ属植物をSt. John's wortといい、洗礼者聖ヨハネの祝日(6月4日)の前夜、魔女たちが活動するとされるMidsummer Eveningに、この薬草を摘めば悪魔払いになると信じられていたようです。
 晩夏から初秋にかけて、果実が成熟する頃に全草を採取し、日干しにしたものを生薬で「小連翹(ショウレンギョウ)」といいます。煎じ液は止血、月経不順、鎮痛の目的で服用され、リウマチ、神経痛、痛風には浴剤として鎮痛効果があるようです。また、薬酒でリウマチ、神経痛の予防に、煎汁を扁桃腺炎のうがい薬として用いるなど、多くの用途が知られています。虫刺され、切り傷や打撲傷には生の葉を絞って塗布すると効果があると言われていますが、皮膚炎を起こすことがあり、注意が必要です。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、原色牧野植物大図鑑(合弁花・離弁花編)、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第7巻』、朝日新聞社出版局
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑[Ⅱ]』、保育社
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
水野瑞夫 監修、田中俊弘 編集、『日本薬草全書』、新日本法規出版
内林政夫 著、『生薬・薬用植物語源集成』、武田科学振興財団杏雨書屋