生薬の花

ウツボグサ Prunella vulgaris Linné var. lilacina Nakai (シソ科)

 日本各地に分布し、日当たりのよい草原や林縁などに生育する多年生草本植物です。草丈は15~30 cm、茎は四角く、葉は対生、全株、毛が密生しています。花は淡紫色で茎の先端に穂状につき、標高の低い里では初夏のころから咲き始めますが、標高の高い高原などでは少し遅く、7月から8月に入ってからでも見ることができます。そして花が終わる頃になると、ストロン(走出茎)を四方に出して新たな株を生じます。和名のウツボグサは、花穂の形状が矢を入れる容器の「靱(うつぼ)」に見立てたものです。属名Prunellaの語源は諸説あります。一説によればドイツ語で褐色または扁桃腺炎を意味するBräuneに由来していますが、これは褐変した花穂または下記に既述したように薬用効果によるものです。また種小名のvulgarisは普通にという意味があり、どこにでも生育していることから名づけられました。変種名のlilacinaは淡紫色の意味があり、花の色に由来しています。
 薬用には褐色になりかけた花穂を用い、日当たりのよいところで速やかに乾燥させたものを夏枯草(カゴソウ)といい、薬用には煎液を口内炎や扁桃炎の改善、腎炎や膀胱炎に対する利尿薬として内服します。生薬名の「夏枯草(カゴソウ)」は夏の頃に花穂が褐変する現象に由来しています。中国では薬用の他、薬草茶として利用しているようです。一方、ヨーロッパにはタイリンウツボグサ(P. grandiflora)が分布、生育し、ウツボグサと比べると花穂は一回り大きく、ディオスコリデスの時代より煎液は喉頭炎、扁桃腺炎などに利用されてきました。しかし、現代のヨーロッパにあっては、ほとんど利用されていないようです。英名もself-heal(自然に治る)またはheal-all(何でも治す)といいますが、当に西洋版「医者いらず」ともいえます。ちなみに日本では、カキやアロエ、ビワなどを「医者いらず」と呼び、民間薬として利用してきました。
 日本には本種の他、中部地方以北に分布し、高山帯、亜高山帯に生育するタテヤマウツボグサ(P. prunelliformis)やミヤマウツボグサ(P. vulgaris L. var. aleutica)などが分布、生育しています。しかしこれらの種は、自然保護の面から薬用として利用することはできません。(高松 智、磯田 進)