生薬の花

ショウブ Acorus calamus var. asiaticus (サトイモ科)

ショウブの花

ショウブの花

ハナショウブの花

ハナショウブの花

ショウブの根茎

ショウブの根茎

生薬ショウブコン

生薬ショウブコン

 5~6月に各地の菖蒲園では色とりどりのショウブの花が見頃となります。それらはアヤメ科のハナショウブで、薬草ではありません。今回の主役は薬用となるサトイモ科のショウブです。ショウブは東アジア、インドに分布し池沼や溝の浅い水中に生える多年草です。粗大で多節な根茎は長く横走します。葉にはアヤメのような扁平な剣状(単面葉)で、中央にはっきりした中肋(ちゅうろく)があります。初夏に50cm程の花茎(かけい)を出し、頂部に肉穂花序(にくすいかじょ)を1つ付けます。
 晩秋から冬期にかけて地上部が枯れてから、採取した根茎のひげ根を除いて水洗いし、日干しにしたものが生薬の「ショウブコン(菖蒲根)」です。ショウブコンは特有の芳香があり、味は苦くやや風味がある精油を含みます。その水浸剤は皮膚真菌に対し有効であると言われています。また、採取後1年以上経過したものの煎剤は芳香性健胃薬、去痰、止瀉薬、腹痛、下痢、てんかんに用いられます。民間ではショウブの根茎や葉を刻み、一握り分を布袋に入れて適量の水で煮沸し、そのまま薬湯料として使用し、神経痛、リウマチ、不眠症に効果があるといわれています。また、インド、ヨーロッパやアメリカにおいてもショウブの根茎は古くから消化不良の治療や熱や胃痙攣、疝痛(せんつう)に使用されてきました。
 和名は同属のセキショウ(A. gramineus Soland.)(漢名・菖蒲)の音読みで、古く誤ってこれに当てられたものが現在に及んでいるそうです。ショウブの別名として、端午の節句の軒に並べることに因んだノキアヤメ(軒菖蒲)、古名のアヤメグサ(菖蒲草)、オニゼキショウ(鬼石菖)などがあります。英名ではcalmus、sweet flag root、sweet sedge、acorus rootなどと呼ばれ、中国名は白菖蒲といいます。
 ショウブといえば、男子の健康と成長を願う端午の節句で、菖蒲湯(しょうぶゆ)、菖蒲酒(あやめざけ)や菖蒲刀(あやめがたな)など魔除けや厄払いに使われてきた植物です。また、武芸の上達を願う「尚武」、戦に勝つ「勝武」に通じることから、「菖蒲紋」なる文様が甲冑などの武具の紋様や織紋に武家に好まれて使われていました。ショウブはハナショウブほどの見た目の華やかさはありませんが、伝統的な行事で重宝され、また薬用として幅広い年齢層に恩恵を施すという点でも勝負あったというところでしょうか。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
牧野富太郎 著、改訂版 原色牧野植物大図鑑(離弁花・単子葉植物編)、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第11巻』、朝日新聞社出版局
アンドリュー・シェヴァリエ 著、難波恒雄 訳、『世界薬用植物百科事典』、誠文堂新光社
水野瑞夫 監修、田中俊弘 編集、『日本薬草全書』、新日本法規出版
マックス・ウィチテル 著、井上博之 監訳、『カラーグラフィック-西洋生薬』、廣川書店
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑Ⅰ』、保育社
内林政夫 著、『生薬・薬用植物語源集成』、武田科学振興財団杏雨書屋
R. F. ヴァイス 著、山岸晃 訳、『植物療法』、八坂書房