「毒薬変じて薬となる」ということわざをご存じでしょうか。これがぴったりとあてはまるのが、ハナトリカブトなどトリカブト属の植物です。ハナトリカブトはキンポウゲ科の多年草であり、中国に分布します。深く切り込みが入った手のひらのような形の葉を持ち、6~7月ごろに兜のような形をした青紫色の花を咲かせます。その花の美しさから、切り花などとしても流通しています。よく似た仲間として、日本にはオクトリカブト (A. japonicum Thunb.) など複数種が分布しています。トリカブト属の植物は、植物全体にアコニチンなどの有毒なアルカロイドを含んでおり、葉の形が山菜のニリンソウと非常によく似ていることから、春先にはしばしば誤食による食中毒が起こります。また、北海道などではその毒性を利用して矢毒として用いられてきた歴史があります。これらの毒性はアコニチンなどのアルカロイドが運動神経などの神経の伝達を遮断することで引き起こされます。一方で、トリカブトは古くから生薬としても使用されてきました。ハナトリカブトやオクトリカブトの塊根は生薬の附子(ブシ)となります。そのままでは毒性が強すぎるため、医薬品として使用するために「修治(しゅうち)」と呼ばれる加工処理を行う必要があります。附子の修治方法には加熱処理を行うものや、アルカリ処理を行うものなど複数の方法がありますが、いずれの方法でもアコニチンなどの強毒性の成分が分解され、アコニンなどの毒性の弱い成分に変換されます。このように減毒処理された附子は、漢方医療では利尿、強心作用などを目的として八味地黄丸や真武湯、麻黄附子細辛湯などに配合されています。
(伊藤ほのか、川添和義、小池佑果、磯田 進)
注)今回紹介した植物や生薬(附子)は、ご自身の判断では利用できません。この生薬の利用については必ず医師や薬剤師などの専門家に尋ねて下さい。