生薬の花

ハコベ(コハコベ) Stellaria media (L.) Villars (ナデシコ科)

花

繁縷(ハンロウ)

繁縷(ハンロウ)

 ハコベは「はこべら」の名で春の七草の1つとして数えられてきました。ユーラシア原産で、農耕に伴って世界中に広まった史前帰化(しぜんきか)植物とされています。ハコベの和名は古名の「はこべら」や「はくべら」が転訛(てんか)したものですが、語源は「蔓延芽叢(はびこりめむら)」、「歯覆(はこぼるる)」、「葉采群(はこめら)」などの諸説があります。ハコベは食用や薬用にしたり、柔らかい草質からニワトリや小鳥のえさとしてよく知られており、「ハコビ」、「ヒズリ」、「ヘズリ」、「アサシラベ」、「ヒヨコグサ」など各地でそれぞれの方言で呼ばれています。英語でもハコベを「chickweed(=ヒヨコの草)」と呼んでいます。白色で先の割れた5枚の花弁を星型に付ける小さな花からは、まさしく可憐に咲く野の花という表現がよく似合います。属名の「Stellaria」もラテン語のステラ(stella)、つまり「星」を意味します。
 ハコベ属は世界中に約120種があり、日本で通常ハコベと呼ばれるのは、コハコベ(S. media)、ミドリハコベ(S. neglecta)、ウシハコベ(S. aquatica)の3種になります。花期の3~6月に地上部の茎葉を刈り取り、水洗い後、天日干しにしたものを生薬名「繁縷(ハンロウ)」といい、産後の浄血薬、催乳薬、胃腸薬や湿疹などの皮膚炎の治療薬として用いられてきました。また、同粉末に適量の塩を混ぜたものを「ハコベ塩」と呼び、これを指に付けて、歯茎をマッサージすることにより、歯茎からの出血、歯槽膿漏の予防に用いられてきました。江戸時代には既に使われていた葉緑素入りのハコベ塩はまさしく『歯磨き粉の元祖』とも言えます。中国ではハコベを「繁縷(読みはハンルまたはハンロウ)」と書き、古くから薬用にされていましたが、ハコベ塩は日本独特の民間療法のようです。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
牧野富太郎 著、改訂版 原色牧野植物大図鑑(離弁花・単子葉植物編)、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第7巻』、朝日新聞社出版局
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑Ⅱ』、保育社
上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第6巻)』、小学館
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
指田豊 監修、『日本の薬草』、学習研究社
アンドリュー・シェヴァリエ 著、難波恒雄 訳、『世界薬用植物百科事典』、誠文堂新光社