あまり聞き慣れない植物ですが、咳がよく出て困っている人の救世主とも言えるのが、この植物の根を使った生薬「セネガ」です。セネガシロップとして医療用に用いられる他、薬局で売られている咳止め薬の多くに配合されています。現在、日本薬局方ではセネガの基原植物として2種類定めていて、その一つがヒロハセネガです。北米原産の植物で日本には自生しませんが、生薬原料として栽培されています。高さ20~30㎝の多年草で、初夏に花軸を出して、白~薄紅色のかわいい蝶形花を穂状にたくさんつけます。花弁は3枚で、その中から合着した雄しべが覗きます。葉は3~5㎝のやや幅広い披針形で、セネガのもう一つの基原であるセネガ(P. senega L.)より幅が広いのでヒロハセネガと呼ばれます。
根は長さ10㎝程度で、ヒゲ根が多くあり、サリチル酸メチルを多く含むため、特有の香りがあります。成分としてはsenegin Ⅱ, Ⅲ, Ⅳなどのトリテルペンサポニンが知られていて、これらの粘膜刺激作用によって気道分泌が増えることで、去痰作用を示すと考えられています。他にも利尿作用などが知られていますが、その機序についてはよくわかっていません。漢方薬に利用されることはなく、専ら生薬製剤の原料となります。
もともとは、北米の原住民であるセネカ(Seneca)族がガラガラヘビに咬まれたときの治療薬として利用していたものなので、この名前があります。一方、別の民族がこの植物の根を咳止めに利用していたことから、1736年にジョン・テネットというバージニア州の医師が肺疾患に有効な植物として医学論文に紹介しました。これをきっかけに、アメリカの薬局方に収載され、その後、欧州をはじめ多くの国々に知られるようになりました。ヒロハセネガは北米でも南部の民族が、セネガは北部の民族が利用していたようです。日本での栽培は昭和の初め頃から北海道や兵庫県で行われ、昭和30年頃にはとても品質のよいセネガを生産していました。その頃から、日本産のセネガは良質であるとしてヨーロッパなどに輸出もされています。現在、輸出、生産ともに少なくなりましたが、国内で消費されるセネガの8割程度は今なお国内で生産されていて、セネガは代表的な国産生薬の一つといえます。
(川添和義、小池佑果、磯田 進)
注)体質によってはアレルギーなどを起こす場合があります。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。