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生薬の花

コムギ
Triticum aestivum L.(イネ科)

小麦

小麦

コムギの花              コムギの穂              コムギの成熟果実

コムギの花              コムギの穂              コムギの成熟果実

 パンやスパゲッティ、うどん、ピザ、ケーキなどの材料として、食卓には欠かせない食品の1つです。私たちがコムギを手にしたのは今から1万2千年前とも言われ、トウモロコシ、米と並んで、現在に至るまで、重要な食糧としてあり続けた植物です。これほど身近な植物なのですが、薬用として利用されていることはあまり知られていません。
 食用として利用されるためとても多くの品種があります。実の数や形態から多くの種が提案されていましたが、現在はおおよそ5系統にまとめられています。T. aestivum L.は広く利用されている普通系コムギで、グルテンを多く含んでパンに利用されるので「パンコムギ」ともよばれます。イネ科の1~2年草で丈は60~100 cm、円柱形の茎の中は中空で、葉はまばらに互生、軟質で先端は下垂します。秋に蒔くと、翌年の4~5月に、3~10 cmの穂状の花をつけます。よく見ると、穂の節から小さい穂が出て、そこに1~5個の花が密集しているのがわかります。花弁に相当するものはなく、穎(えい)と呼ばれる緑色の殻の中から雌しべと雄しべが出ています。5~6月には果実ができて、穂は「小麦色」に染まります。色づいた穂がまるで秋に実った稲穂のように見えるので、初夏のこの時期を「麦秋」とよび、初夏の季語になっています。
 穎を除いた果実を粉(小麦粉)にして食用にしますが、薬用としてはこのまま利用します。生薬名は小麦(しょうばく)とよび、利尿、消炎、止血薬などとして民間で利用されます。漢方薬としては甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という処方に配合されています。この処方は小麦と、甘草(かんぞう:ウラルカンゾウなどの根、地下茎で、甘味料として利用されます)、大棗(たいそう:乾燥したナツメの果実)の3種類からなるもので、精神が高ぶったり興奮したりして眠れない、落ち着かないというときに利用されます。配合されている生薬はいずれも食品として利用されるものばかりなのですが、薬としての効果があるのは驚きです。小麦の成分はほとんどがデンプンで、他には数種類の糖類とアミノ酸が知られていますが、何がこのような働きをしているのかは全くわかっていません。ただ、中国の古い文献では、褐色の表皮(ふすま、ブランとよばれます)は清熱作用やイライラを抑える作用が強いとされているので、表皮に薬用としての効果があるのかも知れません。実際、水に浮くぐらい胚乳(普通食用とする部分)が少ない小麦を浮小麦(ふしょうばく)とよんで薬用としています。表皮は胚乳の部分よりも繊維質が多くビタミン類も豊富なので、栄養面からも注目されています。
(川添和義、小池佑果、栗本慎一郎、磯田 進)
 
注)体質によってはアレルギーなどを起こす場合があります。使用によって、万一、体調が悪くなった場合には医師にご相談ください。

[参考図書]

難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑[Ⅰ]』、保育社
三橋 博 監修、『原色牧野和漢薬草大圖鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科 植物の世界』、朝日新聞社