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生薬の花

タンジン
Salvia miltiorrhiza Bunge(シソ科)

丹参

丹参

タンジンの花

タンジンの花

タンジンの根

タンジンの根

 あまり聞き慣れない生薬ですが、サルビア(Salvia)という属名はなじみがあります。思い出すのは花壇でよく見かける、真っ赤な唇のような花をつけるサルビアですが、これにはヒゴロモソウ(緋衣草)という美しい名前がつけられています。タンジンはこれに近い仲間ですが、全体的に細かい毛が密生し、花は緑色の萼に青紫色の花弁が出ます。葉は少しごつごつした感じの羽状複葉が対生について、ヒゴロモソウよりも一回り大きく力強い感じのサルビアです。ただ、春先に咲かせる花の形はやはり唇のような形をしています。これはシソ科に特徴的な花の形で、「唇形花」と呼ばれます。また、茎を触るとどちらも四角いのもシソ科によく見られる特徴です。
 タンジンの薬用部位は根で、丹参(タンジン)と呼ばれます。その色は赤く、太くなるため、「赤い人参」という意味でこの名が付けられたと考えられます。根の色は含有成分の3, 4-フェナントレンジオン構造を持つアビエタン型ジテルペンのタンシノン類に由来しています。日本には自生しない植物ですが、中国では薬用として古くから利用されていて、神農本草経では上品に収載されています。「赤参」や「血参」とも呼ばれるのですが、これは単に根が赤い色をしているというだけでなく、赤は五行説(世界は5つの構成要素からできていると考える古代中国の思想)では「心臓」を表していることから、血と関係があると考えていて、実際、漢方では血流改善や月経不順の改善などを目標に利用されています。
 1960年代に北京で「冠心Ⅱ号方」と呼ばれる心疾患に対する方剤が開発されました。中国は当時、文化大革命の中で多くの人が社会的ストレスにさらされていて、狭心症などの心疾患が多かったようです。この処方の中心に配合されたのがタンジンで、まさに、「心」の働きを改善する働きが期待されたものです。現在、タンジンを利用した医療用漢方製剤はありませんが、OTC医薬品として、婦人疾患や冷え性、頭痛、高血圧などを改善する、「冠心Ⅱ号方」をベースとして作られたタンジン製剤が市販されています。
 
(川添和義、小池佑果、栗本慎一郎、磯田 進)
 
注)体質によってはアレルギーなどを起こす場合があります。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。

[参考図書]

難波恒雄 著、『原色和漢薬図鑑(上)』、保育社
三橋 博 監修、『原色牧野和漢薬草大圖鑑』、北隆館
陶 惠寧、中医臨床、vol.43、No.1、p.11-16(2022)