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生薬の花

タムシバ
Magnolia salicifolia (Siebold Zucc.) Maxim. (モクレン科)

タムシバ 花

タムシバ 花

タムシバ 蕾

タムシバ 蕾

生薬 シンイ(タムシバ)

生薬 シンイ(タムシバ)

タムシバ 果実

タムシバ 果実

 今月は、早春に白い花を咲かせるタムシバをご紹介します。タムシバは、本州、四国、九州の山地に自生する日本特産の落葉小高木で、枝はランダムに分枝し灰色で滑らかです。葉は互生し長さ7〜14 cmでやや薄く、硬くて無毛で裏面は帯白色をしています。蕾がベルベットのように気持ち良く、手で揉むと良い香りがするのでつい触りたくなります。葉の出る前に径10 cm位の蕾が1個ずつつき、日が当たると白色で6弁の花が開花します。花のつく枝には葉はないのが特徴で、がく片3枚は花弁状になっています。開花後の果実は集合果で、1つの軸の周りにたくさんの果実が集まってできます。1つの袋果で熟すると中から赤い種子が1つ現れます。和名は葉を噛むと甘いので「噛柴(カムシバ)」が由来とされていて、芳香性があるのでニオイコブシとも言われています。モクレン属のラテン名である"Magnolia"はフランスのモンベリー医科大学の植物学教授、植物園長Pierr Magnol(ピエール マニョール)の業績を讃え、植物学者プルミエが命名したそうです。マニョールは植物分類において科(familia)を最初に使った事で知られています。タムシバにはシネオール、ピネン、カンファー、シトラール、オイゲノールなどの成分が含まれています。また、2015年にはタムシバより5つのフェニルエタノイドの配糖体が単離されたとの報告もあります。
 蕾は採取後乾燥し、生薬シンイ (辛夷) として利用されます。日本薬局方ではタムシバ以外に、Magnolia biondii Pampanini, ハクモクレンMagnolia heptapeta Dandy (Magnolia denudate Desrousseaux), Magnolia sprengeri Pampanini又はコブシMagnolia kobus De Candolle (Magnoliaceae)がシンイの基原植物として規定されています。シンイは鎮静、鎮痛、頭重、特に鼻炎、蓄膿症を目標とした辛夷清肺湯や葛根湯加川芎辛夷に配合されています。民間では鼻炎に対して、シンイ2~5 gに300 mLの水を加え、半量になるまで煎じたものを3回に分けて服用するそうです。
 開花前の蕾を取ってしまうので、タムシバの産地の方にとっては花が減って寂しいと言うお話もあるそうです。もし、自生しているタムシバを見かけましたら、蕾は摘まずに、綺麗な白い花が咲くのをそっと見守ってあげてください。
 
注)この植物の利用には専門的な知識を必要とします。安易に利用しないでください。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。
 
(小池佑果、栗本慎一郎、川添和義、磯田 進)

[参考図書]

三橋 博 監修、岡田 稔 編、「原色牧野和漢薬草大圖鑑」、北隆館
牧野 富太郎 著、「原色牧野植物大圖鑑 離弁花・単子葉植物編」、北隆館
内林 政夫 著、「生薬・薬用植物語源集成」、武田科学振興財団杏雨書屋
学習研究社 編、「漢方実用大事典」、学習研究社
伊沢 一男 著、「薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて」、主婦の友社
伊藤美千穂、北山隆 監修、「生薬単(改訂第2版)」、株式会社エヌ・ティー・エス