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生薬の花

イラクサ
Urtica thunbergiana Siebold et Zucc.(イラクサ科)

蕁麻

蕁麻

イラクサの花

イラクサの花

(左)イラクサの刺毛<br />(右)イラクサによる接触性皮膚炎

(左)イラクサの刺毛
(右)イラクサによる接触性皮膚炎

ミヤマイラクサの花

ミヤマイラクサの花

 触ると痛い植物といえばトゲだらけのバラを思い出す方が多いのではないでしょうか。また、ナツミカンやナツメなどにも太くて硬いトゲがあります。しかし、イラクサは一見、硬そうなトゲはなさそうなのに、うっかり触ると痛い思いをします。それどころか、あとになってかぶれたり腫れたりすることもあります。茎や葉をよく見ると、たくさんの細い針のような毛(刺毛)が見えます。そこには、アリやハチの毒成分である酸などの有機酸などが含まれていて、刺さると皮膚に炎症(接触性皮膚炎)を起こします。「イラ」にはトゲ、辛い、ひりひりするという意味があり、イラクサ(苛草) は、まさに、トゲで刺激を与える植物です。苛という漢字は他にも、触ると痛いという意味で「苛性ソーダ」などに見ることができます。
 主に東日本以西の比較的暖かい地方に分布する多年草で、高さは50 cm~1 mぐらい、粗い鋸歯のある濃い緑色の卵円形の葉が対生します。葉柄や葉の表面は特に刺毛がよく見えます。秋に長い花穂を葉腋から2本ずつ出して緑色の花をたくさんつけます。雌雄同株で、一般的に花穂の下の方には黄色い雄花、上の方には雌花が付きます。色は派手ではありませんが、すっと伸びた花穂はよく目立ちます。生薬名は「ジン」と呼ばれます。蕁麻疹は、この植物に触れてかぶれたようになることから付けられた名前です。中国ではこの種ではなく、ホソバイラクサなどの近い仲間を蕁麻と呼んでいます。民間で葉を煎じて小児のひきつけに使うとされています。また、生の葉を水とすりつぶして、リウマチや毒蛇に咬まれたときに塗るとよいとされていますが、これはギ酸による炎症を起こさせることによって疼痛を紛らわせているものと思われるので危険な治療法です。
 見るからに危なそうな植物ですが、意外なことに食べることができます。東北地方ではイラクサに近い仲間のミヤマイラクサの若い苗を「アイコ」と呼んでおひたしや酢味噌和えなどにして食べます。非常に美味しく、とても毒のある植物とは思えません。イラクサの毒成分は煮ることで消失するので、食べることができるのです。また、セイヨウイラクサはネトルとよんで、アレルギーや膀胱炎などに有効なハーブとして、ヨーロッパでは広くハーブティーなどとして利用されています。一方、アンデルセン童話『白鳥の王子』には、魔法で白鳥になってしまった王子たちの魔法を解くために、傷だらけになりながらイラクサで服を作ったお姫様の話がありますが、実際、イラクサからとても強靱な繊維を取ることができます。アイヌの人々はエゾイラクサなどの大型のイラクサから繊維を取り、テタラペと呼ばれる服を作ります。このように、危険な植物であっても、私たちは長い歴史の中で有効に利用する方法を見いだしてきたのです。
 
(川添和義,小池佑果,磯田 進)
 
注)体質によってはアレルギーなどを起こす場合があります。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。

[参考図書]

牧野富太郎 著、『牧野新日本植物図鑑』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大圖鑑』、北隆館
上海科学技術出版社・小学館 編、『中薬大辞典2巻』、小学館