健康に関心が高い方は,エゴマと聞けばエゴマ油を思い浮かべるのではないでしょうか。循環器系疾患の予防効果があるとされるα-リノレン酸が豊富に含まれているということで,アマニ油などともに健康食品として有名になりました。植物の見た目にはアオジソにそっくりです。それもそのはずで,エゴマとシソはとても近い親戚で変種の関係にあります。シソほどはなじみがないように思いますが,実は,日本にも古くからあった植物で縄文時代の遺跡からも見つかっています。古くは荏と呼ばれ,日本各地で栽培されていました。特に関東ではよく栽培されていたようで,東京の荏原という地名もエゴマと関係があるといわれています。
アオジソとの区別はとてもつきにくいのですが,まず葉の香りに大きな違いがあります。シソ独特の香りはほとんどなく,シソとは違うことがわかります。シソのあのいい香りはペリルアルデヒドという成分によるものですが,エゴマにはやや不快な匂いのするペリラケトンが多く含まれます。しかし,それ以外の花や葉の形などはアオジソとほとんど変わりなく,外見だけではほとんど区別がつきません。初夏に花穂を出してシソ科特有の口唇状の白い花をつけます。花の後には「種」ができるのですが,植物についている状態をよく見ると4つの粒が固まって付いていて,分果であることがわかります。つまり,「種」に見えるのは果実であり,果実を絞って得られるのがエゴマ油ということになります。一年草なので実生で繁殖しますが,近くにシソやアオジソが植わっているとすぐに交配してしまうので注意が必要です。
植物全体に細かい毛があり白っぽく見えることから,中国では赤色の「紫蘇」に対して「白蘇」と呼ばれ,葉(白蘇葉)を冷えによる下痢や消化不良などの改善,果実(白蘇子)を咳止めなどに利用しているようです。また,蛇に咬まれたときは生の葉を酢とともに揉んで患部に貼り付けるといいとされています。日本ではあまり薬用に利用することはないようですが,民間では股部白癬(いんきんたむし)に生の葉の絞り汁を塗るとよいと言われているようです。
日本でも古くから葉や果実を食用としてきたのですが,香りが余り好まれないためか,どちらかといえば油(荏油)を取ることを目的として栽培されていたようです。菜種油が一般的になる中世までは灯明など明かり用の油として利用されていたほか,乾性油なので和傘に張る和紙などの撥水剤として使われていました。食用としての利用は現在でも多くはないのですが,岐阜県飛騨地方では「あぶらえ」と呼ばれ,五平餅などにつぶした果実を和えたりして古くから親しまれています。また,東北地方でも「じゅうねん」や「じゅね」と呼んで郷土料理に広く利用しています。一方,韓国では葉の独特の香りが好まれるようで,깻잎と呼ばれて,醤油漬けやキムチにしたり焼肉を包んだりして様々な料理に利用されています。エゴマとシソはそれぞれに独特の香りがあるのですが,地域や民族によって好みが違っているのはとても興味深いところです。
(川添和義,小池佑果,磯田 進)
注)体質によってはアレルギーなどを起こす場合があります。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。