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生薬の花

ヒガンバナ
Lycoris radiata Herb. (ヒガンバナ科)

花

葉

鱗茎(石蒜 せきさん)

鱗茎(石蒜 せきさん)

 秋の彼岸の頃、土手や道ばた、田んぼの畦道や墳墓の周辺に葉の無い鮮紅色の花が各地で見られるようになります。ヒガンバナの名前の由来はまさしく「彼岸に咲く花」です。別名の曼珠沙華(まんじゅさげ)は「赤花」を表す梵語(ぼんご、サンスクリット語)です。ヒガンバナは多年生で、草丈は20~40 cmになり、地下に鱗茎(りんけい)を有します。初秋の頃、花茎をまっすぐ伸ばし、その先に長い花柄を持った鮮紅色の花が数個輪生状に開きます。葉は濃緑色で中央に線が入った線形で、花が終わってから伸ばすため、葉と花を同時に見ることができないユニークな植物の一つです。
 学名のLycorisはギリシャ神話の「海の女神の名前」に由来し、radiataは「radiatus(放射状の)」の意味で、花の美しさにちなんでいます。英名はクモの脚に似た花にちなみred spider lilyといいます。
 薬用には鱗茎を用い、生薬名を「石蒜(せきさん)」といいます。鱗茎にはリコリンやガランタミンなどのアルカロイドを含み、鎮咳去痰や鎮痛、降圧、催吐などの薬理作用が知られています。この石蒜から得られたエキスは、別名を白色濃厚セキサノールといい、市販の鎮咳薬に配合されています。ただしヒガンバナのアルカロイドは作用が激しく、一般的には毒草として取り扱われていますので安易に用いないでください。
 含有成分のガランタミンは、アルツハイマー型認知症治療薬「レミニール®」(一般名:ガランタミン臭化水素酸塩)として2011年に発売されました。しかし、レミニール®の有効成分であるガランタミンは、ヒガンバナと同じ科のマツユキソウの鱗茎から見出され、開発されました。ヒガンバナは前述のように墓地に植えられることが多いためか、死人花(しびとばな)、ホトケバナ、ハカバナ、シタマガリなど暗いイメージを連想する多くの別名を持っています。新薬の開発はそのマイナスイメージを払拭するとてもよいチャンスでしたが、残念ながらその栄誉をマツユキソウに先を越されてしまった悲運な花といえます。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野 富太郎 著、原色牧野植物大図鑑 (合弁花・離弁花編)、北隆館
三橋 博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第10巻』、朝日新聞社出版局
上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第3巻)』、小学館
水野瑞夫 監修、田中 俊弘 編集、『日本薬草全書』、新日本法規出版
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
トニー・ロード 著、井口 智子 訳、『フローラ』、産調出版