今月の生薬の花は、黄色く蝶形の花を咲かせ、観賞用として栽植されるエニシダです。花言葉は清楚、熱情です。この植物は、1600年代にオランダ船により長崎へ持ち込まれたとされています。
エニシダはヨーロッパ原産で、荒野、道路べり、開けた森林地帯に見られます。アメリカでは多くの温帯地方に帰化しています。高さは1~3 mになり、枝はよく分枝し弓状に曲がっています。葉は3小葉ですが退化し、1小葉にもなります。花は5~6月に咲き、豆果は長さ5 cm位になり両縁に軟毛があります。先端には、巻き上がった花柱が残っています。
和名は、以前の属名Genistaのオランダ読みが「エニスタ」に転訛し「エニシダ」になったとされています。また、「金雀枝」や「金雀花」と書いてエニシダと読み、俳句で夏の季語として登場します。英名は、「Broom(箒)」といい、体を浄化するものとしての有用性を示しているそうです。そして、種名の「scopa」もラテン語で箒を意味しています。イギリスでは、エニシダの枝を集め箒が作られることから、魔女がエニシダの枝箒を好み、真夜中に箒にまたがって飛行すると信じられていました。日本でも、赤いリボンをつけた魔女が、箒に乗って飛んでいる映画が放映されたことを思い出します。
エニシダには強心作用をもつキノリジンアルカロイドのスパルテインやフェネチルアミンのチラミン、イソフラボンのゲニステインが含まれます。
ヨーロッパでは、枝を煎じて強心利尿薬に用いていました。この強心作用は、茎に多く含まれているスパルテインが関与してします。スパルテインは心臓のナトリウムチャネルを阻害し、刺激の伝達を遅らせるので、クラスI抗不整脈薬と同じ作用を示します。そして子宮筋肉を収縮させることから、分娩後の出血を防ぐ目的で使用されていたそうです。このように、強心、利尿、子宮収縮に強力に作用することから、専門的知識がなければ民間薬としては利用できない植物です。なお、日本では枝、葉は「専ら医薬品として使用される成分本質 (原材料) 」に該当するので食品として使用することはできません。また、国によっては法律で利用が規制されている場合もあります。エニシダは、その美しい花を鑑賞したり箒の原料として利用することが望ましい植物といえるでしょう。
注)この植物の民間薬的利用は専門的な知識が必要ですので、安易に利用しないでください。
(小池佑果、川添和義、磯田 進)