シランは紫色の花をつけるラン科の植物であることから「紫ラン」と呼ばれるようになったそうです。花は上部に3~7個、総状花序に咲きます。草丈は30~70 cmほどになり、湿地、崖上などにも生える強い多年草です。茎は下部が細く数個の葉鞘に包まれています。偽球茎は扁球形の白色多肉で、秋に掘り上げ蒸すか熱湯に数分間浸してから日干しにすることで、生薬ビャッキュウ(白及)になります。名前の由来について、中国の明時代の医師である李時珍は「根が白く、連及して生じるので白及という」と、記しています。
ビャッキュウは世界最古の薬物書である「神農本草経」の下薬に分類され、「治癰腫悪阻敗疽、傷陰、死肌、胃中邪気、賊風鬼撃、痱緩不収」と記載されています。これを現代読みに翻訳すると、「化膿性の腫れ物、難治性の皮膚病変、膣の外傷、知覚障害、胃の不快感、風などを引き起こすウイルスや細菌、胸腹部の疼痛、脳血管性障害後遺症、麻痺を治す」となります。ビャッキュウに含まれる成分は粘液質のブレティラグルコマンナン及びデンプンなどです。そのため、収斂性止血、消腫、皮膚および粘膜保護の作用があります。使用法は、喀血に3~10 gを煎じて1日3回に分けて服用します。他には、火傷、あかぎれ、悪瘡に対して、粉末にし、ごま油で練って患部に塗布します。日本で使用されることは少ないですが、中国では肺熱や胃熱の吐血に使用されます。ビャッキュウの水浸剤は試験管内でグラム陽性菌及び結核菌に対し顕著な抑制作用が報告されており、小芽胞癬菌に対しても抑制作用があります。
また、中国本草学の基本とされている「本草綱目」には、ビャッキュウの帰経(きけい)が「肺」と記載されています。帰経とは、生薬が体のどの部分に影響するかを表しています。肺に障害を与える物質として、最近ではPM2.5が注目されています。呼吸器の疾患に繋がることから、PM2.5の飛散予報がニュースで放送されているのを皆さん目にしたことがあるでしょう。実は、ビャッキュウのエタノール抽出物はPM2.5によって引き起こされる炎症を抑制することが、中国の研究グループから2019年に報告されました。この報告は、ビャッキュウの帰経が「肺」であることを支持する科学的根拠の第一歩となりました。
(小池佑果、高松 智、磯田 進)