キンモクセイは、夏が終わり少し涼しくなって来た頃に花を咲かせます。花は橙色でとても小さく、甘く芳醇な香りを放ちます。庭の栽植として親しまれている常緑小高木なので、住宅街や街路樹に秋の香りを漂わせます。幹は太く、よく分岐していて、高さ4 mぐらいになります。葉は長さ5〜9 cmで、革質で裏面が多少黄味を帯びています。花の形状は、がく4列、花冠は深く4列、雄しべ2本、雌しべ1本、雌雄異株です。日本には雄木ばかりで子房は退化し結実しません。
和名のキンモクセイは、ギンモクセイO. fragrans Lour. var. fragransの花が白であることに対し、橙色の花を金に例えたことから名付けられたそうです。また、樹皮の様子が犀(サイ)の皮膚に似ている事と、金色の花を咲かせることから金木犀となったとも言われています。中国ではギンモクセイを桂花といい、性味は辛温、痰を除き、瘀を散らすとされています。属名の学名「Osmanthus(オスマンサス)」は、ギリシア語の「osme(香り)」と「anthos(花)」が語源です。
キンモクセイの薬用部位は花で、薬効は胃炎、低血圧症、不眠症です。木の下にビニールシートを敷き、落ちて来た花を集めて陰干しにしたものが生薬モクセイ(木犀)です。食品としての利用は、乾燥した花30~50 gを焼酎1.8 Lに入れ、3ヶ月ほど冷暗所に置き、胃の調子が悪い時、盃に一杯ほど水か湯に薄めて飲むと良いそうです。他にも、白ワインに漬けたものが桂花陳酒(ケイファチンシュ/ケイカチンシュ)として売られています。また、桂花茶(ケイカチャ)は、キンモクセイの花を乾燥させたものです。甘い香りが高く、そのまま煎じたり、紅茶や烏龍茶などに混ぜたりします。
キンモクセイの橙色の正体はカロテノイドです。実は、この色がキンモクセイの香りに関係しています。キンモクセイの花弁に含まれるカロテノイドが、カロテノイド酸化開裂酵素に分解され、イオノンを産生します。イオノンはスミレの精油などにも含まれる甘い香りの精油成分です。その為、橙色が濃い花は香りが強いのです。また、この酵素の活動は午前中に活発になり、夕方以降は落ち着きます。通勤、通学路にキンモクセイがありましたら、行きは秋の香りを胸一杯に吸い込んで1日頑張り、帰りはほのかに漂う甘い香りに癒されてみてはいかがでしょうか。
(小池佑果、高松 智、磯田 進)