春になると満開のサクラが注目されますが、河川敷や土手、道端などに眼を向ければ、とても地味な土筆(ツクシ)が所々に見られます。ツクシはスギナという植物の一部分ですが、残念ながら花はありません。ツクシは早春に芽を出すスギナの胞子茎です。茎は柔らかな円柱状で退化した「はかま」と呼ばれる葉(葉鞘)が節に付いています。薄茶色で丈は10~15cm程度です。おひたしや佃煮などにしてよく食べた思い出のある方も多いと思います。
スギナはトクサ科の耐寒性の多年生草本で、ツクシが枯れた後に芽を出します。草丈は30~40cmになり、中空の円柱状で、節で輪生状に多数分岐します。緑色の葉は小さく鱗片状です。スギナは栄養茎として養分の調達を、ツクシは胞子茎として繁殖をそれぞれ分担しています。
和名のスギナは草の形がスギ(Cryptomeria japonica D. Don)に似ているから、杉菜と名がついたという説や、節のところで抜いて継ぐことができたことから、継ぐ菜から転訛したという説があります。本草綱目には、節と節とが互いに接しているので接続草として登場します。学名のEquisetumは、ラテン語で馬を意味する「equus」と剛毛を意味する「seta」を組み合わせた言葉が由来といわれ、種小名のarvenseは「耕作地」を意味します。英名はfield horsetail、bottlebrushと言います。これはスギナが馬のしっぽに似ていたこと、ケイ酸を多く含むことから研磨剤としての用途にそれぞれ由来します。
5~7月に全草を採取し、水洗いしてから天日で乾燥させます。これを生薬のモンケイ(問荊)といいます。腎臓炎、利尿、肋膜炎、去痰、膀胱炎、回虫駆除などに、モンケイの煎じ液を服用します。また、皮膚疾患や漆かぶれには外用として用いられます。ドイツではスギナに全身の代謝促進作用のあることが知られています。特に結合組織強化剤としてリウマチ疾患、脚の浮腫、凍傷、骨折後の後遺症、痙攣性子宮周囲病などにはスギナエキスの座浴が良いとされています。これは研磨剤の用途の説明と同様に高濃度のケイ酸によるとされています。
このようにスギナは食用や薬用資源として重宝される一方で、繁殖旺盛で手がつけられない頑固な雑草として嫌われる場合があります。実際に本学の薬草園でも例外ではありません。ツクシの芽吹きを合図に、スギナとの格闘が始まります。
(高松 智、小池 佑果、磯田 進)