あの有名な物語や映画に魔法使いの杖として登場していたのがニワトコという植物です。ニワトコは山野に見られる落葉の低木です。葉は対生で、羽状の複葉は長さ15~30cmになり、花は新芽が出る春に開き、赤い果実を付けます。若葉は食用または民間薬として用いられます。生薬として利用される薬用部位は3箇所あり、茎はセッコツボク(接骨木)、葉はセッコツボクヨウ(接骨木葉)、花はセッコツボクカ(接骨木花)と、それぞれ呼びます。茎と葉は7~8月に取り、花は開花直前に採取し陰干しにして使用します。セッコツボクは粉末にしてオウバクと混ぜ、水を加えて練った物をガーゼに塗り、打撲傷やうち身に用いられます。セッコツボクヨウとセッコツボクカは煎じて服用することで利尿を目的に使われています。
ニワトコの仲間にはエゾニワトコS. racemosa L. subsp. kamtschatica(E. Wolf)Hulten.とセイヨウニワトコS. nigra L. があります。エゾニワトコは名前から想像できるように北海道の低地に広く分布しており、花冠は淡黄色で平らに開くことと、花全体の形が三角帽子の様な形をしているのがニワトコと異なります。一方セイヨウニワトコは北アフリカ、ヨーロッパ、西アジアに分布し、日本では明治末頃に渡来し各地で栽培されるようになりました。花序は帯黄白色でキノコのようにまあるい形となり香気を放ち、果実は光沢のある黒色をしています。恐らく、エルダーフラワーと言う名の方がハーブ好きの方には聞き慣れていることでしょう。イギリスではエルダーフラワーを果物やレモンと一緒に水やサイダー、お酒に漬けた飲み物がガーデンパーティーなどで振る舞われるそうです。また、エルダーベリーはセイヨウニワトコの果実を指し、こちらはポリフェノールを含むことから抗酸化作用を期待したサプリメントとして日本でも使用されています。しかし、生のままや熟していない果実は吐き気や嘔吐を引き起こす事がありますので注意して下さい。
さて、ニワトコに話を戻します。ニワトコは、山多豆(やまたづ)、造木(みやつこぎ)、瘤木(こぶのき)とも呼ばれています。「やまたづ」は「迎へ」の枕詞として和歌に登場し、「古事記」や「万葉集」の一部で用いられています。ニワトコの葉が対生して向かい合っていることが、理由だそうです。また、生薬名のセッコツボクは、昔の接骨医が骨折の治療にニワトコの枝の黒焼きにうどん粉と食酢を加え練った物を患部に厚く塗り副木を当てていたことから名付けられました。
ニワトコの茎の中心部分は淡褐色の柔らかい髄があり、乾燥させるといわゆるピスになります。昔の生薬学の実習では,必ずこのピスに植物の葉や根,生薬などを挟んでカミソリで切片を作成しました。年配(失礼!)の先生方は懐かしい薬学部生時代を思い出されるのではないでしょうか。現在はニワトコといえば魔法の杖を想像される若い先生方もいらっしゃると思いますが、ニワトコは若者から年配の方まで愛される木なのです。
(小池佑果、高松 智、磯田 進)