生薬の花

ネズミモチ ネズミモチ Ligustrum japonicum Thunb.(モクセイ科)

     花 トウネズミモチ(左)、ネズミモチ(右)

     花 トウネズミモチ(左)、ネズミモチ(右)

     果実 トウネズミモチ(左)、ネズミモチ(右)

     果実 トウネズミモチ(左)、ネズミモチ(右)

生薬 ジョテイシ(女貞子)。 トウネズミモチ(左)、ネズミモチ(右)由来

生薬 ジョテイシ(女貞子)。 トウネズミモチ(左)、ネズミモチ(右)由来

 ネズミモチ(鼠黐)は関東南部以西のやや暖地の山林に自生し、かつては盛んに植栽された常緑の低木です。高さは2~3 mになり、枝はよく分岐します。葉は対生で、短い柄があり、花は6月頃に新枝の先に白い小さな多数の円錐花序として咲きます。果実は11月頃に完熟し黒くなります。これがネズミの糞に似ているので俗にネズミノフン、ネズミノコマクラと呼ばれるそうです。このような名前でも戦時中は砕いた実をコーヒー豆の代用として飲まれたこともあるようです。同果実を乾燥したものが生薬ジョテイシ(女貞子)です。  ジョテイシは強心、利尿、緩下、強壮薬として古くから用いられており、肝臓、腎臓、腰、膝を強くし、精力も養い、若白髪や月経困難にも効き目があるとされています。現在でもジョテイシエキスは滋養強壮を目的とした市販のドリンク剤やカプセル剤に配合されています。また果実(女貞子)酒としても長年親しまれてきました。果実の女貞子のほかに、樹皮は女貞皮として風邪の熱に、抗菌作用のある葉は女貞葉として解熱に、根は女貞根として咳嗽治療の目的で利用されてきました。その他、葉や樹皮は染色にも利用されていたようです。漢方処方の二至丸(ニシガン)はジョテイシと旱蓮草(カンレンソウ)からなるもので、視力低下、目のしょぼしょぼ感、かすみ目、足腰の重感無力感、若白髪などに用います。

 現在、ネズミモチ由来のジョテイシは市場で見られず、中国原産の同属のトウネズミモチ(唐鼠黐、Ligustrum lucidum Aiton)の果実が生薬ジョテイシとして流通しています。いずれも塩害や大気汚染に強いため、緑化樹として植栽されるようになりました。  和名は果実の形状と葉や幹など全体がモチノキに大変よく似ていることに由来するようです。厚くて光沢のある葉がツバキに似ていることから、タマツバキとも呼ばれています。ネズミモチの英名はJapanese privetと言います。学名の属名「Ligustrum」は、ラテン語の「ligare(縛る)」が語源で、この植物の枝が柔らかいことから、物を縛ったことに由来しています。種小名の「japonicum」は「日本の」を意味します。ちなみにトウネズミモチ(英名Broad-leafed privet、Glossy privet)の種小名「lucidum」は、「強い光沢のある、明るい」を意味しています。

 このような不老長寿薬ともあがめられるジョテイシですが、基原植物のトウネズミモチは、「生物多様性の保全上重要な地域で問題になっている。生態系被害のうち競合または改変の影響が大きく、かつ分布拡大・拡散の可能性も高い。」などの理由から、生態系被害防止外来種(旧 要注意外来生物)となっています。薬用資源の供給と生態系保存の問題の板挟みとなっているトウネズミモチは厳しい立場にあるようです。 (高松 智、小池 佑果、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑 離弁花・単子葉植物編』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第2巻』、朝日新聞社出版局
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 第2巻』、小学館
神戸中医学研究会 編、『中医臨床のための中薬学(新装版)』、東洋学術出版社
トニー・ロード、大槻真一郎 著、井口智子 翻訳,『フローラ - Gardening FLORA第2巻』、産調出版
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑 [Ⅰ]』、保育社
蕭培根 編、真柳誠 翻訳編集、『中国本草図録 第3巻』、中央公論社
生態系被害防止外来種リスト https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html(アクセス 2018-11-25)