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生薬の花

オナモミ
Xanthium strumarium L.(キク科)  

花(オナモミ)

花(オナモミ)

果実(オナモミ)

果実(オナモミ)

果実(オオオナモミ)

果実(オオオナモミ)

生薬:ソウジシ(オナモミ) 生薬:ソウジシ(オオオナモミ)

生薬:ソウジシ(オナモミ) 生薬:ソウジシ(オオオナモミ)

 秋から冬にかけてセーターなどの衣類にくっつき、とげとげとした実を皆さん一度は目にしたことがあると思いますが、これが生薬になるのをご存じでしたか?それはオナモミという植物の果実で、日干しにすると蒼耳子(ソウジシ)という生薬になります。ソウジシは解熱、発汗、鎮痙薬として風邪を引いたときの頭痛や鼻炎、蓄膿症、リウマチに対する効能があります。漢方では蒼耳散(ソウジサン)という処方に使われています。この処方はソウジシと辛夷(シンイ)、白芷(ビャクシ)、薄荷(ハッカ)で構成されており、風邪で熱が出ており副鼻腔炎、鼻炎、咽頭炎を発症している患者さんに使用されます。蓄膿症や慢性鼻炎に用いられる漢方として辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)の方が有名かもしれませんが、シンイよりもソウジシは風邪を引いた時の体に溜まった水分を取り除く作用に優れているので、風邪を引いて鼻が詰まっている時には蒼耳子散の方が適しています。

 オナモミは北海道から沖縄で自生しており、海外では台湾、朝鮮半島、中国、北米に分布しています。稲作文化が日本に入った頃、アジア大陸からの帰化植物として全国に広まったとされています。近年ではアメリカ原産のオオオナモミX. canadense M.が帰化植物として国内で多くみられます。オナモミは1年草で高さ20 cm~1 mになり、花期は8~10月で、果実を9~10月に採取し乾燥させソウジシとなります。ソウジシは黄緑色で刺がやや柔らかく、形が大形で粒が揃い、内部の充実している物が良品とされています。種子には配糖体のキサントストルマリンが含まれています。効能は先に紹介した以外にソウジシから絞った油を疥癬などの皮膚瘙痒に用います。中国ではオナモミの実から絞り出した油を食用として用いており、この油はリノール酸が多く含まれているのでベニバナ油に似ています。

 世界最古の本草書として知られる神農本草経にソウジシは「枲耳(しじ)」と言う名で記載されています。この名の由来は諸説ありますがいずれも実に対する命名がされていて、その1つに実が婦人の耳璫(じとう、耳飾り)に似ている事から生まれたと言う説があります。また、名医別録には味と薬効について「苦辛、微寒、有小毒」と記されています。現代においてオナモミの有毒成分はカルボキシアトラクティロシドと同定されており、細胞内での酸化的リン酸化とミトコンドリア膜におけるATPの転移を阻害することが報告されています。この中毒の特徴の一つである低血糖は、この酸化的リン酸化の脱共役と関連しているものと考えられています。オナモミによる家畜中毒のほとんどは、成長した植物ではなく地面に落ちて発芽した実を食べて起こることから、中毒は多くの場合早春に起きています。オナモミは食するよりも秋から冬にかけて採取した果実を耳飾りにした方が良いかもしれませんね。

(小池佑果、高松 智、磯田 進)

[参考図書]

上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第1-4巻)』、小学館
牧野 富太郎 (著) 改訂版原色牧野植物大図鑑 (合弁花・離弁花編)、北隆館
難波 恒雄 著、「和漢薬百科図鑑 (Ⅰ)」、保育社
蕭 培根 (編集), 真柳 誠(翻訳編集)、中国本草図録〈巻3〉、中央公論社
伊沢 一男、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
漢方実用大事典、学習研究社
小根山隆祥、佐藤知嗣、飛奈良、神農本草経の植物 植物由来生薬の原色写真、たにぐち書店
藤平健、山田光胤監修、日本漢方教会編集、改訂三版 実用漢方処方集、じほう
平野陽三、漢方生薬実用事典、産調出版(株)
Luciani, S. et al. 1971. Effects of carboxyatractyloside, a structual analogue of atractyloside, on mitochomdorial oxidation phosphorylation. Life Sci10: 961-968.
Stuart, B.P. 1981. Cocklebur (Xanthium strumarium, L. var. strumarium) intoxication in swine: review and redefinition of the toxic principle. Vet. Pathol. 18: 368-383.