イチヤクソウ属は北半球の温帯に約40種が分布する多年生草本で、常緑色が冬に目立つため「ウインター・グリーン(winter green)」の英名があります。イチヤクソウは山野の林で地中に細長い地下茎を伸ばし、所々で芽を出して葉と花を付け繁殖します。葉は厚く艶があり、長い柄があり根生葉として根元に集まって付きます。葉の艶と形から方言でカガミソウ(鏡草)と呼ばれることもあります。しばしば葉の裏面や柄は紫色を帯びています。花は6月頃に葉の間から高さ20 cm程の花柄を出し、直径13 mm位の白い花を下向きに開きます。また、根毛が発達せず、内生菌根と共生することで栄養を得る菌根植物であることも同植物の特徴です。このために、同科植物の移植栽培は難しいとされています。
属名のPyrolaはpyrus (pirus)「ナシの木」に相当する指小形を意味し、葉がナシの葉に似ていることによります。和名は1つの薬草で諸病に効くことから「一薬草」の字が当てられたとする説がありますが、定かではありません。
花期の全草を日陰干ししたものが生薬ロクテイソウ(鹿蹄草)で、強心、血圧の降圧や抗菌などの作用があるとされています。類似のベニバナイチヤクソウ(P. incarnata Fischer)、ジンヨウイチヤクソウ(P. renifolia Maxim.)、マルバイチヤクソウ(P. nephrophylla Andres)なども同様に用いられます。
民間では生の葉汁を打撲傷、切り傷の外用に、また保温を目的に浴湯料とします。煎液には利尿作用があり、脚気やむくみによいとされています。また、中国では粉末状にしたものを避妊薬に、また、お茶がわりに飲むと婦人薬として月経が順調とあります。日本ではイチヤクソウエキスが配合された日焼け止めローションが市販されています。
ちなみに、イチヤクソウは東京都では絶滅危惧種に、また奈良県と鹿児島県では準絶滅危惧種に指定されています。山野への探索でイチヤクソウを見かけたら、微生物に養われていることを思い出して、むやみに採取しないでください。また、これからの外出には夏のアイテムとしてもお忘れなく。(高松 智、小池 佑果、磯田 進)