キンカンは、ミカン科の果実の中で、果皮のまま食べられるのが、最大の特徴です。皮を捨てて果肉を食べるミカンとは異なります。日本で普通に栽培されているキンカンは、ネイハキンカン(寧波金柑、F. crassifolia)、ナガキンカン(長金柑、F. margarita)、そしてマルミキンカン(丸実金柑、F. japonica)ですが、一般的には、ナガキンカンやマルミキンカンを「キンカン」と呼んでいます。
キンカンは高さ3 mほどの常緑低木で、枝はとげがほとんど無く、葉柄に狭い翼(よく)があります。夏に1~3個の小さな白い花を付けます。果実は球形か短卵形で、黄金色です。キンカンは和歌山、高知、宮崎、鹿児島などの暖地で栽培されています。キンカン類は、一見してミカン(Citrus)属と考えられていましたが、ミカンと比べると実が小さく、子房の室数が少なく、葉の葉脈が不明瞭で、葉の成分には精油が含まれているなどの理由により、ミカン属から分離してキンカン属に分類されています。
和名は漢名の「金橘」に由来し、英名の「Kumquat」もしくは「Cumquat」は、「金橘」の広東語読みに由来すると言われています。学名の属名「Fortunella」はイギリス人の植物採集家Robert Fortune に因んでいます。
キンカンの薬用部位は果実で、刻んで乾燥したものを生薬キンキツ(金橘)といいます。通常は10~11月頃に生のままの果実を水洗いして使用します。皮付きのまま刻んで、砂糖煮にしたものを解熱・咳止や風邪に用います。また、金柑酒として、疲労回復や冷え性にも良いとされています。香りがよく口当りも良いため、飲み過ぎないようにしてください。食用としても、砂糖漬けやはちみつ漬け、ジャム、ドライフル-ツなどとして重宝されます。ただし、晩秋から冬にかけては、名を冠した『のど飴』が主役として君臨することは言うまでもありません。
ちなみに、同属のマメキンカン(F. hindsii)は、酸の含有率が高く、松脂(まつやに)臭があり、生食には適しませんが、葉や木が小さく、盆栽に適していることから人気があり、また、俳句において果実は秋の季語に、そして花は夏の季語として、色々な活躍の場があるようです。芥川龍之介の作品をはじめ、数多くの俳句にも登場します。
(高松 智、小池佑果、磯田 進)
生薬の花
キンカン
Fortunella margarita (ミカン科)
マルミキンカンの花
マルミキンカンの果実
生薬 キンキツ(金橘)
[参考図書]
牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑 離弁花・単子葉植物編』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第3巻』、朝日新聞社出版局
学習研究社 編、『漢方実用大事典』、学習研究社