menu

生薬の花

ツルドクダミ
Polygonum multiflorum Thunb. (タデ科)

花

根茎および根

根茎および根

生薬:カシュウ

生薬:カシュウ

 日本の各地で見るツルドクダミは雑草のように見えるかもしれませんが、実は立派な生薬なのです。ツルドクダミの根が膨らんでいる部分(塊根)を乾燥したものを生薬「何首烏(カシュウ)」といいます。
 ツルドクダミはタデ科タデ属の植物で、学名「Polygonum」はギリシャ語の「多い(polys)」と「膝、節(gonu)」からきており、根茎の膨らんだ節が多くあることに由来しているそうです。和名の「ツルドクダミ」はご想像の通り、葉の形がドクダミに似ている事から名付けられたとされています。
 ツルドクダミの茎はつる性で長さ1~2 mまで伸び、葉は互生で卵形から心形をしており長さ3~6 cmで、緑色をして軟質です。とても小さく白い花は9~10月に多数咲き、円すい状の花序をつけます。性味は、微温、苦、甘とされ、成分はアントラキノン類のエモジン、スチルベン配当体、タンニンなどが含まれています。薬理作用として血中コレステロール低下、血糖降下や感染症予防などが知られていることから、現代人の生活習慣病に最適な生薬のように感じます。この作用は古くからアジアで利用され、民間では滋養強壮や若返りの薬として使用されてきました。中国の本草学者である李時珍は「カシュウは味が苦く濇(しぶ)るものだから、その苦は腎を補し、温は肝を補し、能く精気を収斂する。その結果、能く血を養って肝を益し、性を固めて腎を益し、筋骨を健にし、髭髪を黒くするのであって、地黄や天門冬諸薬の上に在る」と語っています。カシュウが滋養強壮や子孫繁栄の目的で利用されていたことが彼の説明からも理解できます。漢方では当帰飲子や何首烏丸に配合されており、前者はかゆみのある湿疹に、後者は虚弱で腰や膝がだるく無力で早期老化、帯下に使用されます。また、食品として滋養強壮の効果を期待した薬酒や、カシュウを煮出したエキスを使ってスープや煮込みに利用されています。この「何首烏」というのは人の名で本来は交藤(コウトウ)という名の薬草で知られていたそうです。58歳になるまで妻子なく山中の修道生活をしていた何首烏はその根を末にして服したところ、数ヶ月で強健になり、白髪は黒くなり容貌も若くなって十年間に数人の男子を設けたことから名付けられと「何首烏伝」に記載されているそうです。伝説の様な話ですが、現代でも滋養強壮に利用されている事を考えますと、この話はまんざらでもなさそうです。
(小池佑果、高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
水野 瑞夫 監修、田中 俊弘 編集、「日本薬草全書」、新日本法規出版
難波 恒雄 著、「和漢薬百科図鑑 [Ⅰ]」、保育社
学習研究社、漢方実用大事典、学習研究社
アンドリュー・シェヴァリエ (著), 難波 恒雄 (翻訳)、「世界薬用植物百科事典」、誠文堂新光社