生薬の花

ダイコンソウ Geum japonicum Thunb.(バラ科)

花

ロゼット状の根生葉

ロゼット状の根生葉

そう果の集合体

そう果の集合体

生薬:スイヨウバイ(水楊梅)

生薬:スイヨウバイ(水楊梅)

 ダイコンソウは北海道から九州に分布し、丘陵地、草地、樹陰、湿地、道端に生える多年草です。草丈25~60 cmで茎は直立し単一か少数分枝しています。根生葉は互生し、多くは羽状に3深裂し、側小葉は円形か広卵形で時に2~3裂し、円頭か鈍頭で長さ3~6 cmとなりロゼット*を形成します。花期は6~9月で枝先に黄色い花を3~10個散房花序につけます。根を含む全草を干し乾燥したものをスイヨウバイ(水楊梅)といい生薬として使用します。全草にはフェノール配糖体のゲイン、苦味成分のゲウムビター、タンニン、ショ糖などを含んでいます。
 ダイコンソウの由来は地上すれすれに出ている根生葉がダイコンの葉に似ていることから付いたそうです。属名のGeumはギリシャ語のGeuo(美味)の意味で根及び花に由来し名付けられたそうですが、本草書として有名な本草網目には性味:辛、温、無毒と記載されているので、古代のローマ人は辛いモノを美味としていたのでしょうか。花期が終わり、そう果の集合体はハリセンボンを彷彿させる形態をしています。この植物の特徴は花頭にあり、多数の雌しべそれぞれに腺毛が生え、先端がかぎ状に曲がっていることです。そう果は開花後に落下し動物にくっつき果実が散布されるので、この花頭こそがダイコンソウ繁殖のカギになっているのです。国内には類似の植物であるオオダイコンソウG. aleppicumやミヤマダイコンソウAcomastylis calthifoliahaが見られますが、花頭はダイコンソウとは違い、オオダイコンソウの花頭は斜め横か下向きで、腺毛がありません。更にミヤマダイコンソウの花頭は関節がなく真っ直ぐに伸びているためダイコンソウ属と区別されているようです。
 全草は民間で強壮、発汗、利尿に作用があることが知られており、腎臓障害による浮腫、糖尿病、夜尿症などに用いられるそうです。また、湿疹などの皮膚病、腫れ物にも使用し、黒焼きにした後、小麦粉を練って打撲した箇所に貼って使用することもあるそうです。本草綱目には、主治:疔瘡腫毒(ちょうそうしゅどく:小さな瘡が蜂窩織炎(ほうかしきえん)を伴った場合で激症であるものとできものを治す)と記されてあります。本草網目は1590年に完成された書物で、ダイコンソウの使用目的は400年以上も経った現代でも変わらずに残っていることを考えると、湿地に生える黄色の花を眺める時間がいつもより少し長くなりそうです。因みに、食用のダイコンはアブラナ科ダイコン属Raphanus sativusの根が肥大した部分を主に使用しますが、葉の方がビタミンA、C、Eやカリウムを多く含みます。葉の形が似ていることだけでなく、どちらも利尿を期待できることからダイコンソウと名付けられたのかもしれません。

*ロゼットについては4月の花「ナズナ」の解説を参照
(小池佑果、高松 智、磯田 進)

[参考図書]
牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
竹谷孝一編、『パートナー生薬学』、南江堂
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第2巻』、朝日新聞社出版局
李時珍 著、『図解本草綱目』、陜西師範大学出版社
平宏和 著、『食品図鑑』、女子栄養大学出版部