生薬の花

ナズナ Capsella bursa-pastoris (L.) Medicus (アブラナ科)

ナズナの花

ナズナの花

ナズナの果実

ナズナの果実

生薬 セイ(薺)またはセイサイ(薺菜)

生薬 セイ(薺)またはセイサイ(薺菜)

ナズナのロゼット

ナズナのロゼット

 ナズナは畑や道端など至るところ生え、「春の七草」の一つに数えられています。生命力が旺盛なことから、よく雑草と思われがちですが、邪気を払い一年の無事を願う風習として、正月七日に食べる七草粥(ななくさがゆ)には欠かすことのできない植物です。
 ナズナは一年または二年草で、草丈は10~70 cm位になり、切れ込んだ根生葉(こんせいよう)は、ロゼット(注釈*)で越冬します。春になると直立した花茎を出し、4花弁の白い十字形の花を総状花序につけ、果実は心臓形を呈しています。
 ナズナの語源は「撫菜(なでな)」より転訛したといわれ、撫でたいほどかわいい菜の意味があります。また果実が三味線の撥(ばち)に似ていることからペンペングサ、シャミセングサ(三味線草)、バチグサ(撥草)の別名もあります。属名のCapsella(カプセラ)は、ラテン語で「小箱」の意味があり,果実の形から名づけられました。また種小名のbursa-pastorisは「羊飼いの財布」を意味し,英名のshepherd's purseに由来しているようです。
 開花期の全草を水洗後、日干ししたものが生薬セイサイ(薺菜)またはセイ(薺)といいます。民間療法では、主に煎じ薬として利尿、解熱、子宮や腸の出血、高血圧症、便秘、目の充血、尿、解熱、止血、緩下、動脈硬化予防、月経困難の際に使用されていました。目の充血には煎液を人肌に冷ましてから脱脂綿に含ませて洗眼すると良いと言われています。
 中国医学では、セイサイ(薺菜)を赤痢や眼の疾患に、花を生薬セイサイカ(薺菜花)として崩漏(ほうろう、不正性器出血)に、また種子を生薬セイサイシ(薺菜子)として目痛や緑内障に用いられています。
 第一次対戦中のイギリスでは止血薬として、カナダヒドラスチス(キンポウゲ科、Hydrastis canadensis L.)やエルゴット(麦角、Claviceps purpurea)が入手困難な場合に代用品として用いられていました。また、麦角に似た子宮収縮作用のあることから、「ドイツの麦角」とも言われていたようです。
 ところで、ナズナは家紋(薺紋)として、奥州伊達氏をはじめ多くの北陸の武家にも用いられていました。これは災厄除去として禁厭(きんえん)の目的で選ばれたようです。荒地で芽生え、冬でも寒風を凌ぎ、葉を広げる生命力の強さが好まれたとも言われています。どうやら雪国の人は小さな雑草に秘められた強さを知っていたようです。

注釈*ロゼットは地面にぴったりと葉を放射状に広げて光合成ができる機能的な形で、八重咲きの薔薇を連想させることから、「rosette」という名が付いています。タンポポやオオバコなどがこのロゼットで冬を過ごしています。
(高松 智、小池佑果、磯田 進)

[参考図書]
牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑 離弁花・単子葉植物編』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第6巻』、朝日新聞社出版局
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典-日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
蕭培根 編集、真柳誠(翻訳編集)、『中国本草図録3巻』、中央公論社
海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第2巻)』、小学館
佐竹元吉 監、『日本の有毒植物 (フィールドベスト図鑑) 』、学研教育出版
アンドリュー・シェヴァリエ 原著、難波恒雄 訳、『世界薬用植物百科事典』、誠文堂新光社
マックス・ウィチテル、井上博之 著、『西洋生薬-カラーグラフィック』、廣川書店
R. F. ヴァイス 原著、山岸 晃 訳、『植物療法』、八坂書房
辻合喜代太郎 著、『続日本の家紋』、保育社 
稲垣栄洋 著、『徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか: 家康のあっぱれな植物知識』、東洋経済新報社