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生薬の花

スイセン
Narcissus tazetta L.var. chinensis Roem. (ヒガンバナ科)

スイセンの花

スイセンの花

スイセンの鱗茎とすりおろし

スイセンの鱗茎とすりおろし

生薬 スイセンコン

生薬 スイセンコン

生薬 スイセンカ

生薬 スイセンカ

 花や緑葉の乏しい早春に各地の暖地の海岸沿いに野生化して群落をつくり、可愛らしい白と黄色のツートンカラーの花が一際目立つのがスイセンです。
 スイセンは多年生草本で、卵状球形の鱗茎を有します。葉は根生で、長さ30~45 cm、幅1~1.8 cm程になります。花期は1~4月で、花茎の頂に4~8花が散形花序に生じ、花被は高脚の杯状で6裂し、下部は合着して管状となり、黄色い杯状の副花冠をつけます。
 和名の「スイセン」は中国名の「水仙」に由来します。別名はニホンズイセン(日本水仙)、セッチュウカ(雪中花)、ガカク(雅客)、英名はgrand emperor、sacred Chinese lily、new year lilyです。日本では種や品種を含めて「スイセン」と呼びますが、イギリスでは「daffodilダフォディル」や「asphodelアスフォデル」がスイセン属の総称として使われています。イギリスの大詩人ワーズワースも「daffodils」という詩を書いています。
 学名のNarcissusはギリシャ神話の美少年の名前Narcissusナルキッソス、またはギリシャ語で「麻痺させる」という意味の「narkeナルケ」に由来すると言われます。また種小名のtazettaはイタリア語で「小さなコーヒー茶碗」を意味し、副花冠の形から名づけられました。
 薬用には地下部の鱗茎を掘り上げ、水洗後に外皮とひげ根を除いたものが生薬「スイセンコン(水仙根)」です。生の鱗茎を擦り下ろし、布でこした汁に小麦粉を加えてクリーム状にしたものを消腫薬として、腫れ物、乳腺炎、乳房炎や肩こりの患部に貼ります。中国では花を日干ししたものを生薬「スイセンカ(水仙花)」といい、活血調経薬として、子宮の諸症、月経不順に煎液か散剤にして内服するようです。
 スイセンは誤食すると中毒症状として、嘔吐、下痢、発汗、頭痛、昏睡を発症し、決して食用では用いません。また、切口の乳液が皮膚に着くと皮膚炎を起こすこともあります。葉はニラ、アサツキ、ノビルと、また鱗茎はタマネギと間違えやすく、毎年のように中毒事故が発生していますのでご注意ください。
(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑 離弁花・単子葉植物編』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第10巻』、朝日新聞社出版局
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典-日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
水野瑞夫 監、田中俊弘 著、『日本薬草全書』、新日本法規出版
トニー ロード、大槻真一郎 著、井口智子 (翻訳)、『フローラ -Gardening  FLORA』、産調出版
蕭培根 編集、真柳誠(翻訳編集)、『中国本草図録3巻』、中央公論社
海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第2巻)』、小学館
神戸中医学研究会 編、『中医臨床のための中薬学(新装版)』、東洋学術出版社
佐竹元吉 監、『日本の有毒植物 (フィールドベスト図鑑) 』、学研教育出版
内林政夫 著、『生薬・薬用植物語源集成』、武田科学振興財団杏雨書屋
『ニラと間違えスイセン食べた男性死亡』、毎日新聞2016年6月1日記事