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生薬の花

ボケ
Chaenomeles speciosa (バラ科)

ボケの花

ボケの花

ボケの果実

ボケの果実

生薬 モッカ

生薬 モッカ

 中国原産のボケは、日本では古くから庭木や盆栽に用いられ、春になると美しい花をつける落葉低木です。ボケは若枝に褐色の短毛があり、小枝はトゲとなります。葉は長楕円形で、かすかな鋸歯があります。枝先に5枚の花弁からなる花をつけ、紅花をヒボケ、白花をシロボケ、紅白が混じったものをサラサボケと呼びます。なお、ボケには冬に咲き出すものと春に開花するものがあり、冬咲きのものを「カンボケ(寒木瓜)」といいます。芳香のある果実は球状で、長さは10 cmほどになり、10月頃には黄熟します。
 和名のボケは中国名の木瓜(ボクカ、モクケ、モケ)が転訛したものと言われています。別名はカラボケ(唐木瓜)です。英名はJapanese quince(日本のマルメロ)、Chinese flowering quince、またはJaponicaです。
学名の「Chaenomeles」はギリシャ語のchaino(大口を開ける)+ melon(リンゴ)が語源となり、果実が割れるという意味に由来します。「speciosa」がラテン語で「美しい」という意味ですが、日本で「ボケ」とよばれているのは、違った意味で抵抗があります。そもそも中国原産のボケが「Japonica」と呼ばれる由縁は、イギリスに導入された当時、日本固有のクサボケ(Chaenomeles japonica)と同じものと考えられ、「美しい植物」に対する名称として、訂正されることなく使われているためです。学名の「美しい」という意味は反映されておらず、哀れでなりません。
 成熟果実を縦割りか輪切りにして、乾燥させたものを生薬モッカ(木瓜)と呼び、水腫、関節および筋肉痛、脚気、胃痙攣、嘔吐や下痢を伴う痙攣、咳にその煎液を服用します。疲労回復、不眠症、低血圧、冷え性、リウマチには果実酒(ボケ酒)を飲むと良いとされています。ただし、現在流通しているモッカは同属のカリン(C. sinensis)の偽果を乾燥したものが多いようです。
 ちなみに信州の土産物店でよく見かける「カリンの砂糖漬け」は、実はカリンではなく、同じバラ科ではありますが、属の異なるよく似たマルメロ(Cydonia oblonga)だそうです。イギリスでも同様にカリン(Chinese quince)とマルメロ(quince)はよく混同されているようです。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑 離弁花・単子葉植物編』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第5巻』、朝日新聞社出版局
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
水野瑞夫 監、田中俊弘 著、『日本薬草全書』、新日本法規出版
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑』、保育社
トニー ロード、大槻真一郎 著、井口智子 (翻訳)、『フローラ -Gardening  FLORA』、産調出版
蕭培根 編集、真柳誠(翻訳編集)、『中国本草図録2巻』、中央公論社
海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第1巻)』、小学館
神戸中医学研究会 編、『中医臨床のための中薬学(新装版)』、東洋学術出版社