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生薬の花

ワレモコウ
Sanguisorba officinalis L. (バラ科)

ワレモコウの花

ワレモコウの花

根

生薬 チユ(地楡)

生薬 チユ(地楡)

 秋の高原に咲くワレモコウは多年生草本で、根茎は太く堅く湾曲しています。葉は長柄があり、互生して奇数羽状複葉、根葉側小葉は2~5対で長く楕円形です。盛夏から仲秋にかけて、暗紅紫色の楕円形の花が花序の先端から咲きます。若葉は食用とされることがあるようです。同属のオランダワレモコウ(別名サラダバーネット S. minor)は若葉をサラダに使うとキュウリに似た風味が得られるそうです。
 ワレモコウの名前の由来として平安時代に書かれた日本最古の百科事典と言われる「和名抄(わみょうしょう)」に和名として「阿夜女太無(あやのたむ)」、一名「衣比須弥(えびすね)」と記載されており、同じく平安時代には「割れ木爪(帽額=モコウ)(われもこう)」と呼ばれていましたが、時代が下るに従って「吾亦紅」、「吾木香」、「我吾紅」、「我毛紅」、「割木瓜」、「我毛香」と漢字が変更されています。
 現在では「吾木香」や「吾亦紅」と書きますが、語源ははっきりとしていません。「吾木香」とはシソ科のジャコウソウやキク科のオケラなど芳香のある植物に付けられた名前とされているようですが、ワレモコウには特によい匂いはないため「吾亦紅」という字を当てることもあります。赤い花穂は染料にも用いられています。
 晩秋(11月)の頃に採取した根茎を乾燥したものが生薬「チユ(地楡)」です。煎液は止血や下痢止めに用い、火傷、湿疹、皮膚炎には幹部を煎液で洗浄します。打撲や捻挫には生根を擦り潰して塗布します。チユを含有する漢方処方「清肺湯(せいはいとう)」は痔の出血に対して効果があります。
 学名Sanguisorba ラテン名語の「血」(sanguis)と「吸う」(sorbeo)に由来し)officinalis) は「薬になる」を意味します。また、英名はburnet bloodwortであり、このことからも本属の植物が古くから止血薬として用いられていたことが伺えます。
 ところで、ワレモコウは「吾亦紅紋」として紋様化されており、その紋章は実物からはまったくかけ離れたデザインのようです。興味があれば検索してみて下さい。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第5巻』、朝日新聞社出版局
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
田中俊弘 著、『日本薬草全書』、新日本法規出版
アンドリュー・シェヴァリエ 著、Andrew Chevallier Mnimh 原著、難波恒雄 訳、『世界薬用植物百科事典』、誠文堂新光社
トニー ロード、大槻真一郎 著、井口智子 (翻訳)、『フローラ -Gardening  FLORA』、産調出版
蕭培根 編集、真柳誠(翻訳編集)、『中国本草図録』、中央公論社
村上孝夫 監、許田倉園 訳、『中国有用植物図鑑』、廣川書店
鳥居塚和生 監、大久保栄治、磯田進、邑田仁 編、『富士山の植物図鑑』、東京書籍