menu

生薬の花

カキドオシ
Glechoma hederacea var. grandis (シソ科)

カキドオシの花

カキドオシの花

生薬 連銭草

生薬 連銭草

 カキドオシはヨーロッパ及びアジア原産で、北米を含む世界各地の温帯地方に帰化しており、森の周辺や歩道わきや垣根の周辺に見られます。多年生の蔓性草本で、高さ15 cm程の茎は初め直立し、開花後、長い走出茎は伸びて地面を這い、垣根を通り抜けるほど伸長することから、「垣根通し」と呼ばれ、後に「垣通し」となりました。葉は腎臓形で葉縁に鈍い鋸歯がありますが、これを丸みを帯びた「銭」に見立て、葉が茎に連統してついていることから、別名の連銭草(れんせんそう)の名が付いたそうです。青紫色の花が輪生し、下唇に紅紫色の斑点を生じます。花期の茎や葉の生育が十分となる4~5月に株元から採取し、陰干しにしたものが生薬「連銭草(れんせんそう)」です。
 煎液は腎臓病や糖尿病、腎臓結石、膀胱結石、小児の疳に用います。湿疹には濃い煎じ液を患部に塗布します。また、カキドオシには胆汁分泌促進や血糖降下作用があり、胃炎や酸性消化不良などの消化器系疾患にも有効であると言われています。その他、カキドオシは壊血病の予防と強壮薬として用いられ、水虫やたむしには生の葉を何回も擦り込むと良いようです。
 上記の「小児の疳を取る」ことができることから、別名「疳取草(かんとりそう)」とも言われています。英名の「Japanese Grand Ivy又はJapanese Gill-over the Ground」は地を這うキズタを意味します。中国名は「活血丹」ですが、金銭草と呼ばれることもあり、中国では日本とほぼ同様に使用されているようです。学名Glechomaはハッカの一種(Mentha pulegium)に付けられた古代ギリシヤ名「glechon」に由来し、hederaceaは「キズタ属Hedera」に似ていること、grandisは「大型の、偉大な」にちなんでいます。
 イギリスの一部ではエール(ale、ビールの一種)というアングロサクソンの伝統的なドリンクに香料及び浄化を目的としてカキドオシが使われていたため「エールフーフ(alefoof、エールの足)」とも言われています。中世期には解熱、慢性の咳や耳鳴りの治療に用いられた優れた薬であったようです。
(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑』、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第2巻』、朝日新聞社出版局
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑[Ⅱ]』、保育社
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
田中俊弘 著、『日本薬草全書』、新日本法規出版
アンドリュー・シェヴァリエ 著、難波恒雄 訳、『世界薬用植物百科事典』、誠文堂新光社
小倉謙 監修、『植物の事典』、東京堂
トニー ロード、大槻真一郎 著、井口智子 (翻訳)、『フローラ −Gardening  FLORA』、産調出版
蕭培根 編集、真柳誠(翻訳編集)、『中国本草図録』、中央公論社
村上孝夫 監、許田倉園 訳、『中国有用植物図鑑』、廣川書店
鳥居塚和生 監、大久保栄治、磯田進、邑田仁 編、『富士山の植物図鑑』、東京書籍