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生薬の花

フクジュソウ
Adonis ramosa (キンポウゲ科)

花

果実

果実

根茎(福寿草根)

根茎(福寿草根)

 新年の季語となっているフクジュソウは早春に黄金色の花を咲かせることから、一番に春を告げるという意味で「福告ぐ草(フクツグソウ)」という名前が江戸時代に使われました。その後、ゴロが悪いことから、おめでたい「寿」と差し替えられ「福寿草」となったものです。この「寿」は、開花期が長いことから長寿の意味もあり定着したといわれています。また、旧暦の正月(2月)頃に咲き出すことから、「元日草(ガンジツソウ)」や「朔日草(ツイタチソウ)」という別名もあります。
 フクジュソウは、落葉樹林の下に生える草丈10~25 cm位の多年草で、茎は直立してのび枝分かれします。根茎は肥厚し、下部の葉は鞘状、上部の葉は互生し、羽状に細かく裂けています。2~5月には、新葉の伸びないうちに茎の先端に黄金色の、花弁が20~30枚、萼片が数枚からなる花が咲きます。フクジュソウは6月ころには葉が枯れて休眠に入る短期決戦型のライフスタイルを持っています。
 花は陽が当たると開き、日暮れや夜間、曇天は閉じてしまいますが、暗黒下でも15~20℃の温度で完全に開きます。つまり、フクジュソウの開花は傾熱性によります。そして季節外れに開花するとなる花は、中央部に集熱することにより保温力を高め、昆虫を集め受粉に利用します。蜜を持たないフクジュソウは、このような周到な戦略で種の保存を行っています。活動能力が低下した昆虫にとっては、足湯と交配相手との出会いの場のような存在かもしれません。
 属名Adonis(アドーニス)は、ギリシャ神話に登場する美少年の名前に由来し、種小名のramosa(ラモサ)は「枝分かれした」という意味を持ちます。
 根茎を乾燥したものを生薬名で『福寿草根(フクジュソウコン)』と呼び、浸剤、チンキ剤として、強心、利尿効果がありますが、毒性が大変強く、危険なため、民間や家庭では絶対使用しないで下さい。また、芽吹きの季節ではフキノトウと見間違えやすく、多くの誤食例があり注意が必要です。
 フクジュソウはヤブコウジ(前出)とともに新年を祝う花として、欠かせないものですが、正月用として年の瀬に店頭に出回るのは、促成栽培されたものです。年末に慌ただしいのは、人々よりも、眠い「芽」をこすりながら縁起物として担ぎ出されるフクジュソウなのかもしれません。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、原色牧野植物大図鑑(合弁花・離弁花編)、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第8巻』、朝日新聞社出版局
上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 第4巻』、小学館
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典-日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
蕭 培根 編、真柳 誠 訳、『中国本草図録3巻』、中央公論社
佐竹 元吉 監修、『日本の有毒植物 (フィールドベスト図鑑)』、学研教育出版
内林 政夫 著、『生薬・薬用植物語源集成』、武田科学振興財団杏雨書屋