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生薬の花

ツリガネニンジン
Adenophora triphylla var. japonica (キキョウ科)

花

茎 沙参(シャジン)

茎 沙参(シャジン)

 猛暑が去り秋支度に向かう山野は、ツリガネニンジンの鈴なりの薄紫色の花で彩られます。ツリガネニンジンは北海道から本州、四国、琉球諸島まで広く分布する多年草です。花は釣り鐘形で下向きに咲き、花柱が花冠からわずかに突き出ています。直立した茎を折ると白い乳液が出るのが特徴です。若芽は山菜料理の横綱格と言われるほど美味しいそうです。
 和名は、その釣鐘型の花と、漢方薬の朝鮮人参の太い根に似ているところから名付けられたと言われています。別名の「トトキ」とはツリガネニンジンの古い呼び名で朝鮮語に由来しています。
 学名のAdenophora(アデノフォーラ)は、ギリシャ語の「adenos(腺)+ phoreo(有する)」、すなわち、茎や葉に乳液を出す腺細胞があることが語源とされています。また、 triphyllaはtriphyllus(三枚の葉の)、japonicaはjaponicus(日本の)をそれぞれ意味します。英名はLadybells、Garland flowerです。
 ツリガネニンジン属の植物は、中国で一般に「沙参」と呼ばれ、水辺の砂地(沙地)が生育に適することから、この名が付いたと言われています。中国名の「沙参」は、厳密にはトウシャジン(A. stricta Miq.)を指しています。
 夏の終わり頃に根を掘り取り、日干ししたものが生薬「沙参(シャジン)」です。その煎じ液を去痰、鎮咳を目的に服用します。苦みやえぐみがあるので、シャジンの半量ほどの甘草や茶さじ1杯の砂糖を加えると良いとされています。その他、喉の痛みや咳にはうがい薬として用いられます。古くはニンジンやチクセツニンジンと間違えたり、混同されたりして強壮薬として用いられたようですが、そのような用途はないようです。(高松 智、磯田 進)

[参考図書]

牧野富太郎 著、原色牧野植物大図鑑(合弁花・離弁花編)、北隆館
三橋博 監修、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
朝日新聞社 編、『朝日百科植物の世界 第2巻』、朝日新聞社出版局
難波恒雄 著、『和漢薬百科図鑑[I]』、保育社
伊澤一男 著、『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
水野瑞夫 監修、田中俊弘 編集、『日本薬草全書』、新日本法規出版
トニー・ロード 著、井口 智子 訳、『フローラ』、産調出版