百人一首の撰者として有名な歌人,藤原定家が後白河天皇の娘であった式子内親王に思いを寄せつづけ,内親王の薨去後もその墓に葛(かずら)となって絡みついたのがこの植物であった,と言われたことから和名が付けられました。
わが国には古来自生していた植物で,古くはマサキノカズラと呼ばれ,比較的温暖な地方の山林に生えるつる性の木本です。気根を出しながら木や石に絡みつき,初夏には5枚の白い花弁がスクリューのように重なった花を一斉につけます。花はやがて黄色みを帯びて実を付けます。実は二股に分かれた豆のさやのようになり,熟すると中から綿毛のついた痩果がたくさん出てきて風に舞います。
地方によっては「セキダカズラ」や「セッタカズラ」と呼ばれますが,これは葉の形が雪駄(せった)に似ているからといわれています。常緑で育てやすいため庭や垣根に植えられることも多く,葉に斑が入ったものや赤やピンクの葉の出るものはハツユキカズラやゴシキカズラと呼ばれ観葉植物として栽培されます。花の形がモクセイ科のジャスミンに似ていて,さらに甘くて強い香りがあるため,英語ではasiatic jasmineと呼ばれています。ただ,キョウチクトウ科らしく,切り口からは乳液が出て触れるとかぶれることがあるので注意が必要です。リグナン配糖体のトラチェロシドなどが含まれていて,弱い強心作用があるとされています。わが国では絡石などと呼んで強壮薬として利用していたようですが,摂取量によっては呼吸抑制や心毒性が現れるため,民間での利用は控えるべきです。
この植物と同属のタイワンテイカカズラ(Trachelospermum jasminoides Lem.)の葉とつるは中国で絡石藤(ラクセキトウ)と呼ばれ,関節炎や止血に利用されます。また,『本草拾遺』には白髪が黒くなり老衰にもよいと書かれているようです。なお,神農本草経(上品)にも「絡石」として収載されていますが,これは違う植物(クワ科のオオイタビなど)であるという説もあります。
身分の違う藤原定家と式子内親王の禁断の恋話の真偽は不明ですが,謡曲『定家葛』では葛を解いて墓から式子内親王の亡霊が現れ,僧侶によって鎮魂を受けるという下りがあります。黄泉の世界でも苦しめられるほどの定家の激しい思いが,香り高く美しくも,毒のあるテイカカズラに見立てられたのは事実かも知れません。
(川添和義,小池佑果,磯田 進)