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会頭メッセージ - 2021

薬学の教育・研究の持続的な発展にむけて

日本薬学会 会頭 佐々木 茂貴

 2021年4月に日本薬学会会頭を拝命し、2022年で2年目となります。近代日本の黎明期、明治13年(1880年)に長井長義初代会頭に始まる歴史ある本学会の使命を鑑み、ますます重い責任を感じています。2022年度も引き続き、皆様のご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

 新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックは世界を一変させました。わが国では2021年9月から年末にかけて見られた収束の兆しがもつかの間、年末から年始にかけてオミクロン変異株による第6波が始まり、これまで以上の感染拡大になってしまいました。2022年4月時点では、感染者数の多い状況のまま推移し、地域によっては第7波が始まったと心配されています。

 2022年2月末には、さらにロシアによるウクライナ侵攻という、予想もしなかった事態となり、連日放映される惨状に悲しみを禁じ得ません。この戦争は国際的学術交流にも影響を与えつつありますが、なにより一刻も早くウクライナの人々に平和な日が返ってくることを祈っています。

 日本薬学会は、わが国の薬に関する学術活動の中心的な役割を担っていますが、その活動は10部会、8支部、16の常置委員会、二つの特別委員会および事務局により支えられています。3つの英文国際学術誌と薬学雑誌およびファルマシアの発行、FIP(国際薬学連合)やAFMC(アジア医薬化学連合)、およびドイツ、韓国、カナダの各薬学会との国際交流活動、日本学術会議などの国内学術団体との協働、長井記念研究奨励事業による若手育成など、幅広い支援活動を今年度も活発に継続していきます。

 2021年度の会頭講演で、私は薬学の教育・研究の国際的競争力の強化を目的に、「分野融合」の推進をお願いしました。「国際的競争力」や「分野融合」は、短期ではなく、長期にわたって継続的に取り組むべき方針と考えています。mRNAワクチン開発や抗ウイルス薬の開発が、これまでの開発スピードを遥かに超える速度で展開されています。また、新型コロナウイルス感染症パンデミックによる世界の激変やウクライナ侵攻による世界情勢の不安定化は、現代社会の不安定な流動性の象徴です。

 このように、流動化し激変する社会において活躍できる人材の養成は、我が国の薬学の教育・研究の大切な使命です。しかし、2006年に開始された薬学部6年制は、薬剤師の質向上の点での評価がある一方、薬学の教育・研究体制を揺るがしかねない事態を招いています。大学院博士課程への進学ならびに大学への就職が極めて少なく、基礎系と医療系を問わず、次世代の人材を育成すべき大学教員数がかなり不足してしまうことが明らかになっています。これは、わが国の薬学の根幹を揺るがす深刻な問題ですので、関係機関と共同で対策を練っていきたいと考えています。

 2022年度は、昨年に引き続き、岩渕好治副会頭(化学系薬学)と石井伊都子副会頭(医療薬科学)、南雅文副会頭(年会担当)、吉松賢太郎常任理事、髙倉喜信顧問ならびに、理事、監事の方々と薬学会を更に魅力的な学会に発展させる所存です。ホームページの改訂、会員登録システムの改善などを進めているところです。会員の皆様の温かいご支援とご協力をお願いいたします。