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生薬の花

クヌギ
Quercus acutissima Carruthers. (ブナ科)

クヌギ 雄花

クヌギ 雄花

クヌギ 雌花

クヌギ 雌花

クヌギ 果実

クヌギ 果実

生薬 ボクソク

生薬 ボクソク

 「ドングリの背比べ」ということわざがありますが、よく見ると大きさや形が様々ある事を皆さんご存知でしょうか。ドングリは、クヌギ、コナラ(Q. serrata Murray)、ミズナラ(Q. mongolica Fischer ex Ledebour var. crispula Ohashi)、アベマキ(Q. variabilis Blume)などの果実の総称です。今月は、まあるいドングリを実らすクヌギについてご紹介します。
 クヌギは山林に生える雌雄同株の落葉樹で、高さは17 m、幹の太さは径60 cmにもなる大木です。葉は互生で長さ5〜15 cmになります。花期は春で、黄褐色の多数の小さな雄花が房状に咲きます。一方、雌花は黄緑色で、新しい枝先に近い葉の付け根に、1~3個咲きます。果実は1年目は小さく,2年目になって2cmくらいに成長し、成熟したものがドングリと呼ばれて親しまれていますが、植物用語で堅果(けんか)と言います。クヌギは日本に古くからある植物で、『日本書紀』には、景行天皇が筑紫後の国「御木みけ」(現在の福岡県大牟田市)にある高田行宮たかだのかりみやにお泊まりになられた時、長さ九百七十丈の倒れた木があり、「これは何の木か?」と尋ねると、老人は「この木は歴木(クヌギ)と言います」と答えた、と書かれています。大牟田市にある高田公園にある「高田行宮址」の石碑にも天皇と老人とのやりとりが刻まれています。
 薬用部位は、枝または樹皮で生薬名は「ボクソク(樸樕)」と言います。薬効は、止瀉、収れん、痔出血の治療などです。内服する場合は煎じ薬か散剤にし、外用の場合は粉末にして酢を加えたものを患部に塗布します。成分はポリフェノール類であるタンニン類、ケルセチンが含まれています。ドングリの帽子のような部分は植物用語で殻斗(かくと)と言いますが、中国でクヌギの殻斗を炒り焦がしたものを生薬の「ショウジツカク(橡実殻)」といい、収れんや止血の治療を目的に利用されています。江戸時代中期に香川修庵が著した『一本堂薬選』に、樸樕は梅毒性疾患、悪性の種物、打撲による腫物などにより、血液が滞りがちであるのを取り除くのに用いると書かれています。樸樕を使った漢方に、治打撲一方(構成生薬:樸樕、川芎、川骨、桂枝、甘草、丁子、大黄)という打撲や打ち身に使用する漢方がありますが、正に樸樕の効能を利用した漢方処方であるといえます。
 クヌギは薬としてだけでなく、薪や木炭、媒染剤、なめし皮剤としても利用されています。幼い頃にドングリを拾って、平らなところに爪楊枝を刺してコマにして遊んだ方もいらっしゃるのではないでしょうか。子供の頃は一番長く回る形のドングリを落ちた実の中から探しましたが、大人になった今は大きく丸い実をつけるクヌギの木を探した方が効率的に見つけられるかもしれません。  

(小池佑果、伊藤ほのか、川添和義、磯田 進)

注)この植物を薬用としてするには専門的な知識が必要ですので、必ず専門家の指導の下で利用して下さい。利用により,万一,体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。

[参考図書]

三橋 博 監修、岡田 稔 編、「原色牧野和漢薬草大圖鑑」、北隆館
牧野 富太郎 著、『原色牧野植物大図圖鑑 離弁花・単子葉植物編 』、北隆館
伊沢 一男 著、「薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて」、北隆館
伊藤美千穂・北山隆 監修、原島 広至 著「改訂第2版 生薬単」、株式会社エヌ・ティー・エス
貴重図書複製会編、「日本書紀:国宝北野本」 巻第7、貴重図書複製会
小学館編、「中薬大辞典(第2巻)」、小学館