大きくて艶のある分厚い葉っぱが特徴のヤツデは、関東から沖縄に分布し、暖かい土地の海岸の林などに生えています。また、庭園樹としても好んで植えられる常緑低木です。低木と言っても2〜3 mになり、幹は数本がまとまって伸び、まばらに枝分かれしています。葉は互生し、柄は長く、茎の先端部に集まって付き、四方に開きます。また、「八つ手」と呼ばれるので葉が8つに分かれているのかと思いますが、実際は7〜9つに深裂し、裂片は卵状楕円形をしています。花は10〜11月、茎の頂点で円錐状に開き(円錐状散形花序)、小さく黄白色をしています。
ヤツデの葉を乾燥したものは、八角金盤と呼ばれます。葉にはサポニンが含まれているので、民間で去痰薬として使用されます。また、乾燥葉をお風呂に入れて薬草風呂にすると、リウマチや痔に効くと言われています。
ヤツデは別名、「天狗の団扇」とも言われます。確かによく見ると天狗が持っている羽根の団扇に似ています。天狗が持つ羽団扇は疫病を追い払い、魔除けになるという迷信から、形が似ているヤツデは庭に植えられる事が増えたそうです。しかし、これが迷信だとは言い切れない調査報告があります。関東大震災の後、航空写真には焼けた家々の中に緑の葉を付けた樹木が見つかりました。高熱に囲まれながらも焼失せず、火に耐えた常緑樹の姿が確認されたのです。葉が肉厚の常緑樹は水を多く含むため、耐火力が大きいということが研究結果から明らかとなりました。もちろん、葉が大きく肉厚のヤツデも耐火力が強い植物であることが報告されています。家が連なって並んでいた江戸時代から、近隣の家が火事になった時に「貰い火」をして広がるのを防ぐために、我が家を守る手段としてヤツデのような常緑樹を植えていたそうです。これは正に「災いを追い払う天狗の団扇」が迷信ではなかった、といえるのではないでしょうか。
(小池佑果、川添和義、磯田 進)
注)この植物の利用は専門的な知識が必要ですので安易に利用しないでください。利用により、万一、体調が悪くなられた場合は医師にご相談下さい。
[参考図書]
・三橋 博 監修、岡田 稔 編、『原色牧野和漢薬草大図鑑』、北隆館
・学習研究社、「漢方実用大事典」、学習研究社
・朝日新聞社 編、『植物の世界 10巻』、朝日新聞社
・山下邦博、針葉樹と広葉樹の発火性の相違について、火災、36(5)、12-18, 1986
・学習研究社、「漢方実用大事典」、学習研究社
・朝日新聞社 編、『植物の世界 10巻』、朝日新聞社
・山下邦博、針葉樹と広葉樹の発火性の相違について、火災、36(5)、12-18, 1986