薬学用語解説
多発性硬化症
作成日: 2023年07月22日
更新日: 2024年03月01日
薬理系薬学部会
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中枢神経系の炎症性脱髄疾患の一つ。ウイルスあるいは何らかの未知の抗原が引き金となり、神経髄鞘に自己免疫反応がおこり、眼、脳、脊髄でミエリンの破壊、髄鞘・神経線維の損傷を生じている。20-40歳の間に発症することが最も多く、男性よりも女性に多い。患者数は世界で250万人と推計され、米国ではおよそ40万人、日本では約1万人である。難病として特定疾患に指定されている。 発症には遺伝的要因と環境要因の関与が考えられており、比較的症状の緩やかな寛解期と、症状が再びひどくなる再発期が交互に現れ、病気は時間とともに徐々に悪化していく。感覚症状(感覚の異常)、運動症状(動作の異常)が、現れたり消えたりする。症状が不安定なのは、髄鞘の損傷、修復、再度の損傷が繰り返されるためと考えられている。治療には、コルチコステロイドの短期間投与、インターフェロン製剤の注射、および種々の免疫調整薬・免疫抑制薬が用いられる。コルチコステロイド(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン)の効果は免疫系の抑制によると考えられている。ステロイドは症状が再発している期間を短縮するが、長期にわたる身体障害の進行までは防ぐことはできない。免疫調整薬のグラチラマーやフマル酸ジメチルは、インターフェロン製剤と並んで多発性硬化症の再発予防あるいは進行抑制の第一選択薬とされている。第二選択の治療薬として、スフィンゴシン1リン酸受容体機能的アンタゴニストのフィンゴリモドや、抗α4インテグリン抗体のナタリズマブなどがある。また特定の症状の治療薬として、筋肉のけいれんを緩和する筋弛緩薬(バクロフェン、チザニジン)、鎮静薬のジアゼパム、尿失禁の制御にオキシブチニン、ベタネコール、タムスロシン、痛みを和らげるために抗てんかん薬のガバペンチンなどが用いられる。