薬学用語解説
糖尿病
作成日: 2023年07月22日
更新日: 2024年03月01日
薬理系薬学部会
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インスリン分泌の絶対的または相対的な障害とインスリン作用の障害の両者または一方が原因で生じる高血糖を特徴とする症候群。口渇、多飲、多尿、体重減少などが典型的な症状とされるが、大多数の症例ではほとんど自覚症状がない。病名の通り尿中に糖が検出される場合もあるが、尿糖値よりは血糖値のほうが診断ならびに病態の進行とのかかわりで重要である。(1)早朝空腹時血糖値 ≧ 126 mg/dL、(2) 随時血糖値 ≧ 200 mg/dL、(3) 75 g 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の2時間値 ≧ 200 mg/dL、(4) ヘモグロビンA1c(HbA1c)値 ≧ 6.5% の4項目のいずれかが確認された場合は「糖尿病型」と判定する。翌日以降の再検査で「糖尿病型」の条件を満たした場合や、一回の検査が(1)〜(3)のいずれかを示し、かつ①糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)あるいは②確実な糖尿病網膜症がある場合などで糖尿病と診断する。 糖尿病はその原因によって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が何らかの理由で破壊されインスリンが分泌されない1型糖尿病と、インスリン分泌量が低下あるいは標的細胞のインスリン感受性の低下した2型糖尿病に分類される。1型は主に幼児から15歳以下の小児期に比較的急激に発症することが多く(若年型糖尿病)、糖尿病性ケトアシドーシスを発症することがある。食事療法や運動療法のほかインスリン注射が欠かせない。インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)としても知られる2型糖尿病は、遺伝的要因のほか、過食、運動不足、ストレス、飲酒などが誘因とされる生活習慣病であり、40歳以降に発症することが多い。 日本人の糖尿病の約90%は2型である。高血糖の状態が放置されると末梢神経障害、網膜症、腎症のほか脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、糖尿病性壊疽、感染症などを合併することがある。治療薬としてはインスリン製剤のほかに、グルコースによるインスリン分泌を促進するGLP-1 (glucogan-like peptide-1)アナログ、経口抗糖尿病薬がある。経口糖尿病薬にはインスリン抵抗性改善薬(ビグアナイド系薬、チアゾリジン系薬)、インスリン分泌促進薬(スルホニル尿素系薬、速効型インスリン分泌促進薬)、糖吸収遅延薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)、GLP-1の分解を抑制するDPP (dipeptidyl peptidase)-IV阻害薬、糖の尿中排泄を促進するSGLT2阻害薬、およびミトコンドリア機能改善薬がある。