薬学用語解説
一重項酸素
作成日: 2023年07月22日
更新日: 2024年03月01日
化学系薬学部会
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一重項酸素は酸素分子の分子軌道のπ*軌道(反結合性のπ軌道)に入った2個の電子のスピンの向きが異なる一重項状態、すなわち全スピン量子数が0である励起状態で、1O2で表される。このような励起状態には2つ存在するπ*軌道のそれぞれに1つずつ異なる向きの電子が占有しているΣ1状態と、π*軌道の一方のみを2つの電子が占有しているΔ1状態が存在する。Δ1状態よりΣ1状態の方がエネルギーが高いため、Σ1状態は速やかにΔ1状態に遷移する。このため一重項酸素といえば通常Δ1状態のものを指す。一重項酸素(Δ1)は活性酸素の一種ではあるが、軌道上に単独の電子を持たず、フリーラジカルではない。一重項酸素を発生させるには、ローズベンガルやメチレンブルーのような色素を光増感剤として使用する。生体内においても、紫外線を浴びたりすることにより体内の色素が増感剤として機能して一重項酸素が発生することがある。また、免疫系では次亜塩素酸と過酸化水素が生じ、これらの反応により一重項酸素が生成する。一重項酸素を選択的に除去する化合物にはベータカロチン、アジ化ナトリウムなどがある。