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薬学用語解説

薬剤経済学
ファーマコエコノミクス

作成日: 2023年07月22日
更新日: 2024年03月01日
レギュラトリーサイエンス部会
© 公益社団法人日本薬学会

医薬品の経済性・効率性を評価し、費用対効果を検証する学問。薬物治療により発生する費用と成果(アウトカム)を測定し、経済的効率を評価するもの。薬物治療に焦点を当てた研究を「薬剤経済学」と呼ぶが、近年では、医薬品以外にも、医療機器や薬剤師業務などの医療サービスなども対象とされることから、「医療経済評価」と呼ばれるようになっている。 社会の高齢化進行などにより医療費が増大し財政を圧迫しているが、医療費が大きいことだけを問題とするのでなく、それに見合った価値があるのであれば許容する、という考え方に基づく。薬剤経済学による分析は、製薬企業のポートフォリオ作成、医療機関の経営合理化・効率化、医療行政に有用な方法と考えられている。 成果は、健康価値の変化として捉えられ、生存年のような指標も用いられるが、政策的な利用が広がり、多様な医療技術を相互に比較できる尺度として質調整生存年(Quality-adjusted life year, QALY)を用いることが推奨されている。QALYとは、健康な状態を1点、死を0点とし、健康状態を1~0点の間でスコア化したものをQOL値(効用値)とよび、これに生存年をかけて計算される値である。 費用には直接医療費、直接医療費以外の費用や非医療費(通院のための交通費、介護ヘルパー費用など)、生産性費用 (死亡や入院などによる社会にとっての生産性損失)、が対象となる。立場によって費用の範囲が異なるため、分析の立場を明らかにしなくてはならない。医療保険財政の立場(支払い者)で分析をする場合には直接医療費が重要であるが、それ以外の立場では、介護費や生産性費用を含める場合もある。 薬剤経済学で使用される分析手法として、かつては、費用最小化分析、費用効果分析、費用効用分析、費用便益分析に分類されていたが、現在は、大きく費用効果分析と費用便益分析とに大別されている。 (1)費用効果分析 (cost-effectiveness analysis) 臨床効果が異なる複数の治療法を比較する場合に、治療によって得られる成果を同一の尺度で定量評価し、治療によって発生する費用と比較する分析手法。かつては、成果尺度としてQALYを用いた分析を費用効用分析(cost-utility analysis)と呼び、別の分析手法としていたが、現在は、QALYを用いた分析も費用効果分析に含めている。また、治療効果が同等である複数の薬物治療法の中で、費用のみを比較する分析を費用最小化分析 (cost minimization analysis)と呼ぶが、こちらも費用効果分析の一手法と位置付けられている。 (2)費用/便益分析 (cost-benefit analysis) 薬物治療による成果をすべて金銭価値に置き換えて、費用との関係を評価する方法。投資した費用より大きな経済的便益が得られればその医療行為が経済的にみて意義があるということになる。便益計測手法が確立しておらず、分析手法として用いられることは必ずしも多くはない。