薬学用語解説
ウイルス
virus
作成日: 2025年06月18日
更新日: 2025年06月18日
環境・衛生部会
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大きさが20~300nmの微生物で、それ自身が十分な代謝系をもたないため、宿主細胞がなくては自立増殖することができない寄生性の生物である。宿主細胞の種類によって、動物ウイルス、植物ウイルスおよび細菌ウイルスに分類されるが、昆虫に感染するウイルスの中には植物ウイルスと同一のものもある。また、ウイルスのゲノムは、DNA、RNAのいずれかからなり、その構造も2本鎖または1本鎖DNA、(-)あるいは(+)のRNA鎖など、多様性がある。大きさや形、構造もウイルスの種類によって多様性があるが、基本的には中心部に核酸からなるゲノム(コア)があり、その周囲にタンパク質の殻(カプシド)、さらにその外側にタンパク質・脂質からなる被膜(エンベロープ)が存在する。ウイルスは宿主細胞に感染するとき、多くの場合、細胞表面上のウイルス特異的なレセプターに吸着し、次に細胞内へ侵入する。この過程はウイルスの被膜が細胞膜と融合したり、あるいは細胞膜の陥入による取込みによる場合が多い。細胞内ではまずウイルスの脱殻が起り、核酸がカプシドタンパク質と離れて細胞内におけるウイルスの遺伝情報が発現を開始する。ウイルスに感染した細胞の変化は、ウイルス増殖による細胞の変性を伴う破壊(溶解感染)、細胞内での潜伏・持続感染、およびがん化がある。ウイルス感染は、ヒトからヒトへの水平感染が主体であるが、その感染経路に動物やダニ、カなどを介する人畜共通感染もある。このほか、母から子に産道を通過中に感染したり母乳を介して感染したりする、垂直感染もある。したがって、ウイルス感染の予防には、これらの感染経路を遮断したり回避したりする工夫が必要である。また、ある種のウイルスには、不活化ワクチンや、生ワクチンやmRNAワクチンなどが開発され使用されている。