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薬学用語解説

ノロウイルス
Norovirus

作成日: 2025年06月18日
更新日: 2025年06月18日
環境・衛生部会
© 公益社団法人日本薬学会

カリシウイルス科(Caliciviridae)のウイルスで、1本鎖RNAをウイルスゲノムとする直径約30nmの正20面体構造をもつが、エンペロープはもたない。ウイルス性食中毒の原因の大部分を占め、わが国の食中毒発生件数全体でも大きな割合を占める病因物質である。食中毒の発生は冬期が多い。汚染食品の摂取のほかに、食品を調理した器具や水、調理人の手指などの汚染を介したほかの食材の二次汚染などが、集団食中毒の発生原因になることが多い。典型的な糞口感染の形態をとり、患者の便から排出されたウイルスが下水処理を免れて河川から沿岸部を汚染すると、汽水域でカキなどの貝類に取り込まれて濃縮される。また、患者の便や吐瀉物に接触することでヒトからヒトへの二次感染を起こすことがある。ノロウイルスを摂取すると、ヒトの空腸の腸管上皮細胞に感染して増殖し、上皮細胞の変性や剥離を引き起して24~48時間の潜伏期の後に下痢を発症する。主な症状は嘔吐、嘔気、下痢であるが、頭痛や発熱(38℃以上)を伴うこともある。通常は軽症で、治療をしなくても3日以内に回復するが、老人、乳幼児あるいは免疫が低下した患者ではまれに重症化して死亡することがある。予防には、生カキの汚染検査のほか、食品の取扱者に手洗いなどの衛生管理を徹底し、まな板などを介した調理場の二次汚染の防止を図ること、患者の糞便や吐瀉物の扱いに気をつけること、などが重要である。ウイルス粒子はpH3程度の酸性や水道水中の塩素,および60℃、10分の加熱には抵抗性を示すので、不活性化するには次亜塩素酸ナトリウムの処置や85℃で1分以上の加熱が必要である。ノロウイルス感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)では五類感染症(定点把握疾患)に指定されている。