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活薬のひと

 糖尿病が強く疑われる患者数は2016年に推計1000万人 - 2017年9月に厚生労働省から発表されたばかりの実態です。超高齢化に伴い5年前から50万人増加、過去20年で310万人も増加しました。
 私はデンマークに本拠を置き、糖尿病をはじめ、いくつかの慢性疾患に特化したバイオ医薬品と注入器を研究開発するノボ ノルディスク ファーマ株式会社に1995年に入社しました。この会社は糖尿病治療薬の世界市場をリードするグローバル企業で、インスリン発見後まもない1923年の創業以来、常に糖尿病ケアをより良いものにするということを中心に考えて、治療法の革新を推進しています。このことから、私自身も入社以来、常に糖尿病ケアのことを中心に考えてきました。 
 その間、いくつもの新製品が発売され、古いものに置き換わってきました。これらの新製品の中には「初めての・・・」というキャッチコピーがつけられるものがいくつもあり、それらを必要とする糖尿病患者さんの生活の質の向上に、少なからず貢献してきたと思います。
 ノボ ノルディスクという製薬企業に入社したきっかけは、ほんの偶然です。
しかし振り返ってみれば、高校時代に「インスリン注射を胸ポケットにさして持ち運べる」という世界で初めての注入器を発売するチラシをふと目にしたことがあるのです。それは30年ほど前のものであるけれど、当時の糖尿病のインスリン療法の悩みを劇的に変えた新製品のイメージを端的に表現した、今思えば衝撃的なビジュアルであったと思います。
 ノボ ノルディスクでは、学術、安全性、マーケティングにおいて様々な仕事やプロジェクトに携わり、また学会のオピニオンリーダー、薬剤師、アカデミア、そして世界の同僚など、さまざまなステークホルダーと協働する経験を得ました。
 2011年3月の東日本大震災では、生命維持に必要なインスリン製剤の供給を途切れさせないために何ができるか、競争相手でもある企業と協力し、学会や患者団体と限られた情報を集めつつ対策を模索したことも、忘れられない経験のひとつです。
 現在は企業ブランディングや疾患啓発、サステナビリティなど、コミュニケーションを管轄し、「持続可能な社会のために、企業は何を解決し、ともに成長できるか」という命題に取り組んでいます。
 今回、「活薬のひと」へコラムを寄せる機会を頂戴しましたので、この命題についてご紹介したいと思います。

 ノボ ノルディスクは古くから、業績は財務だけでなく社会や環境の観点においても目標を定め、トラッキングを行い、情報開示することを重視しています。また意思決定の際には、財務と社会、環境の3つの側面における長期的なインパクトを考慮し、最終的に患者さんにとって良いのかを徹底的に考え、バランスをとるという、トリプルボトムラインの原則に従うことを、定款に定めています。
 このトリプルボトムラインは日本での「三方よし」の精神に近いものがあり、この点においてデンマーク人と日本人は根底にある考え方が似ているといわれます。
 しかし、こと大企業の経営となると、短期的に結果が出にくいものに腰を据えて投資するというのは、短期的なリターンを強く求める株主を考えると難しい場合があります。これを、ノボ ノルディスクは、議決権の75%を保有する財団をもつことで、長期的な社会問題や環境負荷を解決するために投資できるようにしているのです。

(1) いかに糖尿病と重大な合併症のリスクとの関係が認知されるか

 増加の一途である2型糖尿病は、軽症のうちは自覚症状がないため、治療に積極的に取り組めない人が大勢います。糖尿病はサイレントキラーといわれ、長期間にわたって高血糖状態が続くと腎臓や網膜の細小血管はじわじわと蝕まれていき、重症化すると腎不全で透析導入や失明のリスクが高まります。これらは医療費の増加につながりますし、患者さんや家族にとっても甚大な社会的悪影響を及ぼします。
 また、生活習慣を主な原因とする2型糖尿病では心筋梗塞や脳卒中等の重大な心・脳血管疾患のリスクファクターを有する方が多く、突然死のリスクも高まりますし、生還しても後遺症が残る場合があります。
 ノボ ノルディスクが最近実施したアンケート調査では、このようなリスクを認識していない患者さんは3-4割ほど存在し、リスクを認識している患者さんは全員が健康に気をつけ、食生活に注意したり禁煙するなど何らかの対策を講じていることが示されました。
 軽症の2型糖尿病患者さんは治療を中断する場合があります。その後何年も経って、合併症の症状を自覚してから受診するのでは、手遅れになりかねません。
 また、2型糖尿病は進行性です。薬物療法とともに生活習慣の改善が必要で、それでも飲み薬の効果が十分得られなくなり、インスリン注射が必要になることは少なからずあります。しかし、「インスリン」だと医師に言われた2型糖尿病の患者さんの多くは躊躇し、インスリン注射を勧めた医師に対して不信感を抱き、受診しなくなる人もいます。
 糖尿病では、高血糖状態が長期にわたって継続すると、合併症が発症・進展します。
 しかし、ノボ ノルディスクが実施した過去のさまざまなアンケート調査等では、「インスリンを打ってから足を切断した / 目が見えなくなった」と考える患者さんが少なからずいました。
 確かに、時系列はそうだったのかもしれません。しかし、インスリン治療開始のタイミングは適切だったのでしょうか。
 このことから、いかに糖尿病と重大な合併症のリスクとの関係が認知され、今は症状がなくても気を付けて治療に取り組めるように支援するかが、大きな課題だと考えています。

(2) いかに高齢者でも安心して注射療法が続けられるか

 前述の、「インスリン注射を胸ポケットにさして持ち運べる」という世界で初めての注入器が国内で発売されたのは1988年。それ以来、インスリン治療はどんどん革新がすすみ、極めて簡便な方法でできるようになりました。昔は内因性インスリンが枯渇した1型糖尿病が大部分でしたが、現在は2型糖尿病でも使用が増えています。
 飲み薬では血糖コントロールが難しくなり、注射療法が望ましい高齢の患者さんも増えてきます。また、インスリン療法が必須の1型糖尿病の高齢者も増えてきます。
 もし、自分で注射できなくなったらどうするのか。もし認知症になったらどうするのか。在宅自己注射の枠組みで何ができるのか。この課題にも、長期的に取り組む必要があると考えています。

 糖尿病の「ケア」では、患者さんが前向きに治療に取り組み、継続できるように、心理面から、日常生活の面から、家族も巻き込んで支える環境にも取り組む必要があります。そのため、医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士を含めたチーム医療が重要です。
 地域の中で人々をケアし、誰もが活躍し繁栄する社会を実現するために、製薬企業が担える役割は何か。
 ひとつは、製薬企業も地域の一員です。そして、生活習慣病は身近な問題です。
 まずは自分たちが糖尿病ケアをリードする企業の社員として、健康的な生活を実践すること、そのことを、自分たちのコミュニティで発信していくこと、それらを通じて、社会的な認識を高めていくことだと考えています。
 さらに、研究開発を基盤とする製薬企業として重要なことは、新たなイノベーションを継続していくことです。
 この二つは両輪ですが、いずれも自分たちだけでは実現できません。ヘルスケアにかかわる様々なステークホルダーと信頼関係を構築し、協働し、活動を進めることで、ひとりでも多くの患者さんが前向きに治療に取り組み、ご家族とともに幸せな人生をまっとうしていただけるようになることが、ノボ ノルディスクが目指す「糖尿病の克服」であると私は信じています。

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