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活薬のひと

 私は、幼い頃、難病の叔母にお世話になっていた経緯もあり、高校生の頃から、病院ではどうにもできない難病を自分の力で治してみたいという志がありました。それが薬学部を志望した最大の理由でした。大学2年次の基礎医学(当時、宮田 健 助教授)、3年次の薬理学(当時、加瀬 佳年 教授)に魅せられ、薬理学分野に人生をかける決意をしました。研究室配属後には、呼吸器系薬理の原著などをがむしゃらに読み、やるからには少なくとも世の中のどの教授よりもこの分野では優ってやろうと生意気ながらに誓ったものでした。また、実践的な創薬をできるだけ早く経験したいという気持ちが高まり、修士修了後、エーザイ㈱に就職しました。当時、研究所は、上司にも恵まれ、残業し放題であり、実験を目一杯やりたい研究者にとって、とても幸せな環境でした。誰よりも早く研究所に行き、誰よりも遅くまで実験をし、多くのデータを出すぞと燃えていました。薬理試験のデータが出たら、再現性を見るまで待つのではなく、化学合成担当者に最新情報を直ちに伝えることを実践しました。これは研究チームの一体化にとても重要なことでした。ただ、当時、製薬会社から海外へ研究留学させる機会が極めて少ない時代でしたので、私は博士号を取り、人生で一度は海外生活をしたいという夢を叶えるために、大学へのカムバックを決断しました。また、難病に対する創薬研究(当時の製薬会社は難病に対する創薬はやっていなかった)を行なうためには、大学で独立したラボを持つしかないと思ったことも、研究環境が良くても企業を辞めた理由でもありました。

 私の研究室運営も15年目を迎えた今年、薬学部長に就任し、これまでの研究を推進していくと共に、熊本大学薬学部全体の研究教育力のアップならびに環境の整備に尽力することになりました。総合大学において、薬学部は最も小さな所帯であるといっても過言ではありません。それ故に、薬学部で研究が盛んに行なわれていることさえ意外に知られていません。他学部や学外の方々の多くは、薬学部が薬剤師の国家試験のためだけにある学部という認識をまだ持っています。自省を込めてですが、研究力が衰えていく薬学部は、次世代のために新たな財産を残せなくなっていくと思います。新たな研究成果がないと、教科書の内容も今後何十年も変わり映えしなくなるといっても過言ではありません。大学は、常に未来に向かって挑戦し、薬学という学問を永久に進展させる責務があります。先人の研究成果がまとめられた教科書から知識を得ることも大切ですが、次世代の教科書のための新知見の蓄積はもっと困難で重要であると思います。ゆえに、薬学人は、医療現場での貢献だけでなく、次世代に新知見を残すという責務も担っていると思います。私が学生の頃に手にした教科書に比し、現在の学生が学んでいる教科書は、薬の作用メカニズムなど、雲泥の差があるのは言うまでもありません。それは、その間の研究者の頑張りがあったからこそだと思います。そういう観点からも、願わくは、現在の6年制の教育カリキュラムが、大学毎にもっと多様になり、たとえば、実務実習に、公的な研究所、厚労省なども取り入れるなど、今までの薬学部出身者が構築した多様な活躍の場を失わせない仕組み作りが必要であるかもしれないと思っています。それ故に、薬学の多様性の担保という観点から4年制(+修士2年)の創薬系学科の存在価値は極めて高いと思います。今年、大村先生のノーベル賞受賞により、薬学部における研究が注目を集めたのは大変喜ばしいことでした。
 薬学研究のアピールという観点から、私が所属する熊本大学薬学部では、薬学の研究活動の内容をわかりやすく紹介する、著書「熊薬ものがたり」(熊日出版)や研究成果だけを掲載した広報パンフレットを制作し、高校だけでなく、広く一般に配布しました。また、薬学部の最大の特色である薬草園を広報の中心に置いた、「薬草パーク構想」というプロジェクトを展開し、地元企業、銀行、自治体等と連携し、薬学部のアピールに努めています。さらに、私の研究室では、薬学部ならではの医療機器の開発研究も実施しています。薬(Chemical Medicine)が化学的刺激を最適化したものとすると、医療機器(Physical Medicine)は物理的刺激を最適化したものと言えます。薬学の研究者は、外部刺激に対する生体応答を理解しているからこそ、医療機器の開発に携わることも可能であります。ゆえに、医工連携ではなく、医工連携という言葉を公的にも当たり前のように使用してほしいと願っています。今後、薬学に関わる同志が、薬学の大きな特色である多様性を協同してアピールしていくべきと思っています。

 昨今、政府が地方を活性化するための多くの事業を展開していますが、地方の大学こそ、通勤時間が短く、終電を気にせずに研究を思い切ってやれる環境があると思っています。若手研究者や学生達が、縮小社会になっても国を支えることが可能な創薬分野に人生をかけ、厳しい研究開発の世界に果敢にチャレンジし、逆境をビッグチャンスへと創新していってほしいと願っています。リスクがない挑戦はなく、新発見も生まれません。特に、若い時だからこそ、リスクがない安定な進路(今は安定に見えるが将来は分からない)を選択するのではなく、未開の領域に果敢に挑戦していってほしいと思います。その挑戦に対して、大学側も応える体制を再構築する必要があると思います。大学の最重要の使命は、次世代を担う人財を育成することであります。単に、研究成果を上げることを優先し、人財育成はその付帯的な結果であるという考えがもしあったとしたなら、未来を担う人財の育成において様々な弊害が生まれると常々感じています。つまり、人財育成の結果が研究成果であり、人財育成がうまくいっていないから研究成果も生まれないということであります。この人財育成の意識を多くの大学人が持ち続ける限り、国力が衰えることはないでしょう。ただ、人財育成は、第3者からは客観的に、数値として評価しにくい大学の価値であります。その価値に対する評価が十分になされること無く、昨今、大学への公的な予算が年々減らされ、他国の大学人に比し、日本の大学人の多くが様々な評価資料作りに忙殺されている我が国の人財育成の未来に不安を感じえません。次世代の大学人になろうという若手にも、今の大学の環境は魅力的には見えていないと思います。そのために、熊本大学薬学部では、今年度からスタートした創薬•生命薬科学グローバルエリート研究者育成プログラム(PLEASEDプログラム)と共に、平成24年度から実施している博士課程教育リーディングプログラムHIGOを積極的に活用して、学生にとって魅力的かつ理想的な人財育成を展開しています。

 研究者として、毎年、公的資金以外の外部予算を継続して獲得することは、容易なことではなく、長年、研究をやっていると研究成果が生まれない谷間の年が必ずあるものです。昔は、その間も研究を継続できる公的支援があったからこそ、様々な分野の研究が継承されてきました。最近は、偏った公的支援が、研究分野の多様性を失わせているように思います。予算獲得がしやすい分野があり、さらに、それが教授選考などの教員人事にも影響し、各大学の研究のユニークさ、多様性が失われてきているように感じています。今こそ、国および産業界が、大学に対してリスクを恐れず、将来への投資と思い、様々な支援をより一層実践してほしいと日々願っています。そして、われわれ薬学人は誓うべきであります。その社会からの投資に応えるべく、リスクを恐れず未開の領域に果敢に挑戦していくことを。